ガールズ&ガンダム   作:プラウドクラッド

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 最近YouTubeにて公式サイトの方からΖガンダムのアニメが続々公開されていたのでとても嬉しかったです。期間が限定されているとはいえ公式の方から最終回まで無料配信されていくであろう今これ以上本作品の連載を続けてる理由は殆ど無くなりましたがぼちぼち投稿して行こうと思います(と言いつつ実の所更新ペースが著しく遅くなった半年近く前より始めたサバゲーに何時も暇な時間を割かれて従来の1000%筆が進まないからです・・・)

 今世界中がとんでもない事になっているからこそ沢山の人にΖを是非見て欲しいです



20話 惹かれ合う魂(後)

 一方シュバルツ・ファングの宙域外縁部では物資輸送船より出撃したフブキ達は漂流する残骸となった艦船をはじめとしたデブリ達、小隕石を一重にかわしながら高速で突き進んでいた。正面に広がる風景はまるで密林の様に開けておらず進行の障害物を回避するには機体を細かく縦横に機動させ時には急停止させる必要もあったためメグミとルミは苛立ちが募ってきたのかスピーカー越しに毒をつき始めた

 

「もーさっきから本当にひっどい空域ね!傷が付いたらどうしてくれんのさ!」

 

「こんなんじゃ船どころかモビルスーツもまともに通行出来そうにないじゃない!民間にも提供してる訓練用の宙域が聞いて呆れるわ!」

 

「二人共落ち着きなさい。ここは毎日の様に連合軍の軌道艦隊や防衛軍やコロニーのプロチームの部隊が処分の面倒な廃棄物を投棄していくのだから撤去するにしても追いついてないんでしょう。・・・全く皮肉なものね。エネルギー枯渇と自然環境の汚染を懸念して人は地球から宇宙へ移り住んだのに結局同じことを繰り返してるのだから・・・」

 

「ブルーコスモスの連中みたいな事言ってんじゃねぇよ。そもそもシュバルツ・ファングと西住しほはスペースノイドとアースノイド両方のために我々は活動してると自称してるが実際13バンチ事件がありのまま報道されてないように奴らが地球側へ肩入れしてるのは明らかだ。だからスペースノイドがこの空域にゴミを山ほど捨ててくのなんて当然のことだろ」

 

 レビンは今周囲に広がる現実を悲観するアズミの言葉を冷々とした調子で一蹴した。だが彼女の言葉通りシュバルツ・ファングの宙域のみならず各コロニー圏や小惑星の周辺の宙域にも処理が追いつかず放置された投棄物やデブリが大量に顕在化しておりその現状が意味している通り人々は宇宙へ出ようともそうそう変わることなどできない、同じ過ちを繰り返す悲しき宿命に囚われているという事は明白であった。そしてそれは自然環境への配慮のみに留まるはずもなく・・・

 

「だがアズミの言い分こそ現実だぞレビン。人の不感と悪意が自然環境を汚染している現状を当然のことだ俺達には関係ないのだと開き直ってしまえば私達のような強化人間が今も悪戯に造られ続けている事実をも黙認することとなるのだぞ?」

 

「・・・それとこれとは話が別だ。拉致したガキ共を勝手に強化人間へ改造すんのと周辺の環境へゴミを散らかすことのどっちが本当に許されねー行為かなんて考えなくてもわかるだろ」

 

「そういう事ではない。男のおまえにはわからんか・・・・・・まぁいい、無駄話はここまでだ」

 

 フブキがそう告げるとほぼ同時に何かが補足されコックピット内に警告音(アラーム)が鳴り響くと前方より接近してくる4機編成のMS隊が現れた。向かってくる4機は【RGM-79R ジムII】、演習用に設けている宙域の外郭部の警護を行う一隊で哨戒中に行動しているMS数機の反応を補足し現場へ急行してきたのであった

 

「ゲルググ3機にナイトシーカー・・・あれは最近発売されたモデルのフルアーマーガンダムか。5機全てがモビル道用のモビルスーツのようです。此処へ侵攻してきた訳ではないのか?」

 

「演習中に迷い込んだのかな・・・保護しますかエマ隊長?」

 

「馬鹿ね、家元のお嬢様を攫おうとしていた部隊はモビル道のモビルスーツで使用して侵入して来る可能性もあると報告にあったでしょう?・・・けれどスポーツ用のモビルスーツが相手ならまともな戦闘へ発展することはないはず。さっさと追い払うわよ」

 

 隊長機の女性パイロット、エマからの指示で3機のジムIIは一斉に散開し瞬く間にフブキ達の進路を完全に阻む形へ展開し携行していたビームライフルを構え銃口を向けた

 シュバルツ・ファングに属している者達は皆しほと同じ宇宙と地球に住む人々の調和を叶えようとする意志を持ち性別も男女問わず一人一人がしほと共に戦うために彼女の下に集っていた。その中でもMSパイロット達には治安維持や有事の際に備えるために実戦闘用のMSが手配され割り当てられていたが、しほが認め信頼を置く者達なだけあって一人一人が実兵器を相対したMSの撃破及びパイロットの殺傷に振るうことは一切なく、あくまで蛮行や悪事を犯す者達への抑止を行う手段として・・・そしてしほが断ずるべきと定めた悪を打ち倒すための力として皆コックピットへ搭乗していたのだ

 

「そこの貴女達止まりなさい。貴女達が月のアロウズの所属であることはもう分かっています。今からでも直ちに引き返すこと・・・しかしこれ以上進もうとするのなら確補させていただきます!」

 

「ゲッ、もう見つかってんじゃん・・・ちょっと隠密に済ませるんじゃなかったの?初っ端から状況ヤバいじゃんかよ」

 

 突如襲来したかと思えば瞬く間に囲まれ道を阻まれた事に相手が手練である事を悟ったルミは殿を務めていたフブキへ無線越しに若干八つ当たり気味になじった

 

「監視網に掛からぬ様万全を期して出撃したつもりだったがこうも早く補足されるとはな。・・・さてどうする?おまえ達だけでもこのまましっぽを巻いて退却するか?」

 

「冗談。ここまで来たんだし最後まで付き合わせてもらうんだから。ルミとアズミもいいよね?」

 

「ええ、勿論」

 

「・・・ったく仕方ないな。バレちゃった以上やるしかないしね」

 

「フッ、やはりそうでなくてはな・・・だが今はまだトリモチは節約していろ。特にレビン、おまえは一切手を出すなよ」

 

「・・・はぁ!?なんでだよ!」

 

「おまえの戦い方とそのガンダムの攻撃は一々派手すぎる、余計に目立ってしまえば帰り道が困難になるだろう。それに唯一モビル道の武装のみを装備しているおまえには西住みほの周辺を固めているもの達を任せたいからな・・・・・・行くぞ」

 

 その瞬間、武器も構えず無防備無抵抗の状態だったフブキのナイトシーカーは突発的に前方のエマ機のジムIIへ向けバーニアのスラスターから火を噴かせ躍り出ていった

 

「っ!突撃しようというの!?そんなモビルスーツで!?」

 

「そんなモビルスーツとは随分と余裕だな。だが安心しろ・・・私にはオールドタイプの相手などモビル道の機体で足りるのだよ」

 

 今自身らを囲んでいるジムIIは全機本物の火器を装備しているのにも関わらず臆する様子は一切見せずフブキのナイトシーカーは敵の隊長機へ距離を詰めた。そしてその最中まだいずれの標的ともかなりの間合いがあるというのにフブキは腰部へ携えていたビームジャベリンを掴み先端にモビル道用のビームの刃を形成させるとおもむろに見せつけるかのように振り回しながら更に加速させた

 

「ビームのジャベリンを展開した・・・?危険ですエマ隊長!発砲の許可を!」

 

「貴方達はまだ動かないで!・・・それ以上近づくのなら撃つ!これが最後の警告よ!」

 

 だがフブキのナイトシーカーは依然として止まる気配を見せず吶喊し続けてきた。複数機からライフルを向けられ且つモビル道用のMSでは何一つまともな応戦をできるはずがない状況に置かれているのに全く動じず恐れない。隊長機のパイロットはナイトシーカーのパイロットへ畏怖を覚えたがこれ以上近づけさせれば白兵の間合いに入る、そしてもしかすれば()()ビームジャベリンが実兵器である懸念も少からず抱いていたためライフルのビームを最小出力に調整し照準を合わせできるだけコックピットから離れた部位を撃ち抜こうとした・・・

 

「どうして・・・貴女が近づいてくるから!」

 

「撃ってくるのか・・・だが遅かったな。残念だがここはもう私の間合いだ」

 

 銃口から放たれた閃光は一直線にナイトシーカーへ向かい命中するかに見えた・・・・・・しかしフブキは速度を維持したまま機体をきりもみ状に旋転、見事なまでのバレルロールでビームを紙一重で回避してみせるとその勢いを乗せたままジャベリンをエマのジムIIへ向けて投擲した

 

「直撃コースだったのに避けてみせた!?敵は子供じゃないというの・・・?」

 

 エマは回避行動をとるため意識を僅かにナイトシーカーから投擲されたジャベリンを移し機体の高度を落とした・・・だが本来回避する必要など無かったはず、だってあれはモビル道用の擬似ビームが展開された武器だから。ならば何故自分は避けたのか、敵は此方へ投擲してきたのか・・・・・・そう疑念が浮かび気を取られたその一瞬の間に、フブキのナイトシーカーは真正面まで距離を詰めていた

 

「やはり避けてくれたか。当然だ、モビル道の兵装は全て実物へ精巧に似せられ造られた得物。例え偽物とわかっていたとしても常人ならば回避して当然というものだ」

 

「え・・・今の一瞬で・・・!?」

 

「一瞬ではない。ここまで詰めるにはあまりに十分過ぎたぞ」

 

 格闘の間合いに入られ焦ったエマは反射的ににビームサーベルに手を掛けようとした。しかしその行為を置き去りにするかの如くフブキのナイトシーカーは瞬く間にジムIIの下方向へもぐり込んだかと思うとバーニアで速力を付け機体の全質量を乗せた飛び膝蹴りを胴体へと見舞った

 

「ぐぅ・・・・・・っ!」

 

「言ったはずだ。ここはもう私の間合いであるとな」

 

 間髪入れずフブキはマニュピレーターでジムIIの頭部を殴りメインカメラを粉砕、そしてライフルを持つ方の腕を掴み背後へ回ると関節を組み固め片方の腕をへし折り無力化させた。所詮スポーツ用の武器で、MSで軍隊でも使用される実戦用のMSに太刀打ちすること等本来到底叶うはずなどないことであったがマニュピレーターやその他部位を用いた肉弾戦ならば唯一可能であるかもしれないと仮説立てられている手段ではあった。だがしかし・・・・・・

 

「エマ隊長ー!!!」

 

「コイツ!調子に乗るなよ!」

 

 待機させられていた隊員達の内2機のジムIIはエマが攻撃されたことに怒りビームサーベルを引き抜きフブキのナイトシーカーへ斬り掛かろうとした。二方向から迫り来る敵に対しフブキは一方へはエマ機を蹴り飛ばして激突させ、もう一方からの冷静さが欠けた斬撃は悠々と見切りカウンター張りにネモの頭部を掴み傍を漂っていた小隕石へ叩きつけそのまま両のマニュピレーターでコックピットハッチを機関銃の如く息もつかせぬ連続的な殴打を浴びせた

 

「ぐあっ!がっ!や、やめ・・・ろ・・・・・・」

 

「どうした?おまえ達はシュバルツ・ファングの兵なのだろう?その程度の力でこの先他の強化人間達とまともに殺し合えるとでも思っているのか?」

 

 フブキは例え搭乗するMSがモビル道用の物だったとしても確実にどんな相手でも沈め勝利できる人間、それを成し得る兵器が求められたがために造られた強化人間だった。戦闘に特化するために身体から精神に掛けて強化改造できる箇所に全て手を加えられ造り上げられた最高傑作の兵器、それはもはや人を超越し並のMSパイロットでは到底並ぶことのない域に達していたのであった

 だがこの時背後へ残り1機のジムIIに回り込まれてしまい銃口を向けられ状況は一転しフブキはいつでも撃たれてしまう身に置かれてしまった

 

「そこまでだ!大人しくしろ・・・さもなければ撃つぞ!」

 

「ほぅ?ならば撃つがいい。私は強化人間にしてスペースノイド。おまえ達地球人が忌み嫌い地球外生命体(エイリアン)と呼んでいる者なのだぞ?躊躇う理由があるのか?」

 

「俺だって宇宙の生まれだ!・・・だがおまえ達とは違う!何が強化人間だ!家元は俺達スペースノイドの生活を変えるために立ち上がってくれているというのにおまえ達は子供を誘拐しては改造して・・・いずれ報いを受けることになるぞ!」

 

 此方へライフルを向け訴えてくるパイロットの青年の言葉を理解できないながらもフブキは沈黙しつつも耳を傾け言葉の意を理解しようとした・・・・・・すると突然、フブキの頭の中へ男の声が響いた

 

(ククク・・・報いとは可笑しなことを言うじゃないか。だが地球圏で生きる全ての人類を支配しこの世界を我がものにしようとしている西住しほこそ倒さなければならない真の"敵"。そうだろう?マカハドマ・・・)

 

「ッ!・・・・・・了解。所長(マスター)・・・・・・」

 

 意識の内側へ何かを注ぎ込まれたのか、フブキは眼の光が失せ代わりに全てを凍りつかせるような冷たい覇気に似たプレッシャーを放ち始めた

 

「な、なんだ・・・この寒気は・・・・・・・・・」

 

「・・・報いを受けるのは西住しほと奴に従うおまえ達だ。我々の友を奪った地球人も奴らを庇い立てするおまえ達シュバルツ・ファングもこの世にあってはならない倒すべき敵・・・撃たんのならば私からこのパイロットを刻ませてもらう・・・・・・」

 

「な、寄せ!」

 

 フブキは内部のパイロットが気を失い動かなくなったジムIIから離されたビームサーベルを取り上げようとマニュピレーターを伸ばした・・・・・・だがフブキが実物のビームサーベルを手にするよりも先にアズミの高機動型ゲルググがナイトシーカーの脇から飛び蹴りを入れて吹き飛ばしこれを妨害した。同時にメグミ、ルミの高機動型ゲルググも駆けつけ2機による連携でフブキの背後のジムIIとエマ機との激突から復帰しフブキへ攻撃しようとしていたジムIIへ一瞬の内にトリモチランチャーガンからトリモチを各部位の駆動部へ命中させ各機体の動きを完全に封じ込めた

 

「うわぁ!なんだ!?」

 

「悪いわねお兄さん達」

 

「しばらくの間大人しくしててもらうよ!」

 

 メグミとルミの二人は無力化又は動きを封じられた3機のジムIIを一箇所に集めるとそこへトリモチを更に撃ち込み互いが吸着し合った団子の様な塊へと成り果てさせすぐ傍の小隕石へ固定させた。その間にアズミは抜け殻のように微動だにしなくなったジムIIを掴み見据えるフブキへ駆け寄った

 

「フブキ!聞こえてるんでしょフブキ!貴女今何をしようとしていたの!?」

 

「くっ・・・・・・ん?アズミか・・・?どうしたのだ・・・?」

 

「どうしたのだじゃないわよ・・・貴女今凄く気持ちの悪い感触のプレッシャーを出していたのよ?その人をどうするつもりだったの・・・?」

 

「・・・大方所長からパイロットを殺せって命令されたんだろ。おいバカハドマ。テメーは()()俺達の味方って事でいいんだよな?」

 

 後続で待機していたフルアーマーガンダムのレビンも合流したがフブキを不信に思ったのか険しい様子で彼女へ迫っていった

 

「・・・・・・あぁ。私はお嬢様とおまえ達の味方だ。お嬢様を守るため・・・ニュータイプを手に入れるために私は今ここに来ている。・・・先を急ぐぞ。もうあまり時間が残されていない」

 

 フブキは少し焦りを顕にした様子で皆を避けるように再び前進を再開した

 

「ちょ、ちょっと待ってよフブキ!私らも急ごうよ!置いてかれたら元も子もないっての!」

 

「ええ、わかってる・・・ねぇレビン。貴方フブキが研究所の所長から命令を受けてるって言ったけど今も続いてるの・・・?」

 

「・・・そうみてぇだな。そもそも俺みたいな遊びで造った強化人間と違って軍の戦力にするのが目的の戦闘特化型の強化人間には初めから相手が敵なら何の躊躇いもなく殺す様に脳みそへプログラムされて造られている。そいつらの中でもマカハドマは群を抜いた実力を持ってるから所長が一方的にアイツの意思を覗き込んで逆らわない様監視してついでに何時もの調整も加えてるって訳だ。なんでそんな事ができてどうやってんのか俺は知らねぇがな・・・」

 

「なんだそれ・・・本当何者なんだよあのオッサン・・・」

 

「・・・けど地球に居た頃のフブキって所長と交信してる様子も操られてる事も無かったはずよね?月に帰った後また地球へ行く前のフブキに戻っちゃった訳だしもしかしたら地球へ連れて行くことさえできれば助けられるかも・・・」

 

「どうやって地球へ連れて行くってんだよ?今のアイツは何もかも所長に筒抜けだって言ったばかりだろ?」

 

「そうだけど・・・だからってこのままあの子に何もしないでいられる訳がないじゃない・・・」

 

 不安な想いを吐露するメグミ、そしてルミとアズミも全く同じ気持ちをフブキへ抱いていた。彼女は自分達にとって家族とそう変わらない大切な友人、だが彼女は防衛軍が敵を殲滅するための兵器として使用する強化人間だった。兵器として存在させられている彼女をどうすればこの呪縛から救い出せるのかメグミ達には分からず、友を救えない無力さをただ悔いる事しかできなかった

 

「・・・ンな事俺だって分かってるっつーの。アイツが戦争に連れて行かれちまえば俺達や大隊長も安全じゃなくなるって話だからな。所長の好きにやらせないためにも今は進むぞ」

 

 レビンは三人へただそれだけ告げるとフブキの後を追いフルアーマーガンダムを発進させた。彼も少なからずはフブキを救うために何かしてやりたいとは思ってはいたがそれがどれ程酷であるか、何を敵に回す事になるのかをメグミ達よりも知っていたから半ば諦め気味にならざるを得なかった。だから今はせめてフブキの存在が欠けたとしても愛里寿の平穏を守り続ける新たな戦力としてこの世界と時代を導く存在ニュータイプを、そのニュータイプであるみほを此方の手札として迎える必要があった。そのためにレビンは何が何でも今日みほを捕らえるのだと決意していたのであった

 

(・・・なぜ殺さなかったんだいマカハドマ?この僕に歯向かうつもりなのかな?)

 

「いいえ・・・申し訳ございません所長。敵陣へ潜り込んだのは今回が初めてですので戸惑いがあったようです」

 

(僕が愛里寿達を自由に踊らせてあげるのは全て君の働きに期待しているからなんだよ?君が与えられた命令通りに動けないのならば愛里寿達にも働いてもらわなければね・・・)

 

「そんな・・・!どうかそれだけは・・・お止め下さい所長・・・」

 

(フフフ・・・マスターと呼んでもらおうか。そうとも・・・僕とリンクしている以上君は勝手な行動を取ることも自由になりたいと願うことすら許されないのさ・・・わかったのならニュータイプと言われている西住しほの次女を僕のもとまで連れて帰ってくるんだ。楽しみにしているよ)

 

「はい・・・かしこまりましたマスター・リボーンズ・・・・・・」

 

 彼の気を損ねればまた頭の中を弄られるかもしれない、彼に逆らえば自分はまだしも親友から守って欲しいと託された愛里寿達にも危機が及ぶかもしれなかった。彼の呪縛から救い出してくれる救世主が現れるはずもなければ声の限り叫ぼうとも誰一人とし兵器でしかない自分へ手を差し伸べてくれる事は無い、故にフブキは頭の中に響く声の主にただ従順に従わざるを得ず現在も感知していたニュータイプの気配がある方角へ向けただ進むしかなかったのだ・・・

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 一方何の前触れもなくシュバルツ・ファングの宙域外へ向かい始めた絹代を止めるためみほとマシュマーは気を抜けば見失ってしまう程の速さで離れていこうとする彼女のマリーネライターを追い続けていた

 

「コラー!いい加減止まらんか西絹代!貴様一体全体何処へ行こうというのだ!」

 

「戻ってください西さん!西さん!」

 

(近い・・・!もうすぐそこにまで来ている・・・!)

 

 みほとマシュマーからの必死な声掛けに全く動じることなく絹代は進み続けた。既に元々いた演習地点からかなり離れてしまい点在し視界の妨げとなるデブリの量も先程の比ではなくなっていた。そしてこの時マシュマーは通信が母艦へ繋がらなくなっている事に気づきみほへ無線を送った

 

「む、これは・・・・・・西住さん!西絹代は私が一人で追います。後は私に任せ貴女は今すぐ元来た道を戻って皆のもとへ先に帰ってください!」

 

「え・・・どうしてですか?私も追い掛けます!」

 

「艦と交信が繋がらなくなり何か様子がおかしいのです。もしやすれば先日貴女を誘拐しに来た者達が今侵入して来ているのかもしれません。貴女はニュータイプなのだからいつ何時狙われて当然のはず、さぁ早く!」

 

「・・・・・・・・・違います・・・」

 

 マシュマーは当然みほに身の危機を感じてもらうため伝えたつもりだった。だが彼の注意を受けたみほほ暗く俯き小さく震えながらに声を絞り出した

 

「違います・・・・・・私は・・・私は・・・・・・」

 

「ん?どうかしたのですか西住さん?さっさと戻って・・・」

 

「私は・・・・・・私はニュータイプなんかじゃありません!」

 

 みほは感情が昂った激しい声調で言葉を返したかと思うとスラスターペダルを更に踏み込みマシュマーのザクII改を後目に絹代のマリーネライターへ向かって行った

 

「に、西住さん!?貴女まで一体どうしたと・・・だぁぁぁもう西絹代といい近頃の乙女はどうして淑女らしくお淑やかでいる事ができんのだ!」

 

 呼び掛けに応じず立ち止まる素振りを一切見せない絹代に加えてみほまでもが話を聞き入れなくなったことへ憤るのと同時にマシュマーはいよいよこのままでは3機共本当に宙域の外へ脱してしまう事に焦りを感じ何とかして彼女達を連れ戻そうと追いすがった

 その直後気づけば周辺には投棄され骸と成り果てた廃船やその残骸が無数に漂う空域へ到達した絹代。しかしその時点で意識の中を通して自分を呼んでいた何者かの気配は途絶え絹代は周辺を見渡したが辺りにはデブリが無数に広がっているだけで人らしき気配を発している物は何も無かった

 

「西さん!やっと追いついた・・・!」

 

「西住さん?ついて来ていたのですか?」

 

「は、はい・・・・・・どうして突然こんな所に来たんですか?ここは危険だから早く戻りましょうよ・・・」

 

「そういう訳には行きません。確かにこの辺りからずっと聞こえていたんです。誰かが私を探している声が・・・助けを呼んでいる様な声がずっと聞こえていたんですよ」

 

「え、・・・・・・それってどういうこと・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたぞ、ニュータイプ・・・」

 

 突如所属不明のMSが補足されたことで警戒音が鳴り響き、みほと絹代はモニターに識別された反応の方を見ると頭上の方向から此方を見下ろす5機のMS達の姿があった

 

「あ・・・!あのガンダムは・・・!」

 

 みほは5機の内の1機、大質量のバックパックが取り払われていたもののその機体が先日現れたフルアーマーガンダムである事に気づいた。そしてフルアーマーガンダムのレビンも今前方にいるのがみほの乗るプロトタイプガンダムである事を存じていたため、まさか本当にフブキが向かおうとしていた先にみほが居た事に半信半疑だったのもあり目を剥き驚愕していた

 

「嘘だろ・・・マジでいやがった!それもこんな宙域の外側によ!」

 

「凄い・・・もっと中心まで行かなきゃ駄目だと思ってたけどやるじゃないフブキ!」

 

「メグミ。おまえ私の言う事を信用していなかったのか」

 

「西絹代!西住さん!・・・・・・な、何者だ貴様らは!?さては貴様らが西住さんを狙う不届き者達だな!?」

 

 後より追いついたマシュマーのザクII改はみほと絹代の機体達の盾となるように前へ出てフブキ達に対してヒートホークを手に取って構え立ち塞がった

 

「ま、マシュマーさん!」

 

「お逃げください西住さん!ここは私が食い止めます!西絹代も早く行け!」

 

「い、いや私は・・・・・・」

 

「へぇ、そっちの方が頭数少ないのに戦おうだなんてかっこいいじゃん」

 

「はぁ、無駄な抵抗はしないで欲しかったけれど仕方ないわね。早く捕まえて退散しましょう」

 

「そこまでだ!全機今すぐ機体を停止させて投降しろ!」

 

 すると側方よりドダイを使い超スピードでみほ達を追いかけてきたガトーのドライセンが現れた。ガトーのドライセンはドダイを乗り捨てるとマニュピレーターに持つ槍のように長い得物の先端にビームトマホークを展開しフブキ達の方面へ向かって宙を穿った

 

「ガトー教官・・・、?」

 

「みほ!君達も後退するのだ!・・・断っておくがこれは本物のビームで形成されている。モビル道用のモビルスーツとはいえ直ちに降伏しなければ容赦なく叩き斬らせてもらう・・・!」

 

「ヌハハハハ!白髪のサムライ殿が来てくれたようだな!参ったか侵入者共!」

 

「・・・誰が白髪の侍だ。おまえ達が皆アロウズの手の者である事はわかっている。だが例え敵が子供とてこのアナベル・ガトー容赦せぬぞ・・・」

 

「ほぉ・・・大した兵士はいないと思っていたがそうでもないようだ。ならば楽しませてもらうか・・・」

 

 フブキはガトーのドライセンを標的に仕掛けようとした・・・・・・しかしフブキが仕掛けるよりも早くメグミ、ルミ、アズミ三人のゲルググがガトーのドライセンへ向かって行った

 

「コイツの相手は私達に任せて!貴女は西住みほを捕まえて!」

 

「何?おまえ達一体どういうつもりだ」

 

「どういうつもりも何もアンタのモビルスーツには武器になる物なんて一つも持ってないだろう?どう見てもこのオッサン格闘だけで倒せる程優しくはなさそうだし私らに任せなって!」

 

「さっきみたいに暴走されても困るからね。貴女にはレビンと残った3機を任せるわ」

 

「ぬぅ!こやつらトリモチを装備しているのか・・・!小癪な真似を!」

 

 相手がモビル道用のMSを扱う、それもパイロットが子供である以上ガトーは口にはしたものの本気で斬ろうとは断じて考えていなかったが悠長に構えていられる程メグミ達三人による連携は甘くなく、瞬く間に三人はガトーのドライセンを囲み込み彼の足止めを開始したのであった

 

「ヘッ、カッコつけんじゃねぇかアイツら。・・・俺達もさっさと済ませて援護に行くぞ」

 

「・・・ああ。雑魚の2機はおまえに任せる、ニュータイプは私がやらせてもらうぞ」

 

「クッ・・・・・・早く逃げるんだ二人共!ここは私一人で・・・!」

 

「マシュマーさん一人じゃ危険です!それに向こうの目的は私なんです・・・だから私も戦います!」

 

「何を揉めているのだ?さっさと私の相手をしてもらおうか・・・・・・ニュータイプ・・・!」

 

 フブキのナイトシーカーはバックパックからビームサーベルを抜き展開すると高々と振り上げ、そしてその切っ先を決闘相手を指名するかの様に刺し向けた・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがフブキのナイトシーカーがビームサーベルの刃を向けていたのはみほのガンダムではなく、絹代が乗るマリーネライターの方だった

 

「え・・・・・・私・・・?」

 

「・・・は?おいマカハドマ何してんだ。西住みほが乗ってるモビルスーツは隣のガンダムの方だぞ・・・?」

 

「間違いない・・・おまえだろう?私をずっと呼んでいたニュータイプはおまえなのだろう・・・?」

 

 フブキはレビンの声に耳も貸さずマリーネライターを真っ直ぐに見据えコックピット内のパイロットがニュータイプであると確かに断言しそれは冗談を言っている様子でもただ誤解している訳でも無かった

 

「・・・西住さん、マシュマーさん。お二人は逃げてください」

 

「え、何言ってるの西さん!?」

 

「馬鹿な事を抜かすな!貴様ごときがあのモビルスーツと戦えるというのか!」

 

「元々こんな事になったのは全部私がここに来たのが原因ですし・・・それに向こうのお方は私と戦うことを望んでいるようです。何を意図しているのかはわかりませんが・・・けど私自身も今ここで死力を尽くしあのモビルスーツと闘わなければならない、そう確かに感じるのです」

 

 絹代のマリーネライターはみほとマシュマーのMSよりも前へ出て、ビームサーベルを腰部より抜いて展開しナイトシーカーへ真っ向から対するように構えた

 

「西さん・・・わかりました。その代わり絶対に無理はしないでください。絶対に助けを連れて戻って来るので・・・」

 

「・・・はい!ありがとうございます西住さん!」

 

「ど、どういう事だ?私にはさっぱり何も分からんのだが・・・」

 

「行きましょうマシュマーさん!ここは西さんに任せて早く!」

 

「ええ!?私が食い止めるのでは・・・・・・な゙ぁぁぁもう近頃の乙女はどうして男よりも格好良く目立つのだ!勝てよ西絹代!」

 

 絹代の言葉に従いみほとマシュマーは現在位置から元々演習を行っていた座標へ向けて踵を返し退いて行った

 

「おいマカハドマ!ニュータイプが逃げちまったぞ!」

 

「何を分からんことを言っている?雑魚はおまえに任せると言っただろう」

 

「・・・クソッ!やっぱおまえバカハドマだよ!クソッタレが!」

 

 レビンは怒りを激発させながらも退散して行ったみほ達を追いかけに向かった

 

 単なる偶然が、刻の歯車がそうさせたのか二人きり居残った絹代とフブキ、張り詰めた緊張感が走る中両者からは今にもはち切れんばかりの闘争心が機体の外にまで溢れ滲み出されていた

 

(これだ・・・この感覚・・・この数日ずっと私の存在を呼び続け、そして私がずっと求め探し続けていた者・・・それこそがおまえなのだろう・・・?)

 

(なんだろうこの感じ・・・よくわからないけれど・・・・・・とにかく今はただ()()()には絶対に負けたくない・・・!私がずっとずっと戦いたかった相手がこの人なんだ・・・!)

 

 お互い相手が何者であるのかはわからなかった、だが不思議と何故か初めて相見える者とは思えずどこからか懐かしさが感じられその一方で宿命の好敵手へ対する様な対抗心も胸の内で燃え滾り続けていた。絶対に敗ける訳にはいかないと・・・・・・

 そして保たれていた静寂はついに破られ、互い目の前の相手へ向け一直線全速力で吶喊した絹代のマリーネライターとフブキのナイトシーカー2機のビームサーベルが切り結ばれ決闘は幕を開けた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絹代とフブキ。かつて師弟の様な、実の姉妹の様な絆で結ばれ同じ刻を過ごし分かち合った二人の決闘・・・・・・絹代にとってかつての恩師にして大好きな憧れの人へ成長した己の生き様を示すための決闘の行方は。永久凍土の如く不動にして絶望的に冷たく何人にも溶かせぬ程凍りつかされた強化人間の呪縛に磔にされたフブキを絹代は救い出すことができるのか

 

次回 ガールズ&ガンダム『灼鉄の二人』

 

 この瞬間を・・・・・・ずっと、ずっと待っていた

 

 

 

 




 読んでいただきありがとうございました

 3編構成となりとても長くなってしまい申し訳ございませんでした。次回は西さんvs超強い強化人間のフブキの回になります。正直この先更に忙しくなるため月一投稿すら怪しいやもしれませんがネタも最終回まで仕上がっているのでエタる事はないと思います。何とかモチベーションを維持しながら頑張っていけたらなと思っていますのでよろしくお願いいたします


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