苦々しいリーダー【艦これ二次創作】   作:シグ&リデ=覚醒

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第壱話「着任~物語の始まり~」

「はぁ…やっと着いたかぁ」

 

季節は夏、汗がダラダラと流れてきて鬱陶しい。その上この長距離を歩かされ、彼女は不平不満が溜まっていた。

 

しかし文句は言えない。陸を移動するようにという前鎮守府提督の命だったから。

 

理由は聞いている。そしてそれが事実だというのも自分の目で確認した。

 

「いやーまぁね。話には聞いてたけど…。本当に凄い警備システムだね~」

 

……彼女は俗に言う艦娘。出来る事なら海からこの鎮守府に入りたかった。

 

しかしこの警備システムだ。海から侵入しようと目論めば、間違いなく作動していただろう。

 

流石に、着任初日から迷惑をかける訳にはいかない。ただでさえ自分は、前鎮守府で「トラブルメーカー」と呼ばれていたから。

 

「うっし!頑張りますか!」

 

そう言い、彼女は気合いを入れる。彼女が持っていた荷物からは、生活必需品等よりも大量に入っている「探照灯」がはみ出していた。

 

~~~

 

「あ…来ましたよ…」

 

「ホントだー!いらっしゃーい!」

 

この鎮守府に1つしかない陸の入り口。彼女がそこから入ると、2人の艦娘が出迎えてくれた。

 

彼女はその2人の名前を知っていた。前鎮守府にも同じ見た目の艦娘が居たから。

 

というか、自分と「型」が同じだから。

 

「おぉ!神通さんに那珂さんだぁー!この鎮守府にも居て嬉しいです!」

 

そう言って彼女はぴょんぴょん飛び跳ねて駆け寄った。一方でその2人…神通と那珂は浮かない顔だった。嬉しそうではあるが。

 

「あ、あの…えっと…」

 

「うん。あのさ川内さん」

 

「あ、は、はい!?何でしょうか?」

 

その彼女…川内は、2人からパッと離れた。その際に2人が微妙な顔を作っていたのにも気がついた。

 

「私の事は『那珂ちゃん』って呼んで!他の娘ならともかく川内さんに『さん』付けされるのは流石に違和感凄いよ!」

 

那珂はブーブー文句を言った。でも確かに言われたらそうだ。川内は「えへへ」と照れた顔を作り、ビシッと敬礼をした。

 

「私は川内型:1番艦:軽巡洋艦の川内、参上!これから宜しくお願いします!」

 

「あ…はい…宜しくお願いします…」

 

やはり神通と那珂は少し戸惑っているようだ。恐らく妹と呼べる2人相手に、川内が敬語を使っている事に違和感があるのだろう。

 

しかしそんな事は気にせず。川内は2人に「提督に会いたい」の旨だけ伝える。現在は昼過ぎだから、恐らくテンションが上がってきているのだろう。

 

……川内にとっては新しい鎮守府。これからお世話になる街だ。提督に挨拶が先決と分かっていても、やはり周りが気になる。

 

余裕があれば今日中に観光もしてみたいところだ。現状を考えれば不可能に近いが。

 

そんな中、川内は1つ気になることがあった。街の景観について。

 

「あ、あの…那珂ちゃん」

 

「うーん?どうしたの!?」

 

「この街ってさ、倉庫多いよね~」

 

……川内の前鎮守府はとてもド派手だったのだ。といっても派手に光り輝く装飾が街中にあったとかそういう話ではない。

 

ただ…文化的な建物が並んでいたのだ。前鎮守府には中央街があり、その通りの建物の壁は真っ白に塗られ、道路には花壇もあった。

 

しかしこの鎮守府は、防衛の意味を込めて街灯が一本も無いのは仕方ないとして、花壇は愚か草木の一本も見当たらず、ズラッと並ぶ建物はどれも見た目が同じだった。

 

「あぁもしかして…!この鎮守府について何も聞かされてない感じ!?」

 

相変わらずアイドル感溢れた声を出し、アイドルスマイルを作ってパッと振り返る那珂。

 

……この川内は、何だかんだ数々の夜戦を潜り抜けてきた艦娘の1人。人を見る目には自信があった。

 

自信があったからこそ…気付いた。パッと振り向いた時の那珂は、漫画やアニメとかでいう…目にハイライトが無い状態だったのだ。

 

目が死んでいるというか。元々何かどす黒いものを持っていて、それがふと表面に出て来たかのような。

 

とにかく。川内は思わずぶるっと身震いをしてしまう。とはいえこんなものにビビるつもりもない。

 

前鎮守府で散々喰らった大和型コンビのパワハラセクハラに比べたら、こっちの方が数倍マシだった。

 

川内はなるべく態度に出さないようにした。彼女にとっては手馴れたものだ。

 

「ふっふー!あのね川内さん!」

 

その後、川内は2人に連れられ提督邸(含執務室)に向かいながら、この鎮守府についての説明を受けた。

 

簡単に纏めるとこうだ。この鎮守府は正確には鎮守府ではなく、他鎮守府への救援物資を送る事を第1の活動意義としている。

 

「提督は『縁の下の力持ち』だって言ってた!」

 

「あぁなるほどね~」

 

鎮守府全体が大きな備品置き。その為にこの鎮守府の艦娘達が戦闘に向かうことはない。

 

海域の平和だとか、深海棲艦との戦闘とか和解とか、そんなのはこの鎮守府には無い。ただただ他鎮守府に送る為の物資を守るだけ。

 

「だから…ここにいる人達は皆さん…あの…自衛に徹するんです…」

 

「自分達から敵に突っ込む事は無いよ!だから遠征は余程の事がない限り無いと思った方がいいよ!」

 

川内はふんふんといった様子で話を聞いていた。最初は驚いたが、この鎮守府の存在意義は理解出来たし、必要無い施設とも思えなかった。

 

しかし川内は1つ気になった事があった。何を隠そう「遠征がほぼ無い」についてである。

 

「あ、あの…那珂ちゃん」

 

川内は、正直聞きたくないと思った。しかし今後の為に絶対に必要な情報。自分が感じている予感は気のせいだと願いつつも…。

 

だったが。残念ながら気のせいではなかった。那珂は川内の僅かな希望を打ち砕くようにサラッと言ってのけた。

 

「だ・か・ら!当然の話だけどー。夜戦なんてもっとないよー!」

 

そう、川内は艦娘の中でも随一の『夜戦バカ』だ。彼女にとって夜戦は生き甲斐。

 

しかし当然の話だが、自分から戦地に赴かない以上、夜に敵が攻めてくる事がない限り夜戦なんて無い。

 

川内は明らかに顔が真っ青になっていた。そして膝から崩れ落ちた。川内の後ろを歩いていた神通は、ビックリして飛び上がった。

 

「そ、そんな…」

 

「あはは…ごめんね!」

 

那珂は手を差し伸べた。川内はその手を取って立ち上がると、再び歩き始めた。そんな時、ふと神通が呟いた。

 

「あっ…ここです」

 

2人の話を熱心に聞いていた川内。そのせいでこの建物の威圧感に気がつかなかった。そこにデンと構えていた建物は、絵に描いたような「赤レンガ造り」だった。

 

川内は目を輝かせていた。というのも…前鎮守府の提督邸は、大きさは此処とさほど変わらないが、「鉄筋コンクリート造り」を白色のペンキで装飾し、無理矢理明るい雰囲気を作ってる建物だったから。

 

「これちょーすっげーじゃん!」

 

川内は、前を歩いていた那珂を追い抜いて提督邸に駆け寄り、その壁にタッチした。

 

レンガ特有のあのザラザラとした肌触り、とても痛気持ちいい。そんな感触に興奮する川内を、2人はニコニコと眺めていた。

 

……しばらく堪能した後。川内はずっと視界に入って気になるものを真剣に眺めた。提督邸の入り口の付近、壁に巨大な額縁が飾られていたのだ。

 

「あ、それはですね…この鎮守府の…」

 

神通が補足しようとするも、集中している川内の耳には届かない。それに言われずとも分かる。

 

その額縁の中には「ようこそ!」の文字と、この鎮守府についての細かな説明が並んでいたのだ。

 

「やっぱり。災害の被害履歴が殆ど無いね~。しかも降水量も少ない」

 

……此処で、観光案内の方ではなく、地形や天気、災害の情報に目が行くあたり、やはり川内も1人の軽巡洋艦のようだ。

 

川内の様子を後ろから眺めていた2人は、この川内の発言を聞いてお互いに見合わせた後、川内に駆け寄った。

 

「この鎮守府で雨なんて殆ど無いよ!たまに遠くの地震の影響で鎮守府中水浸しになることはあるけどね!」

 

「か、海抜が…低いので…」

 

「いやいや!海抜が高い鎮守府とか前代未聞じゃね!?でもまぁ…そっかぁ」

 

川内は少し安心した。自分は未だ巻き込まれたことは無いが、噂では「台風の憩いの場」と呼ばれるほど台風が来るため、遠征の時間よりも建物から水をかき出す時間の方が長い…という鎮守府もあるとか。

 

「ささっ、中に入ろっ!」

 

そう言って那珂はドアを開けた。さっきまでと変わらず、前から那珂・川内・神通の順番だ。

 

中は…まぁ外装とマッチしてる感じだった。全体的にほっこりした赤色に統一されている。レッドカーペットの自己主張が少し気になるが。

 

「こっちこっちー!」

 

器用に後ろ向きスキップをする那珂。突然ターンやジャンプも入れている。神通はそれをニコニコと眺める。

 

一方で川内は落ち着かないようで。壁にかかったオブジェを色々と眺めてるために、首のすわっていない赤ん坊のようだった。

 

そんな中、川内はある事に気が付いた。那珂は1人で先々に行くので、後ろの神通にその事について聞く事にした。

 

「あのーすいません、神通さん」

 

「あ、は、はい…なんで…と、というか…ですね…別に『さん』付け…しなくても…」

 

「あ、はい…」

 

少しギクシャクする。確かに神通の言う通りではあるが、まだ出会ってばかりだ、それは流石に少し気まずい。

 

そんな事より。川内は神通に質問をぶつけた。提督邸なのに艦娘の存在が薄い件について。まだ誰も見かけてない件について。

 

神通は少しオロオロした後、重そうに口を開いた。しかし那珂が叫ぶ声と同時になってしまう。

 

「川内さーん!ついたよー!」

 

那珂がある部屋の前でブンブンと手を振っている。割と視力の良い川内は、その部屋の扉に「執務室」と書かれたドアプレートが飾られているのを確認出来た。

 

……川内はふと思った。そう言えば2人は自分に「敬語無しで!」と言っておきながら、自分達も敬語じゃないかと。だがそんな事はどうでも良い。

 

ドアを開けたのも那珂だった。当然ながら、ドアが開いたわけだからその部屋の中を見ることが出来る。川内は少しワクワクして那珂を押し退けてそそくさと部屋に入る。

 

中の内装は…良くも悪くも川内の予想通りだった。もはや特筆することもないほど。

 

「ちぇーっ、ここは普通じゃん!」

 

やはり心のどこかでは、シャレオツな部屋を期待していたらしい。とはいえ変に華美なのも…なんて。

 

とにかく。内装は川内の予想通りだった。しかしその一方で、川内にとって予想外の事態もあった。

 

そう、提督が不在だったのである。

 

「あっ…提督…居ませんね…」

 

少し出遅れて中をのぞいた神通。那珂は彼女を連れて部屋に入ると、なんの躊躇もせずに提督の机上を漁り始めた。

 

これに驚いたのが川内だ。

 

「ちょちょちょっ!?そんな事して良いんですか!?」

 

慌てて那珂を止めようとする…川内の腕を神通が掴んだ。その際に変な表情をしていたのか、パッと振り向いた川内の表情を見て、神通はパッと手を離して俯いてしまった。

 

「おーあったよ!!」

 

その事と、那珂がそう叫んで1枚の紙切れをピラピラさせたのは、ほぼ同時だった。

 

その紙には、丸っこい…優しい印象を受ける割と小さい文字でこう書かれていた。

 

『装甲の工廠に居ます』と。

 

「全く提督はー!どうせメモ書きを残すんだったら、目につくところに残して欲しいよね!!」

 

頰を膨らませる「膨れっ面」を披露し、両腕をパタパタして可愛らしく怒りを表現する那珂。それを見てニコニコする神通。

 

川内はまだ納得がいかないようだった。というのも、前鎮守府にいた時は、提督の机を漁るというのが言語道断だったからだ。

 

因みに…前鎮守府に居た時、軽空母:鳳翔のうふふな写真が提督の机(引き出し)から発見され、少し騒ぎになった事もある。

 

「ほらほら川内さーん!早く工廠に行くよー!ゴーゴー!」

 

まだ呆気にとられている川内は無視して、那珂はさっさとその部屋を後にした。文字通り「手馴れている」ようだった。

 

川内はハッとして、慌てて彼女の後を追う。途中チラッと神通の顔も見たが、彼女も那珂とほぼ同じ状態だった。

 

(あーうん。これあれだよね~。自分が慣れないといけないパティーンの奴だよね~)

 

そんな事を考えて軽く溜息を吐きつつ、少し出遅れてオロオロしている神通は無視し、一目散に那珂の後を追ったのだった。

 

~~~

 

「こ、ここの提督さんは…」

 

結局、那珂を見失ってしまった川内は、後から追ってきた神通に案内を頼むことにした。

 

今は神通の話を聞きながら、那珂が向かった場所にのんびりと向かっている。

 

「わ、私達の…装備を…ですね、ご自身で…用意を…」

 

その話の中、川内が耳を疑った話があった。それは「提督自ら艦娘達の装備を調達している」という話だ。

 

確かにこの鎮守府では、敵に攻撃される事は殆ど無いと聞いた。遠征も殆ど無いと聞いた。とはいえ提督自ら…というのは、川内は聞いたことが無かった。

 

「そうなの!?」

 

思わず大きな声が出てしまった。ビクッとする神通を、川内はジッと見た。彼女がしどろもどろになるのも気にせず。

 

「は、はい…そうなんです…」

 

「へー凄いじゃん!前に居た鎮守府だったらね~。そういうのは大体…秘書艦の…」

 

 

 

……神通の足が止まった。

 

 

 

「あれ…神通さん?」

 

神通は足を止め、大きくハーっと息を吐いた。そして…さっきまで見ることが無かった、悲しそうな表情を作った。

 

楽天家でもあるあの川内でも、流石に慌てた。何か言ってはいけない事を口にしてしまったのか。自分の発言を思い出す…前に、神通が口を開いたのだった。

 

「本当に…何もご存知無いのですね…」

 

表情だけでなく、声も悲しそうだった。神通は何か言いたげに、口をもごもごさせながら俯いた。川内はそんな彼女に問い詰めようと、神通の肩を掴んだ。

 

しかし…またお前かと言わんばかりに、最高のタイミングであいつが帰って来たのだった。

 

「あー!いたいたー!」

 

那珂だ。どうやら2人を置いていった事に気が付き、引き返してきたようだ。

 

……見たら分かる。那珂は不貞腐れていた。川内は神通の肩から手をどかすと、那珂の方を向いた。神通は何故か申し訳なさそうだった。

 

「もー!2人で何の話を…」

 

川内に呼応するかのように2人に駆け寄る。そして…流石の那珂も気が付いた。神通の様子が明らかにおかしい。

 

川内とは違い、那珂と神通は旧知の仲。神通がこの様子になる時がどういう時かは、那珂も良く知っていた。

 

那珂は何も言わず、クルッと振り返って歩き始めた。ついてこいと言わんばかりに。

 

「な、那珂…ちゃん…」

 

少し慌てて再び歩き始める神通。川内も今度は置いてかれないようにして歩く。今度はその2人を気にして、かなりスピードを落とす那珂。

 

……気まずい。

 

「え、えっと…那珂ちゃん?私…何かマズイことしちゃった感じですかね~?」

 

那珂の様子を伺おうとうろたえる。そんな状態が数分続く。正直言って非常に気まずい。後ろの神通も口を開かないし。

 

「あ、あの~」

 

「川内さん」

 

そんな時だ。何の前兆もなくスッと那珂が止まったのだ。川内は驚いてピタッと止まったが、止まり損ねた神通は勢い余り、川内の背中に顔を埋めた。

 

「教えてあげるね…?」

 

スッと振り返る那珂。そして…あのハイライトが消えた目を再び作る。川内はそんな彼女の瞳に吸い込まれそうになる。後ろで必死に謝る神通の言葉が耳に入らなくなるほど。

 

「この鎮守府の…『呪い』について…」

 

息を飲む。軽く震えているのが自分でも分かる。チラッと後ろを見ると、『呪い』という語に反応した神通が、川内の服の裾を軽く握っていた。

 

「ふふふ」

 

那珂は不敵な笑みを浮かべて、この鎮守府についての説明を始めたのだった。

 

~~~

 

「そ、そんな…」

 

川内は衝撃を受けた。この鎮守府にそんな事情があるなんて知らなかったから。

 

那珂の表情は変わらず、死んだ目で作るアイドルスマイルだが、神通は話が進むにつれてだんだんと表情に悲壮感が増していった。

 

「で、でも…そんな非科学的な…」

 

とはいえ、あくまで『呪い』だ。実際本当にそうだと言える証拠は無いし、たまたま偶然が重なっただけという説もある。

 

川内は、そういう得体の知れないものにビビる性分では無かった。しかし…。

 

「川内さん。この話、信じた方が身の為だよ?みんなに嫌われたくなかったら」

 

という那珂のセリフで、川内は言い返すのを辞めてしまった。どうやらこの『呪い』は「信じていて当たり前」らしい。

 

……実は。この話をしている途中、川内はとある艦娘の姿を見かけていた。川内は当然、その人に話しかけようとしたのだが、2人に全力で阻止されていたのだ。

 

あいつは呪いを信じていない不届き者だからと。関わったらそれだけで嫌われると。

 

川内はむず痒い感覚に襲われたものの、2人の気迫には勝てず、自分の意思を曲げる事にしたのだった。

 

……3人に拒絶され。その…氷を思わせるような透明感ある白髮に帽子を乗せ、涼しげな眼差しを持つ少女は、軽く舌打ちをしてその場を後にするのだが…。3人がその事を知る由はない。

 

何であれ。自分がこの…『呪い』を信じなければならないという…状況に置かれている事を、川内は理解した。認めたくはないが理解はした。

 

そして川内は、さっき見かけた少女を気にかけた。どう見てもその少女は寂しそうにしていたから。だが恐らく…話を聞く限り、この感情も捨てないといけないのだろう。

 

「さー!そろそろだねー!」

 

このタイミングで、那珂の目にハイライトが戻る。神通も気を取り直すように自分の頰をペチペチと叩いた。

 

川内は無意識に腕を抑える。今日は普通に真夏日なのに、寒気を感じたように震えている。

 

きっと、汗が引いたのだろう。川内はそう自分に言い聞かせ、那珂の後を黙ってついていく。

 

……太陽の傾きから推測するに、恐らく現時刻はヒトナナマルマルあたりだろう。小腹がすいてきている事からも間違いない。

 

そして…遂に目的地に到着する。その建物は「装甲工廠」とかいう早口言葉みたいな文字をシェルターに刻み、堂々とした佇まいでデンと構えていた。

 

川内はボソッと声にならない感嘆を漏らす。それが那珂の勢いで台無しになるとも知らず。

 

「たーのもー!!」

 

ノックとか中を覗くとかはせず、那珂は不意打ちで思い切りシェルターを1番上まで開いたのだ。これには流石に、川内だけでなく神通も「ちょちょちょっ!?」みたいな反応をしてしまう。

 

「ってあるぇー!?」

 

……中に人の姿は無かった。那珂は軽く肩を落としたが、川内と神通は気付いていた。

 

モロに入り込む西日のせいで見にくくなっているが、倉庫の奥の方にある、別の部屋に続くだろうドアから、蛍光灯の光が漏れていたのだ。

 

が、2人はそれを那珂に伝えない。それもそうだ。今の彼女にそれを言えば、先程のシェルターのようにあのドアを開けるに決まっているから。

 

ガックリと肩を落とす那珂を無視して2人は倉庫に入る。那珂は「えっ、何で!?」という風だったが、黙って2人についていく。

 

そして…西日の影響がなくなる辺りで、那珂も気が付いた。しかし今度は2人に先手を取られる。

 

勢いよくドアに飛びかかろうとした那珂を、神通が羽交い締め。その隙に川内が素早くノックをした。

 

……中から返事は無かった。だがドアの奥から聞こえる、金属を加工するあのキュリキュリという独特な音を聞く限り。

 

「作業中かぁ。邪魔しちゃ悪いよね~」

 

「み、耳栓…してる…でしょうし…」

 

「ほらー!やっぱり私が正しいんじゃん!」

 

「な、那珂ちゃんは…乱暴…」

 

「えー!」

 

羽交い締めされつつ、パタパタする那珂。と、その時だった。ドアの奥から音が聴こえなくなったのだ。

 

チャンス!そう思った那珂は、無理に神通を引っ剥がすと、ドアを無理に開けようとした。

 

……鍵がかかっていたせいで、開ける事は叶わなかったが。耳栓していたとしても、流石に部屋の入り口の扉を激しくガチャガチャする音は聞こえるだろう。

 

「うぉー!開けろー!」

 

那珂は叫ぶ。川内はそれを見て困惑し、どうしようとうろたえる。そして…悪寒がしてバッと後ろを見た。

 

……さっき引っ剥がされた時、そのままの勢いで神通は尻餅をついていた。そして、今の那珂のレディらしからぬ野蛮な行動。

 

「……那珂ちゃん?」

 

神通は普通にキレていた。これ以上無いぐらい。那珂はハッとして怯えた表情で川内を見た。

 

……川内も怯えていた。実際、神通が怒るとどれぐらい怖いかは川内も身に染みていた。

 

那珂は無意識に正座していた。何故かそれに連れられるように川内も正座していた。

 

「ど、どうして…川内さんも?」

 

この川内を見て、神通は少し我を取り戻したようだ。目の前の扉の鍵が開かれた音がしたのもあるだろう。

 

妖怪猫吊るしに睨まれた子日の様に動かなくなる2人は無視して、神通はドアをスッと開けた。

 

~~~

 

「は、はじめまして!川内型・1番艦・軽巡洋艦:川内、参上しました!」

 

ビシッと敬礼を決める川内。その一方で少し息を飲んだ。目の前にいる提督は、金属加工する時特有の…あの分厚い服を着ているため、提督らしさがほぼほぼ無いのだ。

 

提督は「はい、よろしく」といった感じでお辞儀をしつつ、背伸びをする。どっからどう見ても男性なのだが、長髪を結っていたからか、少し女性らしさがにじみ出ていた。

 

「さて、挨拶は済んだね!」

 

ポンと川内の肩を叩く那珂。那珂は川内に「提督はあまり話さない」という情報をだけを継ぎ足して、川内を引っ張る様に部屋を抜けた。

 

神通は提督にペコリとお辞儀をした。提督もそれに返す様に、やはり何も言わずにお辞儀を返した。それを見た後に神通も部屋を抜けて、帰りもそっと扉を閉めた。

 

「何というか…物静かな人だね~」

 

「うん!ちょっと無愛想だけど、凄く良い人なんだよ!私達に偉そうに何か言うこともないし!」

 

「え、縁の下の…力持ち…」

 

外は陽がほぼ落ちていた。それを認識したからか、川内のお腹が音を立てた。

 

因みに、一応補足しておくが。川内の「探照灯がたっぷり入った荷物」はずっと持ち歩いている。その為に川内はもうヘトヘトだった。

 

本当なら、真っ先に寝泊まるところに案内して、この荷物を置いていくのが道理なのだろうが、2人にその発想が無く、空気に流された川内も言えぬままなのだ。

 

それは現状も変わらない。

 

「そっかー。お腹空いたよねー」

 

流石の川内もテンションが落ち込んでいた。いくら夜が好きな艦娘とはいえ、食欲には勝てない。

 

「で、でしたら…食堂に…」

 

「だねっ!私もお腹空いたー!」

 

お腹空いたと言いつつも、相変わらず器用に後ろ向きのスキップを決める那珂。きっと彼女の体力は無尽蔵なのだろうと、川内は思うのだった。

 

 

 

装甲工廠からは意外と近かった。もう猫背になっておぼつかない足でフラフラしている川内にとっては、非常にありがたい。

 

「ついたよー!川内さん大丈夫!?」

 

「あ、はい。大丈夫ですよ」

 

……大丈夫には見えない。手を振って意思表示はしているものの、どう見ても現状とセリフが対応出来ていなかった。

 

それを見かねて神通が肩を貸す。川内はすまなそうにして好意に甘える。外は既に真っ暗になり、目の前の建物からは美味しそうな料理の匂いが漏れていた。

 

「うわぁ…良い匂い…」

 

声にもう覇気がない川内。その一方で、流石の神通にも疲れが見えており、肩を貸したは良いものの、あまり言葉や態度には出さないだけで、彼女もまたお腹が空いているようで。

 

神通はもう面倒くさいから自分の目で確かめろ!といった風に、先に入った那珂に続いてさっさとその店に入った。川内を引っ張りながら。

 

「ちょー!?」

 

想定外の動きにビックリする川内。とはいえ別に怒るつもりは更々ないし、むしろありがたい。今はもう長々と説明を聞く気力も無いから。

 

~~~

 

「あら、来たわね山城」

 

「えぇ来ましたね、扶桑姉様」

 

騒然…とまではいかないが、店内は盛り上がっていた。ザッと見て20名ちょいの艦娘が集い、楽しげにお喋りを嗜んでいる。

 

「おーやっと来たクマ!待ってたクマ!」

 

そして…その娘達は、店に那珂達3人らが入るやいなや、その場に居たほぼ全員で3人を歓迎した。

 

……驚きが隠せない川内。ふと神通の方を向くと、彼女はやはりニコニコしていた。予定調和と言わんばかりに。

 

ここで川内はふと思い出した。

 

先ほど提督邸にお邪魔した時、明らかに艦娘の姿が無かったじゃないかと。結局その理由を聞けてないじゃないかと。

 

もしかしなくても、このサプライズパーティーの準備に駆り出されていたのだろう。壁に思いっきり「ようこそ鎮守府へ!」という看板が掲げられているし。

 

「ま、まさか…こんな盛大なパーティーを開いてくれるなんてね~」

 

お腹は今も変わらずペコペコだが、喜びで胸はいっぱいになった。周りの空気も「喜んでくれて何より」といったムードだ。

 

「ふふっ、何せこの鎮守府で『新しく着任』なんてあまりないものですから」

 

そう言って姿を見せたのは、何処で見ても一航戦の誇りが垣間見えている、正規空母:赤城だった。赤城は川内に一礼すると、手をパンパンと叩いて全員の視線を集めた。

 

川内はその時に赤城の背中を見ることになるのだが、やはり背中だけを見ても誇りが見て取れる。那珂曰く、彼女がこの鎮守府で提督の次に地位が高いらしい。

 

「はいはい皆さん!今日の主役も来たことですし、歓迎会を始めます!」

 

赤城がそう宣言すると、店内は叫び声で溢れかえる。そしてそれを聞いて、店の奥からある人が料理を持って顔を出した。

 

「お待たせしました!この食事処自慢の料理…食べりゅ?」

 

軽空母:瑞鳳だ。どうやらこの店のオーナーは彼女らしい。食事処内にいつもの「たべりゅぅぅぅぅ!」の雄叫びが響くのを肌で感じつつ、彼女はお得意の卵焼きを始め、数々の大皿料理を机に並べていった。

 

「相変わらずー。瑞鳳さンの料理はちょー美味そうだよねー。ほンと尊敬するなー」

 

「さぁ食べるわよ!電、暁、箸は持った!?」

 

「と、当然よ!このレディに抜かりはないわ!」

 

「わわっ!ま、待つのです!自分たちだけ先に食べるのはダメなのです!」

 

各々に色々な声を上げる。そして瑞鳳が「これで最後です」と言って最後の料理を並べると、全員がスッと自分の席に座った。

 

そして店の中央に立つ赤城。全員が静かになり、赤城の方を見る。

 

「えー皆さん!新たな仲間、軽巡洋艦の川内さんが来てくれました!今日は皆さん、大いに歓迎会を盛り上げましょう!それでは手を合わせてください!」

 

 

 

「「「「「いただきまーす!」」」」

 

 

 

正直、川内は落ち着かなかった。自分が主役だから仕方ないのだが、先輩達が嫌という程絡んでくるのだ。

 

でもこの空気が嫌いというわけではない。しかし今の川内にはうざったかった。というのも。

 

先程、自分が話しかけようとして那珂らに止められたあの少女が、店の端の方にいたのだ。そして…自分に限らず、他全員の机と明らかに1つだけ離れていた。

 

そして…彼女らの机上には何も無かった。料理はおろか、お冷でさえも。

 

川内はそっちの方が気になって仕方ない。しかしそっちに視線を送ろうとすると、明らかに那珂が妨害してくるのだ。

 

おかげで美味しい料理はいただけたが、楽しかったかどうかと聞かれれば微妙だ。

 

川内は彼女らの事が気になって仕方ない。その少女の他に、別の艦娘が2人いたのだが、その2人も含めて目が死んでいたような気がした。

 

そしてパーティーの途中、その3人がこっそり店を抜けていくのも見てしまった。あとで瑞鳳に質問しても「お酒の飲み過ぎで潰れてしまった」の一点張りだった。

 

彼女は嘘をついている。川内は直ぐに分かった。あの3人はお酒で潰れたにしてはシャキシャキ歩いていたし、そもそもあの3人は何も口にしていないはずだから。

 

だが…結局は何も出来ず、川内はその場に流されるまま、日付が変わる辺りまで宴会に付き合わされたのだった。

 

~~~

 

帰り道もあの3人の事ばかり考えていた。那珂と神通が何かを話していたような気もしたが、自分の耳には空気の振動にしか感じられなかった。

 

川内は2人に連れられ、寝泊まりする寮に着いていた。その後は寮内の案内を受ける予定だったが、2人に頼んで明日に回してもらった。

 

取り敢えず自分の部屋に入り、荷物の整理とかも全くせず、ゴロンと横になる。

 

天井にシミはない。掃除が行き届いているようだ。荷物を置くドサクサでスイッチを入れた扇風機からは、絶妙に心地よい風が吹く。

 

ふと横の寝床を見る。なんて事のない普通の2段ベッドだ。これは前鎮守府もそうだったから、目新しさも抵抗感も無い。

 

普通ならここで「ここから新しい生活が始まるんだなぁ…」などと感慨にふけるところなのだが、今はもうそんな気分ですらない。

 

那珂と神通にはああ言われたが、今日訪れたばっかりの鎮守府だ。川内は捨てきれていなかった。

 

あの3人とも、もちろん他の仲間達とも仲良くなれる、文字通りのハッピーエンドを。

 

「……よしっ!決めた!頑張って『呪い』について調べてみよ!どうせ夜戦無いし!」

 

そう言いながらバッと起き上がり、両腕を上げて伸びをする。漸くいつもの…夜になると無駄にテンションをあげる川内に戻ったようだ。

 

「まずは景気付けに荷物の整理!」

 

そして持ってきた…あの重い重い荷物のロックを外し、中を開ける。それと同時に、中からこれでもかという量の探照灯がボロボロ転がって出てくる。

 

「あー…まぁこれは、鎮守府へのお土産ってことにしよ」

 

正直言ってそれは迷惑行為そのものなのだが、鎮守府側の都合なんて気にせず、川内は鼻歌交じりに荷物の整理を始めるのだった。

 

 

 

続く

 

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