背中におぶった彼女がとても軽かったのをよく覚えている。
一人登山を満喫した登山道の帰り道、道のわきでうずくまる女の子を助けた。
その子は下山中に足を挫き、下山ができない状態だった。
普段は初対面の人に話しかけるなんて絶対にしない俺だが今回は考えるより体が動いていた。
「ご迷惑をかけてしまい、申し訳ありません……」
「気にすんなよ、もう少しで麓だからしっかりつかまっとけ」
「はい……」
消え入るような声でそうつぶやいた少女は見た目よりもずっと小さく感じた。
だから俺は
「♪~~」
歌を歌った。
いつはやったかも忘れてしまったありふれた曲を柄にもなく俺は歌った。
「…ありがとうございます、少しだけ元気が出ました。」
今、思い出すと何度も音が外れていて、お世辞にもうまいとはいいがたいものだっただろう、それを彼女は感謝してくれた。
青い髪をした優しく、綺麗な女の子。
俺が知っているのはたったそれだけ。
学校や年齢、名前や趣味
ましてや今や全国に名前を轟かせるスクールアイドルということも
この時の俺は何も知らなかった。
「値段張るなー、やっぱり」
俺、高橋大輔は放課後、登山用具専門店でストックの値段をみてうへぇと顔をしかめた。
高校から趣味で登山を始めたが、如何せん身の回りの物にお金がかかる。
今、使っているものは初心者向けのものがほとんどだからそろそろ買い換えたいんだけど、なかなか手が出せるものでもない。
「バイトのシフト増やすか」
俺は手にしていたストックを棚に戻し、消耗品だけ買いそろえようと移動しようとして、自動ドアから入ってきた青い髪の少女に目を見張った。
大和なでしこ然とした少女をみて、店内にいる人が性別問わずざわめいているのがわかる。
それだけ彼女に魅力があるのかがわかる。
俺は店内の喧騒に背を向け、出口へ向かって歩き出すと……
「…………」
「うおっ!!」
さきほど入店したばかりの彼女に正面に回り込まれていた。
これスクールアイドルの身のこなしなのか……やべえ、やべえよ
正面の彼女は不機嫌な顔で俺を見上げ、
「今、私から逃げようとしましたね」
「い、いや園田……に、逃げようとしてねえよ……店からでようとしただけだし……」
「それのどこが逃げではないと証明するつもりですか?」
「いや、俺みたいなやつと話してるのみられたら、そのなぁ?」
俺はわたわたしながら、弁解を試みる。しかし、彼女ははぁとため息を吐いて、
「私たちのグループは別に恋愛禁止の規則はありません。ですから、あなたと山に登ろうが、喫茶店でお茶しようが全く問題ありません。」
「でもなあ……」
ふと、寒気を感じてまわりをみると男性客から殺意が漏れ出している。
そりゃそうなる、いまをときめくアイドルが男と話しているところを見たら、殺意の一つも沸く。誰だってそーする。俺だってそーする。
「やっぱ、よくないと思うんだこうゆうの」
彼女の人気と俺の命を心配しながら告げた俺に、彼女は厳かにうなずいた。
「わかりました、こうしましょう。」
「おお」
なにか案が出たようだ。さすが園田これだから好き。もちろんアイドルとしてだが……
「今後、私から距離をとった場合全力で泣きます。」
「………」
「全力で「わかったから」……本当ですか?」
「ねえ、園田さん交渉事下手過ぎない?」
「むう、自分では完璧なのですが……」
俺がげんなりしながら、告げたが園田は本当に完璧だと思っていたのかむむっと難しい顔をしていた。
「わかった、今後はやめとく。」
「本当ですか?」
「おお、いい年した女子高生のガチ泣きとか見たくないだろうしな。でも園田さんちの海未ちゃんは泣き虫らしいからいつかは見れそうだけどな。」
「泣き虫ではありません!!」
「ほんとか~~?南さんは「海未ちゃんは泣き虫だから気を付けてね」って言ってたぞ」
「うう、ことり……」
「でも本当にいいのか?ファン心理とか……」
いろいろあるだろといった俺に園田は微笑みながら首を縦に振り
「ファンの方も大切ですが、大輔との時間も大切ですので。」
「お、おお、そうか……」
「はい……あ、でも大輔だけが大切なわけではないですからね!!もちろんみんなとの時間も大切ですからね!!」
「いや、μ‘sの皆さんと一緒で申し訳ないんだけど……」
「私にとっては、大輔はみんなと同じかそれ以上には……もうやめにしませんか!?」
「そうだな、これ以上はダメージが……」
「ダ、ダメージ……」
「違うぞ、羞恥、羞恥でな」
「そ、そうですか……」
ほっと胸をなでおろす園田氏。そのわかってほしいのかほしくないのかわからないリアクションはやめてほしい。俺の心の蔵が持たない、辛い
「んじゃ、そろそろ帰るわ。」
もう周りのオーラがジャックナイフみたいになってきて怖い。なんか店員まで包丁みたいになってるし。入店拒否される前に逃げよう。
「え………」
「え……って、なに?俺は帰るよ凄く帰る。腹も減ったし。」
園田は帰宅するためにパワーを高める俺の袖を握りながら、
「穂乃果とことりと一緒に出掛けた時に見つけたおいしいお店があるんです。イタリアンなんですけど。」
「駄目でしょうか「いや、行く、すぐ行こう。」ありがとうございます。」
目の前にいるかわいい女の子が俺にご飯誘ってくれてるだけでもうでうれしいのに、上目づかいでお願いされたら断れるわけない。でも、周りの視線が痛い。これが針のむしろか…
「では、いきましょう。この近くなんです。」
「お、おい、引っ張るなって。」
正直、惚れた女の子がアイドルなのつらい。
これはいろいろ駄々洩れポンコツな大和なでしこな彼女とおっかなびっくりな日々を過ごす物語。
今週中にもう一本と新作上げます。