ガールズ&ガンダム   作:プラウドクラッド

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 誠に無力な事に今回もあまりに長くなりそうになったため怒涛の中編後編編成を取らざるを得なくなりました。本当に申し訳ございません

 今回本作品の世界における軍に属する者達、MSに乗る男達について解説するためデシルと共に個人的に一年戦争終結後における連邦とジオン双方の軍人達を象徴していると思うキャラクターの一人が登場します。ただ終結後の世界といってもサイドストーリーや0083、ユニコーンをはじめ後付けにあたる作品の軍人像は一切考慮していないためいずれかの作品ファンの見解とはかなりの齟齬が生じていると思います。ポイントとして敵でありながらも情に厚かったラル隊やドアン、彼らの様な軍人が大戦後の物語であるΖからZZにて一切敵として登場していなかったことが何を意味しているのか、そして本作品の世界は今の所過去から現在にかけて戦乱の起きていない平和な時代であるという点を少し抑えて読んでみて欲しいです




20話 惹かれ合う魂(中)

 月の周回軌道上よりしばらく外れた宙域、真紅に染められし一隻の戦艦がシュバルツ・ファングへ向け進路を取り前進していた。艦の名は【サダラーン】、サイド3と月面都市共同のもと新造された実戦用の機動戦艦であり月防衛軍に配備されていた従来の戦艦や巡洋艦に比べサイズは一回り小さく搭載されている武装の数やMSの収容数も劣っていたが、戦艦としての単純な足回りや速力等の機動面は優れており大気圏内への降下も可能としていた

 そんなサダラーンのブリッジ内にて、艦長用の座席に腰掛けたデシル・ガレットは頬杖をつき両足を揺すりながら傍らで気落ちした表情を見せる弟のゼハートを後目にモニターに映るシュバルツ・ファングの空域を楽しそうに眺めていた

 

「デシル兄さん・・・やはり引き返すべきです。シュバルツ・ファング偵察の任務はマカハドマさんが確かに一人で完遂すると言っていました。なのに僕達まで行く必要なんて・・・」

 

「何言ってんだよゼハート。元々は僕達と一緒に行くはずだったフブキお姉ちゃんがいきなり一人だけで行かせろってお願いしてきたんだよ?怪しいと思わなかったの?」

 

「確かに単独で行くことを作戦本部へ嘆願しに来たと聞いた時は僕も少し違和感を感じました。だけどマカハドマさんはカテゴリーSの強化人間、破格の能力だけでなく精神も常に安定域にあり他の強化人間達と違って暴走の危険性はありません。それに一個艦隊で大々的に行動するよりもカテゴリーSの強化人間一人を仕向け隠密に任務を終えられるならばそちらの方が合理的かと・・・」

 

「はぁー、おまえは僕と違って出来が悪いから何にもわかってないんだな。あの宙域には今地球から来たニュータイプのお姉ちゃんがいる、フブキお姉ちゃんはそのニュータイプを捕まえて帰って自分だけいっぱいマスターから褒められようとしてるって訳さ。ズルいよな〜・・・でも一人だけ抜けがけなんて許さないんだから」

 

 デシルは無垢な少年らしい真ん丸な瞳を狡猾そうに細めニタリと口角をつり上げた。みほを連れ去ることとは別に本来フブキには作戦指揮者としてサダラーンでデシル達を率いシュバルツ・ファングの周辺宙域へ向かいしほ達の動向の偵察を月防衛軍司令部より命じられていた。だが愛里寿達のみほを連れ去る作戦が失敗に終わったことを受けフブキは司令部へ現時点で姿を公に見せていない新造艦サダラーンは温存すべき、任務は自身単独で行うと提案。フブキ・ドゥルガー・マカハドマという最高の強化人間にMS戦闘で勝る者などそれこそ西住しほの様なエースパイロットクラスしか存在しないと認めていた司令部は彼女の案を快諾したのであった

 しかし現在、デシルの独断と指揮のもとサダラーン隊は地球から宇宙へ上がってきたニュータイプ西()()()()()()()()()()に停泊していたフォン・ブラウンより出航、フブキ達が乗り込む大型輸送船の後を追いシュバルツ・ファングの周辺宙域へ到達しつつあった。まだ10にも満たない幼少な少年でありながらも純然たるニュータイプであるためデシルには独自に作戦指揮を執り行える特許が月議会より与えられ防衛軍の戦力と人員を好きなように扱うことが許されていた。当然防衛軍の上層部や兵士達の中には納得がいかない者も少なからずは居たが議会の決定に背くことも異を唱えることも許されないため彼の独断によるシュバルツ・ファングへの侵攻作戦を咎めようとする者など同じ特許を与えられた弟のゼハートを除き誰一人として居なかったのであった

 

「デシル様、現在位置よりこれ以上進めばシュバルツ・ファングの警戒網に補足されてしまいます。サダラーンで進めるのはここまでが限界かと」

 

「そっか。じゃあここから先はモビルスーツ隊を出さなくちゃね・・・」

 

 観測手からの報告を受けデシルはようやく自身の出番が来たと言わんばかりに一層邪悪な笑みをたたえ座席より両足から下りた。出撃の支度に向かおうとする兄へゼハートは無謀ながらも再度説得を試みようとした

 

「待ってくださいデシル兄さん!僕達に本来与えられていた任務はせいぜいシュバルツ・ファングへの牽制であって戦闘ではありません!それともまた先日の様に民間人を虐殺するつもりなんですか!?」

 

「うっさいなぁ。そもそもフブキお姉ちゃんが勝手に任務とは関係なくニュータイプを捕まえて帰ろうとしてるんだし僕達も他の目的で出撃したって別にいいじゃんかよ。それにあのラスボスの西住しほが住んでる宙域を攻めるならそれなりの装備と戦力を揃えて行くのはゲームの基本だろう?」

 

「ゲームだって・・・・!?・・・それにモビルスーツ隊で仕掛けるにしても隊の人選に問題があると思います!いくらマスターが見込んだパイロットとはいえあんな男も同行させるなんて危険です・・・」

 

「あんな男、というのは俺のことかい?坊ちゃん?」

 

 背後から男の声が聞こえゼハートは振り返ると開かれた出入口用のドアへ腕を組んでもたれ掛かる防衛軍の男兵士が目に入った。地肌が浅黒く顎髭を蓄えたその男は全身にかけて筋骨隆々と鍛え抜かれた逞しい身体付きをしており、防衛軍所属兵士が着用するベージュカラーの制服の上からマント付きの甲冑の様なプロテクターを身に付けていたためその姿は豪傑な武人を思わせる風格を放っていた

 

「そう邪険にされてしまっては悲しいな弟くんよ。俺達は同じ志を持った同胞じゃないか?」

 

「ラカン大尉・・・・・・失礼しました・・・」

 

「あ、ラカンおじちゃんだ。どうかしたの?」

 

「デシル・ガレット。貴様と貴様が連れてきた小娘共が乗るモビルスーツの出撃準備が整ったから呼びに来てやったのだ。部隊の殿はおまえが執るのだろう?」

 

 月防衛軍大尉、ラカン・ダカランは自身と半分程の背丈しかないデシルとゼハートを見下ろし二人のポンポンと頭を軽く叩いた。デシルは無邪気に喜び笑うもゼハートの方は気乗りせず複雑な表情のままだった。このサダラーンへ乗艦し初の対面を経て以来ラカンは自分達を別段子供と見下し侮蔑する様子を見せることはなく友好的に接してくれていた・・・だがしかしゼハートは確かに感じていたのであった。このラカン・ダカランは正規の軍人でありながら()()()()()()()に分類される男だと、そして兄デシル・ガレットと同じ種の人間であることを・・・

 

「えへへっ。・・・ようやくお楽しみの時間って訳だね」

 

「ら、ラカン大尉!今回はあくまで偵察と牽制が主任務であるので戦闘は止むを得ない状況でない限り避けるべきだと思います!」

 

「ほう、弟の方は随分真面目だな。真っ向から意見を申し立ててくる奴は嫌いじゃない、ゼハートに免じてできる限り善処してやるとしよう」

 

「余計な事言ってないで行くぞゼハート。そんなに戦うのが怖いんだったら後ろの方でコソコソ隠れてるんだね・・・・・・その代わり僕の邪魔だけは絶対にするなよ」

 

 冷ややかな言葉と共に横目で睨みつけるデシルの瞳からな紛うことなき殺意が放たれゼハートは凍りつく様な恐怖が背筋へ走り何一つ言葉を返せぬままデッキへ向かう兄の後に続いた

 例え血の繋がりのある兄弟だろうとも己の道を阻む者であれば一切躊躇することなく排除する、兄デシル・ガレットはそれができる種の人間だったのだ。しかし兄がこれ程まで残虐な本能を抑えきれず自身こそ誰よりも優良且つ至高であると信じて疑わない人間に成長したその責任の一端は弟の自分にもあったとゼハートは感じていた。自分にも兄と同等のニュータイプの才覚があれば彼が屈折したまま成長させることはなかったはず、何処かで止めてやることができたかもしれなかった

 しかしゼハートの想いは叶わずデシルはMSパイロットとしてモビル道のプロ選手はおろか正規軍のパイロット達の追随を許さない程の実力に至り現在も純粋無垢な少年らしく爆発的に成長し続け、その最中にも高慢にして悪魔の様に凶悪な人格は揺らぐことのない確固たる本質へとなってしまったのだ。だが彼もまた人類を導く()となる存在ニュータイプ・・・・・故にゼハートは兄に自分達が与えられた使命を違えさせないため彼の傍に居続ける事を誓っていた。ニュータイプとして宇宙の民を照らし皆で地球という楽園(エデン)をこの手に掴むため、穢れし地球種達から水の星を解放するために・・・・・・

 

 

「・・・ガレット兄弟。例のニュータイプとやらがどれ程の手並みか拝見させて貰おう・・・・・・これより出撃をする!シュバルツ・ファングへ向けジャマー信管発射!敵の目を潰してやれ!」

 

「了解」

 

 ラカンの号令でサダラーンのミサイル発射口より通信機器への電波妨害粒子が込められたミサイルが射出された。信管が発動し妨害粒子が散布されるタイミングは自身らMS隊がシュバルツ・ファングへ突入する直前、ラカンもデッキへ向かおうとブリッジを出た

 

「ラカン大尉。お疲れ様です」

 

「む、貴様パイロットではないか。何故こんな所をうろついている?待機命令は出したはずだ」

 

「申し訳ありません・・・自分これが初めての実戦出撃で・・・緊張してお手洗いの方で少し・・・」

 

「貴様新兵か?この艦には選り抜きの若手か強化人間しか乗っていないと聞いていたが・・・まぁいいついてこい。名は何と言う?」

 

「自分の名はゴールド。ジャバウォック・ゴールドと申します。ハイスクール卒業式後の先月より防衛軍へ正属となり階級は少尉、本日はパイロットの補充人員といしてこのサダラーンへ派遣されました」

 

 廊下で鉢合わせた防衛軍の青年士官、ゴールドと共に壁に備えられたリフトグリップを掴みMSデッキへ向かった

 

「・・・ところでだゴールド少尉?貴君は何故防衛軍に就職した?こんな時代だ、軍へ志願するよりももっと楽な仕事は山ほどあるぞ」

 

「・・・?自分が防衛軍に入隊したのは社会奉仕のためです。学生時代に培ったモビル道でプロの道へ進むよりもこれを軍務に活かし宇宙の治安維持に貢献できる事がしたいと考え軍への入隊を決意しました」

 

「社会奉仕か、真っ当な軍人を志すに実に誠実な動悸だな。・・・・・・だが貴様の様な兵士こそいい様に操れる格好の駒でしかない。そもそも我々の上司や議会に本気で世を太平に導く気があるとでも思っているのか?」

 

 ラカンは背後に続くゴールドへ振り向き含みのある邪悪な笑みを見せながら問うた

 

「どいうことでありますか・・・?自分は月議会と月防衛軍が掲げる意義は宇宙の人々へ恒久的な平和と繁栄をもとらすことにあると聞き及んでいたのですが・・・」

 

「考えてもみろ?あんな物議会が軍へ民意を集めるための建前に過ぎんと気づくはずさ。だがおまえの様なお利口さん達はその建前をのうのうと正義であると信じ従い疑わない。結局は上の連中が決して表へ見せない腹の一物も洞察できぬままいいようにこき使われる定めということぞ。それこそが俺達軍人という職業であり役目なのだがな」

 

「・・・それは単なる貴方の私観です。軍人の本質がそんな物であるはすがない・・・・・・ならば何故ラカン大尉はそう理解されていながら今も軍に居られるのですか?」

 

「決まっているだろう。貴様と同じモビルスーツ乗りを稼業とするためさ。それもモビル道などという飯事ではなく、軍が開発した最新のマシーンで敵と殺り合いたい。俺はその生きがいのためだけに軍へ入隊したのだよ」

 

「なんだと・・・狂っている!アンタ一体軍人を何だと思っているんだ!?市民と世の治安を守り維持するのが俺達軍人の役目!その使命を放棄しただモビルスーツで公然と殺し合いをするためだけに軍に身を置いているなど許されるはずがないだろう!」

 

 ゴールドは軍人としての責務を一切感じていない目の前の男へ怒りを顕にし激しい口調で迫った、だがラカンは微塵も表情が揺らぐことは無くむしろ余計ゴールドが気に入ったのか更に嘲笑を浮かべた

 

「貴様にはこうして出会った誼みとして特別に気づかせてやっているのだぞ?正義など所詮は政を行う者達に繕われた物、俺達兵士は奴らの使いとして現場で全うするだけの存在でしかない。そもそも俺達一兵卒に世を動かすことなど出来んのだよ」

 

「馬鹿な・・・・・・俺はコロニーの家族や皆を・・・秩序を守るため軍へ入隊した・・・貴方とは違う・・・!」

 

「フッ、ちと青すぎるな。もっと己の本能へ忠実になれ少尉・・・・・・俺達は"男"だよ。他者と競い、闘い、圧倒し己の力を誇示するために生きるのが俺達男という生物だろう?俺達が他者のためだ世を導こうなどと考える必要はない、軍人として従う対価として議会の連中が掲げる正義を蓑に闘争へ没頭しようではないか」

 

「・・・そこまで戦いたいのであれば何故モビル道ではいけないのですか?そこまで人と殺し合いがしたいのですか?」

 

「俺は道と名のつくものが心底嫌いでな。特に武道など決められた規律(ルール)の中でしか闘う事を許されんのだから反吐が出る。男ならば何にも縛られず敷かれた道など歩まず己が本能のまま命の駆け引きがしたいというもの、それでこそ生を実感し謳歌できているというものだとは思わんか?」

 

 確実に人として大切な情が欠落しとめどなく狂気を滾らせている、ゴールドはラカンがそういう人間であることが判り彼へ畏怖を抱いた。だがラカンの言葉は何処か筋が通っているようにも聞こえてしまった、もしかすれば彼の生き方こそ男として正しい姿なのではないのかと感じてしまったいた

 そして気づけば二人はMSデッキに続く扉の前に到着していた

 

「・・・ラカン大尉は何故俺にこのような話をしてくれたのですか?特別優秀な成績が無ければただの新米士官でしかないこんな俺に・・・」

 

「・・・貴様から何故か俺と同じ臭いを感じた。闘いの中でしか生を見出すことの出来ない男の臭いがな」

 

「俺が貴方と同じだと・・・?ありえない、何かの勘違いでは?」

 

「ヌハハ言うじゃないか。ついでに一つ肝心な事も教えてやろう。俺達軍人はただ使われるだけの駒とはいえ己の身あって殺し合いができるというもの、一体度奴を上の人間として据えるのが最善か見極めてやる必要がある。防衛軍元締めの月議会か、あるいは実質的に議会を上手いこと操っている島田家の男か・・・」

 

「あのニュータイプ研究所の所長がですか?」

 

「ああ。俺の見立てではあの男、この世の人間ではないはず。正確には前世の記憶を持ったまま産まれ落ちたとでも言うべきか・・・とにかく面白く興味深い奴なのだよ。奴の下に着いておけば今日の様に暴れさせて貰えるしな」

 

「・・・御助言ありがとうございました大尉。ご武運を祈ります」

 

「貴様には期待しているぞゴールド少尉。間もなく時代は変わる、俺達戦士達の時代が来るのだよ。だがその時代を迎えるためには先ず俺達にとって何よりも邪魔なシュバルツ・ファングと西住しほを討たねばならない。それそほあの女のせいで俺達軍人は今まで軌道上での軍事演習かモビル道でしかモビルスーツに乗れず鬱憤が溜まるばかりだったのだからな。引導を渡してくれる・・・」

 

 ラカンは拳を固めデッキの中へ入り自身のMS、月防衛軍の主力量産機であるグレーカラーの【AMX-011 ザクIII】の下へ向かって行った。正義感に溢れ世の秩序のため熱い志を胸に月防衛軍へ入隊したジャバウォック・ゴールド、しかしラカンの言葉を受け彼は抱いていた若き正義感へ疑念が生まれ乱されようとしていたのであった。そしてラカンの様な生き方こそがこの世の軍人として、男として真理にして在るべき姿なのではないのかと芽生え始めた。自身の中で正しき正義を見出し確立する事ができる程、ゴールドが強い少年では無かった故に・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 サダラーンのMSデッキ内では来るべき出撃に備えパイロット達は集いメカニックマン達はMSの整備点検を行い準備を急いでいた。サダラーンが搭載するMSは全機月で開発された実戦用の機体のみ、そして技術者とMSパイロット達の主な面子は防衛軍の若き青年士官達をはじめ中にはまだあどけなさが残る幼い子供、ν-ALAWSでの試験を経てニュータイプ研究所より遣わされた強化人間の少年少女達で占められていたのであった。地球侵攻作戦の一番槍を飾ることとなるサダラーン隊、当然デシルのみならず一人一人が軍の正規パイロットから選り抜かれたと言っても過言でない程の腕前と試験数値を記録していた

 そしてデッキ内に佇むMS達の中でもデシルの専用機である漆黒に染められたMS、【AMX-107R リバウ】にはより大勢のメカニック達が集まり綿密な点検と整備が行われていた。だが何故かリバウの側方にはモビル道用のゲルググが4機並ばされており足下では研究員と思しき男が一人とノーマルスーツの上から手枷を掛けられた四人の少女の姿があった

 

「これが君達が今回乗ることになるゲルググだ。カートリッジ式のビームライフルを装備しているがそもそもコックピット内は操縦桿もフットペダルも備えられていない上にその拘束具も付けたまま乗ってもらうことになるから()()が直接撃つことはない。簡単に言えばただシートへ座ってるだけでいいということだ」

 

「あの・・・本当にこれが終わったら私達を地球へ帰してくれるんですか・・・?」

「・・・ああ。試験が無事に終わったらな。もし試験中に何か緊急事態が発生した時は通信機からオープンチャンネルで思い切り助けを呼ぶといい」

 

「待ってください・・・・・・何かおかしいですよ。機体が中から操縦できない様になっているのにどうして私達を乗せる必要があるんですか・・・?それにこの方達は地球の大学生の生徒さん達だって聞きました・・・・・・いくら新兵器のテストだからってこんなの絶対に普通じゃありません!貴方達軍隊の人達は何もおかしいとは思わないんですか!?」

 

 四人の少女の内の一人、この日愛里寿達のもとへ帰して貰えず連行されて来ていたナオは研究員の男へ現状への募り募った疑問を強くぶつけた。ナオ以外の三人は地球の女子モビル道大学選抜の隊員・・・・・・デシルが敢えて殺さずに生かし月へ拉致してきた生存者だったから。そして現在サダラーン所属のパイロット達や実戦用のMSと共に出撃させられようとしているのだからナオは地球人とはいえ民間人である彼女達を兵器のテストに使おうとする軍隊があまりにも理解し難く醜悪に感じ反発せずにはいられなかったのだ

 

「・・・君は確かナオ・ヨシヅキだったな?あの少年のおかげで議長の嬲り物にならずに済んだのだぞ?あまり彼を逆撫でる様では処分されることとなるぞ・・・」

 

「だったらそんな新兵器のテストなんて私一人にやらせればいいじゃないですか・・・!この人達も巻き込むのなんて絶対におかしい!今すぐ地球に帰してあげるべきです!」

 

「・・・私だってこんな悪趣味な作戦になど加担したくないさ・・・だがこれも仕事なのだよ。どうか恨まないでくれ・・・」

 

「お姉ちゃん達もう来てたんだ。今日はよろしくね!」

 

 するとナオ達のもとに特殊なデザインのパイロットスーツを着用したデシルが現れ研究員の男は彼が来るや否やそそくさと逃げるように立ち去った。彼の間の抜けた明るく甘い声を聴いた大学選抜隊の三人は震える様に怯え身体は竦み上がってしまいデシルは彼女達の様子を面白可笑しく嘲笑い見下ろしていた

 

「そんなに怖がらないでよ。この作戦が終わったらちゃんと約束通り地球のお家へ帰してあげるからさ。ナオお姉ちゃんも僕の言うこと聞いてれば本当のお父さんに会わせてあげることだってできるんだよ?」

 

「お父さんに・・・そんな事よりもこの船の指揮官は君なんでしょ?お願いだからこんな事辞めさせて!君だっておかしいと思うでしょ・・・まだ子供なのに実戦用のモビルスーツへ乗らされて・・・死んじゃうかもしれない所に行かされるんだよ!?そんなの絶対におかしいよ!」

 

「うるさいしムカつくなぁ・・・僕のこと子供扱いすんのかよ。それにナオお姉ちゃん何か勘違いしてるけど僕がマスターから頼まれたのはバウのテストだけ、シュバルツ・ファングへ攻めに行くのとお姉ちゃん達が乗る新兵器を考えたのは全部僕なんだよ?今はまだ分からないと思うけど楽しみにしててよね・・・お姉ちゃん達にはあそこにいる強い大人達をいっぱいやっつけるために大活躍してもらうんだから・・・」

 

「ひっ・・・・・・もういや・・・お家に帰りたいよぉ・・・・・・」

 

「だ、大丈夫ですよ!絶対無事に帰れますから落ち着いて・・・・・・君は一体何を考えているの・・・?他の誰かをそんな風に利用しようとする事が許されると思ってるの・・・?」

 

「当たり前じゃん。僕はニュータイプだよ?何の才能もない馬鹿や雑魚じゃなければナオお姉ちゃんみたいな失敗作の強化人間でもない選ばれし人類、それがこの僕なのさ。むしろ光栄に思ってよね、ニュータイプに武器として使ってもらえるんだからさ・・・それとこれ以上僕をムカつかせたら愛里寿様達とナオお姉ちゃんの大事な妹のさらお姉ちゃん、僕が皆みーんな殺しちゃうかもしれないから気を付けてよね・・・・・・」

 

 デシルは悪意と邪気に満ちた笑みを満面に見せながら昇降用のワイヤーでリバウのコックピットへと昇って行き、彼の傍にいた強化人間の兵士達から強引に押し込まれる様にナオ達もゲルググのコックピットへと乗せられた。愛里寿よりも年下であるはずのデシルがここまで人の心を持たぬ冷血な悪魔の様な少年である事にナオは表情を青ざめさせ全身が震え凍りつく様な恐怖に襲われた。この少年は自分達にとって危険過ぎる、逆えば皆殺されてしまう・・・・・・ナオはデシルがそれ程までの力と狂気を兼ね備えている事を洞察し神へ縋る様に願った・・・この魔少年を止める英雄が現れることを・・・

 MSハッチが開かれ今、デシル・ガレットによる狂気に満ち満ちたシュバルツ・ファング強襲作戦が開始されようとしていた・・・・・・

 

 

 

 

 




 読んでいただきありがとうございました

 後日本来予定していた部分も書いて後編という形で再投稿する可能性もあるのでよろしくお願いします。今回はちょっとコロナで鬱ってるというのもありこの段階で投稿させていただきました

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=237648&uid=260037
 ↑
 今回初登場したラカンについて僕なりにまとめました。興味のある方は御一読ください。そして現在ニュータイプとして登場しているデシル、彼もまた本質的にはラカン達と同じベクトルの人間です。これから二章の終わりにかけて更にダークな回が続きますがよろしくお願いします


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