兄弟全員が、屋敷のエントランスに集まり点呼をとる。全員の無事を確認し、ヤヨイは口を開いた。
「皆…、アイツにサヨナラ言ってきた…?此処は、消してしまうからこれが最期になるよ…。」
そんな姉の言葉を聴いて兄弟達は、悲しげな笑みを浮かべながら頷いた。
なかなか出来た弟妹達にヤヨイの心は救われていく。
(やってみせるからアンタは、安心して其所で待ってな…。いってきます…兄さん。)
今まで一度も呼んだことの無い呼び方を、心の中で呼んでヤヨイも前を向いた。
屋敷に、火を放ちトーマ達はまた歩き出した。今度の始まりは、昨日ほど明るくなかったが確かに前を向いていた。
トーマは、全員の先頭に立って案内をしながら、先を歩く。本当は、泣きたいくらい怖くてどうしようもなかったが、自分しかスイッチのある場所を知らないから歩くしか無かった。
(どうして…僕たちは、こんな事やらなくちゃいけないんだろう…。ただ、静かに皆と一緒に居たいだけなのに…。なんで世界は、僕たちを…生かしてくれないの?)
このまま進めば、きっと他の皆も死んでいく。トーマ一人を置いて皆逝ってしまう。
何度も同じ事を繰り返しては、何度も同じ絶望を突きつけられた。
(何度も…?おかしい…。僕は…、僕たちは全部知っている筈なのに…、覚えている筈なのに…。何も出てこない。絶望なんてしたことあったのかすら思い出せない…。)
確かに何度も兄弟達の死には立ち会ってきた。なのにトーマは、そのどれもはっきりと思い出せずにいた。まるで兄が死んでしまった事が無かったかのように思える。そもそも兄なんて居たっけか位の気持ちが、芽生えてきてすらいる。
「どうしたのトーマ?お兄ちゃんの事まだ後悔しているの?」
「なっ!!大丈夫だよ…。俺は、決めたんだ。必ずリセットして今度こそ全員で生き残るって。」
ミウに、急に話し掛けられ思考の中から現実に意識が戻ってきた。
何故か不安そうな表情を浮かべてトーマの顔を覗き込んでいる。
「良かった…。顔色あんまり良くないから心配したよ。大丈夫。トーマのお願いは、絶対に叶うから。だから元気出してね。」
大層な自信だななんてトーマが思っていると、ミウはトーマの顔に近付いて、トーマにしか聞こえないくらい小さな声で言葉を発した。
「だってこの世界は、トーマの為だけにあるんだよ。トーマは、この世界の神様なんだから…。」
ミウは、トーマの事をよくこう言っていた。トーマは冗談だと思っていたが、ミウにとっては本気だった。自分に希望を与えてくれたから。神様は、こういう人の筈だから。
あれから少し前を歩くトーマを見つめながら、ミウは歩いていた。穏やかで平和な未来を過ごすための旅路は、困難と絶望しかない事をこの神様は、知ってはいけない。そんな気持ちを込めながら…。
そんな彼等に、次の絶望が足音を殺して迫って来ていた。