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中央暦1639年 6月9日
クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ
「ふむ、今日も異状なしか……」
クワ・トイネ公国西部方面師団を束ねる将軍ノウは、そう呟くと後ろを仰ぎ見た。
そこには、クワ・トイネ公国軍の自慢であるエジェイの城壁が、まるで巨人の如くそびえ立っている。
このエジェイは、ロウリアとの軍事的緊張が高まりつつあった頃に、首都への侵攻ルートを防衛するために作られたもので、街そのものが巨大な要塞と言っても過言ではない。
建築技術では右に出るものがないクイラのドワーフ達の手によって、わざわざ山脈から切り出されて加工された花崗岩を原材料とする城壁は無論のこと、街の建物も全て石造りとすることで難燃性を高めている。またあちこちに大型のバリスタが据え付けられており、ワイバーンへの備えも万全だ。また城内にはきれいな水が湧き出る泉が何か所もあり、倉庫にも膨大な食糧備蓄があるため、敵は「兵糧攻め」という手段を取れない。
(それに、こちらには新兵器がある)
ノウ将軍は心の中で言うと、訓練に励む配下の兵士たちを、満足そうに見下ろした。
ノウが指揮する西部方面師団は、騎兵3千名と弓兵7千名、歩兵2万名を主力とする大部隊で、ほかにワイバーン50騎の航空戦力がいる。
このうち歩兵の十分の一に当たる2千名は、同盟国である大日本帝国から供与された「三十年式歩兵銃」「三八式歩兵銃」に武装を変更した上で、首都から直接エジェイに派遣された増援部隊であり、ノウも銃の威力を見せつけられていた。
このためノウ将軍は『100万の敵が、100年掛けてもエジェイを陥落させることは不可能である』と事あるごとに豪語していた。
「ノウ将軍、日本国自衛隊と大日本帝国陸軍の方々が来られています。『エジェイの防衛戦略について話し合いたい』と言っておりますが」
幹部の一人がそう述べると、ノウは不愉快そうに眉をひそめた。
「もう来たのか……随分と早いな……
まあいい、応接室で待たせておけ。私は忙しいんだ」
「しかし、公国政府からは最大限協力するように通達されていますが……」
「そんなの知るか。いいかね、連中が来たら『ノウ将軍は部隊視察中のため、一時間ほど遅れる』と伝えろ。連中がごちゃごちゃ抗議しても、それで通すんだ。
そもそもここは我々の街だ。連中の手を借りなくたって守れるさ」
ノウは幹部に念を押すと、部隊が訓練している方向へ歩き出した。
(ふん、人の国に土足で上がり込んできおって……何が『話し合いたい』だ! 黙って武器だけ渡しておればいいものを!)
ノウは心の中で、日本国自衛隊と大日本帝国陸軍に対して悪態をつく。
それほど彼は、彼らのことが嫌いだった。
日本国はクワ・トイネの領空を公然と侵犯し、力を見せつけた後に接触してきているため、ノウは「圧力外交に他ならない」と判断し、心証を大きく害していた。大日本帝国にしても、巨大軍艦で使節を送り込んでいるから、れっきとした砲艦外交である。
さらに、彼らは『ロデニウス沖海戦』で、敵艦隊を事実上「一隻残らず」殲滅し、あまつさえ増援に訪れたワイバーンも「全て」撃墜したというが、これとて信用できるものではなく、脚色が大幅に含まれているとノウは考えていた。そもそもそんな出鱈目な戦果が、魔法もろくに知らない連中に上げられるはずはない。
連中が提供してきた「銃」の性能については、自分の眼で見たためによく分かっているし、提供してくれたことには感謝してやらんでもないが、クワ・トイネ公国は自分たちの国であり、自分たちで守れる。
同盟国だからといって援軍を送り込んでくるとは、上から目線の同情に過ぎない――ノウはそう決めつけていた。
結局ノウが応接室に足を運んだのは、一時間と20分を過ぎてからだった。
__________
「遅いなぁ……」
エジェイに援軍として派遣された、帝国陸軍第二十五軍の参謀長を務める鈴木宗作中将が、そう腕時計を見ながら舌打ちすると、応接室にいる他の将官たちも苛立ちの色を濃くする。
「しかし……『部隊視察中』ということですので、想定外のことが起こって遅れているのでは?」
「甘いですよ、大内田陸将。これは一種の嫌がらせに違いありません。
助けてほしいというから援軍に来たのに、この対応とは……馬鹿にしとるのか!」
空気を和らげようと発言した、陸上自衛隊第7師団長の大内田に向かってぴしゃりと言い放ったのは、第二十五軍の中核部隊である第五師団の師団長、松井太久郎中将であった。
軽んじられていると憤る松井中将に対して、第二十五軍司令官の山下奉文大将は、応接室の椅子に腰を下ろしながらなだめるように言った。
「まあそう言うな、松井中将。
この扱いは私自身思うところがないではないが、そんなことを言ってもしょうがない。協力関係の構築はこの戦いにおいて必須なのだからな。ここは辛抱だ」
「しかしですなぁ……」
なおも言い募る松井に対し、山下が口を開きかけた時
「失礼します。ノウ将軍がお戻りになられました」
「やれやれ、やっと来たか」
西部方面師団の幹部が応接室に入ってそう告げると、鈴木参謀長が待ちくたびれたように言った。
程なくしてノウが応接室に入ってくると、帝国陸軍と陸上自衛隊の将官たちは、立ち上がって一礼した。
最も、松井中将は仏頂面のままだったが。
「これは皆様、お待たせして大変申し訳ございません。私はクワ・トイネ公国西部方面師団将軍ノウと申します。
この度は援軍を派遣して下さり、大変感謝しております」
ノウが全く申し訳ないと思っていない口調で謝罪すると、山下もにこやかな表情を作って挨拶する。
「いえいえ、こちらこそお忙しい時に伺ってしまい、申し訳ないと思っています。
私は大日本帝国陸軍、第二十五軍司令官の山下奉文と申します」
「参謀長の鈴木宗作です」
「……第五師団長、松井太久郎です」
帝国陸軍の将官たちが自己紹介すると、大内田たち陸自の番になった。
「日本国陸上自衛隊、第7師団長の大内田です。
それでは時間ももったいないですし、さっそく会議を始めてもよろしいですか?」
「構いませんとも」
ノウも了承したので、そのまま戦略会議が始まった。
「山下将軍、貴官もごそんじの通り、ロウリア軍は国境の町ギムを陥落させた後、5月31日まで同地にとどまっていましたが、6月に入ってから侵攻を再開しております。このまま行けば後10日程でエジェイに到達するでしょう」
ノウは一度言葉を切ってから、高圧的な態度と口調で山下と大内田に言い放った。
「しかしながら、皆さんもご覧になった通り、エジェイは鉄壁の防護を備えた要塞都市です。これを陥落させることは、どんな大軍にも不可能でしょう。
我々はロウリアによって侵略を受けており、かの国に一矢でも報いてやろうと立ち向かっております。我が軍の誇りと名誉に掛けて、ロウリアは必ずや撃退いたします。
あなた方はどうぞ安心して、後方支援に専念して頂きたい」
ノウがほぼ直接的に『邪魔だからすっこんでろ』と言うと、案の定、松井師団長と鈴木参謀長が不機嫌そうな色を濃くする。
『怒ればいいんだ』と、ノウは腹の中で嘲笑った。怒って出て行ってくれれば、自分たちの力でロウリア軍を叩きのめすことが出来る。連中にこれ以上大きな顔をさせてたまるか――
周囲の人間が『外交問題になるのでは』と冷や冷やする中、山下は泰然自若としてノウに言った。
「分かりました、いいでしょう。我々は後方支援に徹します。その代わり、エジェイに連絡要員の派遣と通信隊を置くことを認めて頂きたい。あと、我が軍は必要であれば、独自の行動を取らせて頂きますので、その許可もお願いしたい」
山下がそう言うと、大内田も身を乗り出して要件を伝える。
「我々自衛隊にも、帝国軍の方々と同じような許可をお願いします。あと、敵の位置や戦局を作戦本部に伝える必要がありますので、観測要員を50名ほどエジェイに置かせて頂きたいのですが……」
「観測要員? まあ、貴国も戦局を本国に伝える義務があるんでしょうな。
分かりました、こちらは構いません」
こうして、必要最低限の情報交換と挨拶を交わしただけで、会談は終了した。
__________
「全くあの将軍は!」
エジェイの城門の前で迎えの車を待つ間、松井師団長は怒りもあらわに吐き捨てた。
「あの男は我が軍が活躍するのが、よほど嫌らしいな。おかげさまで友好的な関係を構築することも出来なかったじゃないか。何が『後方支援に専念してくれ』だ!」
「落ち着け、松井中将」
山下はそう言って、松井の肩に手を置いた。
「あの会談は決して無意味ではないよ。我々は自由裁量権を手に入れたし、後はノウ将軍と敵の度肝を抜くことだけを考えればいいさ。
大内田陸将、例の作戦は進んでいますか?」
「もちろんですよ山下大将。既に作戦の骨子は各部隊に通達済みですし、後は我々自衛隊とあなた方帝国陸軍が、いかに連携できるかにかかっているでしょうね」
「そこが難しい所ですな。何しろ保有する兵器や装備に70年以上の開きがあるんですからねぇ。この差を埋めるのは、並大抵の苦労じゃ済まないですよ」
「鈴木参謀長の言うとおりだな。悔しいことだが、我が軍の装備水準はあなた方自衛隊とは比較にもならない。
まあ未来の軍事組織と比較することそのものが間違っているんだが……」
山下と鈴木はそう言うとため息をついて、大内田の顔を見た。
陸上自衛隊と帝国陸軍の交流そのものは、エジェイに到着したその時から始まってはいたものの、自衛隊側が保有する防衛装備品(事実上は兵器)に対して、帝国陸軍側は圧倒されてばかりであった。何しろ大砲一つ取っても性能は段違いであるし、戦車などに至っては大人と子供ほどの差があるのである。
このため自衛隊と帝国軍は、最初からお互いに混ざり合って共同歩調をとる事を放棄しており、むしろ戦場での役割を分担することによって、エジェイを効果的に防衛する作戦を構想中であったのだ。
もちろん、自衛隊と帝国陸軍が共同作戦をすることはこれが初めてであるため、どこまでやれるかは未知数であり、困難が予想される。
「そこは仕方ありませんよ。ですが、我々陸自も猛訓練を重ねております。ご期待には必ずや沿うことができましょう」
「ハハハ、頼りにしております」
山下と大内田はそう言って、固い握手を交わした。
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中央暦1639年 6月10日
ロウリア王国 東方征伐軍東部諸侯団 司令部
一方、東部諸侯団の司令部でも、ある人物に対する苦言が吹き荒れていた。
「全く、あの男は何を考えているんだ!!」
諸侯団を取りまとめるジューンフィルア伯爵は、机の上にある指令書をバンバンと叩きながら、男――アデムに対する怒りを露にする。
「王国本土に敵が侵入しているこの非常事態に『万難を排してエジェイ攻略作戦を実施する』だと!
基本的な軍事常識さえ分からんのか、あの大馬鹿者は!!!」
「落ち着いて下さいジューンフィルア様。アデムの手の者に聞かれたら、それこそ首が飛ぶどころではありませんぞ」
ジューンフィルアの部下である魔導師ワッシューナは、そう言ってちらりと窓の外を見やる。
幸いにも、付近には誰もいない。
「う、うむ、少し軽率だったな。
だがなワッシューナ、本土に敵が攻め込んでいるんだぞ。ここは防衛に転じた方がよくはないか?」
ジューンフィルアは額の汗を拭いながら、そう述べる。
ロウリア軍の総司令部より『敵が南部国境より侵攻を開始』の第一報が入ったのは、先月の26日午後であった。敵が25日早朝より侵攻を開始したことを考えると、とんでもない遅さである。
東方征伐軍の幹部達はこの報を受けて直ちに会議を開始し、指揮官のパンドールの意見によって一度は『作戦を中止して、防勢に徹する』という方針に固まりかけていたのを、会議の席上で『クワ・トイネ公国攻略を完遂すべし』という意見が、アデムを始めとする数人の指揮官達から出たのだ。
アデムはこの意見の根拠として『敵は不遜にも我が王国の本土に逆侵攻してきたが、王国南部には十分な予備兵力が存在しており、弱体な敵は間もなく撃退されるであろう』と述べ、また『エジェイを早急に攻略すれば、クワ・トイネは瞬く間に崩壊し、クイラに対する援助が出来なくなる。両国を早期に屈服させ、薄汚い亜人どもをこの世から駆逐して大陸に安寧をもたらすためにも、作戦は続行したほうが良い』という持論をパンドールに披露して変更を迫ったため、『作戦中止』に傾きかけていた征伐軍の空気が『続行』に変わってしまったのだ。
「まあ、アデム殿はギム攻略戦の一件で、少しケチがついてしまいましたからな。それを取り戻そうと必死なのでしょう」
「それは単なる私怨なのではないかな?」
「あの人の考え方からして、それが大部分でございましょう」
「結局、あの男は亜人を殺して回りたいだけか……」
ジューンフィルアはため息をついて、指令書を再度見やる。
指令書には『東部諸侯団は直ちに本陣より出発し、エジェイに威力偵察を行なうこと。また、エジェイには避難民が多数集結しているため、住民に「敵が迫っている」という恐怖を与えて、敵軍の士気崩壊を誘うよう努力する事』と書いてあり、これだけでジューンフィルアは胃が痛む思いだった。
何しろエジェイは『城塞都市』として名を轟かせており、ギムなどとは防御の次元が違うのである。ギムだけであれだけの損害を出した以上、敵の抵抗は比べ物にならないほど苛烈になるであろう。
また、偵察に出したホーク騎士団第15騎馬隊が、正体不明の攻撃を受けて一人の生存者もなく全滅した件もあり、これにもジューンフィルアは嫌な予感を感じていた。
しかしこの指令を拒否すれば、アデムは東部諸侯団の幹部達を容赦なく粛清するであろう。それでなくとも、最近のアデムの機嫌は悪いのである。
「仕方ない、行くとするか」
ジューンフィルアは自身の嫌な予感を打ち消すようにそう言うと、席を立って部下たちの所へと向かった。
しかし後に彼は、自身の『予感』を信じなかったことを、ひどく後悔することになる……
またもや投稿の間隔が空いてしまい、大変申し訳ありません!
インフルエンザと重要課題のダブルパンチ……きつかったです……
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