今回の主役はリリカ・プリズムリバーです。まあ、基本的に三姉妹セットで行動するので、プリズムリバー楽団が主役ですかね。
独自解釈等も多分に含まれますが、楽しんでいただければ幸いです。
音楽を奏でる。
それが、私たちの存在意義。
ある人の手によって意識を持った日から、私たちはあらゆる音を立てて楽しんでいる。
最初は思い思いの雑音を、それが次第に洗練されて音楽へと昇華する。
音楽は時代とともに形を変える。それに伴い、私たちの表現も変わっていく。
でも、私の役割はあの時からずっと変わらない。そう思っていた。
「かんぱーい!」
私たちはお互いに杯を交わした。
ここは人里離れた、ヤツメウナギをウリにしている屋台である。
「いやぁ、今日のライブも大盛況だったね」
「まあね、それに最近は、私たちの音の影響を受けすぎて、暴走するお客さんも見なくなったし、うまく調整が取れている感じねー」
「そうよ、姉さんたちの音は個性的すぎるから、私が上手く間を取り持っているのよ、感謝してよね」
私は、自慢気にそう言う。
「確かに、リリカは最近上手くなってるよね」
ルナサ姉さんが言う。口数が少なめで、おとなしい、というか、鬱気味の、私たちの長女だ。
「そうねー、リリカが私たちの音をしっかり調整してくれるから、私たちも思いっきり演奏できるし、お客さんも安心して見ていられるわー」
こちらはメルラン姉さんだ。ルナ姉とは対照的に、テンションが高く、よく話す次女である。
「いいですねぇ、私もライブで歌ったりしますけど、たまに能力が発動して、お客さんを鳥目にしてしまうことがあるんですよね。でも、リリカさんの演奏ならその心配もないのかしら」
女将はたまに寺の妖怪とライブをしている。私たちも何度か聴いたことがあるが、なかなかロックな音で心揺さぶられる。
「お、いいじゃん、今度一緒に演ろうよ。鳥獣伎楽の相方の、響子だっけ?彼女も呼んでさ」
「いいわね、それ。彼女たちの音はとても個性的で楽しくなれるし、是非一度一緒に演奏してみたかったの」
メル姉は乗り気のようだ。
「うーん・・私はああいうノリはあまり趣味じゃないけど・・・」
一人異論があるようだが、気にしない。
「じゃあ、決まりね。来月は予定が詰まっているから、再来月にでも一緒にライブをしましょう」
「プリズムリバー楽団と一緒に歌えるなんて、願っても無いことだわ。よろしくね」
ミスティア女将はご機嫌である。
こうなってはルナ姉も断れないだろう。
「まあ、ミスティアがそう言うなら・・・」
数の勝利だ。
「さて、そろそろ帰りますかー」
「そうだね、明日も早いし、この辺で」
「あら、もう帰っちゃうんですか?」
「うん、明日は冥界でのライブがあるからね。帰って準備しないと」
明日は冥界の西行寺幽々子お嬢様に招かれての演奏会だ。冥界に招待されるのは春雪異変の時以来か。
幽霊でもないのに冥界に行くというのは不思議な気分だ。まあ、騒霊ではあるけれども。
屋台の会計を済ませ、帰途に着く。
「それにしても珍しいね、リリカが合同ライブを申し出るなんて」
「確かにそうねー、いつもは私か姉さんがこういう話をするのに、いったい、どんな風の吹きまわしかしらね」
「そうだっけ?まあ、前に雷鼓さんと演ったときは楽しかったから、そのおかげかもね」
以前の異変のとき、私たちはプリズムリバーウィズHとして、太陽の畑のライブステージで演奏していた。
私たちの演奏が異変の首謀者に利用されていたのを知ったのは異変が解決した後のことだったが、大して気にはとめなかった。それよりも、新しい可能性に気づくことができた喜びの方が大きかったのだ。
「あのライブで私は、私たちの新たな音の可能性を感じたの。他の人と組むことで、演奏の幅をもっともっと広げられるわ!」
私は意気揚々として言う。
鳥獣伎楽との合同ライブ、本当に楽しみだ。
しかし、その約束が果たされないことを、私たちはまだ、知らなかった。
ジリリリリリリリ!
早朝、目覚まし時計の音が屋敷内に鳴り響く。
私たちは、夜明け前に目を覚まし、演奏の練習をしたり、各自思い思いの場所に赴いて音楽の発想の材料を探したりしている。
「おはよう〜、リリカ」
「おはよう、メル姉」
ルナ姉はいない。先に起きて出かけたようだ。
「姉さんはどこかに行っちゃったみたいね。それにしても、昨日のライブも楽しかったわねぇ」
昨日のライブというのは、白玉楼でのことだ。
「そうだね、途中から幽々子さんの料理を作ってた妖夢さんがダウンしてたけど」
「私たちの演奏を聴きながら物凄い勢いで食べてたしね〜。妖夢さんが、普段の五倍は早い!って嘆いてたわね〜」
白玉楼の主人、西行寺幽々子は聞きしに勝る大食いだった。
「じゃあ、私も出かけてくるわ。リリカはどうするの?」
「私は、楽器の練習をするよ。昨日の演奏でちょっと気になる所があったからね」
メル姉は準備を整えて出かけていった。
さて、私もやるとしますか。
私たちが住んでいる屋敷は霧の湖の外れにある森の中に建っている。ここならば、まず誰もこないし、楽器の練習にうってつけだ。
私は、屋敷の裏に回って、練習を始める。
まずは、私の最も得意とするキーボードからだ。
チューニングをし、曲を弾き始める。
「・・・あれ?」
一曲弾き終わった後で違和感に気づく。
なんだろう?なんかしっくりこない。
もう一度弾き直す。今度は違う曲で。
ーーやはり、何かが違う。いや、音は完璧なのだ。音程やリズムがズレているというのではない。もっと、なにか、根本的なものが無くなっているような・・・
楽器を変えて演奏してみる。私は姉さんたちのような個性的な音は出せないが、その代わりに、あらゆる楽器を扱うことができる。オールラウンダーといったところか。
しかし、それでもやはり違和感は消えない。それどころか、さっきよりも大きなズレを感じる。
???
一体なんなのだろう?こんなことは初めてだ。流石に動揺を隠せない。
姉さんたちが戻って来たら相談してみよう。
それから私は悶々とした時間を過ごした。
昼頃になって、ルナサ姉さんが帰ってきた。
「ただいま、あら、リリカ、いたのね。メルランは出かけているのかしら」
「おかえり、ねえルナ姉、ちょっと相談があるんだけど・・・」
「あら?なにかしら?」
「ちょっと私の演奏を聴いて欲しいんだ。今朝からなんかおかしいんだよね。気のせいならそれでいいんだけど・・・」
「ふーん、分かったわ、やってみて」
私はキーボードを取り、演奏を始める。
ルナ姉は始め、普段と変わらない様子で演奏を聴いていた。しかし、彼女も違和感を感じたようで、徐々に顔色が変わる。演奏の後半には、なにかを確信したような顔つきになっている。
一曲弾き終えたところで、聞いてみた。
「どう?やっぱりおかしいよね?自分ではどこがどうおかしいのか、よく分からないんだけど・・・」
「おかしいというか・・貴女、本当に気がついていないの?」
私は黙って頷く。
「そう、じゃあ、これは貴女にとってとてもショックなことだろうから、心して聞きなさい」
唾を飲みこむ。そう言われては身構えざるを得ない。
「リリカ、貴女、能力が使えなくなっているわよ」
「・・・・えっ?」
一瞬、耳を疑った。
能力が、使えない?
「貴女の奏でる幻想の音が全く聴こえないの。どうやら、幻想の音を演奏する能力が使えなくなっているようね」
言われてみればそうだ。私の奏でる幻想の音というのは、楽器そのものが出す音とは別の、演奏を聴く者に直接響くような、私が楽器を奏でるたびに自然に出ている音のことである。
その音が出ていない。違和感の正体はこれだったのか。
「私はいつも間近で聴いているから分かったけど・・・能力が突然使えなくなるなんて、聞いたことがないわ。リリカ、なにか心当たりはない?」
「いや、全く。能力が使えなくなるなんて、考えもしなかったし・・・」
「そうよね、とにかく、メルランにもこのことを伝えて、原因と解決策を見つけないと」
普段おとなしいルナサ姉さんがやけに饒舌だ。そんなに深刻なことなのだろうか。
「ねえ、ルナ姉、これって結構やばいの?」
「分からない?鬱の音を奏でる私と躁の音を奏でるメルラン、この能力は本来人間が聴くには危険なのよ。感情を大きく揺さぶって、何をするか分からなくなってしまうからね。今まで私たちが人前で演奏しても特に問題なかったのは、貴女の奏でる幻想の音がそれを緩和していたからよ。それが無くなってしまったなら、私たちは人前での演奏はできないわ」
なんだって?姉さんたちと、演奏ができない?信じられない。そんなことがあってたまるか。
自分がこのプリズムリバー楽団の奏でる音楽のバランスを取っているということは自覚していた。だが、能力を失うなんてことは考えてもみなかった。
能力を失っても、私一人なら人前で演奏できるかもしれない。でも、それではなんの意味もない。姉さんたちと音を奏でることこそ、この私、リリカ・プリズムリバーとしての存在意義だ。姉さんたちのいない楽団になんの価値があるだろうか。
「嫌だ!姉さんたちと、演奏ができないなんて、そんなの絶対に嫌だ!」
思わず涙が溢れる。
ルナ姉が優しく私を抱き寄せる。
「大丈夫、きっと解決策を見つけてみせるわ。貴女は私たちの大事な妹だもの。妹が困っているのを助けるのは姉の役目よ」
ルナサ姉さんの手は、温かかった。
ほどなくして、メルラン姉さんが帰ってきた。
「ただいま〜、あら、姉さん、帰ってたのね。今日は人里の方で人形劇をやっていたわ。ああいう風に機械的な演奏をするのも面白いと思うのだけど、二人はどう思う?」
メル姉はいつも通りご機嫌だ。
「メルラン、ちょっといいかな」
ルナ姉が呼び止める。
「あら、なぁに?姉さん」
「実はさ・・・」
メル姉が目を見開く。ルナ姉から事情を聞いて、とても驚いたようだ。
私の方へ駆け寄ってくる。
「ああ、リリカ、心配しなくても大丈夫だからね、お姉ちゃんたちが、きっと、いえ、必ず、貴女の能力を取り戻すわ。貴女は私のたった一人の大切な妹。貴女を決して悲しませたりはしないわ」
メル姉が私を抱きしめる。
メルラン姉さんの手も温かい。私は嬉しさのあまり、また泣き出してしまった。
はい、リリカが能力を失って、それを取り戻すというお話です。
リリカは末っ子らしく、お転婆なイメージで書いてみましたが、いかがでしたでしょうか。
構想としては、4〜5話ほどの予定となっています。どうかお楽しみください。
ではまた。