失われた音   作:まくランド

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プリズムリバー三姉妹の冒険第2話です。
嘘です、冒険はしてません。
リリカの能力を取り戻すために姉妹たちがあちこち奔走します。
キャラが少しずつ増えていきますが、楽しんで頂ければ幸いです。


失われた音 第二楽章

「さて、これからどうする?」

 

私たちは、私の能力を取り戻すことを決めたが、未だ原因もなにも分かっていない状況だ。

 

「取り敢えず、原因を探すことが先じゃないかしら。リリカ自身にも心当たりはないようだし、姉さんと私とリリカで手分けして、こういったことに詳しそうな人の所に行った方がいいと思うのだけど」

 

「そうだね、私もなにがなんだかよく分からないし、こうなった原因を知りたいかな。それが解決に繋がる可能性も高いし」

 

そもそも、ここ数日は姉さんたちといつも一緒にいたはずだ。なのに、何故私の能力だけが使えなくなっているのか。

考えれば考えるほど不思議なことばかりだ。動き回っていれば、少しは気が紛れる。

 

「そうね。分かった。じゃあ、私は稗田の所に行ってみるわ」

 

ルナサ姉さんは、阿求さんと意外にも仲が良い。なんでも、ルナサ姉さんの奏でる鬱の音が結構ツボなんだとか。なんだか闇を感じるが、里の権力者ともなると、色々溜め込んでいるのだろう。

 

「じゃあ、私は博麗神社にでも行ってみようかしら〜」

 

「え!?メル姉、それ、大丈夫なの?」

 

驚いて思わず声を上げる。博麗神社に住んでいる巫女は、人外であれば容赦なく退治すると、もっぱらの評判だ。宴会の時なら何度か行ったことがあるが、平時にそんなところに行って、大丈夫なのだろうか。

 

「平気よー、あの巫女はお賽銭とお茶菓子を持ってくる相手には寛容だから、なんの問題もないわ」

 

なるほど、物で釣るというわけか。あの巫女は、欲深いことでも有名だ。神職に就くものがそんなんでいいのか疑問に思うが、まあこちらとしてはありがたい。

 

「うーん、それじゃあ私は何処に行ったらいいかなぁ・・・永遠亭にでも行ってみようかな」

 

永遠亭には、薬師をやっている女性がいる。彼女の腕は確かで、あらゆる病気を治すそうだ。果ては不老不死の薬を作り、自らを不死にしたという。とんでもない人だ。彼女ならば、なにかしらの解決策を示してくれるのではないだろうか。

 

「じゃあ、決まりね。準備ができ次第、各々出発しましょう」

 

こうして、私の能力が失われた原因を探るべく、私たちは動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、人里に着いたけど、稗田邸はどっちだったかな」

 

人里に来るのは久しぶりだ。妹たちはちょくちょく来ていたようだが。

 

「ちょっとすみません、稗田の屋敷にはどう行ったらいいでしょうか」

 

私は道行く人に尋ねてみた。

 

「ああ、稗田の屋敷なら、丁度私も行くところだ。案内して・・ってなんだ、ルナサじゃないか。阿求に何か用があるのか?」

 

おっと、適当に話しかけたが、知り合いだったようだ。

彼女は上白沢慧音。人里で寺子屋の先生をしている。青いメッシュが入った銀色で腰まで届きそうな髪と、六面体と三角錐を合わせたような帽子が特徴的だ。

 

「ちょっと妹のことでね・・・そうだ、確か、貴女も歴史には詳しかったよね。これまでで、妖怪とかの能力が失われた事例ってあるかしら?」

 

「うーん、私が知る限りでは、そんな事例は聞いたことがないな。私のように、特定の条件で能力が変わる例は結構あるが。まさか、妹さんの能力が無くなってしまったのか?」

 

察しが良い。流石教師といったところか。

 

「そうなんだ。リリカの能力が使えなくなってしまってね。このままじゃ、楽団としても活動できないし、困っているんだ」

 

「そうか、それは大変だな。まあ稗田の当主ならば、何かしら知っているかもしれんな。しかし、プリズムリバーが解散となると、あいつがどんな顔をするやら・・・」

 

「まあ、そうならない為に、こうやって色々探ってるんだけどね。とにかく、行こうか。案内を頼むよ」

 

こうして、私たちは稗田邸へ向かった。

 

 

「ようこそ、慧音さん。あら?珍しい、貴女も用事があるのですか?」

 

稗田家の現当主、阿求が部屋に通された私たちを迎える。

彼女は阿礼乙女として、転生を繰り返しており、その度に幻想郷の出来事を編纂している。阿求はその九代目である。

 

「やあ、阿求、久しぶりだね」

 

阿求はたまに私たちのライブに顔を出している。体が弱いので、人里付近で行われるときだけであるが。中でも私の演奏がお気に入りらしい。

 

「そうね、前に人里でライブがあった時以来かしら」

 

ライブに来た時はいつも話かけてくれる。今では友人のような関係である。まあ、私は妖怪ではないので問題ないだろう。

 

「それで、何か困り事でも?」

 

「ああ、いや、私より先に慧音の方を済ませてくれ。先約はそっちのようだからね」

 

「まあ、私の用事は長くないし、別にいいんだが・・・」

 

慧音が話し始める。

 

「先日の桜のことなんだが、未だに原因がよく分からなくてね。阿求の意見を聞きたいんだが、どう思う?」

 

「桜?」

 

「ああ、ルナサは知らないのか。一昨日の夜だったかな、人里で急に桜の花びらが降り始めたんだ。今は冬で、桜の花なんて咲いちゃいない。季節を無視して花が咲く異変は何度かあったが、今回は桜だけだったし、なにより、翌朝になると散っていた花びらが消えていたんだ」

 

なかなか奇怪な出来事である。一昨日といえば、私たちが冥界でライブをした日か。何か関係があるのだろうか。

 

「今までの異変では、解決した後でも異変による影響は確かに残っていました。一晩で花びらが消失したとなると、集団幻覚か、はたまた、別な妖怪の仕業なのか。桜が降っていたのは私も見ていたので、幻覚だとは思えませんが」

 

阿求が答える。桜は人里の殆どの人が見ていたようだ。

 

「ただ、これは私の憶測ですが、異変ではないと思います」

 

「ほう、何故だ?」

 

「これまでの異変は、一度発生すれば、収まることなく長期に渡って続いていました。それこそ、巫女が解決するまで。あの桜は一昨日降ったきりでその後再び降り始める気配はありません。永夜異変のような例を除けば、彼女が発生から一晩で異変を解決するとは思えません。これらから、今回のことは異変ではないと考えています」

 

阿求は自分の推理を得意げに話す。どこか、嬉しそうにも見える。まるでいい話のネタを仕入れたかのような。

 

「そうか、異変ではないとすると、巫女に依頼する必要はなさそうだな。じゃあ、しばらくは様子を見るとしよう。失礼するよ」

 

慧音は用を済ませると、手早く部屋を後にした。

 

 

「それで、貴女の用事というのは?」

 

阿求がこちらを向き、尋ねる。

私は、慧音に話したように事情を説明した。

 

「ふむ、能力が失われた、ですか」

 

「そうなんだ。リリカにも心当たりはないらしいし、何か分からないかな」

 

「そもそも、能力というのはその人物固有のものであり、変質こそすれ、突然無くなるというのは本来あり得ないんですよね。私が転生しても求聞持の能力が継承されることからも分かるように、能力は魂に結びついているのです。幽霊や怨霊など実体を持たないものが能力を持つのもこれが理由ですね。貴女達は騒霊ですが、例外ではありません」

 

「じゃあ、一体どうして・・・」

 

「こう考えることはできませんか、能力が失われたのではなく、能力を発動するための条件が無くなってしまったのだと」

 

「能力を発動する条件?」

 

私はよく分からず、聞き返す。

「例えば、私の能力は一度見たものを忘れない程度の能力ですが、私の目が見えなくなってしまえば、能力は使えなくなります」

 

「それって、つまり・・・

 

 

 

私は稗田邸を後にし、阿求に言われたことを考えていた。彼女の推察が正しければ、原因が分かったかもしれない。急いでリリカ達に教えなければーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

博麗神社は幻想郷と外の世界の境目にある。

参拝客は少なく、人外がよく訪れることから、妖怪神社と呼ばれている。

 

「ふう、着いたわ。それにしても今日は寒いわねぇ」

 

神社の鳥居を抜け、境内に入る。しっかりと雪かきがされているようだ。

参拝客もいないのに、ご苦労な事だ。流石、異変解決と掃除はちゃんとやる巫女と言われるだけはある。

 

「あら、珍しいわね。いつもは宴会の時にしか見ないのに、何の用?」

 

神社の賽銭箱の横にいるのは、当代の博麗の巫女、霊夢だ。頭のリボンと肩を出した紅白の服が特徴の彼女だが、流石に寒いのか、上着を着ている。

 

「ちょっと聞きたいことがあってね」

 

「妖怪のあんたに教えることなんて無いわよ」

 

彼女はぶっきらぼうに答える。

 

「妖怪じゃなくて、騒霊なんだけどねー。そうそう、今日はお賽銭とお茶菓子を持ってきてたんだった」

 

「それを早く言いなさいよ。今、お茶を淹れるから上がっていきなさい。ゆっくりしていくといいわ」

 

チョロい。

 

 

「で、話って何?あんたらのライブを神社でやりたいってんなら歓迎するけど」

 

「お前、それはライブに来る客からお金を巻き上げようって腹だろう。そんなんじゃ、どこぞの姉妹と変わらないぜ」

 

巫女と親しげに話す彼女は霧雨魔理沙、普通の魔法使いだ。白黒の格好に魔女のような帽子を被っている。

 

「まあ、その話はまた今度ね〜。で、聞きたいのは、能力についての話よ」

 

「あー?能力?」

 

「そう、能力を消すことってできるのかな〜って」

 

「なんでそんなこと聞くんだ?自分の能力に嫌気がさしたか?」

 

「そんなわけないじゃない。私の能力はみんなをハッピーにする素敵な能力よ」

 

「そうか?まあいいや。で、能力を消す、かぁ。あいつならできるんじゃないのか?」

 

「あぁ、あいつね。いや、流石に無理みたいよ。憑依異変の時に貧乏神の能力を封殺できないか聞いてみたけど、それはできないって言われたわ。本当かどうかは分からないけどね」

 

誰のことを言っているのだろうか。

 

「ねえ、あいつって?」

 

「あー?あいつよあいつ。神出鬼没でプライバシーもへったくれもなくて、上から目線でプライド高くて、何考えてるかわかんないし、胡散臭すぎるしなんでもお見通しみたいな態度とるあのバーー

 

バキッ!!

 

言い終わらないうちに、何もない場所からヤカンが飛んできて霊夢の頭にクリーンヒットした。

 

「はぁい♪私の悪口はそこまでよ」

 

突然、空間に隙間のようなものが現れて、そこから一人の女性が出てきた。

八雲紫。

この幻想郷の管理者であり、創始者の一人だ。人前にはなかなか姿を見せないというが、巫女とは仲がいいのだろうか。

 

「あら、プリズムリバー楽団のメルランさんじゃない。こんなところにいるなんて珍しいわね」

 

「こんなところで悪かったわね!」

 

霊夢がヤカンを投げ返す。

紫は再びスキマを出現させ、飛んでくるヤカンをスキマの中に送り込んだ。

 

「まったく!聞き耳立ててたんなら分かるでしょ、能力を消す方法を聞きにきたんだってさ」

 

霊夢はヤカンの当たった場所をさすりながら言う。結構痛そうだ。

 

「ふーん、能力を消す、ねぇ。私にはそんなことは出来ないわね。能力とその使用者は渾然一体。境界を操ろうにも存在しないんだもの。でも、私の友人に、それができる可能性がある者がいるわね。教えてあげましょうか?」

 

 

 

私は、八雲紫からその人物の名を聞いた。俄かには信じられなかったが、まあ怪しいといえば怪しかった。取り敢えず私は、その人物に話を聞くべく神社を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんたも意地が悪いわね、どうせ全部分かってるんでしょ?教えてあげればいいのに」

「あら、なんのことやら。私はちゃんと情報を与えました。どうするかは彼女達次第よ」

 

 

 

 




はい、失われた音 第二楽章いかがでしたでしょうか。
憑依華でぼっちだったゆかりんにもちゃんと友人がいたんですね。(ヤカン
一体誰なんでしょう。
次回はリリカサイドのお話です。
ではまた。

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