・作者のワートリ知識は単行本のみです
・二宮さん中心に(主に二宮隊の面々)キャラ崩壊等あるかもしれません。
・完全な勘違いものの小説でないことをご了承ください。
それでも良いという方だけ拙い文章ですがお読みください。
ボーダー入隊以来、その人並み外れたトリオン量を以って圧倒的な弾幕と火力でぶいぶい言わせ続けていた『射手の王』二宮匡貴は、ある日彼にとって運命とも言える出会いをした。
それは、特に目的もなく訪れた個人ランク戦の集会場での出来事だった。
「何だ、この人だかりは?」
普段からポイント上げのため人の密集している個人ランク戦の集会場だが、まるで何らかのイベントが開催されているかのようにその人だかりは凄まじい。
今日は特にイベントの類はなかった筈だがと思考しつつ、自分が知らなかっただけかと疑問を抱いた二宮は興味本位でその人だかりの中心へ脚を進めていく。
「お、おいあれ」
「うわぁ、二宮さんだ……かっけぇ」
「射手で個人総合二位の人だろ? 雰囲気あるよな」
B級一位部隊の隊長、そして個人総合二位の記録を持つためにボーダー隊員で二宮の名前を知らない者はいないと断言出来るくらい彼の名前は有名だ。
だが今更自身のことをどう言われ様が特に思うことはなく、あちこちから聞こえるその言葉に無関心を貫きながら二宮は歩いていく。
「でもよ、もしかしたら
ふと耳に入ったその言葉に二宮の足が止まる。
アイツ、というのが当人に取っての誰にあたるのかは定かではないが、脳裏を過ぎった個人総合一位の男に思わず眉を顰めた二宮は、その言葉を発したC級の隊員にその煩わしい口を閉じろと言わんばかりに鋭い視線を向けた。
「ぴっ!? ご、ごご、ごめんなさい!」
その鷹の如き眼光にすっかり萎縮してしまったのか、生まれたての小鹿のように足を震わせるC級隊員は、まさか自分の言葉を聞かれていたなんてと酷く驚いた様子で二宮に頭を下げると、やがて居た堪れなくなったのか足早に集会場を後にしていった。
そんな姿をアイツは上にはあがれないなと内心で嘆息しながら、二宮はこの騒ぎの元凶となっているであろうモニターの前まで足を運び、そこで行われているランク戦を観察するように見据える。
「…………ほぉ」
モニターに映るのはよく目にするB級に上がりたての新人たちの拙い動き───ではなかった。
一人はそうだろう、だがもう一人のヤツは明らかに新人と呼ぶには頭一つ抜けている。
特に二宮の目を引いたのは自身と同等、あるいは凌駕するやもしれない巨大なトリオンキューブ。
16等分にして放たれたその弾丸は相手のシールドを苦もなく貫き、トリオン体の急所とも言えるトリオン供給器官を撃ち抜いた。
「『アステロイド』か」
それはボーダーの弾トリガーの中で、特殊な機能がない代わりに弾トリガーの中で一番威力が高い銃手や射手にとって最もスタンダードなトリガー。
しかし如何に威力の高いアステロイドと言ってもああも簡単にシールドを突き破るほどの威力は持たない。
そう、二宮のように膨大なトリオン能力を持つ例外を除いて。
チラリと視線を映した先にあったのは4350という少年のポイント。
次いで周囲を一瞥した二宮は、この場に集まっている隊員たちの大半がC級隊員及びB級に上がったばかりの正隊員であることを確認し、少年がボーダーに入隊して間もない新人であると確信する。
「面白いヤツだ」
モニターに視線を戻した二宮の視界には、過去の二宮を彷彿させるような圧倒的なトリオン量による弾幕と火力で相手を蹂躙する少年の姿がある。
師である東の下で戦術のなんたるかを学んだ今の二宮ならば、本来であれば少年の戦いを戦術も何も考えていないつまらない戦いだと一蹴していたが、二宮はこの戦いに隠された真意があると見抜いたからこそ少年をそう評した。
「(相手との実力は歴然。あれだけ実力差があれば戦術だ何だと、そんなものは考えるまでもない)」
一見、火力のゴリ押しに見える少年の戦法だが、二宮の言うように他のトリガーを絡めてわざわざ手の込んだ戦い方をするよりも、少年はかつての二宮のようにトリオン能力に物を言わせた圧倒的な火力こそが最善にして最も効率の良い戦い方だと分かった上でその戦闘スタイルを取っているのだ。
ともすれば過去の自分と同じように自身の力を過信しているだけのように思えるが、少年の双眸には慢心の類が一切感じられないほど冷たいものであったが故に、それはないと二宮は断言した。
「(相手と自分の力量差を測り最善の戦法を取る……戦術の基本だ)」
それを、あの少年は分かっているのだろう。
結局、少年はアステロイド以外のトリガーを使わないまま対戦相手を10-0と完封した。
◆
「おい、そこのお前」
あの個人ランク戦を最後にブースから出てきた少年を、予め待ち構えていた二宮が声をかけると、少年は気怠そうに振り返り二宮を見つめた。
聞けば少年は十本勝負のランク戦を十回ほどやっていたそうなので、精神的な疲労が残っているのも無理はないと、本来であれば普段の三割り増しで仏頂面になる場面を華麗に受け流し、二宮は言った。
「訓練室に来い、お前の実力が知りたい」
「……」
もし、コイツの力が本物なら自身の隊に空いた穴を埋めることが出来るかもしれない。
そんなことを考えているからか、受け入れることを前提に話を進める二宮を前にして気を悪くしたのか、少年の表情は徐々に曇っていく。だがそれも束の間で、少年は二宮の言葉に小さく笑みを溢すと分かりましたと頷いた。
おそらく、少年は二宮が先ほどまで戦っていた相手とは別格の存在だと認知したのだろう。見かけによらず好戦的なヤツだと、その心中を察した二宮は内心で笑みを浮かべ模擬戦を行うため少年と共に訓練室へ向かった。
互いに、決定的な思い違いをしていることを最後まで理解しないまま――
◆
そうしてやってきたボーダーの訓練室。
二宮と少年は互いにトリオン体となって向かい合っていた。
「さきほど同様に十本だ。構わないな?」
二宮の言葉に少年は小さく頷く。
それを確認した二宮は、道中でばったり会い、そのまま少年との模擬戦の審判役を引き受けて貰った自身の隊の氷見に開始の合図を送る。
直後、少年と二宮の視界にカウントダウンが表示され、徐々にその数字を縮めていく。
5、4、3、2、1――――0
「ッ!」
始めに動いたのは少年だった。
『射手の王』と称される二宮相手に、まずは小手調べだと言わんばかりに少年は先ほどのランク戦同様にアステロイドを放った。
「シールド」
「!」
だが、それは二宮のシールドによって阻まれる。
思わず驚いたと言わんばかりの表情を作った少年は、果たして二宮のことを知らないのか、それとも演技によるものか……どちらにせよ、ボーダー随一のトリオン量を誇る二宮のシールドはそう容易く破れるものではない。
「(皹が……?)」
驚きの表情を浮かべる少年に二宮は気づかない。
二宮の視線は少年のアステロイドを防ぎ、
確かにアステロイドは射手用トリガーでは最も威力の高いトリガーだが、それでも一度受けただけでシールド――それも二宮の――に皹が入ったことは一度としてなかった。
予想外のことに二宮は改めて少年を見据える。既に驚愕の表情はなく、ジッと注視するように二宮を睨んでいた。
「(及第点……いや、それ以上だ)」
トリオン量では自身に匹敵、あるいは上回るかもしれない少年を前に、二宮は少年に対する評価をもう一段階引き上げる。
「アステロイド」
少年と自身の差を見せ付けるように、二宮特有の四角錘に分割されたアステロイドが少年を襲う。
それが威力重視のものだと気づいたのか、先ほどの二宮がしたようにシールドで防ぐことなく回避を選択した少年が、横へ横へと二宮の後方を取るように大地を駆ける。
少年がトリオンキューブを浮かべ反撃に出ようと試みる。が、それよりも早く少年の動きを読んでいた二宮が両攻撃のハウンドを仕掛けた。
「!?」
これにはさすがの少年も目を見張り、すぐさま防御と回避が出来ないことを察し、迎撃するためにバイパーを展開し打ち出す。
「ほう」
あの僅かな時間の間にリアルタイムで弾道を設定し、寸分違わぬ精度でハウンドを相殺せんと放たれた少年のバイパーに、思わず二宮は感心するが……
「だが、無駄だ」
それが迎撃用の弾速に振り切ったバイパーでは、幾らハウンドだろうと撃ち落とすことは叶わない。加えて、やはり咄嗟に軌道を設定したバイパーでは二宮の両攻撃のハウンドを全弾撃ち落とすことなど出来るはずもなく、撃ち漏らしたハウンドが無防備な少年の体を貫いていく。
どうにか体勢を整えようと一旦二宮から距離を取ろうと足掻く少年だが、一度立ち止まってしまった時点で彼の敗北は決定している
「アステロイド」
速度重視で放たれたアステロイドを前にシールドの展開は間に合わず───
「天宮ダウン」
無慈悲なアナウンスとともに、少年の意識は暗転した。
◆
そこから先は語るまでもないが……
時に少年の隙をついた二宮がアステロイドでトリオン供給器官をぶち抜き、時にメテオラを地面に叩きつけ土煙を発生させハウンドによる不可視不可避の凶悪コンボでぶち抜いたり、酷いときにはアステロイドを掛け合わせた合成弾『ギムレット』でシールドごとぶち抜いて来た時もあったりと―――当然の結果とも言えるが二宮が10-0の完勝で少年を降した。
「お前、名前は何て言う?」
意気消沈と言わんばかりに訓練室のベンチで腰を下ろし俯く少年に、氷見の下から帰ってきた二宮が声をかける。
少年は自身に声をかけてきたのが二宮だと分かると勢いよく立ち上がり、
「天宮、俺の隊に入れ」
二人の師弟関係は、この言葉から始まった。