亜種並行世界 英雄台頭大陸 漢   作:ユータボウ

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 前々から浮かんでいたネタを2部3章クリアを機に書き上げました。サーヴァントのネタバレなどがありますので、原作既プレイ推奨です。虞美人可愛い。


第1話

 目を覚ますと、そこには雲一つない蒼穹が広がっていた。

 

「……あれ?」

 

 何度かまばたきをしてから体を起こし、辺りを見渡す。まばらに背の低い草の生えた土色の大地は、荒野としか表現のしようがない。目を凝らせば遠くの方に山のようなものも見える。当然ながらこんな場所に来た覚えなどある筈がない。昨日の記憶を振り返っても、いつものように鍛練をしたり、検査を受けたり、今後について打ち合わせをしたり、最後にはマイルームのベッドで横になったことしか出てこなかった。

 

 目を覚ますと知らない場所にいた、ということは、普通だと驚くようなことなのだろう。しかし俺、藤丸立香にとってはそう驚くべきことでもない。人理継続保障機関フィニス・カルデア、そして汎人類最後のマスターとして様々な経験をしてきた中で、こういった場面に出会したことは一度や二度ではないからだ。故に、今も俺は比較的落ち着いて、自らの置かれた状況について考えることが出来ていた。

 

「やっと起きたのね、藤丸」

 

 顎に手をあてて思考していると、不意に後ろから自分の名を呼ぶ声が聞こえた。はっとなってそちらの方に目を向けると、案の定、そこには頭に浮かんだ通りの人物が俺のことを見下ろしてた。足元まで届かんばかりの長い茶髪が、そよ風によってふわりと揺れる。

 

「ぐっちゃん……」

 

「次その名前で呼んだら焼き尽くすから。それより、どうして私たちはこんなところにいるの?」

 

 そう言って彼女は、アサシンのサーヴァント、虞美人は双眸を細めた。彼女の疑問も尤もだが、残念なことに詳しいことは俺にも分からない。そういうものだと割り切り、現実を受け止めるしかないだろう。

 

「ごめん、それは俺にも分からない。でも、あんまり深く考えなくてもいいよ。こういうのって、時々あることだから」

 

「……随分、慣れてるのね」

 

「一応、場数はそれなりに踏んできたからね」

 

 それより、と俺は言葉を区切る。

 

「俺としては、誰かが一緒にいてくれることの方がありがたいよ。やっぱり一人だと出来ることは少ないし、心細いからさ」

 

「心細い……か。そんな感情、もう忘れてしまったわ」

 

 自嘲気味に呟いた虞美人は俺から視線を外し、どこか遠くへと目をやった。二〇〇〇年以上もの時間を独りで過ごし、孤独であることが当たり前となった彼女の瞳には、一体何が映っているのだろうか。それを知る術は、俺にない。

 

「……とりあえずこれからどうしようか?」

 

「少し待ちなさい。じきに彼らが戻ってくるわ」

 

「彼ら……?」

 

 そう聞き返した瞬間、俺の耳に「マスター!」と叫ぶ女性の声が飛び込んできた。そちらに目を向けると、白い戦装束に身を包んだ麗人が駆けてくる様子が見える。艶のある黒髪に美しい緑色の瞳、長い白杆(トネリコ)の槍を手にした彼女は──、

 

(リャン)!」

 

「よかった、お目覚めになられたのですね! 体調はどうですか? どこか痛むところなどはございませんか?」

 

 ペタペタと俺の体を触りながらそう尋ねてくる彼女の名前は、秦良玉。槍を持っていることから分かる通り、ランサーのサーヴァントだ。信頼出来る仲間の一人と出会えたことで、思わず表情が綻ぶ。

 

「大丈夫だよ。それより、良も召喚されていたんだね」

 

「はい。私が目を覚ましたときには、この荒野にマスターと虞美人様、そして蘭陵王様がおられました。今は周囲の状況確認に向かわれていますが、間もなく戻られることと思われます」

 

 そう語る良に頷きを返し、チラリと虞美人の方を一瞥した。先程、彼女が言った『彼ら』というのは、どうやら良と蘭陵王のことを指していたようだ。三人もサーヴァントがいるのであれば、例え見知らぬ土地でも心強いことこの上ない。

 

 そこで俺は気がついた。現在、召喚されているサーヴァントの虞美人、良、そしてこの場にはいない蘭陵王の三人は、時代は違えど全員が中国出身の英雄だ。偶然とは考えづらいだろう。中国出身という共通点があるからこそ、この三人がこの地に呼ばれたのだとすると、導き出される答えは一つしかない。

 

「ここは……中国?」

 

「はい、恐らくは。ただ、現在地や正確な時代についてはまだ不明なままです。いくら私たちが中華の地の英霊とて、何もない荒野からそれらを知るのは難しく……。現代よりも遥か昔であるということしか言えません」

 

 そう言って申し訳なさそうに目を伏せる良だが、それは仕方のないことだろう。こんな何もない荒野だけを見てここがどこか、またいつなのかを知るのは、いくら中国出身の英雄であっても流石に無理がある。

 

「大丈夫だよ。色々教えてくれてありがとう、良。おかげで助かったよ」

 

「いえ、お役に立てたなら幸いです。蘭凌王様もすぐ戻られると思いますので、しばしお待ちくださいね。何かあってもマスターの身は必ず守りますから!」

 

 槍を振るい、得意げに鼻を鳴らす良に、「頼りにしてるよ」と笑みを返す。それから少しの間、虞美人を交えた三人でこれからのことを話しながら、蘭陵王が戻ってくるのを待った。 

 

 まず一番の問題として、今の俺たちには分からないことが多すぎる。ここがどこで、今がいつの時代なのか、知っているのと知らないのとでは今後の動きに大きな影響が出てくるだろう。また、正史と比べて何か異変のようなものが起きていないかなど、最終的な目的であるカルデアベースへの帰還のためにも、まずは情報を集める必要がある。虞美人と良もそれには賛成のようで、話し合いの結果、まずは現地の人との接触を目指して動くことが決定した。明確な今後の方針が決まったことで、しっかりと前を見据えられるようになった気がする。

 

「あっ……マスター! 蘭陵王様が帰ってきましたよ!」

 

 そう言って良の指差した先には、一頭の白馬が土埃を巻き上げて向かってくる姿が見えた。その白馬を乗りこなすのは、特徴的な仮面を被った細身の剣士。セイバーのサーヴァント、蘭陵王その人である。

 

「我が主、お目覚めになられましたか。蘭陵王、周辺の見回りを終え、ここに参上しました」

 

 ひらりと馬から飛び降り、蘭陵王は俺へ流れるように頭を垂れる。彼に限った話ではないが、偉業を成した紛れもない英雄であるサーヴァントにこういった態度をとられるのは、いつになっても慣れそうにない。若干のむず痒さを感じながら、ひとまず目の前で跪く蘭陵王に感謝を告げる。

 

「うん、ありがとう蘭陵王。それとカルデアに戻るまでの間、よろしく頼むね」

 

「お任せください。我が剣に誓って、御身は必ず守り通してみせます」

 

「マスター、この秦良玉もマスターの槍として傍に在ります。非才の身なれど、マスターの行く手を遮るものは必ず打ち倒すことを約束致します」

 

「ありがとう。二人とも頼もしいよ」

 

 そういったやり取りをいくつか挟んだあと、蘭陵王は先の見回りから得たことを語り始めた。曰く、しばらく馬を走らせても同じような景色が広がり続けていた、とのこと。つまり、今俺たちのいるこの場所は、よりによって荒野のど真ん中であるようだ。当然、街や村など影も形もない。現地の人との接触を目標とする俺たちにとって、これはなかなかに痛い状況だ。

 

 加えて、同じような景色が広がり続けていたということは、目印となるようなものが何もないということでもある。故に、どの方角に何があるか分からず、現在地からどこに向かえば最善なのかも全く分からないのである。南に進めば一日で街に到着するところを、北に進んだばかりに一週間もかかった、などということにもなりかねない。

 

「申し訳ありません。マスターのお役に立つことが出来ず……」

 

「置かれている状況が分かっただけでも十分よ。感謝するわ、セイバー」

 

「虞美人の言う通りだよ。ありがとう、蘭陵王」

 

「ですが、サーヴァントである私たちはともかく、マスターは生身の人間です。動けばお腹も減りますし、体力も消耗します。徒に荒野を彷徨うのは得策ではないかと……」

 

 確かに、良の懸念も尤もだ。過去に数多の特異点を駆け抜けた身として、こと体力にはそれなりの自信がある俺だが、それでも人間である以上は疲れもするし、腹も減る。あちこちに行ったり来たりを繰り返していれば、あっという間に力尽きてしまうことだろう。であれば──、

 

「……進む方角を決めよう。例えそれが間違っていたとしても、進み続けていればきっと何かあると思うんだ」

 

「まぁ、それが妥当ね。にしても、契約してる人間と足並みを揃えないといけないなんて、つくづくサーヴァントってこういうときは不便だわ」

 

 やれやれとばかりに肩をすくめ、嘆息する虞美人。しかし、なんだかんだ言いながらもこちらの指示に従ってくれたり、暇なときは話し相手になってくれたりと、彼女は決して冷たい人という訳ではない。永世秦帝国の件もあり、召喚した際にはいきなり罵倒されもしたが、以前に比べれば随分と角が取れたように感じた。

 

「……何笑ってんのよ?」

 

「いや、なんでもないよ。良と蘭陵王も構わないかな」

 

「はい。私もそれがよろしいかと」

 

「マスターが決められたのであれば異論はありません。もしマスターさえよろしければ、移動の際にはこの馬を利用ください。手綱は私が引きますので、どうかご安心を」

 

 自らの乗っていた白馬の手綱を引っ張りつつ、蘭陵王は俺にふっと微笑みかけてくる。本当にいいのか聞き返すと、「えぇ、勿論」といい返事がやってきたので、その好意に大人しく甘え、手助けを受けながらどうにか白馬によじ登る。視点が高くなり、同じ景色でも見え方が変わったことで、つい口から感嘆の声がこぼれた。

 

「それで、どちらに進むの?」

 

「うーん……そうだな……」

 

 虞美人にそう尋ねられ、俺は空を見上げる。傾き始めた太陽のおおよその位置からするに、なんとなくだが西と東の見当はついた。そうなると、今俺の向いている方角が北で、後ろが南ということか。

 

 どう進むかは自分次第。

 

 それなら俺は、前に行く。

 

「うん、じゃあこのまま真っ直ぐ行こう」

 

「分かりました!」

 

「我が主の御心のままに」

 

 そうして俺たちはこの未知の大地に一歩を踏み出した。

 




 元々、秦良玉と蘭陵王が非常に気に入って、「この二人出したろ」と書いてたところ、早すぎる虞美人実装に伴い、「せやったらぶちこんだれ!」と無理矢理ねじ込んだのが今作です。

 恋姫とのクロスなのに孔明とかはいないの? って思われた方も多いとは思いますが、ああいう頭のよすぎるキャラはどう足掻いても筆者の手に余るので出しません。ついでに登場鯖が多いと大抵のことはごり押しでいけるようになってしまうので、そちらもかなり制限しています。正直、蘭陵王と秦良玉だけでも十分事足りる気はしますが、虞美人はどうしても書きたかったので(大胆なキャラの起用は筆者の特権)。
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