今回、短い上に面白みが微妙です。
まぁでも次の「拾話」と「拾壱話」が神回になるから、前座って事で許してちょんまげ。
朝の鍛錬の中、海風は落ち着かない様子を見せていた。
いつもなら、自分の横には響がいる。しかし今日は居ない。しかも鍛錬どころか、朝ご飯の時から彼女の姿は無かった。
「響ちゃん…どうしたんだろ?」
「うーん。確かに気になるねー」
取り敢えず…長門も居ないお陰で人数が余ることは無かったが、音沙汰なしの響と不在理由が分からない長門のことを、2人は心配した。
「まーうん。取り敢えず今は目の前のことに集中しよっかー」
「え、ええと…。そ、そうですね」
こんな時でも不安な顔1つ見せない北上は、純粋に大物なのかただの呑気なのか。海風はそのことも気になって仕方なかった。
しかし北上の言う通りだ。今は鍛錬に集中するに限るだろう。
今日は柔軟運動が中心で体力をあまり使わないから、これが終わってから行動を開始するのでも、しんどくはないだろうから。
「あーうん。だからねー海風ちゃん。ちょっと力が入り過ぎてるよー。痛いよー」
「ほぁっ!?ご、ごめんなさい!」
……どうやら海風は、同時に2つのことが出来ないらしい。海風は北上にぺこぺこ頭を下げ、北上は気にしてないと返事をする。
そんな感じで今日の鍛錬は幕を閉じた。最後まで響も長門も顔を出さなかった。
~~~
今日も心地よい風が吹いている。天気も良好だ。やはり日差しは厳しいが、風がそれを少し和らげているように感じられる。
……鍛錬が終わり、昼食をとった後で、海風と北上は合流していた。
「さてー、ここからどうしよっかー?」
「うーん。どうしましょうか」
頭を悩ませる海風。その一方で北上は慌てず騒がずを決め込んでいるように見える。
とはいえ心配なのは北上も同じ。
「……じゃあ、取り敢えずさー」
あの隠れ家に行こう。もしかしたら何かあるかもしれない。それが北上の提案だった。
悩みに悩んでた海風も、結果的に何も思いつかなかったのか、直ぐに北上に同調する。それを見て北上は笑みをこぼす。
その後は特に会話もなく、2人は少し早足であの元船渠に向かう。その途中で誰かとすれ違うことは無かった。
海風が周りを見渡し、誰も居ないことを確認すると、北上がそっと扉を開ける。中に人の気配は感じられなかった。
「……居ませんね」
ボソッとそう呟き、溜息をつく海風。一方で北上は無言で中に入ると、玄関前に立ち尽くしていた海風を招き入れた。
「でもー収穫はあったよー」
「え?そ、それ何ですか?」
「まあまあー。こっちおいでよー」
北上は気が付いていた。いつも自分達が使っている椅子の上に1枚の紙があると。彼女はそれを手に取り、海風にヒラヒラとかざす。
海風は部屋に入る時に扉を閉めた。そのことでこの部屋は真っ暗になるも、北上らにはこういう時用の秘密兵器があった。
「よっと。これで見やすいねー」
……この建物の電気は既に止まっている。正確に言えば蛍光灯が全て撤去されている。その所為で扉を閉めると、隣の人物の顔も見えなくなる。
だから北上はこの部屋に秘密兵器…大量の探照灯を持ち込んでいたのだ。
「あ、明るい…。こんなに沢山の探照灯、どうしたんですか?」
「あーうん。提督邸からくすねて来たんだよー。川内さんのー引越し挨拶品らしいよー。まぁねー提督は困り顔だったよねー」
「め、迷惑ですね…。この鎮守府で夜戦なんて殆ど無いのに…」
「でもこうして役に立った」
「……ですね」
そんな会話を交わし、北上も海風も椅子に座る。もちろん隣同士くっついて。この時にようやく2人とも目が慣れて来たようだった。
そして、北上が手にしていたメモを2人は目を通した。1番上に自分ら2人の、最後の方に長門の名が記されていたのが最初に目に入る。
だがそんなことは、そのメモの内容で全てかき消される。そのメモには響の長期休暇の件と、長門が1日中仕事なのが記されていた。
そして…2人とも反応は同じだった。初めてあの調書を読んだ長門と同じ反応だった。
「ふぇっ?ちょ、長期休暇…?」
「しかもー体調不良だってー。何かあったのかなー?何か知ってるー?」
「し、知りませんよ!」
口調はのんびりだが、明らかに焦燥の顔を浮かべている北上。口調だけでなく、態度にも焦燥が隠せていない海風。
何であれ、これは普通じゃない事態だ。取り敢えず、此処で立ちすくんでいる場合じゃないのは間違いないだろう。
2人はアイコンタクトを取り、北上が探照灯を消していく裏で、海風が入り口の扉をそっと開け、周りを見渡す。
そして近くに誰もいないことを確認し、長門のメモをポケットに入れた北上を呼び、2人で同時に元船渠を後にするのだった。
~~~
「ま、待ってくださいよ~」
早足というか、もう競歩のレベルで歩いていた北上。海風はそれについて行くだけで精一杯のようで、軽く息切れをしていた。
しかしそれでも北上の足は止まらない。その事が海風を真面目にさせる。あの北上が無言のままで焦っているのだから。
それでも北上は早かった。提督邸に着いた頃には、海風は1度立ち止まり、膝に手をついて中腰になって、息を整えるしかなかった。
「……あ、海風ちゃーん、大丈夫ー?」
「だ、大丈夫…れふ…へへ…」
過呼吸気味になりながら、こうべを垂らしつつ片手でピースを作る海風。正直に言って大丈夫には全く見えなかった。
「まーうん。私は先に行くけどー、海風ちゃんは少し休んでからー、ね?」
「は、はひ…。分かりました…」
……前から思っていたが、どうやら彼女は体力に難があるようだ。そんな言うほど貧弱でも無いのだが、やはり不安な要素が垣間見える。
北上は海風の頭を優しく撫で、提督邸の壁際にしゃがませ、自分は建物の中に入った。いつも通り中に人影は無かった。
聞いたことがある。真昼間から提督邸がこんな静かな鎮守府は、かなりのレアケースだと。
昔はこの提督邸も割と騒然としていたが、それは自分達の住居でもあったから。
今は此処と自分らの家が分離しているから、提督邸がとても静かなのだろう。
……だから何だという話なのだが。とにかく、今の北上にはこの静寂が心地よかった。しかし今はその心地良さを味わっている余裕はない。
北上は焦燥のあまり、執務室に入る時にノックするのを忘れた。もし中に提督が居たら、間違いなく怒られていただろう。
(……やっぱり不在かー。まぁあの人が此処にいる方がレアだもんねー)
北上はそう思いつつ、執務室の机に目を向けた。今日は珍しく目立つ位置にメモが残っていた。どうやら提督は墓参り中らしい。
となれば、やる事は1つだ。因みに…親切な事に、長門のメモには情報源も記されていた。
「えっと…黒表紙の冊子…」
北上は机上の書類の山を調べ始める。と言っても、そんな黒表紙なんて目立つ色の冊子が、此処に無いのは既に分かっていたが。
そうして作業を続けていると、不意に執務室の扉をノックする音が聞こえた。
北上はドキッとして、書類をパッと整理して元に戻し、机の下に隠れた…のだが。
「し、失礼しまーす…」
声の主が海風なのに気付くと、直ぐに机から顔を出した。海風はそんな北上を見て驚き、少し笑ってから北上に駆け寄った。
「それで…北上さん」
「それがねー。見つからないんだよー。提督が持ってっちゃったのかなー?」
頭をポリポリ掻きながら、少し申し訳無さそうにそう言う北上だったが、海風は直ぐにある事に気が付く。
机の引き出し。その内の1つが半開きになっていたのだ。海風は北上にそれを告げて、その引き出しをそっと開けさせる。
……ビンゴだった。開けた中から出て来た真っ黒なその冊子は、触ることすら恐ろしいような…そんな雰囲気を何故か醸し出していた。
思わず固唾を飲む海風。そんな彼女を気にせず、北上は無造作にそれをパラパラっと開く。
本当なら1ページずつ見ておきたいが、時間が惜しいし、墓参りの提督はいつ帰ってくるか予想がつかないから、慌てて目を通す。
そして…やはり2人が手を止めたのは、恐らく1番の新しい記事。川内も長門も驚きを隠せなかったあのページだ。
「こ、これ…ですよね?」
「だねー。うん。確かに申請者が書いてないねー。これは気になる」
そう言いながらジロジロとそのページを見つめる。そんな時、ふと北上は表情を曇らせた。あることに気が付いたのだ。
「……海風ちゃん」
「ふぇっ?な、何ですか?」
「気付いたよー。これはビビっときた」
そう言うと、北上はその冊子を一旦机の上に置き、数ページ前を開いた。そこには長門の活動記録が載っていた。
日付から察するに、あの歓迎会の裏で彼女がやっていた仕事の記録だろう。北上はそれを指差し、海風の方を見た。
「この記事を、覚えておいてねー」
「は、はい…」
そこに書かれていたのは、長門がいつ何処で何をどうしてどうなったかが書かれていた。要するに、普通の記録である。
海風はそれを目に通したあと、北上に目で合図を送る。そして北上は元のページに戻した。
「ほぁっ!?」
「あ、気が付いたねー」
「ば、場所が無い!ですよね北上さん!?」
……北上は黙って頷いた。そう、響のあの記事には「場所」の記述が無かったのである。
もちろん、無期限という期間と体調不良という理由はある。しかし、休暇を「何処で」過ごすかがそこには書かれていなかったのだ。
恐らく、長門が感じた違和感の正体はこれだろうと思われる。
もしやと思って海風は別のページを開いた。そこには瑞鳳の休暇の記事があったが、きっちり「提督邸で療養」という記述があった。
「あ、そっちの方が分かりやすかったか。まぁそんな事よりー。おかしいよねぇ?」
「はい、これは…」
もしかしたら響は、自分らに体調不良を隠していただけかもしれない。だがそれなら少なからず海風が何かに気がつくはずだ。
というかそもそも、響がもし自分で休暇を要請したのなら、此処に彼女の名前が残るはずだ。申請者を隠す必要性が分からない。
「確かに、響ちゃんは目立つのが嫌いな方です。でもだからって、私達にも『何処にいるか』を隠すものなんでしょうか?」
「うん。私もそう思ったよー。だから北上さんはこういう結論をだしたのさー」
北上はその禍々しい黒表紙を元の引き出しにそっと戻し、海風に自分の結論を話した。
「誰かが提督を利用してー、響ちゃんを陥れたってね!そう考えるのが妥当でしょ?」
「で、でも、一体誰が…?」
「まぁそれは分からないけれどぉ!何にせよ…ジッとしてる時間はー、無いんじゃない?」
そう言ってふふっと笑ってみせる北上。だが顔には分かりやすく焦燥が浮かんでいる。一方の海風は黙って頷き、拳を強く握っていた。
~~~
あまり騒ぎにはしたくない。2人はそう考え、黙ったままで鎮守府中を走り回る。
そんな2人の様子を後ろから眺め、不敵な笑みを作っている人物がいた。
「ふふっ…」
暁である。恐らく今この鎮守府で唯一の、響の場所を知っている人物だろう。
彼女は2人に対する優越感に浸りながら、響を探す北上と海風の後をつけるのだった。
……そんな状況がしばらく続き、気がつけば日が傾き始める時間となっていた。
それでも2人は諦めて居なかった…のだが、流石に疲れが見え始めていた。そして北上がある倉庫の入り口を開けた時、思わず驚いてしまう。
「むっ?どうしたんだお前たち」
「ほぁっ!?な、長門さん!?」
中に長門が居たのだ。様子を見る限り、倉庫内の整理と掃除をしていたのだろう。
「あー、こんな所にいたのかー」
北上は少し安堵したのか、軽く息を吐き、海風と揃って倉庫内に足を踏み入れた…その時だった。2人はほぼ同時に不快感を見せたのは。
そう、倉庫内が極端に暑かったのだ。海風はパッとドア横の温度計を見る。するとそいつが36度の湿度65%を差しているのが分かる。
「……すまん、換気扇が壊れているようでな。とても暑いだろう?」
あっはっはと笑ってみせる長門。だが2人からすれば笑い事じゃない。
それもそうだろう。彼女はこんな劣悪な環境に朝から今までずっと閉じこもり、1人で作業を続けさせられていたのだから。
長門の後ろに転がっている6本の空水筒が物語っている、とても過酷な作業を。
「……笑い事じゃないですよ」
「全くもー。長門さんまで倒れたらどうするのさー。心配してたんだよー?」
口調は変わらないが、北上は本気で心配しているようだった。長門もその意を汲み取り、直ぐに頭を下げて謝罪した。
その後、別にいいと遠慮する長門の言葉には耳も貸さず、2人は長門の仕事を手伝い始めた。もちろんお互いの情報を交換しながら。
……その様子を入り口の影からこっそり見ていた暁も、このタイミングで退散するのだった。
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駆逐艦寮のキッチン。暁はそこの厨房に立つと、手を洗った後で残っていたご飯を救い、それを握り始めていた。
これは響の昼ご飯だ。そのため、暁の顔には喜びとも恍惚ともとれる表情が浮かぶ。
しかし、彼女の喜びは長くは持たなかった。後ろから話しかけられたからである。
「おっ、何してンの暁ちゃン?」
……暁はその人に気付かれないように溜息をつく。そしてゆっくりと振り向くと、そこにはニシシと笑う響の偽物がいた。
この駆逐艦寮に普通に出入りしている人物で、こんな鼻に付くような話し方をする人物には、心当たりしかなかった。
「……オニギリを作ってるのよ。見たら分かるでしょ?」
「まーな、流石にそれは分かるさ!問題はー何でこのタイミングか!ってことだよ。今日の晩ご飯は江風さンの担当だぜ?」
……そうか。時間を考えれば、晩御飯を作りに来ても遅くはない。恐らくこの偽物は、自分の仕事を果たしに来たのだろう。
暁は納得した様子で…それでも作る手は休めずに、適当な理由をつけた。本当は追っ払いたいが、そういうわけにもいかないだろう。
「そっかそっか!流石のレディーさンでも小腹は空くもンな!しょうがねーよな!」
……気に食わない。確かに響も自分を煽るようなことはするだろうが、こんな腹立つ…上から目線では絶対に言わないだろう。
暁は手に持っているオニギリを投げつけたい衝動をグッと堪え、3つ完成させた後は、それと水筒を持って、無言でキッチンから走り去った。
倉庫の入り口に着いた頃には、動悸が激しくてしょうがない。それでも周りとオニギリの安全を確認し、ゆっくりと扉を開ける。
そして中に入る。その時に気が付いた。響のオーラを感じない。
(あれ…?寝てるのかな?)
暁はちょっと不安になり、響の様子をそっと確認すると、彼女の予想は外れていたことが判明する。
響は起きていた。正確にいうなら…目を開けていた。そして暁が視界に入ると、彼女はゆっくりと首を暁の方に傾ける。
明らかに弱っていた。だか暁の水筒とオニギリには興味を示したようで、暁はその様子を見て微笑むと、響の口に付いたガムテープを剥がす。
「ふふっ、響。ご飯の時間よ。お腹すいたでしょ?食べさせてあげるわね…」
そう言い、暁はオニギリを響の口に突っ込もうとした。だが響はそれを拒否する。
暁は一瞬「えっ?」という風になるも、響が首の動きだけで水を要求したことに気付くと、再び笑顔に戻って水筒を手にする。
……響は水筒に口を付けられ、暁が水筒を傾けると、嬉しそうに水をコクコクと飲み始めた。
「ふふっ、響ったらハムスターみたい。そう言えば…響の好きなハムスターって居たわよね?オフロスキハムスターだっけ?」
そんなことを言いながら、暁は嬉しそうにする。響は水を飲んだ後で「ロボロフスキーハムスターだ」と補足を入れた後、オニギリを要求する。
……オニギリの中身はおかかだった。響にとっては好きでも嫌いでもない具材である。
響は暁の手を煩わせつつ、1個目をペロッと平らげる。体を殆ど動かしていないにもかかわらず、それでもお腹が空いたことに自分でも驚く。
そして…2個目を要求した時に、暁がふと独り言のようにボソッと呟く。
「……北上さん達がね。響ちゃんのことを捜し始めてたのよ」
「なに?」
……もしかしたら。鎖に繋がれてから初めての笑顔かもしれない。とにかく…響はそれを聞いた時、顔に光を灯したようで。
当然ながら…暁はそれを見逃さなかったし、それを見て嬉しそうな顔もしなかった。
(し、しまった!)
響はつい本心が表情に出てしまったことに気が付き、表情を元に戻すも、もう遅い。
自分の顔を見たのだろう。暁は明らかに苦い顔をしていた。何か言いたげな…そんな表情だ。
響はバッと暁から目をそらす…が、暁はそれを許さなかった。不意に響に近付き、彼女の両頬を手で強引に挟んだのだ。
「……響。私じゃ不満?」
暁は、響の顔から首にかけてを手で優しく撫でていく。その際に表情が微塵も動かないもんだから、それが恐怖を駆り立てる。
……響は質問に対して黙りを決め込む。変な事を言って暁の逆鱗に触れたくないし、かと言ってご機嫌とりをするのもゴメンだった。
「はぁ…あのさ響」
そう言うと、暁は響に密着する。響は動揺を悟られないようにするだけで手一杯だ。
「どうして私じゃダメなの?私はこんなに響を愛しているのに…。どうしてなの?」
……響はやはり黙りを決め込む。それでも畏怖の念はあるから、それを外に出さないよう、歯を噛み締めて唇を強く結ぶ。
「そう。やっぱり響は北上さんの方が良いのね?私なんかより、あの人の方が」
暁は瞳に少し涙を浮かべていた。それでも響の様子が変わらないことに腹を立てたのか、暁は響をギュッと強く抱きしめる。
「私はね、響の1番になりたいのよ」
……響は正直思った。そんな事は言われなくとも分かっていると。だがもちろん、色々と面倒くさいことになるから口にはしない。
暁は暫く響を抱きしめた後、えへへと笑いつつ響から離れ、ふと時計を見た。
時刻はヒトハチマルマルを過ぎている。恐らく晩御飯の準備が本格化し始めているだろう。暁も響もそれには気が付いた。
当然ながら、その準備に暁が居なければ、あのやたら絡んでくる偽物2人が五月蝿いだろう。暁はそれを思い出して舌打ちをする。
「……まぁ良いわ。それじゃあ私はもう行くから。またちゃんと来るから…待っててね、響」
暁はそう言い、今日はガムテープを貼らずに帰って行った。しかし衰弱の激しかった響は、もう叫ぶ体力すら残っていない。
それでも、自分の声で倉庫の静寂を破れるようになったのは大きい。響はそう思い。
「……раздражающий」
と呟いた後、言葉になっているか分からない微妙なあたりの言葉を、自分の気がすむまで延々と呟き続けるのだった。
~~~
「……すまんな。手を煩わせて」
「いやー、気にしちゃダメだよー」
予定より1時間ほど早く作業が終わり、北上らは成果に満足していた。今は報告をしに提督邸に向かっているところだ。
「私達が勝手にー、やりたかったことをやっただけだからねぇ。ね、海風ちゃん」
「はい!北上さんの言う通りです!」
「……ったく、お前らは」
口ではそう言うものの、笑顔をこぼす長門。それにつられて2人も笑顔を見せる。
今は海風と長門が仲睦まじく話し、北上がそれを後ろで眺めて、微笑みながら耳を傾けている。その状態で歩いている。
だからだろう。その異変に気が付いたのは北上だけのようだった。
(……おや?あれってもしかしてー?)
此処から少し離れたところ。察するに駆逐艦寮の前だろう。そこに人だかりがあり、何かを話し合っているようだった。
それが誰かは…髪型と髪色で分かる。あれは江風で、向かいあっているのは雷と電だろう。だがそれ以外にも人影があるのが分かる。
……何故かは分からないが、変な胸騒ぎがする。虫の知らせというか…嫌な予感がする。
だが北上はそれを気の所為だと思い、見なかったことにすると決める。
「む、何かあったか北上」
「……何でもないよー。気にしないでー、お腹空いたしねー」
「そうですね!私ももうペッコペコです!今日の晩ご飯は何かなー。てへへ♪」
などと言いながら談笑する3人。その様子は非常に微笑ましく、彼女らが本当に仲良しなのを示していることに相違無いだろう。
……太陽は既に傾き始めている。その陽は3人を寂しげに照らしているのだった。
続く