クリスマスイベはとりあえず礼装がぼちぼち出たので、ガチャは一旦様子見。果たしてボックスは何箱開けられるのか。ちなみにうちの過労死枠はすり抜けで宝具レベの上がったアキレウスです。
蘭陵王に白馬を引かれ、虞美人と
一体何故、自分はこの時代に呼ばれたのだろうか。
果たしてこの先、何が起こるのだろうか。
自分はこの場所で、何をすべきなのだろうか。
「……これからどうなるんだろうね」
「例え何があったとしても、マスターは私たちが守ります。マスターはマスターが正しいと思ったことをしてください。その願いを叶えるために、私たちサーヴァントはいるのですから」
こぼれた独り言ににこりと、良は俺の目を見て溌剌とした笑みを浮かべた。馬を引く蘭陵王もその言葉にこくこくと頷いている。
──本当に、いい仲間に恵まれたものだ。
先行きの見えない状況にやや落ち込んだ気を取り直し、俺たちは前を目指して歩み続ける。やがて日が落ち、辺りも暗くなり始めた頃、偶然にも緩やかな流れの小川を見つけることが出来た。夜には視界が利かないこと、また俺の体力といったこともあって、今日はこの川のほとりで休憩することになった。
「マスター、気分は如何でしょうか?」
「大丈夫だよ。でも、ちょっと疲れたかな。こんなに長く馬に乗るなんて、あんまりしたことがないから。お尻も少し痛いや」
パチパチと音を立てて燃える焚き火を囲み、休息をとる。残念ながら小川には食料となりそうな魚は泳いでいなかったが、飲料水を確保するには問題なかった。渇いていた喉を潤し、こうして心身共に落ち着ける状態となると、次にやってくるのが眠気だ。欠伸を一つこぼしていると、虞美人が空に視線を固定したままポツリと呟いた。
「疲れているならさっさと休みなさいよ。何もしていないうちから倒れられると、迷惑するのはこっちなんだから」
「ん……そうしようかな。こういうときは、休めるうちに休んでおいた方がいいと思うし」
「でしたら、私の膝をお貸ししましょう。固い地面に直接横になられるよりはよく眠れる筈です」
正座の姿勢で太股をポンポンと叩きながら笑顔で提案してくる良。しかし、その提案を素直に受け入れていいものなのか。勿論、好意自体はとても嬉しいのだが、一人の男として膝枕をされるというのは、なんとも恥ずかしいものがある。
『デュフフフ! マスター、これは秦良玉殿の膝枕を堪能するまたとない機会! しかも向こうからの提案ときた! つまり合法! 男なら断る理由はありませんぞ! 拙者の観察眼からするに、ピッタリ衣装とほどよい肉付きの太股による膝枕は、まさに極上の心地! 更に! そこから見上げれば見事な双丘も拝める! くぅううう! やっぱモテる男は違いますなぁ! 羨ましいぜチクショー!』
……とりあえず突然脳内に出てきた黒髭には問答無用でガンドを撃ち込んでおこう。合法だとかそうでないとか、そういう問題ではないのだ。
話は逸れたが、俺自身、地面に直接横になることに抵抗はあれど、出来ないことはないと考えている。俺も男なので、良の膝枕が気にならないと言えば嘘になるが、やはり申し訳なさの方が勝る。ここは断らせてもらおう──。
「あの……もしかして、ご迷惑でしたか?」
「いえ、むしろお願いします」
前言撤回。
美人の上目遣いとしゅんとした表情に勝てる訳がなかったのだ。虞美人から向けられる蔑むような視線がとても痛いが、ここまで来たからには背に腹は代えられない。
「よかった! では、遠慮なく横になってください!」
「し、失礼します……」
暗い表情から一転し、笑みを綻ばせた良の太股におずおずと頭を預ける。瞬間、むにっという音が聞こえたような気がした。目を瞑り、脱力して後頭部へと意識を集中させると、弾力と柔らかさが兼ね備えられた太股から、良の優しい体温が伝わってくる。鼻腔をくすぐる甘い香りも、この心地よさに拍車を掛けていた。
──なるほど、これは確かに黒髭の言う通りかもしれない。
「マスター、如何ですか?」
「うん、すごく気持ちいい……。なんか、安心するよ……」
「ふふっ、よかった。マスター、どうかゆるりとお休みください。この秦良玉がいつまでもお側に在りますから……」
頭にそっと乗せられた掌を、俺は甘んじて受け入れる。目を瞑っているため直接は見えないが、穏やかな笑みを浮かべる良の様子が容易に想像出来た。
ベッドはおろか、毛布もない。けれどその夜、俺はとても安らかな眠りにつくことが出来た。
△▽△▽
それから数日、途中で見つけた川や林で喉の渇きを癒し、腹を満たし、どうにか進んでいた俺たちの前に、その時が訪れた。
「っ、これは……」
「どうしたの?」
何かに気付いたように立ち止まった蘭陵王に、何も感じ取れなかった俺はそう尋ねる。振り返った彼の表情は、仮面越しにも分かるほど険しく──否、彼だけでなく、隣にいた虞美人や良もまた、その顔をキッと引き締めていた。
「前方から音と、人の声がします。破砕音と……怒声、でしょうか。微かに聞こえる程度ですので、ここからではまだ距離がありますが、何か争いのようなものが起きている模様です」
「争いのようなって……それは……」
目を凝らしても、耳を澄ましてみても俺には何も分からなかった。しかし、サーヴァントである三人全員が気付いた以上、前方で何かが起きているのは確かだ。それもこんな見通しのいい荒野で起こる争いごとなど、考えられる可能性はそう多くない。
誰かが襲われているのだ。
「……虞美人、良。先行して状況の確認を。状況次第で判断は任せるよ。蘭陵王は騎手を。俺が振り落とされない程度に全速力でお願い」
言うや否や、真っ先に飛び出したのは良だ。Aランクの高い敏捷を最大限に発揮し、彼女は目にも止まらぬスピードで荒野を駆けていく。風にはためく白い戦装束も、あっという間に見えなくなってしまった。
「全く……よくもまぁ、どこの誰とも知らない人間のためにあそこまで必死になれるものね。理解に苦しむわ」
「そこが良のいいところなんだよ」
呆れたように息をついた虞美人に、俺は苦笑を浮かべる。が、すぐに表情を元に戻した。
「……それより、虞美人もすぐに良を追ってほしい。今の彼女は多分、視野が狭くなっちゃってるから」
「……仕方ないわね。その代わり、お前も早く追いつきなさいよ。サーヴァントの手綱を握るのはマスターの仕事だってこと、忘れないようにしなさい」
そう言い残し、虞美人は地を蹴って良の向かった方向へと消えていった。彼女の言う通り、俺だけがここでのんびりとしている訳にもいかない。今座っている位置から少し後ろにずれると、空いた場所に蘭陵王が軽やかに飛び乗ってきた。
「我が主、少々荒っぽくなります故、しっかりと掴まっていてください」
「うん、頼むよ!」
「お任せあれ! ハイヤーッ!」
高らかな声と共に蘭陵王が綱を引くと、白馬がそれに応え、疾走を開始する。加速するにつれて徐々に風を切る音が耳元で響き始め、周囲の景色が凄まじい速度で後ろに流れていく。凹凸のある地面を力強く踏み締めているためか、伝わってくる衝撃は相当なものだ。蘭陵王の背にしっかりと抱きついていなければ、一瞬で振り落とされてしまうことだろう。
「っ、うぅぅぅ……!」
「マスター! 大事はありませんか!」
「だ、大丈夫! それより、前の状況は何か分かる!?」
俺たちはお互いに大声で言葉を交わす。そうでもしなければ風にかき消され、声が届かないのだ。
「今、少しずつ見えてきました! 賊と思わしき格好をした者たちが数十人、阿鼻叫喚となって逃げ回っています! 秦良玉殿と虞美人殿の姿は見えませんが、恐らく既に到着しているものかと! ……なっ!?」
「! 何かあったの!?」
突然驚愕に言葉を失った蘭陵王に、俺は思わず声を張り上げる。
そして、返ってきた内容に耳を疑った。
「こ、子供です! まだ年端もいかぬような容貌の少女が、巨大な鉄球を振り回して人を吹き飛ばしています!」
「──は?」
子供が、
巨大な鉄球を振り回して、
人を吹き飛ばしている?
あまりに不可思議なワードの連続に脳が理解を投げ出しかけるが、なんとか数秒を掛けてそれらを飲み込む。巨大な鉄球を振り回す少女とは、またなんとも常識的外れな存在だ。その光景を直接見ることは叶わないが、さぞかしとんでもない絵面になっていることだろう。
しかし、こちらとして伊達に数多のサーヴァントと契約していない。可愛らしい外見の少女が二本のナイフで、ワイバーンから巨大な竜種に至るまでのことごとくを解体したり、大きな斧で敵を容赦なく薙ぎ払ったり、身の丈以上もある槍を軽々と振るったり、メルヘンチックな魔術で大型エネミーを打ち負かす姿は、最早飽きるほど見てきたのだ。落ち着いて考えてみれば、今更鉄球を振り回す女の子が目の前に現れたところで驚くようなことではない。
「(……ということは、その女の子はサーヴァント?)」
「マスター、もう間もなく到着致します」
あれこれ考えていた俺を現実に引き戻したのは、蘭陵王の一言だった。景色を置き去りにするほど速かったスピードも落ち着き始め、荒々しかった白馬の動きもだんだんと静かなものになっていく。ここにきてようやく余裕の生まれた俺は、蘭陵王にしがみつきながらも顔を横に出し、前方の様子を確認する。
まず目に入ったのは、あちこちが派手に抉られた地面だ。穴ぼこだらけのそこだけを見れば、一体どれほど激しい戦闘が行われたのかと想像し、身震いしそうになってしまう。そんな凄まじい有り様の大地に立っているのは、虞美人と良という俺もよく知る二人と、そしてもう一人、大きな鉄球の繋がれた鎖を手にした少女だった。
「あっ……マスター!」
「よっ、と……。ふぅ、二人共、大丈夫?」
先行した二人にようやく追いついた俺は蘭陵王と白馬から降り、若干力の入らない体を支えられながら歩いていく。二人を見た限りでは、肌や服に多少の土埃や砂といった汚れがあるものの、外傷はこれといってなさそうだ。まずはそのことに安堵する。
「あのね……ただの人間にサーヴァントが負ける訳ないじゃない。心配のしすぎよ、ほんと」
「はははっ。まぁ、ともかくよかったよ。それで、とりあえず訊きたいことがあるんだけど……」
俺は虞美人、そして良の順に目を向け、そう切り出した。すると良が「それなら……」と、少し離れたところで俺たちをじっと見ている少女に視線を移す。
「あの子に訊いてみるのはどうでしょうか? 私たちも彼女が大人数相手に一人で戦っているところに飛び込んだだけなので……」
「私もそれがいいと思うわ。私たちに答えられることなんてほとんどないし、この世界のことはこの世界の住人に訊くべきよ」
──待て、虞美人は今なんと言った?
「この世界の住人? あの女の子は、サーヴァントじゃないの?」
「違うわ。正真正銘、生身の人間なのよ。もう少し近付いてみれば、お前にも分かるでしょう?」
その言葉に従い、俺は一〇メートルほど離れたところにいる少女にゆっくりと近付いていく。そして少女との距離が縮まる度に、虞美人の言っていたことが本当であることを実感する。虞美人や良、蘭陵王たち英霊とはまた違う存在感を、目の前の少女から感じるのである。
この子は、強い。
大人数の大人相手に一人で戦っていたと良は言っていたが、それも納得出来る。
「ふぁぁ……。んー……あれ? お話は終わったの?」
一度大きく欠伸をした少女は、近付いてくる俺に笑顔を浮かべる。見ているこちらまでつられてしまいそうな、そんな屈託のない朗らかな笑みだ。きっと彼女は明るく、とても元気な性格なのだろう。
「うん。大丈夫? 怪我はない?」
「ぜーんぜん! あのくらいへっちゃらだよ! ボク一人だけでも余裕だもんね!」
そう言って少女は得意げに鼻息をつき、鉄球を勢いよく振り回してみせた。どうやらこの少女は、本当にこの鉄球を武器として扱っているらしい。魔術による身体能力強化でも使いこなしているのだろうか。小さな体で大きな得物を振るうその姿は、アンバランスな印象を受ける一方、とても様になっているようにも感じた。
「ねぇ、お兄ちゃん! それと後ろのお姉ちゃんたちも! 名前はなんていうの? ボクは許緒っていうんだ!」
天真爛漫な笑顔を見せる並外れた力を持つ少女、許緒。
これが俺たちにとって、この世界に来て初めての出会いだった。
秦良玉に膝枕してもらいたい。蘭陵王と白馬で遠乗りしたい。虞美人と炬燵を挟んで蜜柑を食べながらとりとめのない会話をしたい。
一番最初に出会う原作キャラは季衣です。原作開始時点でどこの陣営にも属しておらず、かつあんまり他の二次とかで見ない展開に、ってことを考えていたらこうなりました。香風を出すために趙雲たち一行でもいいかなって思ったんですけど、なんか代わり映えしない気がして却下しました。ていうか、風と稟が難しいのよね。