トーマの朝は、基本的には着替えてからまず歯を磨く。
食事の後の時間がしっかり取れるからなんて理由ではなく、食事の後は洗面所に入れないから。
それは、この施設に住んでいる男全員のルールだった。だから、トーマは着替えが終わると真っ直ぐに洗面所へ向かう。それが当たり前だった。
「おう、トーマ起きてきたんだな!!」
大きく口を開け豪快に歯を磨いている少年がトーマに気付きあいさつをしてくる。
「おはよう、兄さん…。それと歯磨きしながら喋るの汚いから辞めろよ。」
トーマがそう返事を返すと兄と呼ばれた少年コーヘイは、これまた豪快に口内を濯ぎ終えるとトーマの方を向き急に真剣な顔つきになりだす。
「また、押したんだな。」
何をなんて言われなくてもトーマには、意味が理解が出来た。
それだけ何回もこの朝を繰り返してしまっていた。
「ごめん…。」
トーマは、コーヘイに謝罪した。
前回の時間軸で、トーマはコーヘイと漢の約束なるものを結んでいた。それを破ったから再びループしてしまった。その事をトーマは、ひどく気にしてしまっていた。
「きちんと兄さんとの約束守れなかった…。」
頭を下げているトーマを見下す形でコーヘイは、見ている。
自分の頭上に気配を感じたトーマは、殴られると思い固く目を瞑た。しかし、来たのは殴られた痛みより擦られる痛みだった。
「別に気にしてなんかねぇぞ。どうせあの後俺も死んじまっているからな。先に約束を破ったのは、俺の方だ。」
そう言ってコーヘイは、トーマの頭にポンポンと軽く手を当て洗面所から出ていった。
トーマは、その背中を見送って洗面台の前に立つ。
水を出すためにハンドルを捻る。その時背中に誰かの気配を感じ後ろに振り向く。
「おはようリク。今日も朝からトレーニングか?」
トーマの後ろに立っていたリクと呼ばれた少年は、子供特有のぱっちりとした目を更に大きくさせてトーマを見た。
「おはよう、トーマお兄ちゃん。」
少し汗をかいてはいるものの、全く息の上がった様子は観られないリクは、元気にあいさつを返す。
「うん!!今日は、施設の建物の周りをとにかく走ってきたの。」
簡単に言ってはいるが、そもそもこの施設はとにかく広い。そうすると必然的に建物の外周もとても長くなる。
「五周走ったところで、ヤヨイお姉ちゃんからご飯だから帰ってこいって言われたの。」
「そうか…頑張ったな…。」
そう言って準備した歯ブラシを口に入れトーマは、リクの事を考えた。
コーヘイに憧れているリクは、昔コーヘイが行っていたトレーニングを毎日欠かさずに実行している。
既に、コーヘイの身体能力は人類の壁を越えたところにもう少しで届くレベルにあるのだが、潜在的な能力はおそらくこのリクが勝っているとコーヘイもトーマも思っていた。
成長の速度、生まれ持った身体能力どれを取ってもリクは異常だったから。
「早く食堂に行かないとヤヨイお姉ちゃんが怒っちゃうよ。」
考え事をしているトーマの横で、手早く支度を終えたリクがトーマを待ちながらそんなことを言う。
リクに呼ばれ、トーマは考えるのを辞め意識を戻す。
「解ってる…。」
そう言って口内を濯ぎ、リクと一緒に洗面所を出た。