アンチョビ外伝から現在にかけて不穏な雰囲気が漂っておりますがこの先予定している全国大会は平和的にちゃんと開催されるのでよろしくお願いします
今回冒頭と最後の方が結構エスパーな展開になっていますのでご注意ください
地球、黒森峰女学園学園艦にて─────朱く妖美な夕焼けに照らされた帰路の中、仮面に顔を隠したまほはただ独り黙々と歩を進めていた。現在まほの隣にはかつて共に歩いてくれた友や妹の存在は影も無く、他の同世代の生徒達からは階級や位が遥かにかけ離れた人物として接せらていたため彼女へ気軽に寄り付こうとする者など一人たりともいなかった。その上まほ自身元々内気な性格であり自分から友人になって欲しいと他者へ踏み出すことなどできるはずがなく、母西住しほと同等の後継者になるべく小学生の頃より西住流の全てを叩き込まれながら育てられた彼女に年相応の女子になりきるなど土台無理な話であったのだ
(アズラエル理事長の言う通り今の私が世に力を示せる舞台は全国大会の他にない·····こうも生き恥を晒さなければならないとは··········)
まほは仮面の奥で己の弱さに苛まれ自分の拠り所を取り戻すために苦悩する素顔を浮かべていた。最愛の親友と妹が傍にいてくれたあの日常を取り戻すには今まで母の西住流に従順に生きてきた自分を棄て、万人がひれ伏すほどの圧倒的な力を手に入れ世界に、弱き自分を見捨てた彼女達に力を示さなければならなかった。それこそがまほの目的、祖母の仮面を付けた理由だった
彼女達に力を示すには全国大会という世に大きく知れ渡る舞台に上がらなければならない·····だが母の西住流を規範としている現在の黒森峰が母と道を違えると言うのならばいくら自分が跡取りであるとはいえ大会のメンバーに選出するとは思えず、現在の黒森峰の部隊と、エリカ達と組みするつもりも毛頭なかったため、全国大会という舞台で自分独りで戦うことが許される手立てを必死に探していたのであった。短期転校の手も考えたがモビル道も他のスポーツと同様転校して早々に転校先の代表選手として公式戦にでることは認めらていないため断念するしかなかった。アズラエルに母とは違う道を示す西住流の四代目になることを表明しておきながら、結局自分一人では事を起こすことも何かを勝ち取ることもできずただ大切なものを失うばかりな自分にまほはつくづく嫌気がさし絶望していた
その時だった。青く美しくまるで妖精の様な蝶が一羽、優雅に舞いながらまほの眼前に現れたのであった
「···············なに·····?」
それはさほど希少な種でなければまほ自身昔から見かけたことのあるアサギマダラという蝶であったのだが、まほはその存在から神秘的な何かを感じ辺りに人の気が無かったのもあって思わず足を止め独り言を漏らしてしまったのだ。蝶は何処かへ向かってゆっくりと移動し始めまほは不可思議なことにその蝶から、蝶が向かおうとしている先から何者かが自分を視ている気配を感じ、その正体を確かめようと寮への帰り道とは逆方向であったが
まほは蝶の後誘われるままに進んでいくと住宅街を抜け海原を一望できる公園に辿り着いた。地平線に沈みゆく夕日に照らされるその場所はまほにとってはかつて親友と共に学校帰りに訪れ互いのことを語り合った思い出深い場所であった。この時何故か公園には自分の他に人気は全く無く、赤々な夕焼けに照らされ神秘的な雰囲気が立ち込めていたのもあってまほは自身が別世界に迷い込んだのではないのかと錯覚した。そして例の蝶がひらひらと向かっていく方を目をやると、そこにはブロンドヘアの少女が一人、海沿いのベンチに腰掛けていたのだ。その少女が軽く手をかざすと蝶は彼女の指先へ誘われたかのように着地し、その光景はまるで安らぎを求め女神のもとに辿り着いた妖精の様に思えた
「·····来てくれたのね。西住まほさん」
背後に立つまほの存在に気づいたのか少女はベンチから立ち上がり蝶を解放し何処かへ飛び立たせると踵を返し此方の方へ近づいてきた。少女が持つ薄桃色がかかったロングのブロンドヘアは此方の姿を映し出す鏡面だと見紛う程透徹に艶めき幾本も螺旋状に巻かれることで彼女自身が大衆より遥か高等な存在であることを際立たせ、両眼に備えし碧眼は巨大な星の様な色調をしており妖美に煌めき内に秘めた徒ならぬ存在感と異彩を放っていた
そして何よりも彼女自身から懐かしき安息感を、モビル道を始める以前まだ甘えることを許してくれた母の姿を感じたのであった
「き、君は一体·····?」
「私はマリー。マリー・タイタニア。BC自由学園から来ました。ムルタから私のことは何も聞いていないようね」
·····何らかの手段を講じ既に黒森峰女学園への上陸を果たしていたマリー・タイタニアの問いにまほは小さく頷いた。口では言うがその存在感からして彼女がBC自由学園の生徒、自分と同じ女子高生であるなどと到底信じられるはずがなかった。身に纏う白無垢の制服は生地上と襟から裾にかけて黄金の装飾が施されており下半身を飾るレギンスとブーツも同じく気品のある白に統一されていたことからその衣装は彼女のためだけに造られた特製の品であることが伺え、学生制服というよりかは更に規律深い場で着用する物に思えた。加えてあのブルーコスモスの盟主であるアズラエルを慣れ親しんでいるかのごとくファーストネームで呼ぶ者などごく限られているため、まほは今相対している彼女が何者なのか全く予測できず警戒を込めた視線で睨みつけた
「BCの生徒が何故黒森峰に·····偵察か何かのつもりか?」
「あら、ひょっとしてモビル道のこと?嫌ねぇ、私自身学園のモビル道とは何の関わりも持ってないんだからそう構えないで欲しいわ」
「なら何のためにこの学園へ··········それに私を此処へ誘い出したのは君じゃないのか?」
まほはあくまで平静さを装いマリーに問いた。彼女の眼は先程まで蝶が目指していた先より感じた此方を視ていた者の気配と同じものであったからだ
だがそんな自分の様子を見て彼女はクスクスと小さく笑っていた
「ふふふっ、それは違うわ。私はただ待っていただけ。貴女の様な傷ついた女の子がここへ来るのを」
「何?私が傷ついているだと·····?何を言い出すかと思えばそんな出任せを·····」
「見ればわかるわ。今の貴女は、貴女の魂は安らぎと温もりをただ必死に求めている。そのために私のもとへ来たのでしょう?西住まほさん·····」
決して表には出さず心中に留めていた切なる望みを全て見透かしてみせたマリーにまほは思わず後退りした。初対面の人間に心の内をずばりと言い当てられ例え武士のような和面に素顔を覆っていても明らかな程まほは戸惑いを見せていた
「安心してまほさん。私は貴女の味方、むしろ貴女の様な女の子のためにここへ来たの」
「私のために·····いや、そんな訳がない。適当なことを言わないで貰おうか。今ここで初めて出会った君に私の何がわかるというんだ?」
「貴女を囲んでいた凡人さん達には感じられなかったでしょうけど
マリーは純白の手袋を外し露わとなった白皙な素の手でまほの手を握った。急に触れてきたマリーに驚きまほは身体をびくりと震え上がらせたが彼女の掌から暫くの間包まれることがなかった暖かな温もりが伝わり失意の底に落ちていた心が満たされていくのを感じた
「···············わかった。寮に部外者は入れていけない規則になっているが説得してみよう。君の話はその後聞かせてもらう」
「ふふ·····ありがとうまほさん。貴女のこと好きになれそうだわ」
少し躊躇いはあったもののまほは彼女を自身が住む学生寮へ上げることに決め、その言葉を聞きマリーはにこやかな笑みをたたえた。というのもまほ自身マリーの様に世代が近い女子から初対面にも関わらず対等に接せられたのはとても久しぶりのことであり、そして何よりも彼女の眼から、彼女の手から親友や家族の様な暖かみを感じたため少し怪しく思いながらも彼女が自分の領域に入ることを許そうとしていたからであった。
マリーの本性を、彼女が此処へ来た真意も知らぬままに··········
大洗女子学園と知波単学園による合同演習が終了した後、コンペイトウより絹代達の応援に参じていたマシュマー・セロにより両校の生徒の親睦を深めるべく食事会が開かれた。リリーマルレーンに招待されたみほ達であったがその食事会の席で宇宙という過酷な環境が生んだ悲劇、地球と宇宙の二極化されつつあった双界に住む人々を母西住しほがモビル道を通して繋ごうと奮闘していた軌跡をみほは初めて聞かされたのであった
だが地球に住む若者達が、特にしほの娘であるみほが宇宙に住む人々について何も知らずに今日も過ごしているという事実は、地球政府より不等な扱いを受け続けてきたスペースノイド達の一人であるマシュマーの逆鱗に触れ、怒りを激発させることとなった。絹代の対応で激昴したマシュマーを沈めることには成功したものの、結局彼に地球への不信感を更に募らせてしまったため、みほ達は自身らの無知や今までを省みて複雑な想いに駆られていた。その最中優花里はただ一人、今一度マシュマーと対話するために彼が運ばれて行った医務室へ向かったのであった
「あの〜本当に入るんですか?目が覚めたとはいえまだ怒ってると思いますしやめといた方がいいのでは·····」
「お願いします。せっかく招待していただいたのに私達のせいでマシュマー殿を深く傷つけてしまったので·····謝りたいんです」
「うーん、何だか不思議な人だなぁ·····。そこまで言うなら止めませんけど行くのはお一人でお願いしますよ。あの人酔うといつもあんな調子だし機嫌悪い時なんて一緒に居るだけでも面倒なんだよなぁ·····」
優花里が医務室の前まで来てしまった所に鉢合わせてしまったゴットンはマシュマーの陰口を零しながら医務室の扉を開けてやった。優花里は少し緊張しながらも意を決して医務室の中へ足を踏み入れた
「し、失礼します。秋山優花里です·····」
「·····!秋山さん?何か御用ですかな?」
ベッドに腰掛けていたマシュマーは部屋に入って来た優花里の姿を見て驚いた様子を見せたがすぐ様目を逸らし表情を曇らせた。少し頬が紅くなりつつもどうやらもう酔いは覚めているようであった
「怪我はありませんでしたか?見ていてとても斬れ味の良さそうな一撃だったので·····」
「心配せずとも私とてやわな鍛え方はしておりませんので大丈夫です。確かに西絹代の蹴りは別格ではありますがな」
蹴られた箇所に氷のうを当てながら僅かに笑ってみせるもその声は暗く先程の事を気にしているのは明白であった
「あの、·····ごめんなさい。私も宇宙で生活している人達のことを深く知ろうとせずに今日まで過ごしていました。地球に住む私達と交流を深めようと努めていたマシュマー殿のことを思うと大変申し訳ないです·····」
「·····態々謝罪をしに来てくれた所申し訳ありませんがもういいのです。私自身甘えた考えに囚われていたことを先程十二分に思い知らされましたので」
「甘えた考えですか·····?」
「ええ·····私はいつか貴女方地球の若者達と共に世を正しく変え歩んで行ける時が来るものだと思っていました。しかし貴女方が我々に関して無知である様におそらく全てのアースノイドがその感心の一切を宇宙に向けてはいない、だから貴女方は大人達から何も伝えられることや教わることがなかったのでしょう。そんな世情で生まれ育った地球の若者が我々に歩み寄ろうとするはずがない、私の期待など所詮世間知らずの甘い戯れ言に過ぎなかったのです·····」
唇を噛み悔しさを滲ませながらマシュマーは語った。優花里達が今回の食事会にて宇宙に住む人々の現実を初めて知ったということは即ち現在地球に住む大多数の少年少女達が宇宙に関して何も伝えられずに、知らずに今日も生活していることを意味していた。地球の若者達がそんな現状にあることを知れば彼が失落してしまうのも無理のない話であった
「·····先程はあの様に怒鳴り散らしてしまい申し訳ありませんでした。そして西住さんにもう怒っていない、手を上げようとしてすまなかったと伝えていただきたいです。明日の演習に私は参加いたしませんのでどうか西絹代達と修練に励んでください」
「あ、あの!私達はこれから先分かり合えることはないのでしょうか·····?」
「ないでしょうな。スペースノイドの何もかもが地球に届いていない事実こそもはや時代が我々を分とうとしている何よりの証拠。認めたくはありませんが人とは自身とは遠く縁のない他者へは無限なまでに不感に、不寛容になれる生物であるということなのでしょう·····」
「そんな·····けどマシュマー殿は私ばかりをあんなに気にかけてくれたじゃないですか。おかげで宇宙空間での機動もこなせる様になりましたし機体操縦にも更に磨きをかけることができたんです!」
そもそも優花里がここへ来たのはマシュマーが昨日初めて対面した時より親身に接してくれ今日も演習中に付きっきりで指導してくれたことに感謝していたからであった。だからこそ彼をこのまま失望させたまま帰る訳にはいかなかったのだ
「それは秋山さんが·····失礼ながら貴女が人間関係に悩みを持った御方に見えたからです」
「え·····どういうことですか?」
「昨日初めてお会いした時一目見て感じました。私が言えた口ではありませんが、貴女があまり交友関係を築くことを得意としていない方に見えたので何か力になってあげたいと思い働いたのです··········最も西住さん達の様な御友人がいたのだから単なる私の勝手な思い違いだったようでしたがな。ははは·····」
「そう·····だったんですね·····」
彼が親身になってくれていた予想外な理由に優花里は顔を俯かせた
「··········呆れたでしょう。私は貴女に対し先導者を気取ろうとしていたのだから地球の人々よりもよっぽど性悪で低俗な人間なのですよ·····皆貴女が帰るのを待っているはずです。どうかもう行ってください·····」
マシュマーは腰掛けたまま申し訳なさそうに頭を下げ優花里に帰るように促した。彼が察していた通り優花里は自ら他者へと接し友好的な関係を構築することを苦手としていた。MSが大好きという趣味もあってか昔から学校のクラスでは孤立して過ごす時間の方が多く、その原因が自分にあることを優花里は大いに自覚し当時から仕方のないことなのだと思い込み自身の中で決めつけていた。彼女達と出会う以前までは··········
「·····待ってください。確かにマシュマー殿の言う通り私は昔から人見知りが激しくて周囲に馴染むのも下手で去年なんてほとんどの時間を一人で過ごしていました。けど·····そんな私にも仲良くしてくれる人達はいたんです」
「·····西住さん達のことですな?」
「はい。初めて西住殿と武部殿、五十鈴殿とお会いした日の夜家に帰ってから一日のことを思い返して嬉しい気持ちでいっぱいになっていたのですが、皆さんの様に女の子らしくもなければついついMSのことで熱くなってしまう自分はいずれ避けられてしまうのではないのかと少し怖いことも考えてしまいました。でも全然そんなことなくて皆私の話に応えてくれて今も私を輪の中に入れてくれて·····私は勝手に決めつけていただけて自分にも友達になってくれる人がいることにようやく気づけたんです」
「喜ばしいことですね。きっと秋山さんの人柄の良さに惹かれたからこそ皆貴女を友人として迎えたのでしょう」
「だからマシュマー殿も私達と分かり合える·····友達になれると思うんです!」
突然優花里から発せられた熱のこもった言葉にマシュマーは顔を見上げた
「·····それとこれとは話が別でしょう。失礼ながら貴女の身近な人々との付き合いとは違い単純な話でなければ貴女方の他にも地球には我々に感心を抱いていない人があと何十億もいるのです。その者達全てが貴女方の様に変わってくれるとは·····」
「本当にそうでしょうか·····。今地球にいる人達も先程までの私達の様にただ何も知らないだけで教わることも無かった人が殆どだと思います。だから先程マシュマー殿が私達にそうしてくれた様に伝えることさえできれば皆共感して歩み寄ろうとしてくれるはずなんです」
「し、しかし·····13バンチコロニーでの悲劇や我らエンドラ学園が地球政府の都合で知波単に呑まれたことの様に宇宙で何が起きているのか、我々がどれ程虐げられているのか大なり小なり地球の人々は何一つ知らないのですぞ。それにただでさえスペースコロニーに人が生活しているという事実さえ知らぬ者達もいるというのに我々の叫びが市民達の耳に届くとは到底思えませんな·····」
「だったら·····私達も宇宙のことを他の人達へ届けるために一緒に叫びます!ただの学生で何の力も持っていない私達が声を上げても偉い人や興味のない方達には無視されるかもしれません··········でもきっと中には耳を傾けて共感してくれる人もいるはずです。だから沢山の人達にできるだけ届けていくことができればいずれは一人一人が自分とは関係なくても宇宙の人達のことを考えられる世界に変えられる·····私はそう信じたいです!」
今まで宇宙のことは、我々の嘆きは何一つ地球には届いてこなかった。声として届かず聴き入れられず捨てられ続けてきた我々の意思を地球に住む自分達も共に叫んでくれると決意が込められた目と共に強く発する優花里にマシュマーは強く感銘を受けた。彼もまた地球に住む人々は皆自分達のことを見下しているのだと過去の優花里と同様に心の何処かで決めつけていたのだ
「信じて貰えないでしょうか?マシュマー殿の様に自分とは縁のない人のためにも親身になれることは何よりも大切なことで絶対に絶やさせてはいけないものだと思います。だからどうか諦めないで欲しいです·····」
そしてこれ程までに暖かく優しい心の持ち主を目の当たりにしマシュマーは心の中で驚嘆し彼女をぞんざいに扱ってしまったことを深く恥じ己の行いを悔いた
「私は貴女が思っている程大した男ではありません。ですが·····この様な私で宜しければどうか貴女方と共に同じ道を進むことを、同じ世界を望むために尽力することを許していただきたい。今一度、地球の人々を信じてみようと思います·····!」
マシュマーは立ち上がり此方の様子を伺う面持ちの優花里へ一度笑顔を見せてから深々と頭を下げた
「マシュマー殿·····!もちろんです!こちらこそ協力させてください!」
彼が自分の想いを承り再び先程以前までの様子に戻ってくれたことが嬉しく優花里も満面に笑顔を広げた。住んでいる場所とそれを取り巻く文化、そして歴史もが異なる世界に生まれた二人。現在まで世の流れによって同じ人類でありながらも遥か遠く離れた存在として互いは分かたれ両者の進む未来への道は永遠に交わることが無いとさえ思われた。だが例えそんな世界であったとしても、名も知らぬ誰かのことを思い共に未来を創ろうと手を繋会おうとする心があれば人は二人の様に幾らでも分かり合うことができるのだ
「とはいえ今はまだお互い学生である以上派手に動くことはできないかもしれません。それこそ今回開いた食事会の様な交流の場を設けることが我々にできる最大限なことだと思います。最も嘆かわしいことに私以外の連中はその気でなかったためあの場にいた秋山さん達と西絹代にしか伝わらなかったことでしょう·····」
「そう簡単なことではなさそうですね·····西住殿や武部殿も絶対に協力してくれると思いますがやはり地球に帰ってから直ぐというのは難しいのでしょうか·····」
「なーに、そう急ぐことはありません。変えるべきは未来の姿であって今すぐに解決などできはしませんので各々ができることをゆっくりやっていただければ嬉しいです。それに何よりも宇宙には西住しほ様がいます。あの方に加えて秋山さん達も地球で声を上げてくれるのならば我々が共に歩める未来は確実ですな!フハハハハハ!」
「そうですね·····。わかりましたマシュマー殿!皆さんと一緒に宇宙での出来事を伝えるために先ずはできることから努めていこうと思います!それと·····宜しければこれからは友人として接してくれるととても嬉しいです·····」
「·····んなッ!」
少し照れくさそうにそう話す優花里にマシュマーは何故か電撃が降り注いだかのような衝撃を受けた
(ど、どうしたのだマシュマー!?なんだこの湧き上がる熱い感情は·····一体何だというのだ!?)
「·····?マシュマー殿?どうかしたのですか?」
「え。い、いやいや何でもありませんぞ!(なんだ·····?どうして秋山さんと眼を合わせることができない!?さっきまでは出来ていただろうマシュマー・セロ!)」
マシュマーは胸の鼓動が劇的に早くなるのを感じ胸を抑え、そして何故か優花里の顔を直視できなくなってしまい思わずしゃがみ込んでしまった
「ど、何処か痛いのですか!?もしかして西殿に蹴られたの所がまだ·····」
「い、いやいやいや何処も痛くなどありません!なんの心配も御座いませんぞ!(何なのだ·····どうしたというのだマシュマー!?何故こんなにも動揺している·····これではまるで変態ではないか!)」
何とか落ち着きを取り戻し視線を戻すとそこには此方を心配そうな面持ちで覗く優花里の姿があった。どういう訳か彼女の顔が、彼女を形づくる一つ一つがとても可憐に、愛おしくマシュマーの眼に映り思わず後退りしてベッドに勢いよく後頭部をぶつけたが痛みなど感じない程に混乱していた
(·····いやいやいやいやいや!相手は秋山さんだぞマシュマー!貴様の様な男が純粋無垢な彼女に一目惚れなど··········そもそも貴様にはハマーン様がいるではないか!この阿呆!)
「あ、あの〜マシュマー殿?本当に大丈夫なんですか·····?」
「どうすればいいのだ·····私にはハマーン様がいるというのに·····そもそも選択する決定権が私にあるのか·····!?(だ、大丈夫です!本当に気を使わなくて結構です!)」
「·····失礼ですが言ってることと考えていることがあべこべになってませんか?」
何故か急に激しく動揺し始めたマシュマーを見て優花里は苦笑いを浮かべる他なかった
ともあれマシュマーは一度は地球へ対し失望したものの再び気を取り直し、優花里は先程までの自分達の様に宇宙のことを何も知らずにいる人を無くすために努めることを決意した。地球と宇宙に住む人々が互いのことを思いやれる·····その様な光る世界に変わるのはまだ遠い先の未来なのかもしれない·····
月面都市フォン・ブラウン、愛里寿達の強襲揚陸艦【スパルタン】のMSデッキにて───薄暗い空間の中そこにはハンガーに静かに佇むネティクスと愛里寿にメイドとして仕える最上位の強化人間、フブキ・ドゥルガー・マカハドマの姿があった
「お嬢様に言われて来たが一体何の用だ?今更止めようとしても明日の支度はとうに済ませてしまったぞ」
(行かないでくれフブキ。もうみほさんを連れて来る必要はないんだ。愛里寿も皆もわかってくれたのだから)
フブキは静かに背を預ける様に寄り掛かりネティクスから伝わってくる少女の声と対話していた
「わかってくれただと?間抜けなことを抜かすな。お嬢様やレビン達が何故おまえの言う事に従うのかわかっていない様だな」
(皆自分の意思で着いてきてくれている·····そうじゃないのかい·····?)
「皆無惨に殺されたおまえを憐れみ同情しているから従っているのだ。ただでさえお嬢様は誰よりもおまえが戻って来ることを望んでいたというのに·····おまえは赤の他人の西住みほを選んだ」
(認めたくないね·····それにみほさんは赤の他人じゃない。私には彼女の未来を変え辛い目に合わせてしまった責任がある·····だから私達はこれ以上彼女に干渉するべきじゃないんだ)
「フン、そんなザマになってもニュータイプだからと自惚れているな。お嬢様やレビン達の心中を知っておきながらおまえは己が思うがままの立場に皆を置き常に誰よりも上に立とうとしている」
(·····君は相変わらず厳しいね。私はただ皆には私の様になって欲しくないから·····)
「誰もがおまえの思い通りのままであると思うなよ。その自惚れはいずれ己を滅ぼし、周りの人間をも平気で喰らい尽くす。古くからの友として忠告させて貰ったぞ」
島田千代率いるニュータイプ研究所の中で被検体として物心つく以前から育てられ、身体能力と精神の安定性、MSによる戦闘能力と空間認力全て高水準の数値を誇る強化人間【カテゴリーS】に分類されていたフブキ。そんな彼女もメグミ達と同じく愛里寿の姉にあたる少女は幼い頃からの親友だったのだ
(待ってフブキ。あのシュバルツ・ファングからみほさんを連れ去ろうだなんてあまりにも無茶だ。それにレビンも連れて行くつもりなんだろう?)
「やり方は考えている。レビンもアイツ自身が来たいと言っているから連れていくまでだ。それに所長からはある任務を任されていてだな。いずれにせよシュバルツ・ファングには行かなければならんのだ」
(衛叔父さんの··········)
「心配するな。私はあくまで聞ける物だけに従っているいるだけでおまえ達の味方であることには変わらんよ·····言い忘れていたがジュピトリスのタイタニアが連合の例の部隊へ入隊したという情報が入った。所長でさえあの娘がどれ程のものか計り知れていない今私達には戦力が必要だ」
(·····彼女も私達と同じニュータイプで宇宙で生まれた子だ。きっと分かり合うことだってできるはず·····生命を奪い合う必要なんて·····)
「自分を殺した相手にそんな甘い考えを望むな。おまえがその調子では今度こそお嬢様を奪われるかもしれない·····それを阻止しあの娘を討つためにも西住みほの力は必要だ」
フブキはネティクスから体を起こし長く下ろした氷の様に蒼白く透き通る髪を靡かせデッキの外へ足を向けた
(フブキ。私が彼女に負けてしまったのは私が弱かったからなのかい?本当にみほさんの力がなければいけないのかな·····?)
「·····おまえはお嬢様を守ろうとして殺された。この世で死んで行くのは皆弱者だ。·····だが誰かを守るために命を賭すことは本当に強い者にしかできないことだ」
(·····やっぱり君は変わったね。昔よりも優しくなった。これも地球の知波単学園にいたおかげなのかな)
「毎度言っているが何なのだそのチハタンとかいう学園は·····あんな雑魚ばかりのアースノイドの学園と私に何の関係があるというのだか。·····帰ったらまた立ち寄らせてもらうぞ、美香」
友へ別れを告げ、フブキは再び足を進めデッキの外へ出て行った。今の彼女にはもはや一片たりとも当時の記憶は残っていなかったが·····彼女は確かにかつて知波単学園のモビル道に身を置いていたのだ
そして彼女は記録資料など全てか抹消され幻のの存在となった今でも、絹代の心には深く残っていたのであった
誰よりも熱く真正面から自分の意思を示しぶつけることを躊躇わない絹代。知波単学園の中等部へ入学した彼女が出会ったのは氷の様に冷たく絶対的に閉ざされた心を持ちながらも誰よりも確かな強さを持ち合わせていたフブキ・ドゥルガー・マカハドマであった。完全に相反していた二人。共に過ごした時間は短くとも絹代にとってフブキは、フブキにとって絹代は自分を変えてくれたかけがえのない大きな存在へなっていった
次回 ガールズ&ガンダム『幻の突撃王』
貴女が照らしてくれたから、私はここまで強くなれた
読んでいただきありがとうございました
最終章ですら何一つ関わりの無いまほさんとマリー様ですが当ssではいずれラスボスとなるまほさんを引き立てるため木星帰りのマリー様と関わらせていこうと考えております。二人の関係はシロッコ×レコアさんの関係性をほぼそのままに書いていこうと思います(ろくなことにならなそう·····)
優花里とマシュマーの絡みはこれから先も続いていくと思いますがしかしネオジオン軍の強化人間達の中にはマシュマーの他にも最期まで報われないまま死んでしまった男がいます。そんな彼もマシュマーの様に優花里に救済して貰うことを予定しております(尚当ssにおけるハマーン様はいずれおまけ回に登場させようと思います。といっても単なるギャグ的な存在になると思うのでご了承を·····)
次回は西さんの過去話となります。今年中に投稿したい·····