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国交締結より二週間後
昭和17年(1942年)2月25日
大日本帝国 帝都東京 政府・軍連絡会議
大きな会議室の中には、多くの人間が座っていた。
年齢、服装等、様々な人がいる中で、彼らに共通する事は、全員が会議室正面に掲げられた巨大な映写幕に見入っていた、という事であった。
映写機はとある街並みを映し出していた。
ニューヨークもかくやと言わんばかりの、巨大なビル群。
その中でも一際目立つ、バベルの塔のような白い電波塔。
沢山の自動車が走る、綺麗に舗装された道路。
見慣れた電車とは似ても似つかない、未来的な通勤電車。
『弾丸列車』とは隔絶した高速で走る、白く流麗なデザインの列車。
空港に並べられた、何機あるかも分からない巨大なジェット機。
『すまほ』なる小型端末機を、手足の如く操る人々。
それらの人々を支える、完璧なインフラ。
映像が変わり、今度は別の映像が映し出される。
巨大な大砲を持つ戦車が高速で走りまわり、目標に的確に砲弾を撃ち込む。
完璧に統制され、その通りに行動をする迷彩服の兵士たち。
兵士たちが銃を構えると、凄まじい発射速度で銃弾が飛んでいく。
その兵士たちを輸送する、沢山の装甲兵員輸送車やトラック。
大砲が一門しかないが、凄まじい破壊力と命中精度を発揮する噴進弾を多数搭載した艦艇。
どんな目標であろうと完璧に捕捉し、相手を攻撃できるレーダー。
『原子力』なる動力で動く、島のような空母。
音速を超える速度で、高空を飛翔するジェット戦闘機。
映像が終わると、参加者達は口々に感想を言う。
「すごいな……『未来の日本』とはあんな感じなのか……」
「見ているだけで国が豊かなのが分かる。」
「敗戦からたった七十年で……やはり違う世界でも『よかった』と思えるな。」
「未来の兵器とはいえ、凄まじい威力と精度だなあ……」
「それだけじゃない、それをささえる通信や電波兵器の進化も目覚ましいものがある。」
頃合いを見計らって、首相の近衛文麿が立ち上がると、周りは一斉に静まり返った。
「参加者の皆さん、ご覧いただいた映像は六日前に撮影した『未来の日本』を映したものです。
我が国とは何もかもがまるで違う。人々を支えるインフラ整備の凄まじさや兵器の進化もですが、我々の予想以上の進化、発展をあちらの日本は成し遂げている。
この『平行日本』とどう付き合っていくか、皆さんのご意見を賜りたい。」
近衛が座ると、軍令部総長の山本五十六大将が立ち上がって言った。
「この『平行日本』を様々な視点からみたが、兵器の進化は隔絶したものがある。音速を超える航空機や、特殊兵器を搭載した軍艦もだが、一つはっきりしたことがある。
これから我が海軍が採るべき道は、航空戦力を中心とすべきだ。
あちらの『過去の戦争』で、航空機が戦艦を撃沈した事例が五度もある以上、『航空機と戦艦は、どちらが優位か』という長年の論争は、もはや決着したといえる。
これからの海軍軍備は、空母と航空機が中心となるべきだ。」
山本が言い終わるか終わらない内に、海軍軍服の列から否定的な声が上がった。
「山本総長、それは少々結論を出すのが性急ではないか?
これらの戦艦が撃沈されたのは、戦場での制空権をほぼ喪失していたからこそ起こった事例であり、例外的なことであると思われる。
それに『あちらの歴史』を調査したところ、五度の内一度は、ドイツ軍が少数運用した『フリッツX』なる特殊兵器によるものであり、これをカウントするのは無理がある。
それに『我々の歴史』では、過去に航空機が戦艦を傷つけた事例はあっても、撃沈した例は無い。
山本総長の言い分は、無理矢理に過ぎる。」
連合艦隊司令長官の嶋田繁太郎大将が山本を見据えながら言うと、山本も負けじと言い返す。
「しかし、航空機が戦艦を撃沈したのは事実だ。それに、航空機の援護が必要なこと自体、戦艦の限界を示している。
そもそも戦艦という艦種の汎用性は、無きに等しい。」
「だからといって、また検証が不十分な段階で航空戦力の拡充など……」
「お二人とも、その辺で。」
海軍大臣の堀悌吉大将が、宥めるように言った。
「今回の会議の骨子は『未来の日本』とどう付き合っていくかです。
その議論は海軍の中でしていただきたい。」
陸軍大臣の東條英機大将が咎めるような口調で言うと、隣に座っている参謀総長の永田鉄山大将も頷いた。
「分かりました…」
「………」
二人がしぶしぶ席に着くと、枢密院議長の原嘉道が立ち上がった。
「この映像からも判るとおり、『未来の日本』は驚異的な技術を数多く有しています。
これらの最先端技術のうち、少しでも我が方に取り入れられるものがあれば、積極的に取り入れるべきであると思う。」
「いえ、それは難しいと思います。」
原の言葉を否定したのは、情報局総裁の谷正之であった。(ちなみに『情報局』とは1940年に新設された内閣直属の政府機関で、史実とは異なり『内閣調査室』のような完全な情報収集機関である。)
「あちらでは異世界転移に伴い、『新世界技術流出防止法』なる法律が施行され、中核的な最先端技術や軍事転用可能な技術は、輸出そのものが禁止されているようです。
そもそも、未来の技術を我々が活かせるかどうか、まだ不明点が多すぎます。
映像にあった機械は、全て『コンピューター』なる高精度な計算機があるからこそ運用できているのであり、そのようなまだ構想すら固まっていない技術は、手に余ると思います。」
「しかし、何か導入できるものはあるんじゃないか? あちらだって何でもかんでも禁止している訳でもあるまい。でないと国交を結んだ意味がない。」
商工省の岸信介が言うと、外務大臣の東郷茂徳が言った。
「それに関しては追々結果が出てくると思います。現在我々とあちらの担当官同士で詳細を詰めているところですが、軍部の方々が熱望している軍事技術の輸出には、あちらも難色を示しているようです。」
「彼らにとっては旧式でも、我々には最先端の技術になるものもですか? 映像に出てきた『90式』や『10式』は無理でも、『74式』か『61式』なる戦車は、我が陸軍に是非とも導入したい。
あれがあれば、どんな戦車が来たって大丈夫だ。『チハ』がおもちゃに見えてくる。」
永田陸軍大将が興奮を隠しきれない声で言うと、山本海軍大将も目を輝かせた。
「あちらの軍事組織『海上自衛隊』が運用している護衛艦も、我が海軍にとって垂涎の的だ。
艦砲の届かない遠方から、戦艦を1、2発で廃艦にできる噴進弾などは、旧型でもよいから見せてほしいな。
あと、ジェット戦闘機…とかいったか? あれの情報も少しでいいから持ち込みたい。」
いい年をした男たちが、顔を子供のように輝かせて議論しているのを見て、近衛首相はため息をついた。
(全く、これだから軍部は……)彼は胸の内で呆れた。
(しかし、民生技術は此方としても欲しいな。そうすれば国民をもっと富ませることができる。そうすれば、陛下もお喜びになるだろう……)
近衛はそう思って、期待を膨らませた。
後日、詳細が詰められた技術の輸出に関する話し合いでは、軍事技術に関する物は導入がキッパリ断られたものの、民生技術に関しては、1940~50年代の中核技術のみ輸出が承認された。
また、軍事技術や戦術・戦略に関すること、また戦記や戦訓の報告書も、それが記載されている書籍等の購入は問題ないため、しばらく日本国の大型書店では、陸軍や海軍の軍服を着た男たちが列をつくっていたと言う……
西暦2015年 2月27日
日本国 東京
「以上が、『大日本帝国』に関する報告になります。」
使節の一員として帝国を訪れた、外交官の進藤はそう締めくくった。
周りがざわめく中、報告会に参加している防衛大臣が力なく笑って言った。
「唯でさえ『異世界転移』で頭が一杯なのに、今度は『パラレルワールド』か……それも『八八艦隊』だと?
俄かには信じがたいな……」
彼が言うと、経済産業大臣がそれに相槌を打つ。
「全くですね。ここまで様々なことが重なると、もう何にも驚きませんよ。
しかし、よくそんな艦隊を建造、維持するお金があったもんだ。下手すりゃ国ごと破産だぞ。」
「あちらでは『韓国併合』も『満州事変』も『日中戦争』も起こっていないんです。それくらいの予算は捻出できたんでしょうよ。おまけに樺太での石油の大規模な採掘と輸出、国内の産業基盤強化も平行して進めているっていうんですから、大したものです。
周辺国との軋轢がほとんどないのはうらやましい……」
外務大臣がため息をつきつつ言う。
「ともあれ、『大日本帝国』がどのような国かは概ね理解した。ぜひともかの国とは友好関係を保っていきたいと思うが、どうだろう?」
「それが一番だと思います。」
総理大臣の言葉に真っ先に賛成したのは、防衛大臣だった。
「かの国とは3000kmしか離れていませんし、国土の安全を保つためにも友好関係の構築は必須です。
また彼らは『もう一つのアメリカ』とも密接な関係を持っているため、無視することはできないと考えます。」
「私も賛成です。クワ・トイネ公国から食糧の輸入条項に関しては概ね合意がなされていますが、まだこの世界の文化や常識が十分判明していない以上、一つの国に食糧輸入を頼るのは危険があります。
もし彼らが禁輸でわが国に言うことを聞かせようと迫ったり、戦争が起こった場合、国民の食糧事情は瞬く間に悪化することでしょう。
その点、彼らは農業上位国であるアメリカと関係を保っており、彼らと手を携えていくことは大きな利点があります。
リスクの分散は、常に考えるべきです。」
農林水産大臣が続けて賛成すると、他の閣僚も次々と賛成していく。
最後には文部科学大臣だけが残された。
「どうした、文部大臣?」
総理が訝しげに問うと、文部大臣は躊躇いつつ言った。
「……こういうことを言うのは心苦しいのですが、もし『大日本帝国』と友好的な関係が構築できたとしても、それは一時的な事にすぎないのではありませんか?
だって、あの『大日本帝国』ですよ? もし将来、あちらが帝国主義に走って、戦争になったらどうします?」
「……私だって、そうは思いたくない。しかし、あちらが戦争を仕掛けてくるようなことがあれば、我々は全力で受けて立つことになるだろう。
でも、彼らは違う世界線とはいえ、同じ日本人だ。同族同士で殺しあうのは、あちらだって嫌だろう。
少なくとも今は、彼らを信じようじゃないか。」
総理が言うと、他の閣僚たちも頷いた。
そこで納得したのか、ようやく文部大臣も賛成した。
「日本国」と「大日本帝国」はこれでお互いの事を理解するきっかけを得ることができた。
しかし、異世界は全てがそうではなかった。
両国は二人三脚となって、異世界に立ち向かってゆくことになる……
いかがだったでしょうか?
お互いに理解し合うのは、難しいことであると思います。
次回からは、『ロデニウス戦役編』をお届けします。
これからも『八八艦隊召喚』を、よろしくお願い致します。