八八艦隊召喚   作:スパイス

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第三話 ロデニウス沖海戦1

 中央暦1639年 4月22日

 クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ 政治部会

 

 

 

「……現状をまず聞こうか」

 

 首相のカナタはそう言って、重苦しい雰囲気の参加者達を見渡した。

 ロウリア王国が公国に侵攻してから、今日で十日余りが経過している。

 既にギム以西は完全に敵の勢力圏となっており、ギムは陥落、守備隊も全滅した。

 唯一の朗報は、直接戦闘に巻き込まれたギム市民が一人もおらず、非戦闘員の犠牲者はごく最小限度に留まっていることだったが、これとて安心できる情報ではない。

 ロウリア軍が亜人や非戦闘員に対してどんな蛮行を働くか、公国で知らない者は居ないからだ。

まず最初に軍務卿が口火を切る。

 

「……現在確認されている敵の作戦参加兵力ですが、先遣隊だけで3万人を擁しており、諜報部からの報告では全体の総兵力は50万人を超えるとのことです。もちろん敵も予備兵力を本国に待機させていますから、この差はさらに開きます。

 またこれに航空戦力としてワイバーンを500騎、さらに最新鋭の武器である大砲を全体で300門保有しているようです。この情報に関して諜報部は『パーパルディア皇国がロウリアに軍事支援をしている』との未確認情報を入手しています。

 またつい先ほど、4千隻以上の軍船が港を出港したと報告が入りました」

 

 誰もが深刻な表情で軍務卿の発言を聞いている。

 ロウリアは本気でこちらを滅ぼすつもりで侵攻してきた。それも自分たちの約十倍という圧倒的な兵力でだ。

 それでも参加者達の表情が絶望や諦めに染まらないのは、一週間前に大日本帝国の大使から公国外務局に対してこのような通達が入ったからだ。

 

「我が国は貴国の現状に心から同情しており、また国交開設の際に同時締結した軍事協定には『一方が第三国の攻撃を受けた場合、残るもう一方は自動的に参戦する』となっています。

 従って我が国はロウリア王国に宣戦布告し、貴国に対して最大限の軍事援助を申し出たい。既に貴国を救援するための艦隊と輸送船団が向かっており、十分に期待に応えられるでしょう。

 また我が帝国はロウリアに大使館を設置していないため、貴国の外務局からロウリアに宣戦布告の通信をしてもらいたい」

 

 というのがその概要だ。

 またアメリカも一昨日「ギムの町で起こったロウリアの残虐な行為は到底許されるものではなく、このような国家は早急に叩くべきであると思われる。そのため、我がアメリカも貴国に最大限の援助を惜しまない」との発表を公国政府に対して行った。

 両国から軍事援助が行われる以上、まだ負けと決まった訳ではない。

 少なくとも援軍が来るまでは、どんなに犠牲を払おうと負けるわけにはいかないのだ。

 

「首相、つい先ほど日本国大使館からも、『日本国政府は、貴国の町ギムで発生した武装勢力による捕虜の虐殺行為を、とても見過ごすことは出来ないため、貴国からの要望があれば、武装勢力鎮圧のために自衛隊を派遣する用意がある』との連絡がありました。使節団の報告を信じる限り、彼らの軍事能力は日本帝国やアメリカよりも優れています。彼らが参加してくれれば怖いもの無しです」

 

 外務卿が言うと、全員の顔に笑顔が浮かんだ。

 

「なるほど、日本国も動く、か……

 よし! 直ちに武装勢力鎮圧の要請を出せ! わが国の領空、領海、領土の自由通行権も合わせて許可しろ!

 軍務卿、貴官は公国軍の全部隊に当てて、三国の軍に対して全面的に協力するよう伝えろ!」

「分かりました!」

 

 軍務卿が会議室から走って出て行くと、カナタは安堵の息をついた。

 

「これで国は救われたな……良かった」

 

 

 

 中央暦1639年 4月24日 午前

 クワ・トイネ公国 マイハーク港

 

 

「大日本帝国の援軍が今日来るだと?」

 

 マイハーク港に基地を置く、クワ・トイネ公国海軍第2艦隊の提督パンカーレは、副官であるブルーアイのその報告に対して聞き返した。

 現在第2艦隊は急ピッチで出撃準備を進めている。

 彼らにとっての『海戦』とは、相手の船に乗り込んでの白兵戦が主流であるため、水夫たちは敵船に乗り込むための梯子や武器の点検を熱心に行い、また船に攻撃するためのバリスタや火矢、点火用の油壺などをせっせと軍船に運び込んでいる。

 艦船の数は50隻ほどであり、それらが港に集結している様子はなかなか壮観であるが、敵艦隊の数は4000隻以上と見積もられており、数の上では圧倒的に不利である。全滅は免れないだろう。

 このためパンカーレは、援軍の到着を心待ちにしていた。

 

「はい。海軍本部からの伝令です。『本日正午に大日本帝国海軍の第一艦隊50隻、並びに陸軍部隊を乗せた輸送船団とその護衛部隊9隻が、援軍として到着する。各艦隊は援軍の艦隊が停泊する場所を空けられたし。なお、観戦武官として1名を帝国海軍の旗艦に搭乗させるように指令する』、以上です」

「ふん。全て合わせて59隻か。

 これに我が第2艦隊の50隻が加われば109隻になるが、帝国海軍とやらも大言壮語だな。

 軍事顧問団の連中が『地球世界第二位の海軍』というから大戦力を送ってきてくれるのかと思いきや、我が軍とほぼ同じ数ではないか……」

 

 パンカーレが失望したような口調で吐き捨てると、ブルーアイが続けて言った。

 

「それと提督、本日の夕刻には日本国の『護衛艦隊』なる部隊も、援軍として来るようです。

 こちらはもっと少ない数で、8隻だとか」

「たったの8隻だと! 帝国海軍の援軍より少ないではないか!!

 連中にはやる気があるのか!!」

 

 パンカーレは今度こそ絶望したように怒鳴り、帽子を床に叩きつけた。

 

「これで敗北は見えたな……我が第2艦隊は今や勇敢に死ぬことを知っているだけだ……

 しかも観戦武官だと? 部下を死地に送れるものか!」

「……でしたら、私が参ります。

 自慢するつもりはありませんが、私はこの中で一番剣術の腕が立ちますから。

 それに、彼らも何の考えもなく少ない戦力を送ってよこした訳ではないでしょう。もしかしたら勝算があるのかもしれません」

「君がかね! しかし――」

「提督、どうかお願いします」

「……分かった。すまぬが、頼むぞ」

 

 

 

 

 同日正午

 マイハーク港 

 

 

 

「……なあ、私の目の錯覚かもしれんが……あの先頭にいる船、とんでもなく大きくないか?」

「……ええ、そう見えます。常軌を逸した大きさですね……まるで山を浮かべたようです……」

 

 パンカーレ提督とブルーアイが呆然とした表情で、先頭に立つ船――戦艦を指さしながら言うと、他の幹部も口々に騒ぎ出す。

 

「なんて大きさだ……城なのか!?」

「いや、城でもあんなに大きくはないぞ!」

「お化け軍船が来た……」

「前後にあるものは何だ? 巨大なバリスタか!?」

 

 その騒ぎは軍港のみならず、付近の町にも飛び火してゆく。

 兵士住民を問わず、誰もがあんぐりと口を開けて海の方角を見ていた。

 すると、一隻の戦艦から小さな船――内火艇が降ろされ、港に向かってきた。

 内火艇はパンカーレ達の居る桟橋に接近すると、中から紺色の軍服を着た軍人が現れ、パンカーレ達に敬礼した。

 

「クワ・トイネ公国海軍、第2艦隊長官のパンカーレ提督とお見受け致します。

 自分は連合艦隊司令部、連合艦隊司令長官の嶋田繁太郎と申します。此度は援軍の到着が遅れてしまい、誠に申し訳ありません」

「れ、連合艦隊司令長官!?」

 

 パンカーレが慌てて敬礼すると、幹部達もそれにならう。

 

「いえ、援軍の到着、ありがとうございます。

 ですが、本当に大きな船ですね」

「ええ。我が国の誇る八八艦隊の一艦、紀伊型戦艦の三番艦『駿河』です。

 他にも11隻の戦艦が来ていますよ」

「じ、11隻ですか……」

「もちろんです。大切な盟邦を守るためですから。

 後で第一艦隊司令長官の古賀峯一も挨拶に伺いますので」

「は、はあ……」

 

 もはや考えることを放棄したパンカーレ達に向かって、嶋田はにっこりと笑った。

 

 

 

 

 同日夕刻

 マイハーク港外 連合艦隊旗艦戦艦『駿河』艦橋 

 

 

「ここがマイハークか。とても綺麗な場所だな。

 こんな時でなければ観光に行きたいくらいだ」

 

 連合艦隊司令長官である嶋田繁太郎大将がそう言うと、参謀長の伊藤整一少将が言った。

 

「全くですね。本当に観光が出来ないのが惜しいですよ。

 特に港の周りにある奇妙な岩には、一度で良いから登りたいですな」

「まあ、さっさと仕事を終わらせてのんびりしたいところだな。

 ところで、物資の揚陸は順調に進んでいるかね?」

「はい。物資は予定以上の速さで揚陸できています。

 日本国が港に設置した大型クレーンが役に立っていますよ。未来技術様様ですね」

 

 伊藤が笑って言うと、嶋田も笑みをこぼした。

 ――クワ・トイネ公国への救援に、第一艦隊を投入する――

 この決定には政府や陸軍はもちろん、海軍内でも反対意見が多く、特に堀悌吉海軍大臣などは「過剰戦力だ」との批判が相次いだ。

 しかし、投入される敵の戦力が4000隻以上と見積もられることや、盟邦に対して「絶対に見捨てない」という意思表示をするには、これが一番であると山本軍令部総長が力説したことや、嶋田が「自身で艦隊を率いる」と表明したことがきっかけとなり、第一艦隊の派遣が決まった。

 また艦隊は本当であれば、マイハーク港に22日には到着しているはずだったのだが、未知の航路を進みながらの航海や、大陸沿岸を回り込むコースを取るはずが大きな暗礁に遭遇し、これを迂回するなど回り道をしたために、二日ほど遅れて到着した。

 さらに、マイハーク港の収容能力では艦隊と輸送船団の全てを収容することは不可能であるため、輸送船は港に一隻ずつ入港後、物資を揚陸した後は港外で錨を降ろすことになっていた。

 もちろん戦艦等の大型艦は、全て港外で投錨である。

 

「未来の技術か……参謀長、私は未来の日本の軍事組織『海上自衛隊』にとても興味があるよ。

 あそこには明日、観戦武官を派遣するとはいえ、出来れば自身の眼で未来技術を見たいものだ」

「私も見たいですよ。しかしそれは情報参謀に任せましょう。彼ならきっと有益な情報を持ち帰ってくれます」

 

 伊藤がそう言った直後、艦橋見張り員が声を上げた。

 

「北方より艦影! 海上自衛隊の『護衛艦隊』であると思われます!」

「もう来たか……どれ、見てみるか」

 

 嶋田が双眼鏡を目に当てると、艦橋の参謀たちもそれに倣う。

 双眼鏡を覗くと、戦闘艦としてはシンプルな艦影が8隻確認できた。

 のっぺりとした形状で、複数のオートジャイロのような物を乗せた艦が一隻、これは空母であろう。

 また大砲が一門しかない、妙に角ばった艦も何隻かいる。

 何れも灰色の塗装が施されており、全体的に暗い色合いの帝国海軍の艦と比較すると、戦闘する船という感じがあまりなさそうであった。

 しかし、帝国海軍軍人たち――特に連合艦隊の参謀たちは知っている。

 その船が内に秘めている戦闘力は、自分たちが保有するどの艦よりも高いことを。

 

「通信参謀、私の名で打電してくれ。『後輩たちの参陣を心より歓迎する』と。

 あと、私がそちらに挨拶に向かっても良いか伺ってくれ」

「承知いたしました」

 

 通信参謀が出ていくと、嶋田は呟いた。

 

「海上自衛隊か……その戦闘力、見せてもらうぞ……」

 

 

 

 

 同日 同時刻

 マイハーク港沖 海上自衛隊護衛艦『いずも』

 

 

 

 

「あれがパラレル日本が保有する紀伊型戦艦か……

 しかし写真で見るのとはまるで違うな。実物はやはり凄い。島みたいだ」

 

 『いずも』艦長の山本が言うと、副長が苦笑いして言った。

 

「当然でしょう。この海自最大の護衛艦『いずも』の基準排水量は1万9500トン、全長は248mにもなりますが、あちらは排水量だけで4万6000トン越え、全長は254mにもなるんですから、スケールが違いますよ」

「そりゃそうだが、こちらだって大きさと戦闘力は負けちゃいない」

「あちらからすれば未来の船なんですから、当たり前ですよ」

 

 山本と副長が言葉を交わしていると、通信室から報告が上がってきた。

 

「艦長、帝国海軍の連合艦隊司令長官、嶋田繁太郎大将からの通信です。『我、後輩たちの参陣を心より歓迎す。共に敵に立ち向かおう』との内容です。

 あと、こちらに挨拶に向かいたいと申しています」

「連合艦隊司令長官自らとは……すごい行動力だな。

 分かった。遠慮なく来てくださいと先方に言ってくれ」

「了解しました」

 

 通信室への受話器を置くと、副長も驚いた表情をしていた。

 

「何らかのアプローチがあるとは予想していましたが、司令長官がわざわざ来るとは……予想が外れましたね。

 大急ぎで軍楽隊と応接室の準備をします」

「分かった。頼む」

 

 『いずも』の艦内は、戦闘とはまた違った喧騒で包まれた。

 

 

 

 

 同日夜

 ブルーアイの日記より

 

 

 私は本日、無事に大日本帝国海軍の戦艦『駿河』に搭乗することができた。

 この艦は異常なほど大きく、また夜でも艦内は明るく、一定の温度が保たれている。

 先ほど嶋田司令長官と会見したが、彼らは我々よりも先に敵と交戦し、これを撃滅するらしい。

 既に敵艦隊の位置は掴んでおり、予想される進路も速度も把握できているという。

 私は「無茶だ」と言ったが、嶋田長官は笑って「大丈夫です」と絶対的な自信を見せていた。

 なるほど、水兵の数は我々の軍船よりも多いし、船上にある塔は上から火矢を射かけるにはもってこいだろう。それにこの船は鉄でできており、矢などで破壊するのは困難なはずだ。

 また日本国海上自衛隊の護衛艦隊も後方で支援してくれるらしい。こちらの船も負けず劣らず大きいので、同じことが可能だろう。

 もしかしたら、勝利の瞬間を目撃できるかもしれない。

 

 

 

 

 中央暦1639年 4月26日 午前9時

 ロデニウス大陸北方海域 ロウリア艦隊

 

 

 

「いい景色だ。美しい」

 

 ロウリア王国軍東方征伐海軍の海将シャークンは、そう独語して後ろを仰ぎ見た。

 見渡す限り船、船、船で、海が見えないほどだ。

 6年という月日を掛け、さらにパーパルディア皇国の援助も受けてまで完成させた4400隻の大艦隊。

 これほどの大艦隊を持ってすれば、第三文明圏のパーパルディア――ひいては神聖ミリシアル帝国すら打倒できるような気がしてくる。

 そこまで考えて、彼は自軍に課せられた任務を思い出した。

(いかんいかん。危うく余計なことを考えてしまうところだった。我が艦隊の目的はマイハークの制圧だ。

 それに文明圏国家の打倒など、今の国力では夢物語ではないか……)

 シャークンは頭を振って、自身から余計な考えを振り払った。

 しかし、彼と彼の艦隊は気づいていなかった。

 自分たちを見張る、空からの『眼』――零式水上偵察機がいることに。

 

 

「長官、偵察機からの報告です。

 『我、敵艦隊を発見す。西方100浬、速力5ノット、敵陣容は小型船多数なり』

 以上です」

「ふむ、事前に『日進』から水上機を索敵に出して正解だったな。おかげで敵を早く捕捉出来そうだ」

 

 第一艦隊司令長官の古賀峯一中将は、参謀長の宇垣纒少将にそう言った。

 

「ええ。おかげで敵の陣容もつかめました。しかし勝てるでしょうか?

 敵は4000隻以上とありますし、数で押し切られたら厄介です。また、敵が運用する『ワイバーン』という航空戦力も気になります。もし戦艦に傷がついたら――」

「大丈夫だよ、参謀長。そのために海上自衛隊がいるんじゃないか。

 私も報告書を見ただけだが、彼らの対空戦闘力は我々とは比較にならないほど凄まじいそうだ。

 未来の武器、とくと見せてもらおうじゃないか」

 

 古賀は「黄金仮面」とあだ名される参謀長の肩を軽く叩いて言った。

 

 

 

 

 

 同日 午前9時半

 ロウリア艦隊

 

 

 

 海将シャークンは緊張していた。

 つい先ほど白い面妖な飛行物体が自分たちに接近し、「直ちに引き返せ」と警告してきたからだ。

 もちろん味方であるはずもないため、弓矢で攻撃したが、それは軽々と矢を躱し、引き返していった。

 水兵たちはそれを見て「逃げ出しやがった」と大声で嘲笑っていたが、シャークンは見たことのない敵の出現に気を引き締めた。

 

 やがて水平線から敵らしき船が現れると、シャークン以下の水夫達は言葉を失った。

 先頭にいる船はとんでもなく大きく、島一つが動いているようだ。

 

「い、一体何なんだ……あれは! と、とにかく大砲を撃て! 近寄らせるな!!」

 

 シャークンの命令は直ちに復唱され、船先に一門しか据え付けられていない大砲が敵船に向けられる。

 また弓兵たちも油壷の油に弓矢の先を浸し、火をつけて構える。

 敵との距離が1kmを切ったところで、

 

「撃て!!」

 

 号令一下、大砲を据え付けている船全てが一斉に発砲する。その数100隻。

 命中すれば、敵船など木端みじんに粉砕できるとシャークンは確信していた。

 

「ワハハハハ! どうだ大砲の力は!

 貴様らなんぞ所詮蛮族……………え?」

 

 一度は呵々大笑したシャークンだったが、直後に目を剥いた。

 確かに何発かは敵に命中したのに、敵は傷を負っていない。

 それどころか、煙の一つすら上がっていないのだ。

 

「な、何という防御力だ!」

 

 シャークンが呻いた直後、敵船の前に付いている4本の棒が動き始めた。

 棒は4本ともこっちを向くと、盛大に煙を吐き出した。

 

(何だ? 誘爆したの――)

 

 シャークンの思考は突然断たれた。

 突然前方にいる味方の船が十隻以上、白い水柱につつまれたからだ。

 船は全て転覆するか、木端みじんとなって水夫と共に沈んでゆく。

 一拍遅れて、雷鳴もかくやとばかりの音が轟き、鼓膜を叩く。

 あり得ないことだった。

 

「な、何の攻撃だ? まさか――」

 

 シャークンが狼狽している間にも、他の敵船も棒を向けてくる。

 この時になって、シャークンはそれが自分たちが持っている大砲と同じものだと気づいた。

 しかし、敵の大砲の方が遥かに大きい。彼にはそれが信じられなかった。

 

「急げぇ! 早く撃て!! 撃つんだぁぁ!!!」

 

 シャークンが半ば正気を失って叫ぶと同時に、敵は次々と発砲した。

 そして―――

 

 ズザザザーン!! ドドーン!! ズズーン!!

 ズザザーン!! ガガーン!! ドガガーン!!

 

 もはやそれは、戦闘と呼べるものではなかった。

 一方的な、殺戮だった。

 

 

 同日同時刻 

 海上自衛隊 イージス艦『みょうこう』

 

 

 

「敵艦隊、帝国海軍第一艦隊と交戦開始しました」

 

 CICから報告を受けた海原は、頷くと艦橋の窓に向き直った。

 現在帝国海軍の戦艦群は、「戦闘」という名の地獄を創出することに躍起となっており、その戦場音楽は艦橋からでも容易に聞き取ることが出来た。

 出来れば無駄な流血は避けたかったが、向こうが引かず、しかもヘリコプターが攻撃を受けたとあっては応戦せざるを得ない。

 しかし、『みょうこう』が出来ることは今のところない。

 敵は全て帝国海軍が引き付けており、自分たちの役目は精々残敵掃討程度だろう――そう思っていたが、

 

「艦長、対空レーダーに感! 敵味方不明機接近中! 数、およそ250!!」

 

 CICより出された警報に、海原は唸り声を上げた。

 これが敵であることは、西側から来たことで確信している。おそらく「魔力通信」とやらで敵艦隊が呼び寄せたのだろう。

 数秒間思考をめぐらし、結論を迅速に出す。

 

「よし、準備出来次第迎撃する! 対空戦闘用意!

 帝国海軍にも連絡せよ!!」

「了解!」

 

 最強の盾が蠢動を開始する。

 

 

 

「長官、海上自衛隊より緊急信です!

 『敵騎多数来襲、これより迎撃する』とのことです!」

「ほう、空襲か。来るとは思っていたが、意外と早いな。

 通信参謀、三航戦に連絡、直掩機の手配をさせろ」

「分かりました。伝えます」

 

 第一艦隊司令部でも、素早く意思決定が行われる。

 すると、海上自衛隊の護衛艦がいる辺りから、白い光の矢――対空ミサイルが次々と放たれ、まだ見ぬ敵へ向かってゆく。

 

「あれが……未来の兵器……」

 

 第一艦隊の古賀と宇垣、そして嶋田達連合艦隊司令部の面々も、驚愕に染まった顔でミサイルを見送った……    




 いかがでしたでしょうか?
 年明けまでに何とかもう一話投稿しておきたいと思い、頑張って書きました!
 少々長くなってしまったため、二つに区切ることにしました。
 今後とも、『八八艦隊召喚』を宜しくお願いします!


 では、艦隊の概要をば。


 連合艦隊司令長官 嶋田繁太郎大将
 直率・・・第一戦隊 戦艦:紀伊、尾張、駿河、常陸
 第一艦隊 司令長官 古賀峯一中将
  第二戦隊・・・戦艦:加賀、土佐、長門、陸奥
  第五戦隊・・・戦艦:伊勢、日向、扶桑、山城
  第八戦隊・・・重巡:妙高、那智、足柄、羽黒
  第十二戦隊・・・軽巡:北上、大井(重雷装艦)
  第一水雷戦隊・・・軽巡:木津
   第六駆逐隊、第十一駆逐隊、第十二駆逐隊
  第三水雷戦隊・・・軽巡:川内
   第十三駆逐隊、第十九駆逐隊、第二十駆逐隊 
  第三航空戦隊・・・空母:飛鷹、隼鷹  水上機母艦:日進
   第二十八駆逐隊

 護衛部隊
  第八水雷戦隊・・・軽巡:夕張
   第二十九駆逐隊、第三十駆逐隊


 ※駆逐隊の内容や軍艦の性能は、別の話で書いていきたいと思います。

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