これを見たとき、思わず二度見しました。
本当に感謝です!
世界の果てで……
そう遠くない未来
ラティストア大陸、およびラヴァーナル帝国出現予想海域
「ラティストア大陸の出現予想時刻まで、あと三十分。」
「ブルーリッジ」を参考にして建造された指揮専用艦「おおよど」の薄暗いCICの中に、無機質なオペレーターの声が響く。
その声を受けて、今回の「対魔帝世界連合艦隊」の総指揮官である上原 則之海将は、オペレーターに向かって頷くと、隣にいる幕僚長の森本に声を掛けた。
「こうして待つというのは、やはり緊張するな。来ないでくれと思いつつ、どこかで来てほしいと思ってしまう。
しかし、本当にラヴァーナル帝国の出現はこの海域なのか?
エモール王国の『空間の占い』だって、詳しい日時や場所は判らなかったじゃないか。
もし座標が間違っていたら、とんでもないことになるぞ。」
「ありとあらゆる情報や報告、証言および条件を総合的かつ詳細に分析、判断した結果、この日時、この場所で間違いないと断言できます。
特にアニュンリール皇国から鹵獲・押収した文書や機械、捕虜とした有翼人を尋問して得られた証言、神聖ミリシアル帝国やレムリア連邦、メガラニカ共和国の情報部が、最大限の努力を払って届けてくれた情報が役に立ちました。
絶対にこの日、この海域です。」
森本幕僚長は未だ心配そうな上官に向かって、力強く言った。
「しかしまあ…艦橋から見てみたが、とんでもない数の軍艦が集結したな。特にミリシアルとムーはもちろんだが、米国や大日本帝国の艦船も多い。レムリア連邦やメガラニカ共和国の船もだ。
『海が三分に、船が七分』とはよく言ったものだ。」
「参加艦艇の数なら、我が海上自衛隊も負けていません。海自の八割以上の護衛艦と第七艦隊の全艦がここに居るんですからね。
しかも、付近の航空基地に展開している空自の部隊や帝国陸海軍、米国の航空部隊や、この世界各国の選りすぐりを集めた『世界連合航空隊』に所属する『風竜騎士団』等の航空戦力もいます。
それを合わせて考えると、七分ではなく八九分にも届くかもしれませんよ?」
「全くすごいものだ。これほどの大艦隊を指揮する立場になってみると、誇らしいと思うよりも緊張が先に立ってしまうな。
他にも適任者は居るだろうに…」
すると、これまで黙って隣で話を聞いていた、竜人族のウージが心外そうに言った。
「お前はこの大艦隊を見て緊張するのか?
私ならば誇らしいと思うぞ。武人の誇りここに有りだ。今すぐにでも代わりたい。」
「いえ、沢山の命が私一人の命令ミスで失われるかもしれないと思うと、どうにも…」
「もう賽は投げられたのだ。今更どうこう言っても仕方ない。ここに居る我々が負ければ、この世界はラヴァーナル帝国の支配下となる。
命がどうこう言っている場合ではない。全滅しても勝利を勝ち取らなくては。」
「ウージ殿の言うとおりです。この作戦に参加している者は全員が死ぬ覚悟でいます。ラヴァーナル帝国の噂が本当ならば、我々に残された道は、死か奴隷です。
そうならない様に、そして貴方が判断を誤らないように、精一杯補佐するのが私達『連合参謀団』の役目です。我が国は日本国には恩がありますから、尚更です。」
ムー国から派遣された参謀の一人、シットラスがそう言うと、他の各国の参謀達からも、口々に同意の声が上がる。
「大丈夫ですよ上原海将。我々帝国海軍は、海上自衛隊と何度も合同演習をしていますし、日本国から提供された噴進兵器の運用にもすっかり習熟しました。
子孫の兵器を搭載し、生まれ変わった八八艦隊と帝国海軍を、どうかご信頼ください。必ずや戦果を挙げてご覧にいれます。」
帝国海軍の第一種軍服に身を包んだ千早 正隆大佐がそう言うと、アメリカ海軍から派遣されたグレース・ホッパー大佐が続けて言った。
「今回の作戦は、敵であるラヴァーナル帝国に対して先制攻撃を加え、迎撃体制を整えさせる暇を与えずに大打撃を加えることが目的です。
その為に我がアメリカ軍最新鋭の戦略爆撃機、「B-56」の無線操縦型を500機余り後方に展開させています。
いくら連中が知覚系の魔法に優れていても、懐かしの古巣に戻ってからすぐに攻撃を受けるとは思わないでしょう。
歓迎パーティーの準備は、相手に秘密で行うものですからね。」
そうホッパー大佐が茶目っ気たっぷりに言うと、CICの中に笑いが巻き起こった。
今回の対ラヴァーナル帝国先制攻撃作戦……『オペレーション・レジスタンス(侵略への抵抗作戦)』は傍目に見れば、いたって単純なものである。
つまり、ラヴァーナル帝国が『ただいまー』と玄関をくぐった矢先に、『こっちくんな』とばかりにミサイルによる飽和攻撃と艦砲射撃で袋叩きにし、その後敵本土への上陸を敢行して、戦争遂行能力を完全に奪うことがその骨子なのだ。
(ありがとう、ホッパー大佐、千早大佐。)
上原は心の中で、緊張を解してくれた二人に礼を言った。
そう、もはや後戻りはできない。
改めて気を引き締め直した直後、オペレーターの声がまた響いた。
「出現予想時刻まで、あと十五分。」
「では、そろそろ取り掛かりますか。」
上原はそう参謀達に告げて、前を見据えた。
CICから直接見ることはできないが、そこには大艦隊が展開している。
彼らを一人でも多く生きて帰すことが、自分の使命だ――。
そう、思うのだった。
同日、同時刻、同海域
戦艦「戸隠」艦上
「そろそろかな。」
戦艦「戸隠」艦長を今年に拝命したばかりの坂本 信吾大佐は、振り返って副長の田坂中佐にそう告げた。
「はい。作戦開始まであと十五分くらいですね。」
「そうか。あと十五分か。
それにしてもこの光景には未だに慣れないぜ。
合同訓練で飽きるほど見てきたけど、船の博覧会みたいだっていつも思うんだよなぁ。木造船から未来の船までが揃って航行してんだから。」
「そうですね、私も慣れませんよ。
しかもこの『戸隠』も、他の姉妹艦も、他の八八艦隊の戦艦も、艦容がすっかり変わってしまいました。
何せ後部砲塔を全撤去して、代わりに対艦、対空噴進弾をごまんと搭載しましたので。改装後の姿を見たときは『これが戦艦かよ…』と私でさえ思いました。」
「全くだな。だがあの噴進弾…ミサイル、とか言ったか?
あの兵器の威力は実戦で証明済みだ。本物より多少性能を落としてでも開発・量産したのは正解だったな。」
「その通りだと思います。」
坂本は信頼する副長の言葉に頷き、改めて艦橋より周辺を見た。
左側を見ると、『穂高』、『蓼科』、『乗鞍』の他の姉妹艦が、揃って海原を進んでいる。紀伊型、天城型など、他の八八艦隊計画艦もいるし、少し遠くには大和型、派遣艦隊旗艦の飛騨型の姿もある。
右側には、ミズーリ級やルイジアナ級、ワイオミング級や『ユタ』などの米海軍の戦艦に交じって、戦艦『フロリダ』――元『グレードアトラスター』の姿が見える。対グ戦争終結後、鹵獲されていたものを賠償艦として米海軍が接収、運用している戦艦だ。
少し遠くを見てみると、神聖ミリシアル帝国のミスリル級、ゴールド級などの魔導戦艦や、ムーが運用する『ラ・カサミ』級も見えるし、米国と血みどろの戦いを繰り広げたレムリア、メガラニカ両国の魔導戦艦群も見える。
ここからでは見えないものの、アガルタ法国やトルキア王国、二グラート連合などの「文明圏国家」が運用している魔導戦列艦や魔法船団、先の戦争の敗戦国であるグラ・バルカス帝国――今は共和国だが――の艦船も何隻か、共に進撃しているはずだ。
さらに後方には、艦隊上空の直掩と航空攻撃を行うために、空母や竜母が五十隻以上展開している。
もちろん日本国の海上自衛隊も、多数の護衛艦を繰り出している。
「出現まで、あと十分!」
「総員、第一種戦闘配備!」
あちこちで似たような命令が飛び、復唱が返される。
戦いの狼煙は、もう上がっているのだった……。
いかがでしたでしょうか?
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次回から本篇です。