気がついたらわたモテの世界に転生していた 作:イチゴとメロン
新入生であふれる校舎の前に一人の少女がいた。
彼女の名前は黒木智子。彼女はボッチだった……。だが本当の意味でボッチではない。
なぜなら彼女にも一人だけ友達がいるからだ。
だが残念なことに…唯一の友達であるゆうちゃんは、別の高校へと行ってしまった。
智子が新しく入学する高校に、智子の友達はいない。
同じ中学出身の人間もいるだろうが、彼女の友達はゆうちゃんという少女だけだからだ。
この高校において……智子はボッチだった。だが、それは高校初日だからだ。
中学の友達が別の高校へ行き、この学校に友達がいない人間は、智子以外にもいるはずだ。
有意義な高校生活を送るためには友達が必要だ。その友達を作る為の秘策を智子は用意していた。
いや、友達だけでない。彼氏だって出来るかもしれない!
なんといっても今日から自分は花の女子高生なのだ! …という期待が智子にはあった。
JKというのはそれだけで価値がある。女が一番モテる時期だといっても過言でないはずだ!
智子はそう思っていた。ピチピチのJKなのだ、男の方からこっちによってくるはずだと。
(よしっ!)
心の中で気合を入れて、智子は自分の教室へと向かった。
教室に着いて中を確認したら、人が少なかった。
(早く来すぎたか? まぁ…いいか)
教室前に張り出された紙で自分の席を確認し、キョロキョロと周りを見渡しながら智子は自分の席に座った。
これから一年この教室の奴らと過ごすことになると思うと、期待もあるが不安もある。
(私と友達になれそうなのはいるか? できればゆうちゃんみたいなのがいるといいんだが……)
教室を見渡すが、まだ人が少なかったせいか、智子と気が合いそうな同級生はいなかった。
(まぁ……このまま大人しく待っとくか)
そのまま待っていると、教室にクラスメイト達が次々と入ってきて自分の席へと座っていった。
智子の周りの席はすべて埋まり、ソワソワと落ち着かない空気が漂う。
一瞬、周りの同級生に話しかけようかと思ったが、智子にとってそれはハードルが高すぎた。
いきなり見ず知らずの他人に話しかけても、上手く会話できる自信がまったくない。
そのまま大人しく座っていることにした。座ったまま、ぼ~っとしていると、一人の男子が教室に入ってくるのが目に入った。
その姿に……智子は一瞬、目を奪われた。
その男子は一言で言うならイケメンだ。イケメンとしか言いようがなかった。
芸能人クラスの容姿だった。もしくは二次元のイケメンキャラがそのまま出てきたようだ。
その男子はそのまま自分の席へと向かっていった。彼は自分の席に着くと、周りの席に座っていた同級生たちに…
「これからよろしくね」
と爽やかな笑顔で挨拶をしていた。そしてそのまま座って、周り人間達と自己紹介を始めておしゃべりに興じていた。
(あいつ……やべーな)
イケメンの席周辺は彼が来るまで静かなものだったが、彼が来たとたん、賑やかで和気あいあいとした空気が漂っている。
(もう見ただけで分かる。あれはもう……このクラスの上位カーストだな…)
学校生活ではスクールカーストというものがある。本来、同じ生徒という立場のはずなのに、生徒たちの間で上下関係みたいなものが自然と出来上がってくる。
上位の人間ほど楽しい学校生活を送れて、下位の人間は惨でつまらない学校生活になると智子はそう認識していた。
イケメン男子は容姿はもちろんのこと、初対面の人間に簡単に話しかけ、お喋りをするコミュ力もあった。これで上位カーストにならないわけがない…と智子は思った。
そのままイケメン男子を見ていると、近くの女子をナンパし始めた。
「ねぇ、岡田さん。僕たちどこかで会ったことある?www」
「えっ!?www い、いや…ないと思うけどwww」
「おいおいw 高校初日にナンパかよ~www」
イケメン男子の周辺からはすでにリア充オーラが漂っていた。
さっき知り合ったばっかりのハズなのに、リア充集団は女子を口説いたり、茶化したりしている。
その光景を見た智子は、羨ましいな……と思うことはなく、ただ単純に…
(リア充死ね!)
…と思った。
(つーかあのイケメン。絶対ヤリ○ンだわ)
(後先考えてなさそうな顔してるしな。たぶん女とピーーしまくって、妊娠させて中絶させる未来まで見えるわ)
外見と第一印象でクッソ失礼な妄想を働かせていた智子であった。
(まぁ……どうでもいいか。どうせ……あいつらと絡むこともないだろうしな)
あのリア充グループは明らかに智子とタイプが違う。同じクラスだが……絡むことは殆ど無いだろう。そう思った智子はリア充グループを観察するのをやめて、担任の教師が来るまでぼーっとしていた。
それからしばらくすると、担任の教師がやってきた。少し話をした後、入学式をするため体育館へと連れられる。
新入生代表の挨拶は驚くことに、同じクラスのイケメン男子だった。
思わず顔で選んだのか? と思う智子であった。
入学式が終わった後は、また教室に戻ってきた。そして現在…生徒達の自己紹介が始まっていた。
出席番号順から自己紹介が始まり、智子の順番が近づいてきた。
(よし……ここが勝負だ!)
智子は有意義な高校生活を送れるように、ある秘策を用意していた。
それは自己紹介で面白いことをしてウケをとること。自己紹介で面白いことすれば自然と…
(あ、この人面白いな! この人と友達になりたい! ていう人間が出てくるはずだ!)
…そう考えていた。中学校時代は友達が一人しかいなかった智子は、惨めな思いをすることがよくあった。
高校生活までそんな思いはしたくない。別にリア充ほど大量の友達が欲しいわけじゃない。
少しでいいのだ。惨めな高校生活にならないくらいの友達が欲しかった。
何も行動しなかったら……友達が一人もできず、中学時代よりも悲惨なことになるかもしれない。
そう考えた智子は自己紹介で、ギャグを披露することに決めたのだ。
(私の考えてきたネタなら、確実に爆笑なはず……最低でも数人はツボに入って笑うはずだ)
(もしかしたら、この自己紹介でクラスの人気者になれるかもしれない…)
智子の頭の中では漫画やアニメのように、華やかな高校生活を送っている自分の姿が想像されていた。
「それじゃあ、次~」
担任の声が教室に響く。いよいよ、智子の順番がやってきた。
クラスメイト達の注目が集まった中で、変わったことをするのは勇気がいるし、恥ずかしくもある。内気な智子にはキツイことだった。だが智子は勇気をだして、渾身のギャグを披露した。
予め用意しておいた、折り畳まれた長い紙を取り出す。そして、その紙をみんなに見えるように大きく広げ…
「黒木智子 趣味読書です 以上」
(決まった!)
(こんなに長い紙を用意しといて、こんなに短い自己紹介!)
(地味だけど面白いネタだぞ! 早く誰か突っ込め!)
智子は誰かがつっこむのを待っていた……だが誰もつっこまない。
周りを見渡してみると……誰も笑っていなかった……クスリともしていない。
シーンとした静寂が教室を支配している。
(あ、あれ……?)
智子が地味だが面白いと思った渾身のギャグは……誰も何の反応もしなかった。
担任の教師からもスルーされた。「それじゃあ次~」という担任の声が教室に響き……
智子の自己紹介は終わった。
(えっ……嘘だろ!?)
そのまま立ちすくんでいた智子だったが、一人の男子と目が合った。
その男子はあのイケメンだった。智子のことを「うわ~こいつありえねぇ~」という驚愕の表情で智子を見ていた。
その姿を見た智子は……心の中の何かが、ポッキリと折れるのを感じた。
さっきまで頭の中で思い描いていた、理想の高校生活がガラガラと崩れていく。
この自己紹介で今までとは何か変わるんじゃないかと期待した分、落胆も大きかった。
(はっ……はは……)
智子は目の前が真っ暗になるような感覚を味わいながら、俯き…崩れ落ちるように椅子に座った。
(やっちまったな……)
ホームルームが終わると、智子はトイレの個室に籠もっていた。
(まさか誰も反応しないとは……)
(めちゃくちゃ滑ってるような空気だったし……)
(やっぱり……普通の自己紹介しとけばよかった……)
便器に座りながら智子は先程の失敗を悔やんでいた。
だが……落ち込んでいた智子に、さらに追い打ちをかけるように外から声が聞こえてきた。
「自己紹介で盛大に滑ってるのいたね~www」
「あ~あの人ね~www」
「あれ頑張って準備したのかな~?www」
「ね~痛すぎて逆にかわいそうだったわ~www」
外から聞こえてくる言葉が智子の胸にグサグサと突き刺さる。それは智子のことを言ってるかどうかは分からなかった。だが智子にはまるで自分のことを言われてるような気がした。
学校が終わると、智子は陰気くさい足取りで家に帰った。
自分の部屋に帰ってくると、自然とため息が出た。
「はぁ……疲れた……」
部屋に置いてある鏡を見ると、そこには陰気な自分の顔が映っていた。
朝、登校する前に見た時は、新たな高校生活に希望を膨らませていた自分が映っていた。
だが……たった数時間で、その姿は消し飛んだ。
「あ~もう明日…学校行くの…だるい……行きたくない……」
高校初日から失敗し、これから惨めな灰色の高校生活を送るような気がして……智子は憂鬱だった。