グランドライン。海賊王ゴール・D・ロジャーが放った一言により、大海賊時代となったこの世界。
その遥かな海上を走る一隻の海賊船、サウザントサニー号。その上では、今日も今日とで麦わらの一味がにぎやかに過ごしていた。
彼らはつい先日、魔の海域において、王下七武海ゲッコー・モリア一味を打倒したばかりで、海の底にあるという魚人島を目指していた。
「んー、今日もいい天気ね。魔の海域はじめじめしてたけど、今は夏の気候ね」
「ふふ、そうね」
そう言いながら太陽の光を一身に浴びるのは、オレンジ色の健康的な女性、ナミと黒髪の艶めかしい女性、ロビンで。
その後ろでは、精神年齢が少年のまま固定されているかのような男性陣が釣りをしている。
長い鼻が特徴的なウソップ。人間トナカイのチョッパー。そして我らが船長、麦わらのルフィ。
「釣れねーな、魚」
「そーだな。昨日までは入れ食いだったのに、何かあったのか?」
「さぁな。でも、グランドラインなら、魚がいない海域ってのもあるんじゃねぇか?」
そうウソップがぼやきつつ、釣竿を垂らしていると、一匹の魚がかかったようだ。
強く。すさまじく強く竿が引かれる。
「おおおおおおおおおお!?」
「お、ウソップ。かかったのか?」
「ああ。こりゃ大物だぞ……ルフィ、チョッパー、手伝ってくれ!」
そう言えば、ウソップとルフィ、そしてチョッパー三人が力を合わし、釣竿を上げれば……
ザ……ッバァン
「お」
「お?」
「おおおおおおおおお!でっけぇ!」
釣りあがったのは、巨大な、見たことのない魚だった。
口には恐ろしく鋭い牙が並び、ひれと言うよりは翼のような胸びれ。そして……足。
ルフィは目を輝かし、ウソップとチョッパーは目を丸くしている。
「な、何じゃこの魚」
「見たことねぇ……図鑑にも乗って無かったぞ」
「すっげぇ!なんか、立ち上がりそうだ」
「はは、ルフィ、魚が立ち上がり何て……」
ビチビチチチ……
むくり。
ギロリ。
「た……」
「立ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ギエェェェェェェェェェェェ!
その、巨大魚の鳴き声に、船のチェックをしていたサイボーグ、フランキー。下ごしらえをしていたサンジ、BGMを鳴らしていたブルックが集まってくる。
なお、剣士ゾロは寝ている。とある理由から大ダメージを折っている彼は、深い眠りで体を休めていた。
「何だぁ?」
「ヨホホ!すさまじく大きな魚が……」
「立ってる!?」
そして、太陽の日を浴びていた女性陣もやってきて……
「なに?この魚……海王類?」
「いえ、海王類は蛙型以外は立たないわ」
そう言いながら集まってきた人間どもに対し、魚?の挨拶は……
口からの、水流だった。
「うおおおおおおお!」
「船が切れた!」
「こいつ……!」
真っ先に動いたのは、ルフィとサンジだった。
表情を引き締め、魚?にかかっていく。
「ゴムゴムのぉ……バズーカ!」
「コリエシュート!」
巨大な魚?の首を狙い、サンジの蹴りが。顔面を狙い、ルフィの掌底が向かう。
ドゴォン!
そう、大きな音と共に魚?は大きく後退した。
魚?にとっては、まさか素手の人間如きにダメージを負わされたのが信じられないのか、魚?なりの驚愕の表情を浮かべる
だが、驚愕していたのは魚?だけではない。
「ぐ、硬ぇ……!」
「おいおい、後退しただけかよ……!」
自分達は手加減などしていなかった。なのに、後退しかさせられなかったことに、二人は驚いていた。
そして、再び魚?が水流を出そうとすれば……
「や、やらせるか!火の鳥星!」
「ウエポンズレフト!」
火の鳥のような炎と、砲弾が魚?の顔面にぶつかり、大爆発が起こる。
「よっしゃぁ!魚の丸焼きいっちょ上がり……」
「いや、どうやらまだ……!」
そう、まだ致命傷ほどのダメージは通っていないようで、怒り狂った魚?は、腹ばいで体当たりを行ってきた。
だが、魚?は気が付かなかった。頭上に浮かぶ、黒雲を。
「サンダーボルトテンポ!」
ドォン!と雷が魚?に落ちる。そして、痺れて動けなくなった魚?に対し……
「ランブル!ロゼオミチェーリ!」
「鼻唄三丁…矢筈切り」
「アルメ・ド・レール……ゴムシュートぉ!」
たたみかけるように、4人の技が魚?の胴体に襲い掛かり、大きく吹き飛ばした。
船の端にぶつかり、大きな煙が上がる。
「こ、こんだけやれば、流石に……え?」
だが、まだまだ息絶えてはいないようで、よろ、よろ、よろと立ち上がる。
大きなダメージはおっているようだが、あれだけの攻撃を受け、生きていることに、ナミやウソップなどは驚愕に目を見開く。
「うそでしょ!」
「何だこの魚ぁ!」
これで中途半端な攻撃ではらちが明かないと思ったのか、サンジは高速で回転し、ルフィは足をポンプのように動かす。
そして……
「ギアセカンド……!ゴムゴムの、ジェットマグナム!」
「ディアブルジャンプ!」
二人の、高威力の技が、逃げようとしていた魚?を襲う。
そして、二人の攻撃で浮かび上がった魚?は……サウザンドサニー号に叩きつけられ、今度こそ息絶えた……
「はぁ……はぁ……」
「何だったんだ?この魚……」
気の弱いチームは恐る恐る魚?に近づき、ルフィは今夜は宴だななんて能天気なことを言っている。
そんな時だった。前触れの無い海震が、船を襲う。
「な、何だってんだ今度は!」
「地震?いえ、海震!?」
そう麦わらの一味が慌てていれば、目の前の、何もない空間に、不気味な黒い球体が現れる。
「なんだ?ありゃ……」
「穏やかじゃねぇな。いくらグランドラインって言ったって、常識はずれ過ぎるだろう」
「ヨホホ……ワタクシ、鳥肌が立ってきました。ま、肌なんて無いんですけど!」
そして、ナミは気がついた。球体が、どんどん大きくなっていくことに。
「不味い!あの玉、大きくなってる……!」
「ぜ、全速で後退!」
ウソップが慌てそう叫ぶが、玉の巨大化は加速度的に増し……
すさまじく恐ろしい吸引力を持って、船を飲みこんだ!
そして、グランドラインから、麦わらの一味は消滅した…………
さぁ……さぁ……
さぁ……さぁ……
雨粒が、気絶していた麦わらの一味を目覚めさせる。
最初に目を覚ましたのは、ナミだった。
「う、うぅ……ここは……?」
ぼぉっとした頭で、周囲を確認する。周囲には、気絶したロビンに、ウソップやチョッパー。サンジ、ブルックにフランキー。そして気絶と言うより、ぐっすりと眠るゾロとルフィ。
そして、なにか、変な感じを肌で感じる。
それは、航海士として卓越した感覚を持っている彼女だからこそ気が付けた。気候の変化。
「……?え、まって……」
先ほどまでの気候、肌で感じていた空気と、まるで違う「空気」
そして、腕についたログポースを見れば……
「ログポースが……ぐるぐる回転してる……」
まるで、グランドライン内でのコンパスのように、ログポースが回転している。
それに驚愕しつつ、普通のコンパスのある、自室へと向かえば…
コンパスは正常に動いている。もしや、さっきの玉で、他のグランドライン以外の海域に飛ばされた?
そう考えていると、どうやらロビンや他の馬鹿たちも目を覚ましたようで……
「う、うう……」
「何だったんだ、一体……おい、起きろルフィ!ゾロ!」
そう言って、二人を蹴り飛ばしつつ、サンジがナミを見付ける。
「ナミすぁん!無事でしたか!」
「……ええ、みんな、聞いて。もしかしたら、ここは……」
そして、起きた皆にナミは現状を伝える。
「……なるほど、ここは、もしかしたらサウス、ウエスト、ノース、イーストのどこかの海域かもしれないのか」
「……」
「どうしたの?何か、納得して無い表情だけど」
「ええ、何か、空気が。根本的に違う気が……」
そう、不安そうな表情のナミ。すると、メインマストの上にのぼったルフィが、大声をかける。
「船だぁ!」
「船?」
そして、皆が大雨の向こうを見ようと目を凝らせば……
そこには、船団を組んだ大型の船が航海をしていて……
これが、ファーストコンタクト。
異世界からの来訪船第一号と……
アステラに向かう、第五期団の乗った船団……
彼らの出会いが何を意味するのか。それは、誰にも分らない……