八八艦隊召喚   作:スパイス

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第五話 影響

 中央暦1639年 4月30日

 クワ・トイネ公国 公都クワ・トイネ 政治部会

 

 

「……以上が、『ロデ二ウス沖海戦』における、戦果報告になります」

 

 4日前に行われた海戦の様子について、参考人として政治部会に招致されたブルーアイがそう報告を締めくくると、真剣に聞いていた参加者たちの間からは唸り声や溜息が満ちた。

 というより、帝国海軍や海上自衛隊の戦果があまりにも凄まじいため、彼らに対するある種の恐怖が満ちていた、と言ったほうが正しいだろう。

 最初に軍務卿が口を開いた。

 

「……では何かね? 大日本帝国の『第一艦隊』はたったの50隻で、ロウリア王国艦隊の4400隻もの大艦隊に挑み、その結果3500隻以上を撃沈、900隻余りを拿捕して敵を事実上全滅させたばかりか、敵の海将シャークンも捕虜としたと?

 さらに海上自衛隊の8隻の『護衛艦隊』は、『大規模な爆裂魔法の様なもの』で敵竜騎士のワイバーン250騎を迎撃して、全てのワイバーンの撃墜に成功。それでも両艦隊には全く損害が無く、我が国の艦隊は出る幕すら無かった……そう君は言いたいのかね?」

「いえ、大日本帝国海軍の戦艦が敵に攻撃した際、大砲の砲弾数発が船体に直撃しています。ですので、全く損害ゼロというわけではありません。まあ人的損害も無く、塗装が若干傷んだだけでしたが……」

「それを損害なしと言うんだ、馬鹿者!」

「ですが、何かしら被害を書かなければ報告にならないと思われたため、記載致しました。

 因みに連合艦隊司令長官の嶋田大将と、第一艦隊司令長官の古賀中将は『敵があんな小船とは思わなかった。貴重な主砲弾を消費してしまった』と嘆いておられましたので、帝国海軍の懐には被害があったかと――」

「分かった分かった。もういい……」

 

 軍務卿は疲れたように手を振って、ブルーアイを黙らせた。

 そして外務卿であるリンスイに向かって問い詰めるような口調で言った。

 

「外務卿! 大日本帝国はともかく、日本国は『必要最小限度の自衛戦力』しか保持していないはずではなかったのかね? さらに日本人は『魔法が使えない』というのが君が送った外交使節の報告だが、彼らは大規模爆裂魔法を使って最強の戦力たるワイバーンの大群を殲滅し、あまつさえ被害なしというとんでもないことをやってのけた。一体どちらが本当なのかね!?」

「……私にも分からない。使節団の報告は本当のはずだ。それにこんな現実離れした話を聞かされても判断に困る。 ……あ、いや、決して君の部下を信用していない訳ではないが、本当にどう判断していいか分からないだけなんだ」

 

 自国の軍人の報告を「現実離れしている」と評された軍務卿が目を剥いたのを見て、リンスイは慌ててその場を取り繕う。

 

「そ、それにこちらからも朗報があるぞ。帝国海軍は今回拿捕した敵の軍船を、調査が済んだら全て我が国に譲渡してくれるそうだ。彼らの話では『こんな時代遅れな船はいらない』らしい。

 何もせずに戦力が増えたんだ。ありがたいことじゃないか」

 

 リンスイが冷や汗を流しながら笑みを浮かべると、軍務卿の機嫌はますます悪くなった。

 帝国海軍に「あんた達は足手まといだ」と遠まわしに言われた気がしたからだ。

 軍務卿は不機嫌そうに鼻を鳴らすと、ブルーアイに向き直った。

 

「で、君から見た感想はどうなのかね、ブルーアイ君?」

「ワイバーンを殲滅した日本国の攻撃は、あくまで爆裂魔法の『様なもの』であり、決して魔法であるとは一言も申し上げておりません。これは私の憶測ですが、彼らが使用したのは大砲や銃などと同じ『武器』ではないかと思っています。つまり魔法ではなく、彼らの言う『科学』を駆使した兵器を使用したのだと思います」

 

 ブルーアイが自身の考えを述べると、会議場の端から「そんなことは不可能だ!」との野次が飛ぶ。

 ブルーアイが反論しかけたのを首相のカナタが手で制して立ち上がると、会議場は静まり返った。

 

「とにかく、今回のロウリアの侵攻は防げた。これも彼らが援軍を送ってくれたお陰であり、そこは感謝しよう。

 それに彼らは拿捕した敵軍船を全て我が国にくれるらしいし、これでロウリア海軍もこれで行動不能になったはずだ。なにせほとんどの軍船を失ったばかりか、指揮官まで捕虜になったんだからな。またワイバーン部隊も半数が殲滅された以上、制空権の奪取も不可能ではないし、侵攻速度も大幅に鈍るはずだ。

 軍務卿、陸の情勢はどうかね?」

「現在、敵部隊はギム周辺に陣地を構築しております。海からの侵攻が失敗し、ワイバーンも半数を失った現在、ギムの守りを固めてから再度進撃してくると考えられます。電撃的侵攻はもはや無いと判断してよろしいかと」

 

 軍務卿は手元にある諜報部や、大日本帝国から寄せられた情報の紙束を読みながら答えると、カナタは続けて問いかけた。

 

「二つの日本やアメリカの動向はどうだね?」

「援軍に駆けつけてくれた帝国海軍第一艦隊なのですが、一旦帝国本土に引き上げるようです。なんでも整備と補給がマイハークでは出来ないらしく、これと入れ替わりに第二艦隊が来てくれるらしいです。ですので、海上優勢は引き続き確保できると思います。

 また、日本帝国が城塞都市エジェイの東側5km先のダイタル平野に建設していた飛行場が三日前に完成したと、日本帝国の基地設営部隊から連絡が来ました。現在彼らはここに航空戦力を展開したいと申請書を提出しております。これは日本国も同様で、同地に飛行場を建設したいとの要望を出しております。

 またアメリカは現在クイラ王国に前線基地と駐屯地を建設中で、施設が完成しだい部隊を展開させると、さっき連絡武官が報告してきました」

「そうか、ついに彼らも動くか。

 海戦であれだけの戦果を挙げた彼らだ、きっと陸戦でも強いだろう。こちらも彼らと肩を並べるにふさわしい精鋭部隊を派遣しなくてはな。

 航空戦力の展開申請については後で私のところに書類を回してくれ」

「分かりました、首相」

 

 こうして、政治部会はお開きとなった。

 

 

 同日同時刻

 マイハーク港 連合艦隊司令部

 

 

 

「明日、内地に帰還する」

 

 嶋田は「駿河」艦内の会議室に参謀たちを集めるや、開口一番そう言った。

 対する参謀たちは「やはりそうなるか」といった反応が大部分であり、特に反対意見も出ない。

 現在第一艦隊はマイハーク港外で補給作業の真っ最中であり、これが済み次第内地に向けて出港する手はずであった。また、この穴を埋めるために第二艦隊が来ることになっており、もう明日には到着する予定だという。

 この段階で内地に引き上げることになった理由は、ひとえに「主砲を撃ち過ぎた」ことと「予想外の砲弾の消費」が原因だ。

 戦艦の主砲には「砲身命数」というものがあり、これを超えてしまうと命中精度が大幅に低下し、最悪の場合砲身が破裂することになる。第一艦隊の戦艦群は、12隻中7隻がその段階に達してしまっていたため、内地の工廠で砲身の内筒を交換する必要があった。

 また砲弾の消費は遠征前にも検討されており、弾薬運搬船も同行させてはいたものの、砲弾の消費量が予想以上であったために全く数が足りなかった。そのため、第一艦隊は大事を取って内地に引き返すことにしたのだ。

 しかし、連合艦隊司令部の幕僚たちが会議室に参集しているのは、それを話し合うためではなかった。

 

「では、今回の海戦で得られた戦訓と情報について、報告会を始めようと思う。

 まずは戦務参謀、報告してくれ」

「はい長官」

 

 嶋田に指名された戦務参謀の渡辺安次中佐は、立ち上がると発言した。

 

「我が軍は今回の海戦で数多くの捕虜を得ることが出来ましたが、捕虜の中にこの世界で『文明圏国家』と呼ばれる『パーパルディア皇国』の観戦武官であるヴァルハルという男がおりました。

 この者を尋問したところ、彼はパーパルディアの『国家戦略局』なる部署に所属しており、この組織が中心となってロウリア側に軍事支援を行っているようです」

「ということは、やはりロウリアの後ろにはパーパルディアがいることがこれではっきりしましたな」

 

 首席参謀の中瀬大佐が「やはり」と言った感じで頷くと、政務参謀の山本祐二中佐が続けて発言する。

 

「パーパルディア皇国がどれだけの援助をしているのか、その規模はまだ分かりませんが、この後の展開によってはパーパルディアがこの戦争に介入してくる可能性があります。そうすれば最悪の場合、相手側の戦力によっては泥沼化もあり得ると思われます」

「しかし連中は木造の小舟しか保有していなかったではないか。入ってきた情報によれば、パーパルディアも帆船程度の戦力しか保有していないというぞ。

 仮にパーパルディア皇国が介入してくるとしても、我が方の勝利は動かないと思うが?」

 

 参謀長の伊藤整一少将が疑問を述べると、情報参謀の磯崎稔中佐が発言した。

 

「相手側の戦力が旧式だからといって、過小評価するのはどうかと私は考えます。

 ここは魔法なる超常の力が存在する異世界です。パーパルディア皇国に関する情報はとても少ないため、我々の常識では思いもよらない兵器を開発、運用している可能性は十分考えられます。また彼らが『文明圏国家』なる大仰な名を自称している以上、先入観で判断するのは危険が伴います。

 もちろん最終的にはこちらが勝利するとしても、犠牲が生じることは避けられないでしょう。そこで――」

 

 磯崎はクワ・トイネ公国より譲り受けたロデニウス大陸西部の地図を机の上に広げた。

 参謀たちが集まって地図を覗き込むと、磯崎は指示棒である一点を指した。

 

「これまでに集まった情報を精査した結果、敵の首都ジン・ハークの北側40kmには軍港が存在しており、敵艦隊はここから出撃したと考えられます。ここに上陸して橋頭堡を構築し、一気に敵首都を攻略すれば、敵はクワ・トイネどころではなくなり、まともな指揮官ならば侵攻部隊を撤退させるでしょう。

 また敵首都の攻略に成功し、敵の首脳部を纏めて捕虜、もしくは抹殺した場合、敵軍は戦意を喪失して崩壊することも考えられ、戦争の早期終結も不可能ではないと思います。

 ただし、これはあくまで私見に過ぎません。本分を逸脱していると思われたのでしたら、謝罪致します」

 

 磯崎が自身の考えを述べると、参謀たちの間から「ほう」という感嘆の声が漏れた。それほど磯崎の案は魅力的だったのだ。

 

「……仮に情報参謀の案を採用するとしても、先ずは陸軍の協力を仰がなくてはならんな。

 しかし、陸軍が首を縦に振るだろうか……」

 

 中瀬が苦笑しながら言うと、それまで黙ってやり取りを聞いていた嶋田が口を開いた。

 

「いや、実に魅力的な作戦だ。詳細は詰める必要があるだろうが、この案は捨てるには惜しいな。

 だが、先ずはエジェイに向かっている陸軍の結果を待って、それから考えよう。

 皆、報告を続けてくれ」

 

 嶋田はそう言って、再び目を閉じて報告を聞き始めた。

 

 

 

 同日同時刻

 ロウリア王国 王都ジン・ハーク ハーク城

 

 

「……パタジンよ。その報告は間違いないのか? 自信を持って送り出した大艦隊が全滅し、あまつさえ全ワイバーンの半数を失うという大敗北を、我が国は本当に被ったのか?」

「……事実でございます、陛下。

 艦隊指揮官のシャークンより『我が方の戦力八割喪失、これより降伏する』という魔力通信があり、またワイバーン隊が全騎未帰還となった以上、そう判断せざるを得ません」

 

 パタジンが汗を流しながら震える声で報告すると、ロウリア王は激怒するよりも悄然とした表情で椅子に腰を下ろした。

 

「何ということだ……艦隊だけでなくワイバーンまで……

 しかし何故だ! なぜ日本に負けた!?」

「落ち着いてください陛下。シャークンが最後に送ってきた報告があまりにも荒唐無稽な内容のため、現在原因の再調査と、報告の信憑性を確認しているところです」

 

 もはや半狂乱で問い詰めてくる王に対し、パタジンも余裕のない表情で答える。

 「勝てる!」と確信していたこの二人――というより、ロウリア首脳部にとって、この完全敗北は文字通り寝耳に水だったのだ。

 

(というか何だ! あの要領を得ない報告は!!)

 

 パタジンは心の中で、ここにはいないシャークンに向かって悪態をつく。

 それほど彼が送ってきた最後の報告は信憑性の薄いものだった。

 

 曰く、「敵は巨大な鉄製の軍船で攻撃してきて、それに搭載されている大砲は、一撃で我が軍の軍船十数隻を吹き飛ばした」

 曰く、「敵船はとんでもない速度で我が軍の退路を断ち、正確無比な攻撃をしてきた」

 曰く、「日本軍が放った『避けても目標を追い続ける光の矢』が、遠距離から飛竜隊を襲い、ワイバーンを全滅させた」

 などなど、数え上げたらきりがないほどである。

 普通であれば「酔ってるのか!」と怒られてもおかしくない。

 

 しかし現にワイバーンが全滅し、残った艦隊も降伏したとなっては、パタジンも「何らかの強力な魔法攻撃を敵が使用した」と推測するしかなかった。

 それでも、ワイバーンと軍船を一撃で破壊するほどの魔法力など想像もつかない。ましてや「巨大な鉄製の軍船」など、想像することすら馬鹿馬鹿しかった。

 なので、王には「調査中」と報告するに留めたのだ。

 

「……いずれにせよ、被害は事実だ。今後このようなことがあっては困るぞ。

 軍はこの敗北の原因を、必ず突き止めるように」

 

 ようやく精神が落ち着いたのか、王が厳命すると、パタジンも首肯した。

 

「ははっ!! 海戦の敗因は必ず突き止めてご覧に入れます。ただ、王もご承知の通り、陸上戦に関しては数がものをいいます。現にギムは陥落済みであり、ここを拠点として以降の作戦を進めておりますゆえ、陸上戦力だけでも公国を占領することは容易でございます。

 陛下におかれましては、戦勝のご報告を大いにご期待くだされ」

「うむ、そなたには期待しておるぞ」

「ははっ!! ありがたき幸せでございます!!」

 

 そうは言ったものの、パタジンにはどこか自分の声が無理をしているように聞こえた。

 王もその日は、一日中不安に苛まれながら過ごした。

 

 

 

 同日同時刻

 クイラ王国 カサブランカの海岸

 

 

「よし、これでこの倉庫の物資は全部記録できたな」

 

 アメリカ陸軍の上等兵であるジョン・スミスはそう言って、倉庫の外に出た。

 薄暗い中で作業をしていたせいか、太陽がいつもより眩しく感じる。

 周りを見ると、同じような蒲鉾形の倉庫が幾棟も建っており、その間でフォークリフトが働き蟻のように忙しなく動き回っている。

 

 アメリカ軍は今、このカサブランカの海岸とその内陸に大規模な港と基地を設営しつつあり、既に幾つかの施設と飛行場は稼動していた。軍港のほうはもう少し掛かるが、あと一週間もすれば一個~二個任務部隊が丸ごと収容できる港が完成する予定だ。

 現在も簡易桟橋に複数の輸送船が接舷して、建設資材や軍需物資、戦車などの装甲車両を荷卸ししている。

 ここで陸揚げされた物資には、内陸に建設された道路を通ってクイラ王国軍に供与される予定のものもある。それもこれも全て、平和を脅かす野蛮なロウリアをコテンパンにぶちのめす為のものだ――そう兵士たちは聞かされていた。

 また飛行場には、フィリピンから来た「極東航空軍」の戦闘機部隊が展開しており、まもなく爆撃機も展開する予定だという。

 

 (休憩所でコーラでも飲むか…)そう思って歩き出したとき、突然一台のジープが目の前に停車した。

 危うくぶつかりそうだったため、文句の一つでも言ってやろうと口を開きかけたとき、後部座席にいた男が立ち上がって質問してきた。

 

「ちょっとそこの君、司令部はどこだね?」

 

 ジョンはその人物を見て絶句した後、大慌てで敬礼した。何故なら、その男はアメリカ軍人ならば誰もが知っている人物であったからだ。

 

「し、失礼致しました。司令部でしたら飛行場の傍にあります」

「ありがとう、助かったよ。君の名は?」

 

 フィリピン軍の軍帽にレイバンのサングラスを掛け、口にコーンパイプをくわえたその男は、笑顔を絶やさずに聞いてきた。

 

「はい! ジョン・スミス上等兵であります!」

「スミス君だね、憶えておこう」

 

 そう言って男は運転手に合図し、走り去っていった。

 

「いやぁ、あの人が来るなんて思わなかったな。まあこのクイラはフィリピンから近いし、あの人が出張ってきてもおかしくないか……何にせよ、これから忙しくなるぞ」

 

 ジョンはそう言ってジープの男――ダグラス・マッカーサー陸軍大将の顔を思い浮かべた。

 

 




 いかがでしたでしょうか?
 次回は「エジェイ攻防戦」をお届けします。
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