拾参話のラストのところですが。
実は以下のお話を「終わり」の直前に入れるつもりだったんです。
ですが、話の展開において重要度がそこまで高いとは思えなかったという点。
テンポを悪くする完全に蛇足だろうと思われた点。
そして、綺麗にオチをつけられずに途中で打ち切っちゃった点から、全カットとしました。
恐らく本編を読んでて皆さんも気になっただろうところ、瑞鳳編の解決編です。つまり漆話の補足ですね。
本当は僕の胸の中だけに留めておこうと思ったのですが、折角なので公開したいと思います。続編の方も書き終えちゃいましたし。
では、どうぞ。あ、ネタバレしかないので、本編を全話見た後でお願いいたします。
また、先程も記した通り、打ち切りエンドなので、良いところで話が途切れてます。
「さて、後はあれだけだねぇ」
北上がそうふと口にすると、それに呼応するかのように、全員の視線が彼女の方へ向くこととなった。
心当たりのない海風や響などは、「えっ?」という顔を浮かべており、それが伝染したかのように、場に広がっていく。
「そうだな。後はあれだけだ」
1人だけ北上の言葉を理解できていた長門は、腕を組んだままでうんうんと首を縦に振っていた。
一体どういうことなのだろう?そういう疑問をぶつけるより早く、長門は川内を見つめた。彼女は思わず少し後退りをする。
「実はな、提督に渡したあのカケラなんだが…」
「え、あ、あれはさ…。私が握って寝てたのを、北上さんが持ってったんだよね?」
「んあー、それで合ってるけどさー。その場にはねー、長門さんも居たんだよー」
カケラ。それを聞いた提督は、ポケットから取り出していた。自分の無実を見事に証明した、手の平サイズのそれを。
周りの目がそれに釘付けになる中、考え込む素ぶりを見せる川内に、長門が正解を告げる。
「川内、そのカケラを抜き取る際に気が付いたんだがな、貴様の部屋に…その…禍々しい物が、転がっていなかったか?」
「悪いんだけどー、それを此処まで持ってきて欲しいんだよねぇ。頼んでも良いかなー?」
いつもの真面目そうな顔をする長門と、いつものノホホンとした笑顔を見せる北上。それを見た時に、川内は全てを理解した。
そうだ、すっかり忘れていた。確か…カラスに悪戦苦闘しながら、ゴミ箱漁りをしていた時に、見つけていたじゃないか。
明らかに怪しいものを。
「あ、そ、そうだった!」
口でそう言った時には、彼女の足は既に動き始めており、直ぐに玄関のドアが開く。
事情を知らない他のメンバー達は、何事だ?という風にそんな川内を眺めていた。
「あ、あの…。お2人は何の話を…」
「ん?あ、そっかぁ。海風ちゃんは見張りしてて、気付かなかったんだねぇ。っていう北上さんも知らなかったんだけど」
「まぁ待て。直にわかるぞ」
北上曰く、さっき提督邸で自分が横になっていた時に、長門からそう聞かされたらしい。
何でこのタイミングで思い出すんだよ。そう咎めた後で、長門に謝罪もされたそうだ。
そう説明をした直後、不意に勢いよく玄関の扉が開く。其処には、膝に手をついて肩で息をする川内が立っていた。
……彼女の手に握られていたもの。それは瓶。髑髏がラベルに刻まれた、明らかな危険物。
そして。北上が「そうそう、それそれ」などと口ずさみながら、川内からそれを受け取って、机の上にドンと置いた時。
その場にいる全員が、その瓶を視界に捉えられる状況で。注目を集めている状況で。1人明らかに、顔を真っ青にする空母がいた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ…。た、確か…。これは…暁が…」
少し慌てた表情で、響は暁の方を向いた。だが暁は首を横に振っていた。
「そうね。暁もそれ心当たりがあるけど…」
そう、確かにあの瓶は。響が閉じ込められていた、あの部屋にも転がっていた。北上に毒を盛るために。付け焼き刃として。
だがあれは、暁の持っていたものではない。中身が空っぽだったからだ。
「私、ちょびっと包丁に塗っただけよ?殆ど使ってなんか無いわ」
「それに…倉庫に転がっていたものは、私と霧島で処分したはずです!」
グイグイと体を前に押し出す比叡。事実、あそこの掃除を担当していた2人によって、中味も本体も廃棄したはずだ。
……此処まで会話が進み。ハッと何かを思い出したかのように、海風が「あっ!」と声を出して、周りの注目を買う。
「ふっ、漸く思い出したようだな、海風」
「そ、そそ、そうですよ!長門さん、毒を盛られたって言ってましたよね!?」
ザワッ。そんな効果音が鳴る。響も漸く納得したような顔を浮かべた。
……ますます。あの空母が顔色を悪くする。
「あーはいはい、そういう事だったのかぁ。これゴミ捨て場を漁ってた時に見つけた奴なんだけど、そっかぁ…なるほどねー」
1人だけ納得したように頷く川内は気にせず。発言に突っ込むことも誰もせず。全員が長門の方を向いていた。
「毒…?心当たりが無いわね。ねぇ山城?」
「はい。扶桑姉様の言う通りです」
「ふっ、当然だ。毒は巧妙に盛られていたからな。まぁ私の勘の良さが幸いして、口にせずに済んだから良いものの」
口に…せず…?その言葉を聞いた時、彼女はパッと顔を上げる。隣にいる親友は、そんな彼女の変化には気付いていないようだ。
とは言え…気付いていなかったのは、その親友だけで。遠くから冷静に彼女を眺めていた北上は、ふぅと息を吐いていた。
そして長門も、少し口元を緩めて、さっきから怯えている彼女の方に体を向けると。
「なぁ?瑞鳳よ」
視線の高さを合わせるように、頬杖をついている肘を滑らせて、頭の高さを少し下げる。
……名前を呼ばれ。ドキリとした様子で肩を震わせ、一斉に此方に向いた視線の全てから逃げようとして、ゆっくりと俯いた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
此れには思わず…親友の瑞鶴も、黙っているわけにいかなかった。彼女はガタッと音を立てて席を立ち、講義を試みた。
「……瑞鶴さん。気持ちは分かりますが。一旦座ってもらえませんか?」
「ひ、飛龍さん!?な、なんでよ!」
「……心当たりがあります。ですよね?」
そう振られた赤城は、口をモゴモゴさせながら黙って頷く。肝心の瑞鳳は、膝に乗せていた手をギュッと握っていた。
「瑞鳳さん。最近は様子がおかしかったですし…。長門さんの方をチラチラ見てましたし…」
……そんな発言をするたびに。瑞鳳の顔色が悪くなっていく。さっきまで机上に沢山乗っていた、あの卵焼きのように。
「さて…と」
瑞鶴と入れ替わるように、今度は長門が席を立って移動をする。行き先はもちろん、此方を見ようともしない瑞鳳の所だ。
「取り敢えず、こっちを向いて欲しいんだがなぁ?まぁ無理な相談か」
肩膝をつき、机に肘もつき、俯いている瑞鳳を下から見上げる形になる。パッと瑞鳳は横を向いてしまうのだが。
もう…何か後ろめたいことがあるというのは、見たら誰でも分かることとなっていた。
「なぁ、瑞鳳よ」
そう言いながら、彼女の頭を掴んで、乱暴に自分の方に顔を動かした。それでも瑞鳳は視線を合わせようともしない。
思わず瑞鶴も黙った。親友が何かを隠そうとしているのに、ハッキリと気付いていても。
「あの毒の威力を、北上がさっき確かめてしまったから、私も恐くなってきていてな。ったく…我ながらよく見抜けたものだ」
そんな自画自賛にも、瑞鳳は反応しない。
此処からどうなるのだろう。まさか長門が、痺れを切らしてヤバいことをするのではないか?仲間達にそんな不安が広がる。
「おいおい長門さンよー。勢い余ってぶン殴るとかさ、マジ勘弁してほしいンだけどー?」
「……安心しろ。そんなつもりはない。瑞鳳の態度次第だからな」
江風の方を向きもしない。今回は長門も。それ安心出来ないよね?とかいう突っ込みも飛ばないほど、場は緊迫していた。
しかし…だ。此処で少し想定外の事態…だったのだろう。長門にとっては。
「長門さーん。もう充分だよー。その辺でー」
「……何?もう良いのか?思ったよりも早かったな、北上よ。上手くいったのか?」
「うん、長門さんのおかげだよー。これで全部終わらせられるねぇ」
……急展開すぎて、全くついて行けない。この場にいた誰しもがそう思った。
長門が何事も無かったかのように、瑞鳳に謝罪をした後でそそくさと自分の席に退散したのも、その混乱の一因だろう。
「で?あんた達は何がしたかったのよ?」
最初に口を開いたのは曙だった。彼女はコップのお茶を一口飲んで、少し仰け反っていた。
「ゴメンねぇ。毒を盛った真犯人さんを突き止めようと思ってー、長門さんに一芝居、うってもらったのさー」
あははと笑いながら、悪びれる様子もなくそう言う。これに驚いたのが瑞鳳だ。彼女は思わず立ち上がりかける。
「ふっ、まぁ間違いなく毒を盛った実行犯は瑞鳳だが…。間違いなく単独犯では無いからな。まぁ…順に説明をしようじゃないか」
机上のお茶を少し口にして、ふーっと息を吐いた後、長門と北上が協力して、仲間達に自分らの推理を披露していった。
……瑞鳳は単独犯ではない。北上と長門は割と早い段階…海風が青葉のカメラを持ってきたあの段階で、既に確かめ合っていた。
理由は簡単。瑞鳳に対して発生する責任だ。
「瑞鳳は、皆も知っての通り、あの食堂のやり繰りを、1人で全て任されているだろ?」
「加えて…瑞鳳ちゃんの、料理に対する情熱も知っての通りでしょー?なのに毒料理ってのは、かなりハイリスクだと思うんだよねぇ」
長門を殺したいのであれば、別に毒じゃなくても良いし、何なら同じ寮だし、寝込みを襲ったりしても良い…という話になる。
「もし犯行がバレたら…。お咎めレベルでは済まないだろう?幾ら『呪い』の加護があるとはいえ、損傷は激しかったはずだ」
「しかも…料理に毒の時点で、真っ先に疑われるのは間違いないからねぇ。食堂経営の信頼を喪う覚悟にしては…ねぇ?」
そこで2人が出した結論は、誰かが瑞鳳を唆した…というものだった。だが、肝心の誰かまでは突き詰められなかった。
とは言え、全く絞れていなかったわけでもない。特に…利用した艦娘が瑞鳳だったという点に、2人は着目していたから。
「さて、肝心の真犯人だが。先ず私と同じ寮の者は、全員除外して良いだろう」
「瑞鳳ちゃんを利用する意味が無いからねぇ」
先程記した通り、別に毒を使わずとも、長門と同じ寮の人物ならば、寝静まった夜に幾らでも殺すチャンスはあったはずだ。
わざわざ協力者を…況してや直ぐに犯人がバレそうな方法をとるとは、利点があるとは到底考えられなかった。
「次にだが、駆逐艦も全員除外しよう」
「ふぇっ?な、何でですか?」
「……海風ちゃん。君が居るからだよー」
「ほぁっ!?」
駆逐艦に関しては、謎の畏怖によって戦艦空母寮に立ち入ろうとしないから、瑞鳳を唆す理由としては100点満点だろう。
だが…長門を狙う必要性がない。
況してや駆逐艦寮には、困ったら直ぐに北上や長門に泣きついてくる海風がいる。見つかったら直ぐに殺意が暴かれるだろう。
「それに…私達への妨害が目的なら、真っ先にお前を狙うはずだ。江風の件もあって、お前は周りに不愉快を振り撒いているからな」
あー…という声が周りから漏れる。遠くから眺めていた春雨だけは、少し苦い顔をした。
確かにこの2人の喧嘩や嫌い合いは、見ていて気持ちの良いものではない。こういうのが大の苦手な朝潮などは、ため息をよくついていた。
「んまぁ何よりー、曙ちゃんが見過ごす筈ないからねぇ。駆逐艦も除外なわけよー」
名前が出てきて、何人かは曙の方を見たのだが、彼女は黙って頷くだけだった。
「次に重巡。貴様ら3人も除外だ。瑞鳳と私の両方と接点が無いからな」
青葉・高雄・熊野の3人は、自炊をすることが殆どだった。正確に言うなら、青葉はおこぼれをもらっている感じなのだが。
食堂を利用したのは、川内の歓迎会が最も新しく、以降は全て自炊で済ませてある。
そして…彼女らも戦艦空母寮に顔を見せる例はほぼ無い。精々青葉がちょっかいに来るぐらいだが、多くて月に1回ぐらいだ。
よって、瑞鳳を使って長門を殺すという発想に至ったという考えは、あまりにも飛躍した推理だろうと思われたのだ。
「まぁお前らの場合は、北上と何やら確執があれば、話は別だが…」
「な、ないですよ流石に!」
「えぇ。青葉さんの言う通りです」
「寧ろ私達は、北上さんを人よりも避けていたつもり。確執など有るはずないですわ」
「うーん?それはそれで傷付くけどなぁ。まぁでも確かにー、殆ど関わりが無かったのも、事実だからねぇ」
少し微妙な顔を浮かべる。熊野が北上にペコリと頭を下げたのを尻目に、長門は残りのメンバーの方を目ざとく確かめた。
「よって、容疑者は残り5名だな。その時の推理では此処までしか進めなかった。で…北上、犯人は分かったのか」
「うん、さっき長門さんがさー、迫真の演技で瑞鳳ちゃんを追い詰めてる時にさー、その5人の様子を見てたんだけどー」
5人。消去法でもう残っているのは軽巡洋艦のみだ。だが…1つ大事な条件を忘れている。
「その前に北上。ハッキリと宣言しろ。犯人は貴様では無いんだな?」
「……あぁそっかぁ。北上さんも容疑者に入るんだねぇ。しかもかなり疑わしいかー」
ついさっき、陸奥らを殺した真犯人は、自分だと打ち明けたばかりだ。長門らに咎められることは無かったが、疑われて然りだろう。
「大丈夫大丈夫ー、私では無いよー。ってか私が犯人だったら、この話は始めないってー」
「……それもそうだな。じゃあ信用するぞ?次に隠し事をしたら、タックルするからな?」
「うぇーっ、病み上がりにそれはキツいってー、勘弁してよー」
あっはっはと笑う2人。周りが物凄く微妙な空気になってるのは気にしなかったが、曙に言及されてしまい、話を元に戻すしかなかった。
「さて、先ず川内ちゃんは除外で良いね?ってかもし君が犯人だったら、空の毒瓶をとっとく理由が無いし、せめて隠すよねぇ?」
ビシッと指差す。少しビクッとしたが、川内は黙って首を縦に振った。
そして…その隣。少し困惑した顔の神通と、平然を装う那珂の方を向く。神通は北上の視線を感じると、北上と目を合わせた。
「で、神通ちゃんと那珂ちゃんなんだけどさー、北上さんが思うにー」
えっ、嘘?そんな空気が流れる。より一層ビクビクする神通と、さっきから何も喋らない那珂が、少し嘘くさく見え始める。
「……シロだねぇ」
だが、2秒とも待たずに、北上がその幻覚を綺麗に取っ払った。無実を告げられた神通は、ホッと胸を撫で下ろしていた。
そして、此処で漸く神通は気が付いた。さっきから那珂の様子が変だと思ったら。
「那珂…ちゃん…?」
「ふぇっ!?あ、な、なに!?ね、寝てないよ!大丈夫だよ!聞いてたよ!」
……どうやらうたた寝をしていたらしい。今も必要以上に目蓋をパチパチしている。
周りから呆れたような溜息が漏れる。普段は騒々しくて迷惑な那珂だが、どうやら静かにするタイミングを間違えていたようだ。
ムスッとする神通に説明を頼み、テヘペロしながら姉の話を聞く那珂を気にせず、北上は大袈裟に体を揺らして。
自分と同じ机を囲んでいた、その真犯人の方に体を向けて、足を組んだ。それに吊られたかのように、全員が同じ方を向いた。
「……神通ちゃんと那珂ちゃんはねぇ。さっきまで『信じられない』って顔してたんだけどぉ」
瑞鳳とは違い、彼女らは全く動じていないようだった。視線が一斉に自分らに向けられたことに、少し驚く様子を見せたぐらいだ。
「2人はさ、『良いぞもっとやれ』って顔してたよねぇ?ねぇ大井っち?球磨姉?そこんとこどうなのさー?」
とは言え、2人も鈍いわけではない。北上が怒りを見せたことに気付いている。
顔を見合わせる…まではいかずとも、少し視線を互いに向けあった。すると2人は、呆れたようにため息をついた。
「……長門さんと北上さんが、仲良しなのは存じ上げています」
「もし長門さんに何かあったら、北上が今みたいに本気で怒ることぐらい、流石に分かってるクマ。そして…」
「本気で北上さんを怒らせる利点が、私達にあるわけないじゃないですか」
表情は全く変わらない、いつもの2人だった。それを見て、思わずため息をつく。
ふと気になって後ろを振り向くと、親友に支えられてげっそりする、瑞鳳の姿があった。
はい、ここまでです。
読んでくださって分かったと思うのですが、これダラダラと地味な展開が細々と続くのが分かったと思います。たぶん。
特に…この件に関しては、本編に伏線をちりばめるのを忘れていました(完全に自分のミス)から、
読者の皆さんが知らない新情報が溢れ出ることになったわけです。この後の展開で。
ね、全カットで正解でしょう?
本当は「瑞鳳ちゃんが、命ぐらい大事にしてる料理を~犠牲にしてまで護りたいものなんて、1つしか浮かばないけどねぇ」という、
北上さんのセリフも用意していましたし、瑞鳳ちゃんが親友の胸(あるとは言っていない)で泣くシーンも予定していたんですが。
まぁ…英断だったかなぁと自負しています。
それではこの辺で。
あ、ブログとPixivに載せている、苦々しいリーダーの続編の「女々しいマーダー」も、宜しければ是非、読んでいってください。