少女は、兄の疑問に答えるために静かに語りだす…。
自分が、自分になった日の事を…。
少女が、施設へとやって来た理由は元の親の虐待だった。
虐待していたのは、母親の方だった。父親は、少女の事を何よりも大事にしてくれる人だった。
虐待の理由は、カナが可愛すぎたから。父親がカナの事ばかり構って自分の事を見てくれなかったから。だったらしい。
そんな幼少期を過ごした少女の心は、施設に来たときには完全に壊れていた。どうしても必要な時だけ人を使い、極力自分だけで過ごしていた。
少女は、頭がよく自分の行動がどんな結果をもたらすのかが、解っていた。施設では、少女の事を特に溺愛している姉の事を使っていた。
(可愛くお願いする。そうすればなんだって上手くいく…。)
上目遣いで、涙を少し溜める。顔を少し傾け相手の目を見つめる。これだけで何とでもなった。
ただ一人を除いて。
彼は、いつも一人の殻の中に閉じ籠っていた。自分を証明することが本人だけでは無理と解っていながら。
少女は、この少年に『お願い』をしてしまった。
とても簡単なお願い、『付いてきて欲しい。』と。
「別に…、いいけど…。」
少年は、一瞬ビクッとして焦って顔をつくり返事をした。
「ありがとうございます。助かりました。」
少女が、思うありったけの笑顔で少年にお礼を言うと、少年が驚いた顔をして少女の方を見た。
「ありがとうって言ってくれるのか?こんな俺に。」
「はい…、本当に助かりました。ありがとうございます。」
少女の予想していない行動をされて少し焦りながらも少女は、もう一度お礼の言葉を発した。
「ありがとう…。」
一言少年が呟き涙を流した。
「こんな俺に…、そんな言葉を言ってくれて…ありがとう…。」
少女を抱きしめ、少年はただ泣いていた。
全く予想出来なかった行動をされた少女は、顔を真っ赤にして抱きしめられていた。
「多分、これが私が私を取り戻した瞬間だったと思う。」
そう言ってカナは、リクの疑問の答えを締めた。
それから、他の兄や姉の事も大好きになっていったらしい。
「やっぱり、兄ちゃん達は凄いな…。」
「うん…。」
今、こうして兄妹として普通に話せるのも他の兄や姉のおかげだと改めて実感する。
「ねぇ…。お屋敷で言っていたこと覚えてる?」
「当たり前だろ。僕が皆を守ってやるから、安心しろって。」
「うん、わかってる…。お願いね、騎士様。」
とびきりの笑顔を見せられてリクは、どぎまぎしてしまった。目の前では、カナが小さな声で笑っていた。
計算してこれが出来るカナは、やっぱりすごい。感心しながらリクは、やり返そうと方膝を附いて深々と頭を下げた。
「おまかせ下さい、我が姫君。」
そう言って頭を上げれば、とてつもなく引いている妹がいた。
「なにそれ…気持ち悪い…。」
恥ずかしくなったリクは、顔を赤く染めて立ち上がった。
「とにかく安心していいからお前は、早く風邪治せよ。」
そう言って早足で部屋から出ようとする。部屋の扉を開けるとそこには絶望が待ち構えていた。