八八艦隊召喚   作:スパイス

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 いよいよこの『ロデニウス戦役』編も佳境に入りました。
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第九話 壊滅

 中央暦1639年 6月13日

 城塞都市エジェイ 西の門 ロウリア軍東部諸侯団陣地

 

 

 陸上自衛隊による激しい砲撃によって、2万の東部諸侯団は一瞬にして1万2千人もの兵士を失うという大打撃を受け、指揮系統は大混乱に陥っていた。

 しかし一部の部隊は散開して警戒線を敷いていたこともあって損害は軽微であり、また元が練度の高い兵士で構成されていたこともあってか、一部の上級指揮官達はこの被害にもひるまずに反撃を画策していた。

 

「急げ! 偵察部隊を直ぐに飛ばして敵部隊の位置を探らせるんだ!! そうすれば反撃が出来る!!」

 

 猛烈な砲撃によって戦意を失いつつあった兵士たちを鼓舞するのは、東部諸侯団の中でも若い部類に入る一人であるザンダル侯爵であった。

 ザンダルが率いる2千人の部隊は、ジューンフィルアが命じた警戒線の構築に携わっていたために被害を免れており、このため彼は東部諸侯団の残党をもかき集めて即席の戦闘部隊を編成、敵に一矢報いてやろうと画策していた。

 

「し、しかしザンダル様。敵は猛烈な爆裂魔法を使用していると思われます。ここは引いた方が――」

「だから何だ? これだけの損害を受けておきながら、敵を見ることもなく撤退するのかね? 冗談じゃない!!」

 

 砲撃から辛くも生き延びた諸侯団幹部の一人が恐る恐る意見を述べると、ザンダルはその幹部を声を荒げながら睨みつける。

 

「確かに敵はとんでもない爆裂魔法を使っている。しかしあれだけの魔法をもう一度放つにはかなり時間が掛かるはずだ。日本軍が何人魔導師を運用しているのかは分からんが、少なくともその間に敵を探し出せばこっちのものだ! 魔法攻撃の射程が長くないことを考えれば、連中は必ず近くに隠れている! やつらの懐に入り込んで一撃を与え、その後で引けばよい!!」

「ですが、あれだけの攻撃ができる魔導師など聞いたことがありません! いえ、あんな攻撃は何人大魔導師を揃えても不可能です! 今すぐ撤退しなければ全滅もあり得ます!!」

「だからこそ敵を知る為に攻撃が必要なのだ! ジューンフィルア様が戦死なされた以上、少しでも反撃して敵の情報を持ち帰らねば散っていった将兵に申し訳がたたん!!」

 

 日本に一矢報いたいザンダルと、日本の攻撃の威力を間近で体験した幹部。

 どちらの意見にも一理あるため、ザンダル部隊の幹部もどちらの意見が正しいのか図りかねていた。

 再び激論が交わされようとした、その時、

 

「魔力通信がきました! 偵察部隊からです!!」

 

 伝令兵が天幕に駆け込んできて、大声で報告した。

 

「読み上げます! 『我、敵部隊を発見す。敵は地竜らしき鉄製の怪物を先頭として進撃中なり。部隊の被害甚大、これより撤退す』以上です!」

「な、なに! 地竜だと!? それは本当なのか!?」

 

 ザンダルは顔を青くして通信兵に問いただす。

 地竜といえば、第三文明圏の雄であるパーパルディア皇国が運用している『リントヴルム』が有名であり、この竜を飼育、育成する技術があったからこそ、パーパルディア皇国は第三文明圏の覇者として君臨することが出来たのである。

 つまり、日本軍が本当に地竜を運用しているのならば、日本軍はパーパルディア皇国並みの軍事力を有している、ということになる。

 ザンダル達にとって、その報告は絶望的であった。

 

「と、とにかく部隊を展開して防げっ!!」

 

 ザンダルは冷や汗をたらしつつ、前線部隊に檄を飛ばした。

 

__________

 

 

 

「き、来た! 来たぞぉっ!!」

 

 最前線にいる兵士たち――歩兵と騎兵の混成部隊――は、迫りくる日本軍の地竜に対して緊張に染まりながらも戦闘準備を整えていく。

 ついさっきまで本隊の惨状を目撃していただけに、兵士たちの表情には若干怯えが混じっている。しかしそれでも総崩れとならずに攻撃態勢に移っているあたり、いかにこの部隊の練度が高いかを物語っていた。

 やがて視界に入ってきた日本軍の姿に、兵士たちの顔が引き締まる。

 

「何だありゃあ……生き物なのか?」

 

 一人の古参兵があっけにとられたように呟く。

 何故なら、日本軍の地竜は彼らが想像していたものとは全く異なっていたからだ。

 まず生き物なら当然あるはずの足が無く、代わりにギザギザした輪っかのようなものを「キュラキュラキュラ……」と前後に回転させながら前進しており、頭と思しき部分には変な棒が突き出ていた。胴体も鉄製らしく、鈍色に輝いている。

 色も土色と緑と黄が混ざり合った汚らしい色合いで、およそ美意識というものが全くない。

 そんな物体が「ヴドロロロロ……」という騒音(もちろんディーゼルエンジンの音であるなど、彼らは知らない)を立てながら、30体ほどがこっちに向かってくるのだ。

 兵士たちが戸惑うのも無理はなかった。

 

「全隊突撃せよっ!! 蛮族どもに目に者見せてやれぇっ!!!!」

「「「「おおおおっっっ!!!!」」」」

 

 指揮官の号令一下、兵士たちは猛然と突撃を開始する。

 騎兵は馬を駆り、歩兵は自分の足で走りつつ、喊声を上げながら敵に接近してゆく。

 対する日本軍は何故か地竜を停止させると、突き出た棒をこちらに向けてきた。

 

「何をするつもりだ――」

 

 指揮官が疑問に思った、その時――

 突き出た棒が次々と火を噴き、その瞬間彼らの隊列中や周りに連続して爆発が巻き起こる。

 

 九七式中戦車の47mm砲弾と一式中戦車の57mm砲弾が、810m毎秒という高初速で着弾した結果だった――

 

__________

 

 

 

「目標に命中!!」

「よくやった! よし次!!」

 

 戦車部隊を預かる前川少佐は、自身が乗る戦車の部下たちが敵のど真ん中に砲弾を命中させるのを見て、思わず喝采をあげた。

 前川が乗る一式指揮戦車は部隊を指揮するための通信機器を搭載していることもあり、通常型の戦車と比べて砲弾の数は半分ほどしかない。そのため指揮戦車の乗員は高い練度が要求されるのである。

 前川も自身の乗員の腕を信頼しているが、部下たちの訓練の成果を自分の眼で見られるのは嬉しかった。

 周りでも配下の戦車が敵部隊に砲弾を浴びせており、それらはほぼ外れることなく敵に命中していた。対する敵は何が起こったのか分からないようで、こちらに突撃しては損害を増やしている。

 稀に戦車の近くまで接近してくる敵兵もいるが、それらは戦車の前面にある7.7mm機銃や、後方にいる一式装甲兵車、一式半装軌装甲兵車から降車した歩兵たちによって、戦車に取り付く間も無く掃討されていく。

 

(敵さんのお手並み拝見と思っていたが、こりゃ余りにも一方的すぎるな……)

 

 前川は敵を圧倒しているという興奮を覚えつつ、その一方で自軍と敵の余りの差に思わず同情する。

 そうこうしているうちに敵は戦意を喪失したのか、こちらに背を向けて敗走し始めた。すかさず歩兵部隊が戦車の代わりに前に出て、敵残存部隊の掃討に取り掛かる。

 前川も「撃ち方止め!」の命令を出そうとしたが――

 

「た、隊長! 敵騎兵が一騎、こちらに突撃してきます!!」

「何だと!」

 

 前川は報告に驚愕し、すかさず車長用のバイザーから前方を見た。

 確かに一騎の騎兵が突撃してくる。歩兵部隊が阻止しようと小銃を撃つが、馬が早すぎるのか銃弾は全て外れてしまう。

 

「内田! 機銃で阻止しろ!!」

「了解!!」

 

 前川の命令を受けて、無線手兼銃手の内田一等兵が九七式車載機関銃に取り付いて発砲を開始し、7.7mmの曳光弾交じりの実包が毎分450発の発射速度で敵に向かう。

 しかし敵は馬の進路を頻繁に左右にずらすことで銃弾の雨をかいくぐり、尚も突撃してくる。

 

「クソっ!」

 

 前川は罵声を漏らすと、腰の十四年式拳銃に手を伸ばした――

 

__________

 

 

「うおおおおおおぉぉぉっ!!!」

 

 東部諸侯団に所属する女騎士イザベルは、愛馬を駆って鉄の怪物――戦車に向かって突撃する。

 既に苦楽を共にした戦友や部下はこの世に居らず、この場にいるのは自分だけだ。それでも彼女は敵である日本軍への攻撃を止めようとはしなかった。

 

(おのれ!! よくも仲間たちを!!)

 

 彼女はその復讐心だけを頼りに突き進んでゆく。

 今片手に持っているのは、貴族階級である彼女の一族に代々伝わる騎兵槍であり、一族の人間は皆これを持って戦場に出たのだという。

 元々東部諸侯団にはイザベルの父が参加するはずであったが、前日になって父が病に倒れたため、代わりに彼女が領地の兵を引き連れて出征することになったのだ。しかし今や、その兵達も日本軍の攻撃で壊滅してしまっている。 

 だからこそ彼女は、自分たちの常識外の攻撃をした日本軍を許すことは出来なかった。

 

(もう少しだ!)

 

 イザベルは心の中で自身を叱咤しつつ、愛馬を駆る。

 途中で鉄の怪物から見たことのない火矢の様なものが放たれるが、イザベルは乗馬が得意だったこともあって難なくそれを避けることが出来た。

 

「これで終わりだっ!! 怪物がぁぁっ!!!」

 

 イザベルは叫びながら、戦車に向かって勢いよく槍を突き刺した。

 しかし――

 

 ――バキィッ!!

 

 ――突き出された彼女の槍は、一式中戦車の表面硬化処理された50mmの装甲を貫くことは出来ず、先端が砕き折れてしまった。

 

「な、何だとっ!!」

 

 イザベルは折れてしまった槍を見て、思わず呆然とする。

 その時怪物の上面が開き、中から敵兵らしき人間が出て来た。慌てて剣を抜こうとするが、敵の方が一足早かった。 

 敵が持っていた変な鉄の塊が火を噴くや、イザベルは胸に熱い衝撃を感じ、その場に崩れ落ちた――

 

__________

 

 

「女だったのか……」

 

 前川少佐はたった今射殺した敵兵の顔を見て、思わず呻いた。

 敵を阻止するために無我夢中で拳銃を撃ったものの、相手が17、8歳ほどの女性であると分かると少し罪悪感がこみ上げてくる。だがこれも戦争だ、仕方ない――彼はそう自分に言い聞かせた。

 

(しかしアンタ、よくここまで来たよ……)

 

 前川はそう心の中で賛辞を贈ると、名も知らぬ敵兵に向かって敬礼をした。傍らでは他の部下達も同様に敬礼をしている。

 戦いは既に掃討戦に移行しており、通信によると最後の敵部隊が降伏したという。

 名実ともに自分たちの勝利と考えて間違いないだろう。

 

「やれやれ、やっと終わったな……」

 

 前川はそう呟くと、上空を仰ぎ見た。

 そこには何十機という航空機の群れが一路西を目指している。

 ロウリア軍の本隊を叩くための爆撃機部隊であった――

      




 いかがでしたでしょうか?
 感想、評価など、よろしくお願いします!!


 では、今回登場した兵器の紹介を。

・一式中戦車「チヘ」

全長:5.75m
全幅:2.37m
全高:2.4m
重量:自重15.5t
速度:44km/h
行動距離:210km
武装:48口径57mm戦車砲×1(砲弾100発)
   7.7mm九七式車載重機関銃×2[車体前方、砲塔後方](弾薬4000発)
装甲:車体・砲塔正面50mm、側面30mm、後面25mm(表面硬化処理装甲)
エンジン:240馬力空冷ディーゼル
乗員:5名


 日本陸軍はノモンハンにおける一連の戦闘において「チハ」の能力に満足し、当面はこれを主力とすることを決定した。しかし1939年9月に欧州大戦が勃発、列強各国の戦車が驚異的な進化を遂げるにあたり、陸軍上層部は慌てて新型戦車の開発を開始した。その結果誕生したのが本車である。
 主砲である48口径57mm戦車砲はイギリスが開発した「6ポンド対戦車砲」を輸入し、これを参考に開発されたもので、870m毎秒の初速で85mmの装甲を1km先から貫徹することが可能だった。また自身の装甲はドイツから導入した「表面硬化処理装甲」を導入、防御力の向上に大きく寄与した。
 現在は九七式中戦車の後継としてその数を増やしつつあり、戦車部隊の中核となることが期待されているが、異世界転移により日本国の「61式戦車」「74式戦車」の情報や、「過去の」戦争の情報が入ってくると、これでも力不足であると見なされるようになり、現在後継戦車の開発が急がれている。



 読者の皆様には大変申し訳ありませんが、作者の都合により一か月~二か月ほど更新が止まるかもしれません。
 ですが、都合がつき次第再開していきますので、どうか長い目で見て頂けるとありがたいです。
 これからも『八八艦隊召喚』をよろしくお願いいたします!

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