八八艦隊召喚   作:スパイス

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第四話 交渉2

 二週間ほど前

 昭和17年(1942年)1月15日

 アメリカ合衆国 ワシントンDC 国務省

 

 

「……俄かには信じがたいお話ですな。ミスター・クルス。

 しかしながら、ここ二週間の間に我が国に起こった様々な不可思議な出来事を勘案すると、貴国の情報には一定の信頼性があると判断せざるをえません。

 それにしても……『異世界転移』ですか……」

 

 国務省の応接室で、アメリカ合衆国国務長官のコーデル・ハルは、大日本帝国の全権特命大使として来米した来栖三郎と、駐米日本大使の野村吉三郎の顔を交互に見つめながら、疲れたような口調で言った。

 

(国務長官も相当疲れているな。この状況に…

 まあ、しかたのないことではあるが。我が国だって前もって『お告げ』が無かったら、正気ではいられなかっただろう……)

 

 野村大使は、ハルとアメリカを取り巻く状況に同情を覚えた。

 この二週間、米国の状況は『パニック』と表現しても差し支えなかった。

 新年に入った時刻を境として、次々と不思議なことが全米で発生したからだ。

 まず、米本土全域で震度3弱の地震が観測されたのを皮切りに、北にあるメイン州からワシントン州までの州政府から『カナダが無くなって、海が出現した!』という悲鳴のような報告が飛び込んできた。

 さらに南部のテキサス州やニューメキシコ州、アリゾナ州、カリフォルニア州からも、『メキシコが無くなった!』という報告が矢継ぎ早に連邦政府に届き始めた。

 大統領であるフランクリン・ルーズベルトは、この時点で『何らかの異常事態が発生した』と判断し、州政府に情報の統制を要請、同時に陸海軍と沿岸警備隊には厳戒態勢に入らせ、各州政府も州兵を動員し始めた。

 ハワイの太平洋艦隊司令部も命令を受領したのち、直ちに飛行艇と潜水艦で哨戒に当たらせたが、西に向かった飛行艇群より『ニューヨークが見える!』という報告が相次ぎ、騒然となった。

 また『アラスカの東側が海になった』『何千キロも離れているはずのマーシャル諸島が、カリフォルニアの西1500kmの地点にある』『五大湖が消滅』『ハワイが大西洋にある』『ハワイの東方海上に向かった飛行艇と連絡がつかなくなった』……などなど、数え切れないほどの通信や報告がホワイトハウスに飛び込んだため、政府関係の職員は全く家に帰れない状態だという。

 さらに、人の口に戸は立てられなかったらしく『アメリカが沈没する!』『宇宙人が攻めてきた!』『ドイツ軍が海を渡って侵攻してくる!』などの流言が国民の間を飛び交ったため、各地で混乱や暴動が発生、内陸に逃げ出す人々が相次いだらしい。

 ルーズベルト大統領以下、政府の報道官が新聞やラジオを通して『心配はいらない』『何かが攻めてきたわけではない』『落ち着いて行動し、政府の発表を待ってほしい』と呼びかけたのが功を奏し、家に戻ってくる人は増えたが、まだ混乱や不安は収まっていない。

 そして追い討ちをかけるように、この日本の情報である。

 野村は、ハルがかわいそうとこれほど感じたことはなかった。

 

「信じてもらえないのは、我が国としても承知しております。

 しかし、これは紛れも無い事実です。

 現に我が国も、貴国以外の国と連絡が全く取れません。『存在』の言うことが正しかったことは、これではっきりしました。もはや帝国と貴国は、別の世界に転移してしまったのです。」

 

 来栖が言うと、ハルは首を傾げて質問した。

 

「貴国のこれまでの未来を見通すかのような行動が、その『存在』なる者のお告げであったことは分かりました。しかし、何者なのです?その『存在』とは?」

「我が国の一部の人間は、天皇陛下とその皇族の方々が中心となってお告げが下賜されていることから、我が国の神話に登場する『天照大神』であると主張していますが、はっきりと断定するには証拠が不十分でして……」

「つまり『正体は判らない』、そういうことですね?」

「ええ、そういえます。」

 

 来栖がそう言うと、ハルはため息をついて言った。

 

「たしかにこれは、人智の及ばない者の仕業かもしれませんね。まあ、『人』であるかどうかもあやしいですが……

 ですが、それを伝えにわざわざ来られたわけではありますまいな、特命大使殿?」

「仰るとおりです。国務長官閣下。

 我が国と貴国は長年の間、友誼を結んで参りました。それを今回の事態を踏み台として、より上の関係に発展させたいと、我が国の政府は考えております。」

「つまり……我がアメリカと、同盟を結びたいと?」

 

 ハルが外交官としての顔になって聞くと、来栖は頷いて、持参していた箱から文書を取り出して言った。

 

「はい。軍事同盟だけではなく、技術交流の面でも関係を深めたい、というのが総理大臣と軍部の考えです。

 異世界に転移してしまった現在、この世界にどんな国家、勢力が存在しているか、全く情報がありません。最悪、我々の常識が通用しない世界であった場合、国防上重大な問題が発生する可能性があります。それを共同で対処し、解決していこうというのが、同盟を提案する理由です。

 こちらが、その同盟に関する我が国からの仮提案の概要と、近衛文麿総理大臣の親書になります。

 そしてこちらが……」

 

 来栖はうやうやしい手つきで、綺麗な黒い漆の箱を取り出した。

 それを見て、野村はハッ、となった。

 箱の蓋には、菊花紋章が大きく描かれている。

 ハルもそれを見て、目を僅かばかり見開いた。

 

「天皇陛下より、ルーズベルト大統領閣下に宛てた親書になります。

 陛下からは、貴国に対し、最大限の協力と援助を惜しまない旨、伺っております。」

 

 来栖がそう言って笑みを浮かべると、ハルも会談に入ってから、初めて笑みを浮かべた。

 

「エンペラーからそう言って頂けるとは、本当に感謝に堪えません。

 同盟の話と親書は、大統領閣下に必ず、お届けするとお約束しましょう。」

「ありがとうございます。国務長官閣下。」

 

 来栖と野村は、揃って頭を下げた。

 

 

 

 

 西暦2015年(中央暦1639年) 1月28日

 日本本土より東に2700km 護衛艦『いせ』艦内

 

 

 航空偵察で確認された「もう一つの日本」に対して派遣された、外交官の一人である進藤昭三は、『いせ』の艦内で緊張していた。

 つい昨日、日本の南西にて発見された、『未知の大陸』に対するファーストコンタクトに、一応成功した外務省は「この調子で『もう一つの日本』とも国交を樹立せよ」と、現場に発破をかけている。

 

(だからと言って、中央は性急すぎるだろう……)

 

 とは、進藤の言である。

 向こうと同じ『日の丸』を掲げているからといって、相手が友好的に出迎えてくれるという保障は無いし、そもそも海岸線が同じだからといって、同じ日本とは限らないのだ。

 最悪、別物の国家という可能性だってあるし、同じ日本人が住んでいるという確証も無い。もし領海侵犯と思われて攻撃でもされたらどうするのか。

 一応、万が一の為に海自のミサイル護衛艦と汎用護衛艦が二隻ずつ付いているし、外交官や自衛官達は、書店から買い集めた『自衛隊と帝国陸海軍』が出てくる架空戦記を読み漁って接触に備えているが、それでも緊張は拭えない。

 もし、攻撃されたら?

 もし、常識が通用しなかったら?

 もし、日本と何の関係も無い国だったら?

 

「外務省の方。」

 

 振り返ると、自衛官が立っていた。

 

「CICからの報告で、水上艦の反応を捉えました。こっちにやって来ています。ご準備を。」

「ああ、分かった。」

 進藤はこの心配が杞憂であってくれと、これほど願ったことはなかった。

 

 

 同日 同時刻

 護衛艦『いせ』 艦橋

 

 

「もうこれで何回目だ?接触は?」

 

 護衛艦『いせ』の艦橋内で、艦長の犬塚文治1等海佐は、窓から上空を仰ぎ見た。

 視線の先には、単発の水上機が、艦隊の周りを旋回している。

 明らかに海自の所属ではない。

 しばらく旋回した後、水上機は情報を得て満足したのか、東の方角に引き上げていった。

 これで接触を受けるのは五回目だ。内訳は水上機が二回、飛行艇が二回、戦闘機らしき単発機が一回である。戦闘機が来たときはヒヤヒヤしたが、別段何もせずに引き上げていったので、胸を撫で下ろした。

 他にも潜水艦の存在が確認されており、定期的に無電(もちろん暗号化されている)が飛び交っていることから、艦隊の動きは全て通報されていると判断してよい。

 もうすぐ、臨検のために水上艦艇がくる。

 

「CIC、相手の反応はどうだ?こちらに近づいているか?」

「ええ、真っ直ぐこっちに向かってきています。速度は26、7ノットですね。

 反応は一万トンクラスが二隻、これは重巡洋艦と思われます。それを囲むようにして五~六千トンクラスの反応が一隻、そして二千トンクラスが八隻です。二千トンは、おそらく駆逐艦でしょう。」

「判った。引き続き頼む。」

 

 犬塚はそう言って、再び窓の外を見た。

 

 

 同日 同時刻 同海域

 帝国海軍 第十戦隊 

 

 

「そろそろ謎の艦隊を捕捉できそうだな、艦長。」

 

 第十戦隊から分派された重巡『鈴谷』の艦橋で、司令官の栗田健男少将は、艦長である小林大佐に向かって言った。

 艦橋からは僚艦である『熊野』の他、第四水雷戦隊の軽巡洋艦『那珂』、そしてその隷下にある第四駆逐隊の駆逐艦『萩風』『嵐』『野分』『舞風』、第九駆逐隊の『朝雲』『山雲』『夏雲』『峯雲』が見える。全てここ数日の内に増派された艦艇だ。

 日本海に突如として現れた『謎の艦隊』に対して臨検を実施すべく、現在艦隊は27ノットで東に向かっている。

 先に触接した水上機の報告によれば、『謎の艦隊』は空母らしき艦二隻と、その護衛艦らしき艦四隻で構成されており、20ノット程度の速力で本土に接近中だという。更に水上機は『不明艦は全て、マストに日の丸を掲げている』と報告しており、それがより一層の得体の知れなさを感じさせていた。

 

「本艦の前方に、不明艦出現!」

「距離は!」

「約一二〇(1万2000m)!」

 

 見張り員の報告に、栗田は良く通る声で下令した。

 

「よし、ゆっくりと接近せよ。ただし発砲は別命あるまで禁止とする。

 同時に不明艦に発光信号、『我、大日本帝国海軍軍艦「鈴谷」、貴船は何者なるや?』だ。」

 

 艦隊はゆっくりと、しかし着実に近づいてゆく。

 発光信号を送って少しすると、空母らしき艦の艦橋から返答の信号が返されてきた。

 

「不明艦より返答!『我、日本国海上自衛隊護衛艦『いせ』、当方に交戦の意思あらず。

 なお現在、我が艦には外交使節が乗艦しており、貴国政府と会談を希望する。』以上です!」

「日本国?海上自衛隊?」

「聞いたことがあるか?」

「いえ、全く……」

 

 『鈴谷』の艦橋が騒然とする中、栗田は比較的落ち着いていた。

 

「艦長、あの船にカッターを出せ。外交使節が乗っているのが本当なら、無下にはできない。

 直接見て確かめるんだ。万が一に備え、なるべく腕の立つ者で編成せよ。また、高圧的な態度は厳に慎むように。」 

「了解いたしました。司令官。」

 

 小林艦長が部下に下令する間、栗田は双眼鏡で不明艦を見た。

 かなり大きく、旗竿には日本人にとって馴染み深い『日の丸』が潮風にはためいている。

 それを見て、栗田は思うのだった。

 (これは、帝国にとって大きな転換点になる。)と………

 

 

 

 この三日後、日本国の使節は、無事に帝都東京に到着。外務大臣の東郷茂徳と会談することに成功した。そしてこの一週間半後には無事に国交が樹立される運びとなり、内心で国民の期待を一身に背負いつつ、この世界に不安を抱えていた日本国および帝国外務省は、大きく胸を撫で下ろした。

 この時に日本国と大日本帝国は、それぞれが『似ているようで違う』ことを改めて実感したという。

 さらに、国交樹立の一ヶ月後には、アメリカ合衆国とも友好条約を締結することに成功した。

 

 一方、ロデニウス大陸でも、日本国、大日本帝国、アメリカ合衆国はクワ・トイネ公国、クイラ王国とも、最初の接触から一ヶ月後にはそれぞれ国交を樹立、友好条約を締結した。

 しかし、まだ誰も分かっていなかった。

 これから巻き込まれていく波乱の、ほんのひと時に過ぎなかったことに……

 




 いかがでしたでしょうか?
 夢中で書いていたら、時間があっという間に過ぎてしまいますね。
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・最上型重巡洋艦
同型艦:『最上』『三隈』『鈴谷』『熊野』
基準排水量:1万2200トン
全長:200.6m
全幅:20.2m
速力:35ノット
機関出力:15万2000馬力
兵装:50口径20.3㎝連装砲5基10門
   40口径12.7㎝連装高角砲4基8門
   61㎝3連装魚雷発射管4基 
   25mm3連装機銃4基12挺、連装機銃2基4挺

「マル1計画」によって建造された巡洋艦。1935年から37年に就役。
当初は軍縮条約の制限に従って、60口径15.5㎝3連装砲を5基15門搭載した『軽巡洋艦』として建造されたが、1937年に条約が効力を失うと、主砲塔を換装して重巡洋艦に生まれ変わった。
なお、この艦のせいで、米海軍や英海軍に「小口径砲多数を搭載した巡洋艦」というやっかいな『軽巡洋艦』が多数誕生したのは秘密である。
また『鈴谷』以降は機関の缶数が違うため、『鈴谷型』と呼ばれることもある。

・川内型軽巡洋艦
同型艦:『川内』『神通』『那珂』『加茂』『木津』『名寄』
基準排水量:5195トン
全長:162.5m
全幅:14.2m
速力:35.3ノット
機関出力:9万馬力
兵装:50口径14㎝単装砲7基7門
   61㎝4連装魚雷発射管2基 魚雷16本
   25mm連装機銃2基4挺

「八八艦隊計画」によって建造された、水雷戦隊旗艦用の軽巡洋艦。
当初は八隻建造の予定だったが、軍縮条約のために六隻に減らされた。
老朽化が進んでいること、新鋭の駆逐艦が多数就役していることなどから、代艦の建造が望まれている。


・陽炎型駆逐艦
同型艦:『陽炎』『不知火』『黒潮』『親潮』『早潮』『夏潮』『初風』『雪風』『天津風』『時津風』『浦風』『磯風』『浜風』『谷風』『野分』『嵐』『萩風』『舞風』『霜風』『沖津風』『早風』『大風』 計22隻
基準排水量:2000トン
全長:118.5m
全幅:10.8m
速力:35ノット
機関出力:5万2000馬力
兵装:50口径12.7cm連装砲3基6門
   61cm4連装魚雷発射管2基 魚雷16本
   25mm連装機銃2基4挺
   爆雷36個

「マル3計画」で18隻、「マル4計画」で4隻が建造された、『朝潮型』に続く新鋭駆逐艦。1939年から41年にかけて完成した。
『朝潮型』では航続距離が短く、また旋回範囲が大きいなど不満があった帝国海軍は、艦隊型駆逐艦の集大成として『陽炎型』を計画、航続力を強化した。
また竣工当初より酸素魚雷を標準搭載した最初の駆逐艦でもある。
本級が搭載する酸素魚雷は、うまく使えば戦艦などの大型艦をも一撃で撃沈しうるものであり、今後の活躍が期待される。
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