今回はリリカサイドのお話からです。
ちょっと長くなってますが、楽しんでいただければ幸いです。
私たちの館から人里を過ぎてしばらく行った場所に竹林がある。
この竹林は迷いの竹林と呼ばれ、不慣れな者が迷い込んだらまず出ることは出来ないと言われている。
だが、私はこの竹林を進まなければならない。永遠亭は、この竹林の中にあるからだ。
「あんまりこの辺は来たことないんだけどなぁ。まあ、大丈夫だよね」
竹林の中を真っ直ぐに進んでいく。と、思っていたのだが・・
「あれぇ?ここさっきも通ったような?でも、真っ直ぐ進んでただけだし、気のせいだよね?」
気をとりなおして再び真っ直ぐ進む。念のため周りの竹に印をつけながら。
しかしーーー
「やっぱり、さっきから同じとこ回ってるわ。この印何度も見たもん」
どうやら、迷ったようだ。
「あぁー!こんなことなら、別の場所にすれば良かったわ。万能薬でパパッと解決してくれそうなんて理由で来るんじゃなかったぁ〜」
後悔先に立たず。私はこのままここで朽ち果ててしまうのだろうか。ヤバい、泣きそう。
「なんだ、騒がしい。迷い人か?」
だが、神様は私を見放してはいなかったようだ。ああ、ありがとう、神様。年に一回くらいはお参りします。
「ん?リリカじゃないか。こんなところになんの用だ?」
「あれ、妹紅、あんたこそなんでこんなとこに?」
現れたのは藤原妹紅。腰まで伸びる白髪が印象的で、幻想郷に住む少女の中では珍しくスカートではなく、もんぺみたいなものを履いている。彼女曰く、昔の貴族の服装らしい。
「私はこの竹林の中に住んでるんだよ」
そうだったのか。彼女とはよく会うが、どこに住んでいるかは知らなかった。
「で、なんでこんなところにいるんだ?」
「実は、私の幻想の音を奏でる程度の能力が使えなくなってね、永遠亭の薬師ならなにかいい解決法を知ってるんじゃないかと思って来たんだ。このままじゃ、プリズムリバー楽団は活動できないし、早く治さないと・・」
私は、能力を失ったことを説明した。
「そうか。それは大変だな。プリズムリバーが活動停止になるのか・・・
な、な、なんだってぇぇぇぇ!?」
妹紅は一瞬間をおいてひどく取り乱し始めた。
「か、か、活動停止?なんでそんなことになるんだ?能力が使えないだけだろ?」
さっきとはうってかわって混乱しているようだ。
「今まで私たちが人前で演奏できていたのは私の能力が姉さんたちの能力を緩和していたからよ。それが無いまま姉さんたちが演奏したら、お客さんが鬱になったり躁になったり、収拾がつかなくなるのよ」
私は落ち着きを失った妹紅に丁寧に説明した。
妹紅は私たちがライブをするときはいつも見に来ている熱心なファンのようで、私たちが解散の危機だと聞いて、死ぬほど驚いたようだ。
「そりゃー本当に大変だな。分かった。私も可能な限り協力させてもらうよ。お前たちの演奏が聴けなくなったら、人生の楽しみが減ってしまうからな」
「ところで、妹紅は原因が何か知らない?」
一応ダメ元で聞いてみる。
「知らんな。そんな方法があれば、私がとっくにやってるよ」
妹紅は不老不死であり、千年以上生きている。並の人間であれば、数百年で死にたくなるだろう。実際、彼女も以前はそうだったらしいが、最近は色々と楽しみを見つけているようだ。
「そういえば、ここに住んでるなら、竹林には結構詳しいの?」
永遠亭までの道のりを知っていれば儲けものだ。
「ん?ああ、私はこの竹林の隅々まで熟知しているぞ。迷った人をたまに送り届けたりもしている」
「じゃあ、永遠亭へ案内してくれないかな。さっきから同じとこばっか通ってて参ってたんだ」
私は妹紅に道案内を頼んでみた。このまま私一人で進むのは危険だ。
「まあ、ここは素人が入っていい場所じゃないからなぁ。分かった、ちゃんとついてきなよ」
こうして、運良く妹紅と遭遇した私は、無事永遠亭にたどり着くことができた。
「ここが永遠亭かぁ、初めて来たよ」
誰も寄り付かない竹林の中にあるため、敷地がかなり広い。ひょっとしたら、阿求のところより広いかもしれない。
「あれ、お客さん?って、妹紅じゃない。何か用?」
出てきたのは、長い兎の耳をした、ブレザーを着ている少女だ。
「やあ、鈴仙ちゃん。用があるのは、私というよりこっちの方かな」
そう言って妹紅は私を指した。
出てきたのは、鈴仙・優曇華院・イナバ。
元月の兎で、永遠亭の薬師の助手をしている。
それにしても、ちゃん付けとは。妹紅とは割と親しい感じなのかな。
「ん?貴女はプリズムリバーの三女の方ね。どうかしたの?」
鈴仙は不思議そうに尋ねてくる。まあ、今までここに来たことはないから当然か。
「実は、永琳に相談したいことがあって来たんだ。上がってもいいかな」
私は鈴仙に尋ねる。事前に連絡も無く上げてくれるだろうか。まあ、こんなところにいちゃ、連絡したくてもしようがないが。
「ふーん、お師匠様に相談ね。別にいいわよ。私が呼んでくるから、上がって待ってなさい」
そういうと鈴仙は私たちを応接間に通して永琳を呼びに奥の方へ消えていった。
こんなところに屋敷を建てるくらいだから、排他的なのかと思いきや、意外とすんなりいきそうだ。
しばらくして、二人分の足音が聞こえてきた。
襖が開かれる。
「待たせたわね。丁度新薬の実験を終えたところでして。それで?用があるのはそちらの騒霊さんのようだけど、何かしら?」
入ってきたのは八意永琳。元月の民であり、この永遠亭で薬師をしている女性だ。数億年生きてるだとか、月の賢者であるとか、色々な噂が立っている。
「うん、実はーーー
私は妹紅のときのように永琳に説明した。彼女なら、何か知っているのではないか。
「ふーむ、能力がねぇ。残念ながら、私は失われた能力を復活させるような薬は持ってないわ。前例が無いからね」
永琳は申し訳なさそうに言う。
「そうかぁ、ここに来ればなにかしら解決策が見つかると思ってたけど、甘かったかな」
うーん、空振りか。
「本当に無いのか?ちょっとしたことでもいいんだ。何か知ってたら教えてくれ」
妹紅が尋ねる。私よりも必死な気がするが、気のせいだろうか。
「あら、珍しいわね。姫様と喧嘩するとき以外は冷めてるようだった貴女がそんなに必死になるなんて」
永琳はさも驚いた様子だ。妹紅は永遠亭の姫様と喧嘩、というより殺し合いをしている。本人曰く、昔の仇らしい。
「なっ!?いや、まあ、その」
妹紅は恥ずかしそうに目をそらす。熱心な楽団のファンというのもあるだろうが、困ってる人を放って置けないのが彼女の性なのだろう。
「ふふっ、まあいいわ。じゃあ、ひとつだけ、気になっていることを教えましょう。
ここ永遠亭には、私たち元月の住民が住んでいます。ここは少し前に私たちが異変を起こすまでは結界で閉ざされていたわ。月の民から見つからないようにする為と、穢れになるべく触れない為にね。結界が解けても、ここに来る人間は僅かなため、穢れはほとんど無いの。だから、外からくる穢れにはとても敏感だわ。貴女にはその穢れを感じるの。死という、大きな穢れをね」
ん?説明がよく分からない。私から死の穢れを感じる?私は死んではいないんだけど・・・
「えーと、どういうこと?私は騒霊であって、幽霊ではないから、死んではいないと思うんだけど・・・」
そう、私は騒霊だ。幽霊や怨霊と違って生きていたのが死んだわけではなく、その存在として生み出されたのだ。まあ、生きているというわけでもないが。
「そうね。貴女は死んではいないわ。恐らく、死の気配を漂わせているのは貴女の能力。いや、能力が死ぬのは使用者の魂が無くなる時のみ。とすれば、能力に関わる何かが死んでいるのよ」
んんん?ますます分からない。能力に関わるもの?一体なんだというのか。
「あのー、それを生き返らせるということは・・・?」
私は、分からないなりに聞いてみた。取り敢えず治せればそれでいいのだ。
「できないわ。人命ならともかく、能力のような概念的なものを蘇らせるのは薬の領分ではないの」
身体的なことではないので、流石に治すことはできないらしい。
「そうですか・・・」
うーん、どうしたものか。
「まあ、気を落とすことはないわ。それが何か分かれば、手の打ちようはあるはずよ」
私は永遠亭からの帰り道、永琳に言われたことを考えていた。能力に関わるもの?さっぱりわからない。竹林から出ると、妹紅に礼を言い、館へ帰った。
「ふーむ、不思議ね」
「お師匠様、どうかしましたか」
「いえ、あの子は騒霊だったわよね。騒霊というのは、本来存在感が薄いの。自分の立てる音を引き立てる為にね。でもあの子は人間や妖怪とそう変わらない存在感を示していた。これも何か関係あるのかしらね」
館に戻ってきた。結局、得られた情報は私の中の何かが死んでいるということだけか。
姉さんたちは何か掴めただろうか。中から話し声が聞こえる。どうやら先に帰っていたようだ。
「ただいま〜」
その声を聞いて、今まで話をしていた姉さん達の視線が私に向く。
「あら、おかえりリリカ。何か掴めたかしら?」
メルラン姉さんが尋ねる。
「うーん、永琳によると私の能力に関わる何かが死んでるってことらしいんだけど・・・」
それを聞いて、ルナサ姉さんとメルラン姉さんが顔を見合わせる。
「これで確信が持てたよ。リリカの能力が失われた原因について、私たちの予想は当たってたみたいだね」
ルナサ姉さんが真剣な顔で言う。二人の得た情報と、私の情報で原因を特定したということか。
「一体何なのさ、私にも教えてよ」
このままではよく分からないので、説明を求めてみた。
「そうだね。私たちの推理をリリカにも教えないと、っと、お客さんのようだ。リリカ、悪いが、後で話させてもらってもいいかな」
扉の開く音がする。私が後ろを振り返ると、一人の少女が立っていた。
「我が主がお呼びです。ついてきて頂けますか」
幻想郷のはるか上空に存在する結界をこえていくと、気の遠くなるような長い石階段が見えてくる。その階段は、歩いて登るのはほぼ不可能で、空を飛べる者、はたまた宙に漂う者しか先に行くことを許さない。
階段を登りきるとーーこの場合、飛び越えると、が正しいかもしれないがーー白を基調とした広い屋敷と、その傍に荘厳と佇む枯れ木が存在する。
ここは冥界、白玉楼。私たちが先日、幽々子に招かれて演奏をした場所である。
「幽々子様、客人をお連れしました」
そう話すのは魂魄妖夢、この白玉楼の庭師であり、西行寺幽々子に仕えている。私たちを家まで呼びにきたのも彼女だ。
「ようこそ、冥界へ。今日は貴女達に話すことがあって来てもらったの」
白玉楼の主、西行寺幽々子は粛々と挨拶をする。さすが、冥界の管理者なだけあって貫禄がある。
「ちょっといいかな、リリカの能力が失われたのは、貴女が関係しているの?」
「ちょっ、ルナ姉何を言ってーーー
私は思わず声を上げる。ルナ姉はそれを無視して続ける。
「私たちは今日一日、能力が失われたことについて色んな場所で情報を集めたわ。そして、各々別々の情報を手に入れた。私はリリカの中から失われたもの。メルランはこの事件の原因となった可能性のある者。リリカは能力が失われた原因を。それらを合わせると、辻褄が合うのよ」
ルナ姉がまくし立てる。いきなりすぎてよくついていけない。
「ちょっと、ルナ姉、どういうこと?姉さん達が集めた情報ってなに?」
私は、一旦状況を整理するために話に割り込んだ。
「私は、リリカの能力が失われたのは、リリカの中の幻想が失われたということだと考えた。メルランは、八雲紫から怪しい人物として貴女の名前を教えてもらった。これが、私たちの集めた情報よ。これにリリカの情報を合わせると、
『西行寺幽々子がリリカの中の幻想という概念を殺した』ということになるのよ。貴女の能力は死を操るんだっけ?ピッタリじゃない」
幻想を殺す?よく分からないが、そんなことが可能なのか?出来るとすれば、随分と無茶苦茶な能力だと思うが。
「ちょっ、ルナ姉、いくらなんでもそれは無茶苦茶じゃない?」
私は否定しようとした。だがーー
「ええ、その通りよ。貴女の能力が失われたのは私が原因なの」
幽々子の声によってそれを遮られた。
「・・・えっ?」
「まあ正確には、私が、というよりその子が、ですけどね」
そう言って、幽々子は桜の木ーー西行妖というらしいーーの根元を指差した。
「あの西行妖の根元には、私の死体が眠っています。その死体は、西行妖が満開になると目覚めるらしいわ。そうなったら、私も消滅してしまうのだけれど。でも、先日の貴女達の演奏によって、西行妖が満開になる寸前まで咲いたらしいわ。九分咲きってところかしら。私は見ていないのだけれど。どうやら消滅しかかってたみたいね。それによって、桜の下に眠る私の能力が暴発したのよ。私の生前の能力は、生き物を死に誘う能力。でも、ここに生き物は存在しない。行き場を無くした力は、貴女の中の幻想という概念を殺してしまった。これが、この事件の真相よ」
幽々子が説明を終える。俄かには信じられないが、その表情が嘘ではないことを物語っている。
「でも、ちょっと待ってよ、私たちの演奏は、確かに生き物やそうでないものにも影響を与えるけど、春雪異変の時、春を集めても、そこまでは咲かなかったんでしょ?そんなに強い影響を与えるとは思えないんだけど・・・」
私は、疑問に思ったことを尋ねる。
「そうね、普通であれば、咲くはずが無いのよ。でも、この二日間妖夢に幻想郷を調査させて分かったのだけど、何者かによって幻想郷に存在する者の生命力が増幅させられているらしいわ。まあ、これは巫女の領分だから、誰の仕業かは知らないけど。それによって、西行妖は貴女達の演奏による影響をより強く受けてしまったようね」
じゃあ、私が能力を失ったのは、事故のようなものだということか。
「不測の事態とはいえ、私が原因であることには間違いないわ。本当にごめんなさい」
幽々子は深々と頭を下げる。正直、らしくない。
「気にしなくていいって!事故みたいなものじゃん。私は気にしてないよ。それより、元に戻す方法は知らないかな?」
私は笑ってそう言った。実際、幽々子に非はないだろう。
「そう言ってもらえるとありがたいわ。でも、戻す方法はわからないわ。私の能力は死を操ること。生き返らせることはできないの」
幽々子は治し方を知らないようだ。まあ、仕方がない。原因が分かっただけでも前進である。
「分かった、ありがとう!解決策はこっちで探してみるよ」
私は素直に感謝を述べる。幽々子は責められることも覚悟していたようだが、それはお互い様である。彼女も消えかけたのだから。
「私達も調べてみます。できうる限りの協力は惜しまないわ」
原因は分かった。あとは何とかして解決策を見つけるだけだ。
そうして、私たちは白玉楼を後にした。
はい、失われた音 第三楽章いかかでしたでしょうか。
リリカサイドのお話+ネタバラシです。
紫の言ってた人物は幽々子だったんですねぇ。
幻想殺し…どっかで聞いた単語ですが、彼は無関係です。
次回は、解決策を探して三姉妹が奔走します。
ではまた。