【再構成のため停止】レィル・クローターと魔法生物   作:antique

11 / 27
君を孤独から救いに来た

 

クリスマス休暇なるものがあったが、基本的にレィルがすることは変わらなかった。朝食を食べ、トランクの住人達に餌をやり、昼食を食べ、トランクの住人達に餌をやり、夕食を食べ、ヘルミオネに生気を与え、眠る。気がつけばあれよあれよと休暇が終わっていた。

レィルは校内を歩いていた。校長室から出てきたばかりである。

ようやっと賢者の石の罠の改良案が纏まったのでダンブルドアに提出しに行ったのだ。合言葉は変わらず「ピーナッツバター」だった。

ダンブルドアからの了解と許可を得たので改良を始めなければならない。ひとまず罠はこうなった。

 

三頭犬──フラッフィーに知能上昇薬を飲ませ、地形を三頭犬が一番戦闘しやすいものにする。扉はフラッフィーの背中に移動する。

悪魔の罠──感覚麻痺、目眩など体に異変はないが意識に異変がありすぎる植物を置く。ビリーウィグとスウーピング・イーヴルを放す。

空飛ぶ鍵──鍵の数の増量、並びに全ての鍵をトラバサミに変形させる効果を付与。ちぎれるまで離さない。

チェス──相手のターンを待たない「意思を持った駒」達による一斉攻撃。王が壊れるまで再生する。どんなに小さなミスでもやらかした瞬間に全ての駒が裏切る。

トロール──反射魔法をかけた鎧を着せる。武器も棍棒から鉈に変更。中のトロールが死んでも鎧が動く。

魔法薬クイズ──正解しても外しても焼かれる。水増しして消そうとしても消えない。

みぞの鏡──そもそもそこに賢者の石を置かない。レィルが所持しておく。

 

かなり鬼畜難易度だが、レィルからすればヴォルデモートの全力排除を目的としているならばあれぐらいなど生温いし、今回改良する罠の案もまだまだ足りなさすぎるのだ。

欲を言えば三頭犬を分霊箱にしたいし、悪魔の罠も一つ吸えば即死する魔法薬草を置きたい。チェスも最初から全部敵にしたいし、トロールじゃなくてズーウーにしたい。

しかし、自分だけが出入りするならいざ知らず、どこからか話を聞きつけたハリーとロナルドが入ってくる可能性があるとダンブルドアに示唆された。レィルは難易度を落とす他なかった。

 

(同級生のお守りまでしなくちゃならないとは、あの老害は何を考えている?)

「言うなよネイキッド。こっちだって参ってるんだ」

(ヘルミオネに吸われてる時の方が体力使うのにか?)

「ヘルミオネは僕の大事な家族だ。だからいいんだよ。ポッターとウィーズリーは他人だろ?」

(そうだな。しかもレィルとは比べ物にならないくらいに要らない子だ)

「相変わらず辛辣だなぁ……」

 

レィルは胸ポケットに忍ばせている一匹の蛇と対話していた。レィルは蛇語使いではないが、彼とならば人語でも話せるのだ。

ネイキッドと呼ばれた小さな蛇はテレパシーを持つシリンドミッションという個体の雄だ。閉心術の効かないテレパシー故に、ネイキッド(剥き出し)と名をつけた。

彼らはトイレに向かっていた。ただのトイレではなく、女子用で、使用されていない、しかもゴーストがいるトイレである。

以前にホグワーツの地図を作ってもらった時に、ある一定の場所で途切れていたのだ。ネズミたちに訳を聞けば、それ以上先にはある化け物がいて、そこから先は行けないのだと。

その場所こそが、3階の使用禁止トイレ。レィル達の目的地である。

 

「しかし、何がいるのやら。食べられたのが主に蛙や鼠ということは、化け物は蛇なんだろうけど」

(だから私を呼んだ、と?)

「でなきゃ意思疎通が出来ないだろう?」

(そうだがな。仕事をしたんだ、報酬はきっちり貰うぞ)

「分かってるよ」

 

レィルはネイキッドと彼の息子たちのことについて話していると、気づけばトイレに着いていた。やはり身内との会話は何物にも代えられないものがあると再確認した瞬間だった。

レィルは化け物が下水道の配管を通れる大きさだと仮定して、まずは手洗い場のあたりを探し始めた。が、やはりそれと言って特別なものはない。

特別な何かとは言い難いが、蛇口の取手に蛇が施されていた。探している動物ではあるが、レィルの探しているのは生きているものだ。

 

「ねーアンタ。なんでこんなとこいんの?休日だけど、使用されてない女子トイレに来てもの探しとか趣味悪いよ?」

 

不意に後ろから声がした。まだまだ若い、しかしわかる人にはわかる生気のない声だった。

振り返ってみれば、宙に浮かびながら仰向けになるおさげの眼鏡をかけた女の子がいた。レィルはこの子が嘆きのマートルであると確信した。

 

「趣味が悪いのは知ってるさ。トランクの中にスウーピング・イーヴルやズーウーを放し飼いにしてる奴が趣味がいいなんて言えないしね」

「え、ほんとに?こいつまじか」

 

まさか出てくるとは思わなかったマートルは一瞬でレィルから離れてトイレの個室まで後退した。言葉だけなら「またまたぁ」と茶化しもできるが、タイミングよく、マートルからすればタイミング悪くズーウーの唸り声がレィルの持っているトランクから聞こえたのだ。

 

「……いやまぁ、アンタの趣味は分かったけど、一番初めの質問に答えてなさいよ?なんでここにいんの?」

「そう言えばそうだったな。ある動物を探している。蛇なんだがな」

「あらそう?蛇なら蛇口の取手に付いてるじゃない」

「それは銀のだろう?僕が探すのは本物の……」

 

レィルはそこで留まった。マートルが「え、なになに。急に黙らないでよ」とか言っているが耳に入っていなかった。

その鼠のいう化け物が、下水道を通れる大きさだと仮定した。そこから1度はオカミーであると思った。

オカミーは入る穴の大きさに対して自らの大きさを変化させる特性がある。それなら蛇口から出入りできると考えたからだ。

だがもし、その化け物に人間との交流があったならば。その存在を秘匿するため、その者にしか扱えない言語ならば?

 

「ネイキッド」

(何だ?)

「ちょっと、この手洗い場に向かって「開け」って言ってくれないか」

(構わないがな……「開け」

 

ネイキッドがテレパスではなく自分の口で開け、と言ったことで、蛇口の取手の蛇は僅かに目を光らした。ズン、と重い音がした後、多くのブロックに割れた手洗い場の下に下水道が現れた。

 

「あー、ヤバい。トラウマが再発してきたぁ……」

「トラウマ?」

「アタシ、ここで殺されたのよ。なんでかは知らないけどね。いじめられっ子だったから、そこの個室でいつも泣いてたんだけどね。けどある日、誰か入ってきたのよ。何か言ってたけど、当時は外国語だと思ってたわ。それでさっきの手洗い場が変形する音が聞こえたの。鬱陶しくて『邪魔。出てって』ってことを伝えようとしたら…」

「ポックリ逝った、と」

「そういうこと。まさか蛇語だったとは……」

 

マートルは長年の謎が解けたようで、先程からトイレを右往左往している。レィルはそれに一瞥してから、開いた手洗い場を見た。

トランクの中からミローを出して、尻尾を指に括りつけずに放す。狭いとはいえ久々の外に、かなりミローは上機嫌なようであった。

 

「……ほんとに居たよスウーピング・イーヴル。しかも亜種個体って。ほんとに趣味悪いわね」

「お褒めに預かり恐悦至極。じゃ、行こうか」

「行ってらーい」

 

気怠い見送りを貰いながら、レィルはトイレを反時計回りに回るミローの背中に飛び乗った。ネイキッドがテレパスで指示を送り、ミローは下水道に突っ込んで行った。

下水道の本管に到着したレィルはミローをトランクの中に戻した。勿論お礼替わりの食料も忘れない。ミローには常日頃からお世話になっているため、他と比べてほんの少しだけ優遇してたりする。

しばらく歩いていると、大きな扉があった。ヒュドラが造形された扉で、やはりこれも蛇語で開ける必要があった。

ネイキッドに頼みまた開けてもらうと、その奥に大きな部屋があった。ある意味神秘的で、そしてある意味不気味な部屋だった。

奥に続く八対の柱、誰かを意匠しているだろう巨大な顔。そしてとぐろを巻いて寝る巨大な蛇がいた。

レィルはわざと靴底を鳴らすように歩いていく。僅かに足元が水に濡れているせいか、水の跳ねる音と靴の底が鳴る高い音が部屋に響いている。

 

「ネイキッド、同時翻訳で頼む」

(了解。オーダーに応えよう)

 

ネイキッドはレィルの胸ポケットから方へと移動する。何故かレィルのトランクの住人達はレィルの肩に居たがる。

 

「蛇よ。聞こえるか」

 

レィルの言葉をネイキッドが聞き、テレパスで蛇に伝える。蛇はネイキッドのテレパスにとろい動きで起き上がった。

蛇の体躯はレィルの身長を軽々と越し、ついには天井に当たろうという所まで来た。深緑の鱗、巨大な体躯、黄色の目から、レィルはそれがスリザリンの怪物、バジリスクであると予想した。

 

「起こして済まない。だが僕は貴方に話をしに来た」

『何用だ、小さき者よ。汝が我が主の継承者ならば話を聞こう。そうでなくとも、妾に意志を示せば、その話を聞いてやらんことも無い』

 

レィルはバジリスクが雌であることに驚きつつ、話を進めようと彼女の鼻を見た。目を合わせれば殺されると言われるバジリスクには、これが一番話しやすい目線の位置なのだ。

 

「僕は継承者ではない。主というのはサラザール・スリザリンなのか?」

『左様。我が主、サラザール・スリザリンはいつか来る継承者の訪問のその時まで妾をここに眠らせたのだ』

 

レィルはその言葉に、継承者がここを通るには蛇語使いである必要があることを見出した。ならばマートルが殺された時に、一度この場所が開かれている事になる。

 

『今から四十九年前、一人の男がここにやってきた。僕こそがスリザリンの継承者である、と』

「その時に、マートルを殺したのか」

『あの女生徒には悪い事をした。妾は無益な殺生は好まない。それは我の敬愛せし主もまた同じこと(・・・・・・・・・・・・・・)

 

レィルはその言葉に疑問を覚えた。純血主義の先駆者であるサラザールがそんなことを思うとは思えなかったのだ。

 

『主はマグルを恐れていた。数ではない。文明の力を恐れたのだ。993年という大昔に何を恐れたかと言われれば、マグルとの共生を試みた未来を見たのだ。主は予言にも秀でていた。故にほんの興味本位であったが、もしヘルガ・ハッフルパフのいう共生した未来を見たのだ』

「……その未来は?」

『いいとはいえない。寧ろ酷すぎる。ただ魔法が使えるからと言って奴隷化し、それをどこでも容認している。主が生きていた頃でさえ魔法族はマグルに捕えられ、殺されるのが日常であった。そのころよりも酷いと主は言った』

「……だから純血のみを受け入れ、魔法族がちゃんと世間から消えた時にマグルを受け入れる」

『それが今の世に伝わるべきだった(・・・・・)純血主義だ』

 

いくらなんでも拗れて伝えられすぎだろうとレィルは思ったが、当時の製紙率、また教育が行きとどっていない世の中では言葉などはどこまででも変わる。サラザールが本当はいい人であった、というのは今のスリザリン寮の偏見もあり、捻られてしまったのだ。

 

『49年前にこの部屋を開いた、自らを継承者と称する小僧は純血主義の根本を理解していなかった。それどころか奴はマグルや半純血を皆殺しにするとまでほざいた。妾は命を削って全力で反抗した。妾の寿命をすり減らし、命令を受けつけないように体を改造した』

「……あと、何年生きられる?」

『このような老耄を心配する人間がいるとはな……。恐らく百年も残ってはいまい』

 

レィルはネイキッドを介して話すバジリスクにとてつもない情を抱いてしまった。本来ならばここで殺すべきだろう。

だが、レィルは人間を除く全ての動物達の味方だ。それは例え、這いよる混沌であろうが、バジリスクだろうが関係ない。

 

「ネイキッド、翻訳お疲れ様」

(いいのか、レィル。蛇語使いではないのだろう)

「いいよ。ここからは、俺の意思を示したい」

 

レィルはネイキッドをトランクの中に入れた。拡大呪文を起動させ、トランクの入口がバジリスクでも入れるようにする。

レィルはしっかりと、確固たる意思を持ってバジリスクに近づいた。バジリスクは少し後ずさりしたが、やがて動かなくなった。

 

「……()が、君の運命を変えてみせる。もう誰も殺させない」

 

レィルはバジリスクの鼻先をそっと撫でた。数秒かけて、傷を癒すように、割れ物を扱うかのように。

彼にカウンセリングの才能はない。レィルにバジリスクの思いを理解することは、到底出来ないだろう。

だが、それでも、レィルはこのままバジリスクが死んでいくのが不憫でならなかった。

 

「君の目を少し弄って、その魔眼が発動しないようにする。けどいつもここに来る訳には行かない。だから、トランクの中に入ってくれ」

 

レィルはバジリスクから離れ、トランクの方へと後退する。バジリスクは惹かれるように、レィルのスピードに合わせてトランクへと這いずって行った。

 

「サラザール・スリザリンのように、君を完璧には理解できないだろうけど、それでも()は、お前(・・)を救いたい」

 

俺、お前。一人称と二人称が元の喋り方になるぐらいには、自分でも不思議になるくらいにレィルはバジリスクを救いたかった。もしもう一度継承者を名乗る者がいて、またホグワーツで殺しを始めたら、バジリスクはもう耐えられない。

命を賭して反抗して、それでもし彼女が死ぬのは。

それはとても、報われない。とレィルは思った。

バジリスクはレィルをじっと見た。もちろん殺さないように体をだ。

少しだけ筋肉質な、丈夫な体。その体が、バジリスクにはほんの少し大きく見えた。

やがてバジリスクは敬意の証としてレィルに向かって一礼し、トランクの中に入っていった。それを見てほっとしたレィルはトランクを元の形へと戻した。

 

レィルが自室へ戻ると、やはりヘルミオネが待っていた。自分の家ではないが、家族が待っているというのはやはり何物にも代えられないものだとレィルは再確認する。

ヘルミオネは「お疲れ様」とだけ耳元で呟き、ホットココアをテーブルの上に置いた。流れるようにヘルミオネはレィルの安否を確認するように優しく抱きついた。

自分で感じるよりもかなり疲れていたレィルは体から力を抜いてぐでっとヘルミオネに寄りかかった。ヘルミオネはしっかりと力を入れて、でもレィルに痛みが加わらない程度の力で抱きしめた。

 

「何かあったのね」

「あぁ、マートルのいるトイレから秘密の部屋に行ってた。バジリスクがいたんだ」

 

レィルは一応防音呪文を施してヘルミオネに全てを話した。スリザリンの怪物の思いと、それに対して自分がどうしたかを洗いざらい。

話し相手がフィリップやアリスならば全ては話さなかっただろうが、ヘルミオネならば別である。

話し終わったレィルはいつの間にか浮遊呪文をかけられ膝枕されていることに気がついた。杖を抜いた気配も呪文を唱えてもいないが、ヘルミオネは人間ではない。その位はどうということはない。

 

「そう。バジリスクには名前をつけるの?」

「ソリダスが聞いてきたんだけど、フィリア・レギスっていう名前があるらしい」

filia regis()……安直でも、いい名前」

「サラザールはセンスがいいね」

 

レィルはこのまま眠ろうか、と思い地面に立ち、トランクを開けようとした。だがその瞬間に勢いよく扉が開けられた。

 

「ドラコ?」

「クローター……は、いるな。お楽しみ中でなくてよかった」

 

レィルはトランクを閉めてドラコに椅子を出した。ヘルミオネは魔法でホットココアを一杯入れてドラコに持たせた。

 

「ありがとうディマイント。それで、話なんだが……」

 

 

「ドラゴンを、保護してくれないか?」

 

 

 

 

 

 




どもども、もうそろそろあったかくなってきて欲しいantiqueです。おコタの魔力は磔より強い。

罠は作中で説明したとおりになりました。
フラッフィーはあんまり愛着が湧いてません。自分のじゃないですが、それでも一定の情はあります。
悪魔の罠のビリーウィグですが、これはプロローグでいたヒューレルという個体です。特徴はまた後ほどに。
空飛ぶ鍵のトラバサミ。切断するしかありませんが、クィレルは腕の貯蔵は十分なんですかねぇ?
チェスは最近SNSにも上がった手番のないチェスの応用編です。ミスをすれば一斉に裏切ります。
トロール魔改造。ここは原作ではクィレルが通りやすいように、としてあったのですが、そんなに事が上手く運ぶわけないでしょ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
魔法薬クイズはどれを飲んでも致死量にいたり、そして焼かれます。可燃性の薬もあったりします。スピリタスとか。

そしてオリジナル生物のシリンドミッション。名はネイキッドです。
まぁ元ネタは分かるでしょう。リキッド、ソリッド、ヴェノム、ソリダスですよ。

マートル、そしてバジリスク。この時点でグリフィンドールの剣は毒を吸いません。
サラザールの過去の捏造。個人的にこんなんだったらいーなーぐらいにしか考えてませんけど。

ミオの妻感ハンパない。というかそもそも元々レィルにとって家族以上の存在ですし。
どうしようかな…いっそ強制妊娠薬みたいのものでも作らせるか?()

そしてドラコの依頼。なんのドラゴンなんですかねぇ……

では、次の話で会いましょう、サラダバー

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。