「お、これうまいな」
「そうだね」
「…………」
今は入学式翌日の朝八時、一年生寮の食堂。
朝起きて俺と一夏は食堂に向かう途中で箒に会って『同門で幼なじみのよしみ』とやらで、三人で朝食を取っている。
一夏からしたら、まだ馴れない女子の中にいる身としたら知り合いがいるのが助かるんだろう。
箒はよしみと言わずに純粋に一緒に食事がしたいって言えばいいのに……。
ちなみに席は一夏が真ん中に座って、左に箒、右に俺が座っている。
「ねえねえ、彼が噂の男子だって〜」
「なんでも千冬お姉様の弟らしいわよ」
「えー、姉弟揃ってIS操縦者かぁ。やっぱり彼も強いのかな?」
昨日に引き続き、周りでの話題は一夏に集中し、距離も一定に保ちつつも、『興味津々。でもがっつきませんよ』というむず痒い気配の包囲網。
女尊男卑な今でこうして見下すことなく見てくれるのは一夏にとってはよかったかもしれない。もし学園内でも女尊男卑があったら一夏はパシリの様に使われたかもしれない。
「男子と一緒にいる二人は誰なの?」
「二人とも知り合いみたいよ」
「茶髪の子は部屋が同じみたいよ」
「なんですって!?」
俺が一夏と同室なのを驚く女子。情報源は昨日自己紹介に来た女子たちだろう。ちなみに一年生が八名、二年生が十五名、三年生が二十一名の計四十四名が自己紹介に来た。多分その一年生八名が情報源なのだろう。
すると突然手を叩く音が食堂に響いた。
「いつまで食べている! 食事は迅速に効率よく取れ!」
千冬さんの声がよく通る。
「私は一年生寮の寮長だ! 遅刻した者はグランド十周させるぞ!」
途端、食堂にいた全員が慌てて朝食の続きに戻った。IS学園のグランドは一周五キロあるからだ。箒と俺はもう殆ど食べ終わっていて、一夏は半分くらいで急いで食べていた。
キーンコーンカーンコーン。
「えっと、次の時間では空中におけるIS基本制動をやりますからね」
時間はあっという間に流れて、三時間目が終わった。
IS学園では実技と特別科目以外は基本担任が全部の授業を持つらしい。休み時間十五分のために毎回職員室に戻らないといけない先生達は大変だ。
俺は隣にいる一夏を見るとグロッキー状態だった。昨日色々教えはしたけど、まだ今の授業に追いついてない。
「ねえねえ、織斑くんさあ!」
「はいはーい、質問しつもーん!」
「今日のお昼ヒマ? 放課後ヒマ? 夜ヒマ?」
昼は解らないけど、放課後は箒との稽古、夜は俺との勉強と先約がある。
しかしあえて言わない。言ったらまためんどくさいことになりそうだからだ。
「いや、一度に訊かれても――」
「はいはーい。織斑くんに質問ある人は一枚500円ね〜」
一夏が困惑しているとその後ろの方で整理券を配っている女子がいた。しかも有料。
「…………」
箒は一夏を囲む集団を自分の席からじっと見ていた。
「嫌だったら追い払えば?」
「な、なぜ私がそんなことをしなければならない!」
箒はそう言ってそらすように外を見た。
(……早く告白とかしないと、一夏争奪戦が勃発するぞ)
パアンッ!!
叩く音が聞こえて振り向くと一夏の背後に千冬さんがいた。
「休み時間は終わりだ。散れ」
千冬さんの言葉で一夏を囲んでいた女子が自分の席へと戻る。
「ところで織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」
「へ?」
「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」
「???」
一夏がちんぷんかんぷんでいると、教室がざわめいた。
「せ、専用機!? 一年の、しかもこの時期に!?」
「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで……」
「ああ〜。いいなぁ……。私も早く専用機欲しいなぁ」
「……一夏、今の状況が解らないでしょ」
「解らん」
昨日教えたのに……。
「……簡単に言うと、
1. ISは世界に467機しか存在しない。
2. コアは篠ノ之博士以外作れない。博士はコアをもう作っていない。
3. 一夏が特別待遇。ただしデータ収集のための実験体。
ってこと」
「本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。が、先程城戸が言ったように、データ収集を目的として専用機が用意されることになった。理解出来たか?」
「な、なんとなく……」
教えたことはちゃんと覚えておいてくれよ。
「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」
女子の一人がおずおずと挙手をして千冬さんに質問する。
例えるならコードギアスのロイド博士と同じだ。
「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」
うわ、言っちゃったよ。ちなみに束さんは今超国家法に基づいて絶賛手配中の人物だ。IS技術の全てを掌握している束さんが行方不明というのは各国政府、機関関係者とも心中穏やかではない。
「ええええーっ!! す、すごい! このクラス有名人の身内が二人もいる!」
「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!? やっぱり天才なの!?」
「篠ノ之さんも天才だったりする!? 今度ISの操縦教えてよっ!」
授業中だというのに、騒ぐクラスの女子。
(授業中なんだから騒ぐなよ……)
それに箒はそう見られるのは嫌なはずだ。
「あの人は関係ない!!」
案の定、大声を出した箒。周りの女子は箒の大声で何が起きたのか解らない様子で唖然とする。
「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」
そう言って、箒は窓の外に顔を向けてしまう。
(……束さんを嫌いになるのは仕方ないかもしれないけど……)
束さんの行方不明で箒と両親は重要人物保護プログラムによって、慌ただしく引っ越しさせられたはずだ。しかも一夏と俺が出した手紙に返事が来なかった。たしか原作だと『居場所が特定の第三者に解るのは困る』と政府の圧力で返事が出来なかったはずだ。
「さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令」
「は、はいっ!」
山田先生も箒が気になるようだけど、そこはやっぱりプロの教師。ちゃんと授業を始めた。
「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」
昼休み、早速一夏の席にやってきたセシリア。
「まあ? 二対一とは言え、訓練機二機ではさすがにフェアではありませんものね」
俺が専用機持ちなのは黙っておいた方が面白そうだ。
「? なんで?」
「簡単なことだよ一夏。イギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんは現時点で専用機を持ってるってこと」
「へー」
「……なぜ知っていますの?」
セシリアが俺の方を見た。
「だって代表候補生なんでしょ? だったら専用機持ちなのは容易に想像がつくよ」
「……まあいいですわ」
いいんだったら俺に話し振るなよ。
「先程授業でも言ったように、世界でISは467機。つまり、その中でも専用機を持つ者は全人類60億超の中でもエリート中のエリートなのですわ」
「よかったね一夏。エリートになれるよ」
「なぜこのような男が!?」
ババン! 俺の言葉に反応してセシリアが俺の机を両手で叩いた。俺はそれにビックリした。
「だって専用機持ちはエリート中のエリートなんでしょ? 一夏は専用機持ちになるんだからエリートってことでしょ?」
苦虫をかみつぶしたような顔をするセシリア。自分でそう言ったから返せないよな。
「ま、まあ。どちらにしてもこのクラスで代表にふさわしいのはわたくし、セシリア・オルコットであるということをお忘れなく」
ぱさっと髪を手で払ってきれいに回れ右、そのまま立ち去っていった。
(この状態のセシリアは相手をするのはきついな)
「箒」
「………」
「箒、飯食いに行こうぜ」
さっきの一件で妙に浮いているの見過ごせない一夏は箒を昼飯に誘っている。
「……私は、いい」
「そう言うなよ。他に誰か一緒に行かないか?」
「はいはいはーいっ!」
「行くよー。ちょっと待って!」
「お弁当作ってきてるけど行きます!」
クラスメイトを誘ったせいで箒の不機嫌度が少し上がった。一夏ってホント馬鹿だよな。
「颯も行くだろ?」
「……箒だけにすればよかったのに……」
「えっ……?」
俺の小声は聞こえなかったようだ。
「……別に、行くなら早くしよ」
「そうだな。ほら、立て立て。行くぞ」
「お、おいっ。私は行かないと―――う、腕を組むなっ!」
強引な行動で箒を動かせようとする一夏。
「なんだよ歩きたくないのか? おんぶしてやろうか?」
「なっ……!」
ボッと顔を赤くする箒。うん、さすがに好きな一夏からそう言われたらそうなるよな。
「は、離せっ!」
「学食についたらな」
「い、今離せ! ええいっ――」
箒の腕に絡ませていた一夏の腕が、肘を中心に曲げられ、一夏は床の上に投げ飛ばされた。
「……いっつう……」
「見事に投げ飛ばされちゃったね。一夏」
俺はしゃがんで一夏に言う。もちろんスカートの中が見えないようにである。
「それにしても箒は強いね」
「ふ、ふん。こんなものは剣術のおまけだ。こいつが弱くなったのではないか?」
「古武術をおまけで習得している女子はきっと日本でお前だけだよ」
一夏は起き上がりながら言って、俺も立つ。
「え、えーと……」
「私達はやっぱり……」
「え、遠慮しておくね……」
集まってくれた女子が蜘蛛の子を散らすように退散していった。
箒は「私は悪くないぞ」と言いたげに、腕を組んでそっぽを向いていた。
「箒」
「わ、私は悪く――」
「飯食いに行くぞ」
一夏が箒の手を強引に掴み。俺は箒の後ろに回って背中を押した。
「颯、お前まで」
「いいから、行こ行こ」
「お、おいっ。いい加減に――」
「黙ってついてこい」
「む……」
一夏がにべもなく言って、箒はされるがままについて行き、俺は背中を押すのを辞めて、黙ってついて行った。
そして無事に食堂に到着したが混んでる。三人座って昼飯を取るくらいは出来るだろう。
「箒、お前も日替わりでいいな」
「……あ、ああ」
「それじゃ、私もそれで」
一夏は箒の分の日替わりを買って、列に並ぶ。ちなみに手はまだ離さず握ったまま。
俺も日替わりを買って二人の後を黙ってついて行った。
「―――お前、あの態度は無いだろ。友達出来なかったらどうすんだよ。高校生活暗いとつまんないだろ」
「わ、私は別に…頼んだ覚えはない」
「俺も頼まれた覚えがねえよ。あ、おばちゃん、日替わり二つで。食券ここでいいんですよね?」
「私も日替わりで」
俺と一夏はプラスチックの食券をカウンターに置く。その間ずっと箒は一夏と繋がれている手をチラチラと見ている。
「いいか? 頼まれたからって俺はこんなこと、普通はしないぞ? 箒だからしてるんだぞ」
「な、なんだそれは……」
「なんだもなにもあるか。おばさん達には世話になったし、幼なじみで同門なんだ。これくらいのお節介はやらせろ」
「…………」
箒はむすっとした顔で視線だけ天井に逃がす。まあ幼なじみで同門なのは箒だけだから、喜んでもいいだろう。
「そ、その……ありが――」
「はい、日替わり三つお待ち」
「ありがとう、おばちゃん。おお、うまそうだ」
「うまそうじゃないよ、うまいんだよ」
恰幅のいい食堂のおばちゃんはにかっと笑う。いいひとなんだけど、タイミングが悪すぎた。
「なあ、テーブルどっか空いてないか?」
「…………」
(箒よ。今回一夏に怒るのはやや理不尽だぞ)
「? どうした?」
「……向こうが空いている」
箒は不機嫌顔で一夏の手を払って、自分の分の日替わり定食を手にすたすたと歩き出す。
「ほら、行くよ」
「……なあ、なんで箒怒ってんだ?」
「……タイミングが悪かったね」
「? なんのだよ?」
ホント、トラブルメーカーの一夏と一緒にいると退屈しないよね。
原作によりすぎましたか?