失われた音   作:まくランド

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プリズムリバーの物語、最終章です。

独自解釈や設定が散見されますが、楽しんでいただければ幸いです。


失われた音 第五楽章

あれから、更に一ヶ月が経った。

紅魔館の運命を操る吸血鬼を尋ねたり、守矢神社の奇跡を起こすという現人神に頼ってみたり、道教や小人の秘宝も試してみたりしたが、いっこうに成果は得られなかった。

私の能力を取り戻す目処はまだ立っていない。

 

「あ〜ごめんねぇーみすちぃ〜私が不甲斐ないばっかりに〜」

 

私は今、ミスティアの屋台でヤケ酒を飲んでいる。

ミスティアとは、合同ライブの約束をしたのだが、結局演ることはできなかった。せっかく楽しみにしてくれていたのに、本当に申し訳ない。

 

「まあまあ、能力が戻ってからでもいいじゃないですか。私はいつでも構いませんよ」

 

「でもぉ!いつ戻るか分からないんだぁ〜!」

 

私は勢いよく杯を傾ける。

 

「ちょっと、飲み過ぎじゃない?それくらいにしときなさい」

 

「そうだね。流石に一旦落ち着こう」

 

姉さん達が心配そうに話しかけてくる。だが、いくら飲んでも私のこの悶々とした気分は晴れない。

 

「だって、もう二ヶ月だよ!?このままじゃ本当にプリズムリバー楽団が解散になっちゃうよ」

 

「まあ、そうねぇ。これだけ試して手がかりが無いというのもなかなか辛いわね」

 

どうすればいいんだろうか。思いつく手は全部尽くした。やはり時間で戻るのを待った方がいいのだろうか。いや、そんな悠長に構えてたらいつまでかかるか分からない。かといって、これといった手がかりもないし、八方塞がりだ。なにか、いい方法はーーー

 

 

 

 

 

気がつくと、またあの白い部屋にいた。どうやら、飲みながら寝てしまったらしい。

 

ーー姉さん。

 

後ろから声が聞こえた。またあの影だろうか。

そう思って私は振り返った。

 

 

 

 

そこには、見覚えのある少女が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「リリカー、もう閉店よー、起きなさーい」

 

「やれやれ、これは担いで行くしかないかなぁ」

 

ルナサ姉さんが私を担ごうと手を伸ばした瞬間、私は勢いよく起き上がった。

 

「うわあああ!!びっくりするじゃないか!いきなり起き上がるなんて、心臓に悪い!」

 

ルナサ姉さんが驚いた声をあげる。いつもテンション低い姉さんがこんなに驚くのは珍しいが、私はそれを気にも留めなかった。

 

「思い・・出した」

 

そう言って私は屋台を飛び出した。

 

「わっ、ちょっ、リリカ!?どこ行くのさ!ごめん、ミスティア、これお勘定!お釣りはいらないから!」

 

「待ちなさい、リリカ!」

 

姉さんたちも慌てて追いかけてくる。

 

ああ、それにしても、何故忘れていたのだろう。私の、いや、私たちの、とても大切な人を。能力を失ったせい?長い年月のせい?いずれにせよ、彼女はずっと私を呼んでいたのだ。私はそれに応えなければならない。

 

 

そして、私は遥か上空、冥界と現世の境目まで来た。この結界を越えれば冥界へ行ける。

私は結界を抜けようと手を伸ばした。

 

「待ちなさい」

 

その時、私の目の前の空間がパッと開いた。

そのスキマの中から一人の女性、八雲紫が現れた。

 

「お久しぶりね。先の異変以来かしら」

 

「なんの用?私は急いでるんだけど」

 

私は彼女と直接話したことはないが、憑依異変の時に私たちのライブ会場の近くでドンパチやっていたのを覚えている。メルラン姉さんは神社に行ったときに会ったらしいが。

 

「貴女はこのままでは冥界へ行くことはできないわ」

 

八雲紫は静かにそう告げる。

 

「貴女は今、騒霊ではなく人間に近い状態になっています。能力を失ってすぐなら通れたかもしれませんが、結構時間が経っていますからね。だから、私が結界を緩めないと、通ることはできないわ」

 

「じゃあ、結界を緩めてもらえないかな。私は冥界へ用があるんだ」

 

「その前に、一つ確かめたいことがあります。この先、貴女は一つの選択を迫られるでしょう。それがどんなものであっても、受け入れる覚悟はできていますか?」

 

八雲紫は淡々と聞いてくる。

選択?何のことか分からないが、私には引き返すという選択肢はない。

 

「 なんのことを言っているのかよく分からないけど、私は行かなきゃいけないんだ。今更戻る気なんてないよ」

 

「そうですか、分かりました。それなら、ここを通りなさい。そして、貴女の答えを見せなさい」

 

そういうと、八雲紫は結界に触れた。結界の一部に歪みが生じ、薄くなっていくのが分かる。

 

「貴女の探しているものが見つかるといいですね」

 

八雲紫はそう言って結界に穴を開けた。私はその穴をくぐって冥界へと向かう。

 

 

 

 

 

冥界はいつ来ても、風景が変わらない。薄暗いながら古風な雰囲気で、どこか優雅さを感じさせる。

私は、冥界に無数に漂っている霊たちの中からある者の魂を探していた。しかし、どれも同じような形をしていて、判別するのはかなり難しい。

 

「どこ?どこにいるの?」

 

この広い冥界で、形の同じような霊魂の中から一人を特定するのはほぼ不可能だと思われる。だが、私なら、彼女なら、分かるはずだ。

その時、一つの霊魂が私の近くへ寄ってきた。だが、これは彼女ではない。直感で分かる。無視していると、その霊魂は私の周りで回り始めた。

 

「あー!もう、いったいなんなの?」

 

私が叫ぶと、霊魂は私を離れてある方へ向かっていった。かと思うと、その場で一旦止まる。

 

「もしかして、案内してくれるの?」

 

私は聞いてみた。霊魂は頷いたような気がする。

それから、私は霊魂が導くままに冥界の道を進んでいった。周りの景色は石燈籠が並ぶばかりでほとんど変わらないのに、この霊魂は迷うそぶりも見せずに足早に進んでいく。足はないけれど。

 

そうしているうちに、開けた場所に出た。目の前には、黄金に輝かんばかりの大木がそびえ立っていた。すると、私を案内していた霊魂が人の形に変わっていく。

 

「あ、貴方はーー」

 

「どうも。この木はイチョウの木です。白玉楼の桜が命を奪うものなら、このイチョウは命を与えるもの。私たち幽霊は、冥界のこの場所でのみ人の形をとることができます。ある人に案内するように言われまして、貴女をここまで連れてきました」

 

私はこの人物を知っていた。ライブによく来ては、親しげに話をしてくる人間だった。先日亡くなったと聞いていたが、幽霊となって冥界を彷徨っていたようだ。

 

「あの木の下で、彼女が待っています。どうぞ、行ってあげてください」

 

私は、覚悟を決めて、踏み出す。この先に、彼女がいるのだ。私をずっと呼んでいた、あの人が。

心臓の音が高鳴る。久しぶりに会って何を言えばいい?どう接すればいいのだろう。彼女とはもう会えないと思っていたから、色々戸惑っている。

思いを巡らせていると、いつのまにかイチョウの木の根元まで来ていた。

 

 

そこには、一人の少女が立っていた。私たちが初めて会った頃の姿で、彼女はそこにいた。

 

「久しぶり。姉さん」

 

「ーーーレイラ!!」

 

私は彼女の名前を叫び、駆け寄り、そして、抱きしめた。

ああ、間違いない。レイラだ。私たちの生みの親であり、妹である彼女が今、ここにいる。昔と変わらぬ姿で、ここに立っている。

 

「レイラ、本当にレイラなのね。ああ、久しぶりなんてもんじゃないよ。危うく忘れるところだったよ、もう」

 

私は肩を震わせながら言った。

 

「ふふっ、姉さんは相変わらずね。涙脆いところとか、昔から変わっていないわ」

 

そう言うと、彼女は私の頭を撫でた。ただでさえ感極まっていた私の想いは限界を迎えた。

 

「ご、ごめん、ね。貴方は、ずっと、私を呼んでいたのに、気づいてあげられ、なくて」

 

そう言って、私は彼女の腕の中で溢れんばかりの思いを吐き出していた。 そこで感じられる感触は生前のものと全く変わりなかった。

 

「レイラ?レイラじゃないか!」

 

後ろの方から声が聞こえた。どうやら、姉さんたちが追いついたらしい。

 

「ルナサ姉さんにメルラン姉さんも、久しぶりね」

 

「本物、なの?」

 

「私は本物よ、メルラン姉さん。死んでからずっと冥界を漂っていた私は、この木の力で生前の姿を取ることができているの。こうしないと、私の役目を果たすのに色々と不便だしね」

 

「役目?」

 

「そう、リリカ姉さんを呼んだのは、私の役目を果たすため。貴女たちを生んだ親として、貴女たちを最も愛している妹として、私の果たすべき役目よ」

 

そう言って、レイラは目を閉じ、私を強く抱きしめた。

そして、一瞬の沈黙の後、意を決したように言った。

 

「姉さん、私の魂を取り込んで」

 

レイラは、強く、はっきりとした言葉で話す。

 

「リリカ姉さんの能力が失われたことは知っているわ。その原因も。私は冥界で一部始終を見ていたからね。姉さんの能力の根幹である幻想という概念が死んだ。なら、姉さんたちを幻想から生み出した私なら、それ程の幻想を持った私だったら、復活させることができるかもしれない」

 

「本当に?」

 

声が震える。私の能力はもう戻らないのではないかと半ば諦めていた。それが、こうして再び蘇らせることができる可能性が出てきた。

だがーーー

 

「それって、レイラはどうなるの?」

 

ルナサ姉さんの疑問によって、私は我に返った。

そう、魂を取り込むというのは、魂を喰らうということと似ている。とある仙人が、怨霊を潰したりしているが、あれも似たようなことである。

 

「そうね、私は姉さんの魂と同化して、消えてしまうわ」

 

私は愕然とした。レイラが、消える。つまり、幽霊として存在することも、彼岸に渡って転生することもできないということだ。

 

「そんな、レイラ、そんなのだめーー

 

レイラは優しく私の口に指を置いた。

 

「元々覚悟していたことよ。これしか有効な方法は無いと思うわ。それに、消えるといっても、それは私個人としての存在が無くなるだけで、姉さんの中で共に生き続けることはできる。だから、お願い。私を信じて」

 

彼女の目は真っ直ぐ私を見ていた。それは、存在が消えてしまうことの恐れも、自分の運命への恨みもなく、ただただ私を助けたいという想いに満ちた目だった。

 

私は、ただ黙って頷くことしかできなかった。言うなれば、これは妹のわがままだ。そして、生みの親としての我儘でもある。ならば、その願いを無碍にすることはできない。

 

ルナサ姉さんやメルラン姉さんはどんな顔をしているだろうか。振り返ってみると、二人とも、覚悟はできているという表情だ。

 

「まあ、これも可愛い妹たちのわがままってことよね〜、姉さん」

 

「そうだね、そういうのを黙って許容するしかないのも、姉として辛いところだけどね」

 

「ありがとう、ルナサ姉さん、メルラン姉さん。私のわがままを聞いてくれて。じゃあ、リリカ姉さん、お願い」

 

そういうと、レイラは再び私を強く抱きしめた。徐々に彼女が私の中へと入ってくるのを感じる。私はただ黙ってそれに身を委ねる。

レイラの魂が、一つ一つ、殻を破るように、私の中で溶け込んでいく。私の魂と一つになっていく。

彼女の魂は驚くほどすんなりと私の中へと入っていった。私が彼女から生まれた存在だからだろう。

そうして、レイラの魂は私の中に全て入り込み、私の魂と混ざり合って一体となる。そして、レイラの魂が完全に私のものとなった時ーー彼女の存在はこの世から消えたーー

 

 

 

 

 

 

 

銀杏の樹の下、先ほどまで四人だった影は三人となり、辺りをただ静寂が包んでいた。




失われた音 第五楽章いかがでしたでしょうか。
レイラという存在は、三姉妹にとっては妹であり親でもあるというとても大きなものであると思っています。それで、彼女を鍵とした話を作らせていただきました。
また、冥界に銀杏があるというのは公式ではありませんが、あの場面に相応しい樹だと思います。色んな意味で。
ここから後日談に続きます。
ではまた。
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