ガールズ&ガンダム   作:プラウドクラッド

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またまた結構長くなってしまい申し訳ないです

セモベンテ隊の活躍は機動戦士ガンダム MS IGLOOで見れます

今回もよろしくお願いします


PHASE-02 オペレーション・ライトニング

 新入生にとって初となる訓練にて。中等部モビル道部隊大隊長、ジェンダー・オムにより新入生の歓迎会を兼ねた実戦演習が行われる事となった。同じチームとして参加する事になった千代美とまほであったが、彼女達を待っていたのはザクIIF2型と4機と74式ホバートラック1台だったので誰か一人だけMSに乗れない事が明らかとなっていた。千代美は西住流とまほを崇拝する他のメンバーからトラックに乗るよう迫られ、それを見かねたまほが頭を下げて頼み込んできたのもあり、千代美は折れてホバートラックに搭乗する事を承諾するのであった。とはいえ勝負を捨てた訳ではなく、ろくな理由もなしに自分を見下すチームメイト達を見返すため、千代美は自分の戦い方でこの戦いに勝利しにいこうとしていた··········

 

 

 

 

『皆さんこんにちは!今日は黒森峰女学園新一年生の最初の訓練ということで西住師範からサポートをするよう依頼を受けて参りました、地球連合軍教導隊の蝶野亜美です!』

 

 

『じ、自分は元教導隊員のアナベル・ガトー中尉であります!現在は連盟所属の教官としてこの中等部の教官を務めさせていただいております!未熟者故至らぬ所ばかりでありますが皆さんのお力添えになれる様尽力する次第であります!』

 

 

 千代美達を含む全てのチームの準備が完了した頃、演習場内の放送スピーカーから今日のために馳せ参じてくれた女性教官と少し上擦った渋めの男性の声が聞こえてきた。このようにモビル道の選手の育成により力入れるため、連盟所属の教官とはまた別に連合軍の教導隊がモビル道の講師として派遣されるというのも珍しい話ではなかった

 

 

「教官は男の人か······結構厳つい声してる人だな····」

 

 

「ですねぇ。軍人さんって怖い人がいっぱいいそうで嫌いです·····」

 

 

トラックの銃座付きのハッチから身を出していた千代美はガトーの声に若干怯え、操縦席に座っていた本土に在る姉弟校から来た端正な顔立ちの整備士の青年は椅子をグルグル回転させながらぽつりと呟いた

 

 

『ガトーくんちょっと固すぎよ?軍だって退役してるんだから何時までもそんな調子だと師範に怒られちゃうわ』

 

 

『申し訳ありません大尉·····些か緊張しすぎてどうしても士官時代の調子に戻ってしまい·····』

 

 

「あれ、隊長?教官さんがお話してますけど聞かなくていいんですか?」

 

 

千代美達とはまた別のスタート地点にて、ジェンダーは自身の専用機である白いジム・カスタムにもたれながらイラついている様な顔を浮かべており、そんな彼女の事が気になったチーム内の一年生が彼女に声を掛けた。すると直後に二年生の先輩が声を掛けた一年生へ身を寄せ小さな声で耳打ちしてきた

 

 

「一年生、今みたいに隊長が不機嫌そうな時はあまり野暮な事は言わない方がいいよ。あの人怒ると結構怖いんだ·····」

 

 

「す、すみません!·····隊長は今怒っているんですか?」

 

 

「·····今話してた男の教官さんが宇宙生まれの人らしくてね。隊長はお父さんの影響で昔から宇宙市民(スペースノイド)の事を凄く嫌っているの。だから家元の御知り合いの人とはいえスペースノイドが教官になる事が納得できてないみたいなんだ·····」

 

 

中学生の少女とは思えない程高潔な資質と風貌を持ち、周囲からも大いに慕われている最高の指揮官·····ジェンダー・オムがそんな人物であると思っていた新入生は、この時彼女がその心中に差別的な思想を持っている等にわかに信じる事ができなかった

 

 

『どうやら各チーム準備完了しているみたいね!それではルールは3チームによる殲滅戦、最後まで撃破されず残っていた選手のチームが勝利となります。この演習基地内なら何処に行ってもOKだからガンガン動いてドンドン撃破しに行ってね!』

 

 

再び亜美の声が聴こえ試合に参加する各チームの生徒達はそれぞれ整列し、千代美もその様子を見てハッチから出てホバートラックの上に立ち上がった

 

 

『それじゃこれより実戦演習を開始します!もう知ってると思うけどモビル道の試合は礼に始まって礼に終わります。一同、礼!』

 

 

「「「「よろしくお願いします!!!」」」」

 

 

「よろしくお願いしまーす!あんたも一応参加するんだから挨拶しといた方が良くないか?」

 

 

「えぇぇぇどおぅして僕が頭を下げなきゃいけないんですかぁ〜?」

 

 

千代美はトラック内を覗き込み声を掛けると操縦席の青年から間の抜けた声で応えられ、何故か彼の服装が整備士のツナギからまるで喪服かのような漆黒のロングコートへと変身していたのもあり、その暑そうな服装と態度に少しカチンと頭にきたが彼にはトラックの操縦を任されて貰いたいのでここは抑えることにした

そんな中まほは自身のMSであるF2型のコックピットに乗り込み機体のエンジンに火を入れた。独特の音を発しながら頭部のモノアイが光りゆっくりと立ち上がるまほが乗るF2型の姿を千代美は羨ましそうに見上げていた

 

 

「うぅぅかっこいい·····やっぱり私も乗りたかったなぁ·····」

 

 

「安斎さん、そのトラックにできる事なんて偵察ぐらいなのはわかってるよね?戦闘に参加されても邪魔になるだけだから偵察が終わったら何処かでじっとしててもらえる?」

 

 

「んなっ!·······わかったよ!」

 

 

まだ機体に乗り込んでいなかった他の一年生達がそう伝えに来たので千代美は唇を噛みながら湧き上がる怒りを抑えた

 

 

「いいんですか?あんな大した事なさそうな人達の言うこと聞いちゃって。お望みであれば轢いちゃいますけど」

 

 

「正直かなりムカつくが見返してやるためにも今は我慢·····って轢くのはダメだろ!なんて事考えてんだ!」

 

 

「·····冗談ですよ☆それと後ろに置いてある荷物。どうやらジェンダーさんは意地悪のつもりでこの車を用意した訳じゃないみたいですねぇ」

 

 

彼の言葉通りトラックの中に大きめの荷箱が置かれており、千代美は中を確認するとモビル道用に開発された爆薬や煙幕がいくつか入っていた。非公式戦のみを行い男女混同のチームであったセモベンテ隊に所属していた千代美はこれらを試合中に使う事が幾度かあったが、本来女子のモビル道で歩兵用の兵器を扱う事はご法度とされていたのでまさかここに来てお目にかかるとは思ってもみなかった

 

 

(これも使っていいって事か?だったら·····)

 

 

『それではこれより三小隊対抗の戦闘演習を開始する。全機出撃!』

 

 

ガトーの試合開始を告げる声が響き、F2型4機はまほの機体を筆頭に行進を始め千代美は通信用のヘッドセットを付けてトラックを先行させた

 

 

「それじゃ他のチームの偵察に行ってくる!皆はこの先で待機しててくれ!」

 

 

「了解。·····本当にすまない。初めての訓練だというのにMSに乗せてあげれなくて·····」

 

 

「なーにもう気にするな!何時までも辛気臭い事言ってないでおまえが親の七光りじゃない事、活躍して私に証明して見せてくれよな!」

 

 

「ちょっと貴女いい加減にしなさいよ!それ以上まほさんにそんな態度取るなら蹴り飛ばしてやるんだから!」

 

 

「やめろ!·····いいだろう。君の働きに応える戦果を挙げてみせるさ」

 

 

まほの言葉を聞き千代美はニヤリと笑みを浮かべ、まほの機体に手を振りながら偵察へと向かって行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ステージとなる学園艦上の演習基地。大型のビルや兵器倉庫、MS用の格納庫が何棟も建てられており、長い滑走路に隔てられた先に戦艦ドック、コンテナが山積みにされた物資集積場が存在していた。千代美はそれらを見物しながらマップを確認し、大きく迂回して他のチームの動きを偵察できる地点までホバートラックを飛ばさせた。その道中に地雷の設置やトラップの準備しながら·····

 

 

「ブッブッブ〜ン♪ドライブブンブンブッブッブ〜ン♪」

 

 

「なんだその変な歌·····?」

 

 

「クルマの歌ですよ。たった今作りました」

 

 

「聴いてるとどうにかなりそ·····あっ!おい、車を停めろ!」

 

 

千代美が声を張り上げるとホバートラックに急ブレーキが掛けられた。千代美は振り落とされそうになるも何とか堪え双眼鏡を覗き込んだ

 

 

「いた·····!F2型4機とジムカスタムが1機··········こちら安斎!そっちから5kmの地点に敵部隊を発見。現在周囲を警戒しながらゆっくり展開している」

 

 

『了解、私達も遮蔽物に隠れながら前進する。他の部隊の姿は見えるか?』

 

 

「··········ちょっと待ってくれ·····どういう事だ?」

 

 

千代美は双眼鏡から見えるその景色に違和感を感じた。たった今発見した敵部隊より少し離れた場所に展開している4機のF2型の姿が見えた。1チーム5機の編成であるはずだからあれらが味方同士であるはずかない、しかしとっくに会敵しあっているはずの2チームは何故か交戦せず一定の距離を保ちながらまほ達の待機する地点へ向かおうとしていた

 

 

「·········まさか!大変だ!他の2チームはグルだ!現在MSが計9機そっちに接近中!」

 

 

「そんな!?私達のチームを先に叩こうっていうの·····」

 

 

「いくらまほさんがいるからって他は一年生だけなのに·····」

 

 

「··········敵機の機種と装備を教えてくれ」

 

 

「F2が計8機とジムカスタムが1機、F2の装備はおまえ達と同じだ。恐らくあのジムには隊長か副隊長が乗ってると思う」

 

 

「了解、ありがとう安斎。後は私達に任せてくれ」

 

 

文句の一つも言わないまほに千代美は驚いた。流石の西住まほもこういう時は他のメンバーの様に慌てたりするものだと思ったが依然変わりなく冷静さを保っている様であった

 

 

「敵の数はこっちの2倍、それに二年生も中に混じってるからかなり手強いはずだぞ?」

 

 

「わかっている。だがまだ戦ってもいないのに退く訳にはいかない。それに君に私の力を見せなければならないからな」

 

 

「フッ··········了解した!それじゃ予定通り私は何処かで待ってるから後は頼んだ!頑張れよ!」

 

 

千代美はそう言ってまほ達との通信を終了させ、トラックの中へ入り助手席に座った

 

 

「いやぁ〜2チームで組んで後輩をいじめに来るなんて酷ぇですねぇ〜〜〜けど僕達は職務を全うした訳ですしあの人達は見捨ててお茶会しましょうか!実は美味しいケーキ持ってきてるんですよ〜」

 

 

「おいモヤシの兄さん。ここから近い方にいる敵部隊の所まで飛ばしてくれ」

 

 

操縦席の下から嬉しそうにケーキの箱を取り出した青年は千代美の言葉を聞きその両手から箱を床へ落としてしまった

 

 

「······いやいや何言ってるんですか。偵察終わったら邪魔になるからじっとしてろってあの人達言ってたでしょう?」

 

 

「アイツらは私が戦力にならないと思っている。だがそれでも私は自分なりのモビル道を貫きたい。協力してくれないか?」

 

 

「··········仕方ないですねぇ。貴女のそのモビルドーとやらにもうちょっとだけ付き合ってあげますか。僕って優しいなー」

 

 

青年は渋々と操縦桿を握ると再び発進させ、二人を乗せたホバートラックは滑走路を横断し敵MS部隊へと前進して行った·····

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「副隊長、あそこにいるチームには攻撃しちゃダメなんですか?」

 

 

「ええ、あちらの方々にもジェンダー隊長の方から同じ旨を伝えられてるはずだからまほさんのチームを撃破するまでは味方だと思いなさい」

 

 

 千代美が最初に発見した副隊長が率いる部隊はまほ達の方面へ向けて前進を続けていた。また別の位置に展開していたジェンダーが率いる部隊には攻撃を加えない事を隊員に再三に渡って伝えていた。入学式の前日にしほから黒森峰に新入生として入学するまほを貴女達のやり方でその実力を試して欲しいとの依頼を受け今回この演習を開く事となり、ジェンダーの狙いとしては一年生と二年生を前面に出し彼女達にまほを討たせることによって士気の高揚を狙うというものであった。なので自分はあくまでサポートなので戦闘に参加することはないだろうと感じていた

 

 

「ん?副隊長·····何か来ましたよ·····」

 

 

「どうかしたの?··········ホバートラック?」

 

 

すると遠方から自分達の方に接近してくるホバートラックを発見し、副隊長のジムカスタムはジムライフルの銃口を接近しつつあったトラックへ向けた

 

 

「そこのトラック!どういうつもりか知らないがそんな物でMSに向かってもケガをするだけよ!」

 

 

「ふん!ケガが怖くてモビル道をやってられるか!」

 

 

ホバートラックは停止するとハッチが開き中から千代美が拡声器を片手に姿を現した

 

 

「安斎さん!?なんで貴女がそんな物に·····」

 

 

「あんた達が私のために用意してくれたんだろう?そんな事よりも他のチームと組んでまで私達勝ちにくるとは西住流も大した事ないみたいだな!」

 

 

「なんですって!·····いや、全機無視しなさい。あれは私達を挑発して陽動するつもりよ」

 

 

副隊長は皆に千代美を無視するよう指示を出しライフルの銃口を下ろして再び前進し始めた

 

 

「あ、逃げるのかこの卑怯者!それでも黒森峰の副隊長か!」

 

 

「副隊長·····私が撃ちましょうか?」

 

 

「無視よ無視。あんな安い挑発に乗る様ではまだまだよ」

 

 

「待てよ堅物風紀委員長!石頭!便秘!ノリが悪いぞ!そんなんだといいお嫁さんになれないんだからな!ばーかばーか!べーだ!」

 

 

千代美は拡声器で副隊長の機体に向かって罵詈雑言を放ちながら舌を出してやった。すると他の機体と共に前進していたジムカスタムは踵を返しこちらへと近づいてきた

 

 

「貴女達は先に行きなさい··········すぐに戻ります·····」

 

 

「ワォ。あんな百均並にお安い挑発に乗ってくれましたよ彼女」

 

 

「よし!ちょっと言い過ぎちゃった気もするがこれで予定通りに·····」

 

 

千代美が自信げに笑みを浮かべ腕組んだその瞬間、ホバートラックのすぐ横脇にジムライフルの90mm弾が着弾。軽い轟音と衝撃波に千代美は一瞬固まってしまったが砂礫と共に舞い上がった小石が頭にカツンと当たり再び我に返った

 

 

「······転回しろ!さっさと逃げるぞ!」

 

 

「·····なんか揺れましたけど地震ですか?こういう時ってキーは刺したまま避難しなきゃいけなくてですね·····」

 

 

「アホな事言ってないで出すんだ!やられるぞ!」

 

 

千代美は青年の肩を踏みつけホバートラックを転回させて滑走路へ入りこの場から離脱しようとした。振り返ると自分の挑発に乗った副隊長のジムカスタムが銃口を向けながらゆっくりとこちらへ向かって来ていた

 

 

「·····安斎さん。やはり貴女の様な不良には()()が必要みたいね·······覚悟しなさい!」

 

 

ジムカスタムはその場から飛翔すると逃げる千代美達のホバートラックを踏み潰さんとする勢いで急降下してきた。千代美は降りてくる巨人に目を剥き青年にもっとスピードを上げるよう叫び、急加速した事によってジムカスタムの落下攻撃を間一髪の所で回避する事に成功した

 

 

「おいおいケガどころか殺す気か!おっかないな!」

 

「え?僕ら死ぬん!?聞いてない聞いてない聞いてnothing!」

 

 

「死なないさ!いいから例のポイントまでぶっ飛ばせ!」

 

 

ホバートラックは全速力で滑走路を抜け、格納庫や建物を盾にしながら千代美が先程トラップを仕掛けた場所まで副隊長を誘導しようと急行した。しかし彼女のジムカスタムも千代美を逃さまいと走り出しホバートラックの後方を取るとジムライフルを乱射してきた

 

 

「ンヒィィィィ死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

 

「撃ってきたか·······今から私が言う方向に避けてくれ。やれるな?」

 

 

「え、いやいや相手はMSなんですよ?無理ですって追いつかれますって撒けませんって·····」

 

 

「右だ!なーに高速で移動してる小さな的に、ましてやそれを動きながら当てるなんて難しいもんさ」

 

 

千代美はハッチから身を出しながら後を追ってくるジムカスタムを見据え、ライフルから発射される弾丸に臆することなく命中弾を見切り回避方向を伝え始めた

 

 

(この子銃口を·····撃つタイミングを読んでいるというの·····!?)

 

 

「でも追いつかれた時蹴飛ばされてお終いですよぉ?やっぱりここは謝って仲間にしてもらいましょう!」

 

 

「追いつかれない様なコースで走るのがあんたの役目だろう?ゴタゴタ言わないでこんな可愛い子乗せてドライブしてるんだから絶対当たるんじゃないぞ!」

 

 

「お、横暴〜!こんな事になるなら遊びになんてこなきゃよかったなぁ·····(泣)」

 

 

青年はぼやきながらもホバートラックをできるだけジムカスタムから照準を合わせられないよう変則的に操縦し始めた。副隊長は千代美に挑発され熱くなっていたのもありホバートラックに命中させる事ができず、千代美はその隙にまほに通信を送った

 

 

「こちら安斎、西住まほ!そっちの状況はどうだ!?」

 

 

『たった今接敵した。しかし敵機の中に報告にあったジムカスタムが見当たらない。何処にいるかわかるか?』

 

 

「副隊長のジムカスタムは私が預かってるから大丈夫だ!まだ隊長の機体が姿を現してないから気をつけてくれ!」

 

 

『預かっている?·····どういう事だ?君は待機していると·····』

 

 

「心配するな!後で合流するからそれまで持ちこたえてくれよ?」

 

 

『·····了解。無理はするなよ』

 

 

まほから通信が切られ遠くから銃声が聞こえ始めたのでいよいよ本格的に戦闘が始まった様であった。その後も千代美はジムカスタムの射撃を見切り回避方向を伝え走行させ続けていた·····がジムカスタムは急に射撃を止め何故か近くの建物裏へと身を隠すように移動した

 

 

「なんだ?リロード······?」

 

 

MSがたかがホバートラックに、それも応戦せずに回避する事に専念していた小物から身を隠してリロードを行うなど普通は考えられない。千代美はジムカスタムの意図が読めずにいたが、体が本能的に何かを察知し考える前に彼女を銃座に座らせ20mmガトリング砲を握らせた。

するとジムカスタムが隠れていた建物裏からハンドグレネイドを2個投擲し、それらは大きく放物線を描きながら千代美達の進行先へと到達しようとしていた

 

 

「おいおい冗談だろ!?」

 

 

「さようなら安斎さん。この私を侮辱した報いを受けなさい·····!」

 

 

しかし千代美はガトリング砲を投擲されたハンドグレネイドを狙って乱射。放たれた無数の20mmは空中のハンドグレネイド達に命中し轟音を響かせながら空中で爆散させた

 

 

「ふぇ?今の音何?」

 

 

「ふぃ〜危なかった!容赦ないな全く·····」

 

 

ギリギリの所で危機を回避でき少し安堵したのもつかの間、撃破できなかったことで更に激昴した副隊長のジムカスタムは大きく飛翔し再び自分達の後方へ勢いよく降り立ってきた

 

 

「何なのよ貴女·····動物的な勘でも持ってるというの·····?」

 

 

副隊長は千代美に自分の攻撃か尽く読まれている事から無意識のうちにモニターに映る彼女の姿を怯えたような表情で見ていた

 

 

「到着しましたよ。もうこれで終わりにして欲しいです·····」

 

 

「着いたか!予定通りいくぞ!」

 

 

千代美達はついにトラップを仕掛けたMS用の武器庫へと到着した。作戦通りここまで敵機を誘導できたので後は仕掛けた爆薬を起爆し、倉庫内の火器に引火させて武器庫ごと敵機を撃破するだけであった。追いかけてくるジムカスタムの射撃を避けつつ、ホバートラックは武器庫の中へと突入しジムカスタムを中へ引き込もうとした·····が何故かジムカスタムは武器庫の入口で立ち止まり中へは侵入してこなかった

 

 

「ん?なんで着いてこないんだ?」

 

 

「馬鹿ね·····そんな安直な策に引っ掛かる訳がないじゃない!」

 

 

「·····やばい!早くここから出るんだ!急げ!」

 

 

ジムカスタムはハンドグレネイドを再び手に持ち武器庫の中へと放り込んだ。ホバートラックは猛スピードで一気に武器庫内を走り抜け外へと脱出し更にその場から距離を取ろうとした。すると放り込まれたグレネイドが起爆し武器庫内に置かれていた銃火器や爆薬に引火し大爆発が引き起こされた。その衝撃で走行中のホバートラックは大きく揺らされ、千代美も思わず車内へと避難し助手席へと座った

 

 

「クソッ失敗だ!引っ掛からなかった!あれでも黒森峰の副隊長なだけあるな·····」

 

 

「え?撃破できなかったんですか?なーにやってんですかもー」

 

 

青年は千代美の報告に失望感をあらわにした。これが千代美達だけの力でMSを唯一撃破できる作戦だったのでそれが失敗に終わり後は撃破されるのを待つだけ·····のはずであったが千代美はニヤリと笑みを浮かべていた

 

 

「·····まだだ!まだ罠を仕掛けた場所があっただろ?あそこまでヤツを連れていくぞ!」

 

 

「でもあんなしょっぱい爆弾じゃMSは倒せないですよ?初めからむぼーだったんですよこんなの」

 

 

「いいや端からあっちが本命さ!だからもうちょっとだけ付き合ってくれ!」

 

 

千代美は手を合わせて青年に頼み込むと彼はため息を吐きながらも千代美の指定したポイントへ向けホバートラックを加速させた

 

 

「·····貴女のような人ではない獣を修正するには作法というものがあるの········踏み潰してあげる!」

 

 

若干正気じゃなくなっていた副隊長のジムカスタムもまた爆散した倉庫から千代美のホバートラック目掛けて走り始めた。もはや射撃を当てることは困難と悟ったのか、スラスターを吹かせ一気に千代美達との距離を詰めてきた

 

 

「うにゅああああああああぁぁぁ来てるぅぅぅぅ!死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

 

「だから死なないと言ってるだろ!あともう少しだから頑張ってくれ!」

 

 

接近していた副隊長のジムカスタムはジャンプしてホバートラックを飛び越え前方へと着地し立ち塞がった。ブレーキをかけたものの慣性で停止する事ができずホバートラックはジムカスタムの方へ吸い込まれるように向かって行き、その様子を見た副隊長は歪んだ笑みを浮かべながら踏み潰そうと機体の片足を高く上げた

 

 

「さようなら安斎さん!お見舞いには行ってあげるわ!」

 

 

「··········いいや、私達の勝ちだ!」

 

 

千代美が握っていたスイッチを押すと、突如ジムカスタムの足下に置いてあったコンテナが爆発。その衝撃で片足を上げていたジムカスタムは大きくバランスを崩しうつ伏せに倒れ込もうとしてきた。ホバートラックはすれ違う形となり倒れてきた巨人の下敷きにならずには済んだが、ただ転倒させただけで撃破には至らなかった·····が何故か千代美は停止したホバートラックから出てその上に堂々と立ち上がりその片手には煙幕が握られていた

 

 

「世話になったな兄さん!ここまで付き合ってくれてありがとう!」

 

 

「え、貴女だけ走って逃げるんですか?ぼきも連れてってくださいろ〜!」

 

 

「違う違う!どうせなら最後まで見届けてくれ!」

 

 

千代美は煙幕をうつ伏せに倒れていたジムカスタムの胴体下へと投擲した。そしてホバートラックから飛び降りて一直線にジムカスタムへと駆け出した

 

 

「·····うーん。何が起きたの·····煙幕?」

 

 

副隊長は頭を抑えながらモニターに映る景色が煙に覆われている事に困惑していた。その隙に千代美は煙が立ち込めるジムカスタムの胴体下へと潜り込み、元々持っていたハッキング用の端末を取り出してケーブルをコックピットハッチに繋げた。千代美は慣れた手つきで手早く端末を操作するとジムカスタムのコックピットハッチが開かれ、突然の事態に中にいた副隊長は思わず悲鳴を上げた

 

 

「きゃああああ!何!?なんで開いたの!?」

 

 

「さぁて副隊長!ケガしたくなかったら大人しくここから出てもらおうか!」

 

 

「安斎さん!?貴女なんて事してるのよ!それに誰がそんな注文聞くもんですか!」

 

 

「うるさーい!いいからさっさと出るんだ!でなきゃパスタの具にして食べちゃうぞ!」

 

 

「ヒィぃぃぃぃ!ごめんなさいごめんなさい!今すぐ出ます!」

 

 

副隊長は中へ入ってきた千代美に怯えシートベルトを外し一目散に外へと逃げて行った。無人になったジムカスタムのシートに今度は千代美が堂々と腰掛けコックピットハッチを閉じ再び機体を起動させた

 

 

「脚は·····壊れてないな!それにしてもこんないい機体を持ってるとは流石は黒森峰·····持って帰れば皆喜ぶだろうな·····」

 

 

千代美は副隊長からジムカスタムを文字通り強奪する事に成功したのであった。セモベンテ隊は資金や賞金を全て宴会に使っていたためMSを独自に所有していなかったので、この様に試合中に敵チームから強奪して戦うというのが彼等の戦い方であった。レバーを操作しうつ伏せに倒れていた機体を立ち上がらせるとすぐ近くで腰を抜かしていた副隊長を見下ろした

 

 

「あ、あわわ·····何なのよ······聞いた事ないよこんなの·········」

 

 

「やい副隊長!私の事を踏み潰そうとしたのは勘弁してやる!その代わりこの機体は演習が終わるまで頂いて行くぞ!」

 

 

「は、はいぃ!·····隊長のバカぁー!」

 

 

「はぇ〜強奪作戦ですかぁ··············僕も()()()()()()()()()()

 

 

「あ、兄さんもここまでありがとなー!それじゃ行ってくるよ!」

 

 

千代美はホバートラックの外に出てこちらを見上げていた青年に元気いっぱいにお礼を述べ、操縦桿を押し倒しペダルを踏み込んで機体のスラスターを思い切り吹かせた。現在も二チーム分のMS達と交戦しているまほ達の援護に向かうため、千代美は更にスラスターを吹かせて基地内を駆け抜けて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、チーム内で唯一生き残っていたまほは大型倉庫の陰に身を隠し空になった弾倉を入れ替えていた。敵の機数は8機とはいえこちらは4機、数は不利ではあるがそう大した差にはならない。初めはそう思っていたが隊長のジェンダーが戦闘には加わらずに後方から隊員達の指揮を取っていたため、彼女の組み上げた策と連携によってまほ以外の三人はあっという間に撃破されてしまっていた。その後何とか4機撃破する事はできたものの後退する事を余儀なくされ、じりじりと追い詰められてしまい弾薬も今装填したもので最後となっていた。しかしこの絶望的状況でもまほは勝つために、残り4機をどう一人で殲滅するかに思考を巡らせていた

 

 

(右と左にそれぞれ2つ·······その内1機ずつ二年生がいて隊長から指示を受け取っているという事か。厄介だな)

 

 

「凄い·····まさか私達があのまほさんを追い詰めてるなんて·····」

 

 

「落ち着ついて一年生。隊長がいつも言ってる言葉だけどこういう時こそ『燃える心でクールに戦え』だよ」

 

 

「は、はい!すみません!」

 

 

まほが西住流の跡取りだからというのもあったが、それ以上にまほがモビル道界に姿を現して以来誰一人として彼女を撃破した者がいないという記録が彼女達を高揚させていた。新入生をなだめようとした二年生もまた同じであったが、あの西住まほならこの状況をひっくり返すかもしれないと思ったので隊長の言葉を思い出し冷静さを保とうと計った

 

 

「あ、先輩。副隊長が帰ってきましたよ」

 

 

「副隊長が?随分遅かったな·····」

 

 

一年生の報告通り後方より接近してくる機体を発見しそれが副隊長のジムカスタムである事を確認。あの副隊長の事だから修正と称して千代美の事を長い間虐めていたのだろう、そう思った二年生の先輩は少しだけ彼女に同情していた

 

 

「お疲れ様です副隊長。随分遅かったですね·····」

 

 

「ははは、そうかい?色々訳ありでね·····」

 

 

「·····は?ちょっと待って!誰よ貴女!?」

 

 

副隊長ではない別人の声が聞こえ二年生は振り返ったが既に手遅れで、ビームサーベルを抜いたジムカスタムに隣の一年生のF2型共々切り伏せられてしまい何の抵抗もできぬまま行動不能にされてしまった

 

 

「え!?副隊長どうしてですか!?」

 

 

「違う!なんで·····なんで副隊長の機体に違う人が乗ってるの·····!?」

 

 

撃破された二人は何が起きているのかに全く頭が追いついていないようで、まほもまた予想外の展開に目を剥いていた。これが後々黒森峰女学園にて良い意味と悪い意味両方で歴史を残した安斎千代美の初陣、そして西住まほにとって生涯唯一の親友となる彼女との初めての共同戦線になるのであった

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございました

本当はもう少し書く予定でしたがあまりに長くなりそうだったので次回に持ち越そうと思います

まだ名前も出してませんが千代美と一緒にいた男の子も本編に登場してくると思うのでよろしくお願いします

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