苦々しいリーダー【艦これ二次創作】   作:シグ&リデ=覚醒

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今回、短いです。
けど主人公が行動を開始します。
まぁ…次の陸話が20000字近くありますから、その前座ということで。




第伍話「捜索~夜戦の始まり~」

眠たい目をこすり、今日も鍛錬を無事に終了した。どうやらメニューは日替わりで変わるらしい。

 

正直言って昨日よりキツかった。延々と走らされ続けたのだ。基礎体力が無ければ重い装備を持てませんよ!という赤城の声を聞きながら走ったのだ。

 

今は何をしているかと言うと、日々の楽しみである昼食タイムだ。とはいえ相変わらず距離を取る北上が気になるが。

 

(というか…あれ絶対私を見てるよね~)

 

北上は何か考えながら川内を眺めていた。もしかしたら昨日の詮索がバレてたのか…?

 

いや、それなら先程の帰り道に自分を捕まえるはずだ。鍛錬中に装備を少し壊してしまった為に、提督邸に単身で向かった自分を。

 

「あ、川内さん!装備直ってる~!」

 

自分の隣で美味しそうにサラダを貪り食べていた那珂が、不意にそう叫んだ。事実、少しネジが外れただけだったので、提督に秒で直してもらったのだ。

 

「そうなんだよ。あの人凄いね~」

 

物凄く手馴れていたのを思い出す。確かに何処の提督も「建造」に携わる以上、少なからず構造は知っているだろうが…。

 

川内はふと神通の方を向いた。彼女は川内の視線に気づくとニコッと笑ってみせた。

 

そんな時だ。那珂があることに気がついた。自分らの昼食を作ったはずの大井が見当たらないのだ。ついでに球磨も。

 

そしてその事に言及もした…が、恐らく2人だけ先に食べ切ったのだろうという結論が出て、さっとその場は流れるのだった。

 

~~~

 

「えっと…確かこの辺りだよね~」

 

食後、川内は1人である所に向かっていた。何を隠そう秘書艦達の墓である。

 

もちろん神通らも誘ったのだが、断られてしまう。とはいえ『呪い』がどうこうという理由ではなく、純粋に予定があるらしいから仕方ない。

 

川内は眠たい目を擦りつつ、目的の場所に段々と近づいていく。今日も延々と降り注ぐ陽の光は、相変わらず容赦が無い。

 

因みに、場所は神通から教わった。鎮守府の端の方にある空き倉庫の中らしく、誤って元船渠の方には行かないようにと念を押された。

 

「しかし神通らしいよね~。雰囲気が不気味だからって理由でさ。ビビり過ぎでしょ」

 

独り言を言いながら、あははと笑う川内。そうこうしてる内に目的地が見える。そこはかなりの端で、なるほど、人が来ないような所だなという感じである。

 

そんな時、川内はある人物の姿を目撃した。正直言って最初は気付かなかったが、あれは何処からどう見ても提督服。それを着ている人なぞ鎮守府に1人だけだ。

 

川内は後ろ姿しか見れなかった。忙しそうに小走りしていたので話しかけるのも憚られた。

 

それでも…何となく彼の人柄が見て取れた気がした。そして彼は、秘書艦らの墓がある場所から雑巾と柄杓を入れた桶を持って出てきた。何をしていたのかは想像に難くない。

 

 

……倉庫の入り口に鍵はかかってなかった。なので川内は重たい扉をガラガラと開ける。

 

倉庫と聞いていたから、中には大量のコンテナが…と想像していたがそんな事はなく。だだっ広い空間がそこにあり、そこに3つの丸い石碑が建っていた。

 

近づくと、正面に名前が彫られており、側面にもズラッと文字が石碑に直接刻まれているのが分かる。どうやら側面のは経歴が没時刻が彫られているらしい。

 

川内はそれを手でなぞるように触れながら、そのピッカピカの石碑を眺める。

 

「……そっかぁ。なるほどね~」

 

ここで初めて。川内はある事を信じた。

 

初めてこの鎮守府に来た時。那珂は自分にこう告げた。秘書艦はみんな同じ場所、同じ時刻に沈んだと。

 

同じ時刻…というのは少し過大な発言なようだが。と言っても±10分も無い。そして場所に関しては完全に一致している。

 

もう信じるしか無いだろう。ハッキリとした物的証拠があるのだから。とはいえ違和感はある。

 

確かにあの時の食堂で4人から理屈は聞いた。犯人を耳にする事は出来なかったが、推測するに他鎮守府が携わっているのだろう。

 

……何のために?どうして秘書艦を?

 

恐らくこれに関してはあの4人が何か知っているのだろうが、堂々と聞くわけにいかない以上、自分で調べるしかない。

 

だがその為には…色々と調査の為の術がいる。調査を進める為の…舞台という名の術が。

 

川内は墓の前で少し考え込んだ。どうすれば良いのだろうか。やはり強制的にあの4人に仲間入りするべきなのだろうか。

 

いや、それはマズい。あの4人からの情報を得る事が出来る代わりに、他のメンバーからの情報入手が不可能になるだろう。

 

となれば…やれる事は。いや、彼女が自分の頭だけで考えつけた事は。

 

「……うん!あれしか無いよねっ!」

 

ポンと手を叩く。そして彼女は覚悟を決めて、その倉庫を後にした。何故か分からないがランラン気分だ。

 

~~~

 

川内は提督に会いに、提督邸に足を運んでいた。だがここで少し想定外の事態だ。

 

中に入れなかったのである。何故か分からないが仲間達がごった返していた。

 

いつもなら自分も野次馬として突っかかるのだが、今はそんな気分じゃない。

 

川内は提督邸の2階の窓が開いているのを確認すると、得意のジャンプをして窓から侵入した。2階に人は見られなかった。

 

そう、提督も。

 

「ちぇーっ!やっぱり工廠かぁ!」

 

そう叫び、川内は来た道…道?を折り返そうとした。だが人の気配を感じた川内は、その気配の方を振り向いたのだった。

 

「あら、川内さんじゃない」

 

扶桑姉妹だ。どうやら彼女らも人混みが嫌になって2階に避難してきたらしい。彼女らは川内を見つけて微笑んでいる。

 

折角のいい機会だ。川内は概ねの旨を2人に伝えた。特に提督に会えないというのを前面に。どうしたら良いのかと質問もした。

 

そして…川内が驚くほどに、2人の返答はあっさりしていた。

 

「それでしたら、要件を紙に書いて提督の机に置くのが良いですよ」

 

「私も山城も…よくやりますわ。急用じゃない限りはそれが有効ですわよ」

 

「な、なるほどね~!」

 

そう言えば。初めてこの場所に来た時も、机の上に彼のメモがあった。なるほど、そうやるのが最短経路なのか。

 

2人に連れられ、川内は執務室に入る。そしてその机の上。どうして今まで気付かなかったのか…と不安になるほど、使ってくださいとばかりに堂々と、メモ帳とペンが置かれているではないか。

 

「それを目立つ所に貼っつけるのよ」

 

「……では、私達はこれで」

 

2人はそう言い、その場から去っていった。川内はそんな2人の方を見向きもせず、喰らいつくようにメモ帳に視線を落としていた。

 

いつもなら適当にちゃちゃっと書いてしまうのだが、自分はこの鎮守府では新参者。まだ無礼な真似は早い…と何故かそう思ってしまう。

 

川内は有りっ丈の思いを込めて丁寧に文字を書き、書き終えた後でその紙1枚を破り。

 

……ここで川内の悪い癖が。

 

「どうせなら、めっちゃ目立つ所に貼っつけておきたいよね~」

 

イシシと笑い、川内はメモ帳を入り口のドアノブに貼っつけた。ドアを半開きにした後に。糊で。触れた瞬間手がベトベトになりそうな量を、絶対に触れる位置に。

 

誰がどう考えても無礼な真似なのだが、今の川内は悪戯心の方が勝っていた。彼女は満面の笑みでメモ帳が落ちないようにドアを閉じた。

 

彼女の顔は完全にニヤケついていた。そしてルンルン気分のまま、彼女は提督邸から…2階の窓から退散した。1階の人だかりも殆ど無くなっていた。

 

~~~

 

その後の川内は、鎮守府中を特に理由もなくぶらぶらと歩いていただけなので、特に何も起きなかった。

 

気がつくと太陽が殆ど沈んでいた。川内はふとお腹が空いた事を自覚し、偶然にも食堂の近くにいたので、折角なので寄ることにした。

 

が。今日は珍しく電気が点いていない。もしやと思って近くまで行くと、扉に張り紙があった。本日は臨時休業日だと。

 

「え~!そんな~!」

 

瑞鳳が体調を崩した…とも書かれていた。川内はショックで沈んだが、それを見てふと思い出す。

 

そもそも、艦娘達が体調を崩すことは殆どない…らしい。だから瑞鳳が体調を崩したと聞いて。

 

「あぁそっか!昼間のあの人集りってそういうことか!」

 

鎮守府中のメンバーがお見舞いに行っても変な話ではないだろう。珍しい物見たさというのも少なからずあるだろうし。

 

……自分も後でお見舞いに向かおう。あの卵焼きタワーのお返しもしないといけないし。だが今は腹ごしらえだ。

 

少し早足で寮に帰る川内。状況によっては自分で晩御飯を調達せねばならないから。だが彼女のこの心配は不発に終わる。

 

寮の入り口の扉を開けた瞬間。部屋中に匂いが広がっていたから。金曜日の様な匂いが。

 

そしてその部屋には、同じ寮のメンバーが全員揃っていた。北上も含めて全員が。

 

「あっ、川内さん。お帰りなさい」

 

出迎えてくれたのは大井だ。彼女の服装を見る限り、晩御飯を調達してくれていたのだろう。というか彼女から思いっきり晩御飯の匂いがするし。

 

「お帰りクマー。晩御飯出来てるクマー」

 

そんな大井の声に釣られて、奥から球磨も顔を出す。彼女はカレー鍋を握っており、もう状況を飲み込むには十分過ぎる情報量だった。

 

なので川内は、キッチンにスッと手を洗いに行った。自分でも驚くほどの歩行速度を出して。

 

キッチンは少し人集りが出来ていた。やはり考えることは皆同じようだ…と川内は思ったが、よく見ると調理器具を洗っていた。

 

「あ…せ、川内さん…」

 

最初に川内に気付いたのは神通だった。彼女は人数分の皿を持っていた。横には人数分のスプーンを持つ那珂も見受けられる。

 

「ちょっと!どこ行ってたの!」

 

「いや~。ちょっと散歩をね~」

 

……どうやらこの寮では、晩御飯の準備を手伝うイベントがちょくちょく発生するらしい。心に書き留めておこう。

 

川内はヘラヘラと2人に謝罪した後。私も運ぶの手伝うよと言いながら乱暴に、那珂のスプーンを半分奪い取ってキッチンを後にした。

 

那珂は「うぉぉい!?」とか叫びながら川内を追いかける。それを見た神通は「は、走ったら危ないですよ…」と忠告して微笑み、ゆっくりと2人の後に続く。

 

那珂からしたら良い迷惑だが、側から見ればとても日常的で平和な光景だ。

 

3人が広間に着いた時には、全員が席に座っていた。そして色とりどりの声を上げる。そんな中、何も知らない川内は周りに質問をする。

 

「そういや…今日って金曜日じゃないよね~?何でカレーなんですか?」

 

川内がそう言ったタイミングは、偶然にも場がシンとしていた。川内は少し気まずそうに軽く右往左往する。

 

そしてそれを見かねた?球磨がスッと川内の肩に手を置き。

 

「球磨の気まぐれだクマ!」

 

「違いますよ姉さん。比叡さんの差し入れです。お裾分けだそうです」

 

渾身のボケをかます…や否や、大井の隙がないフォローが入った。川内は直ぐに納得して一歩引いたが、球磨は肩を落として配膳の作業に戻った。

 

後に分かることなのだが、比叡が瑞鳳のお見舞い用として大量に作ったものらしい。臭いが強いものはNGと赤城に怒られたようだが。

 

……などと話していたら。配膳もあらかた終わっていた。まだカレーを配膳されていないのは、話を聞いていて出遅れた川内と…。

 

「さて、もう川内さんだけよ。早く皿を貸しなさい」

 

「早くするクマ」

 

……もう1人。だが彼女らはそのもう1人に目もくれず、川内の方だけをジッと見ている。川内は渋々皿を球磨に手渡し、配膳してもらう。

 

カレーを配膳する際によく、皿の端にカレーが垂れてしまったり、あらぬ方向に流れて皿から溢れ出しそうになるが、今回はそういうのが無かった。実に綺麗な配膳だ。

 

「ふっふっふ~。こういう能力も意外に優秀な球磨ちゃんって、よく言われるクマ」

 

「はぇ~。めっちゃ凄いじゃん!」

 

「も、もぉ~!褒めても何も出ないクマ!」

 

口ではそう言うものの、明らかに嬉しそうな球磨。その一方で大井はそそくさと退散しようとしている。

 

球磨もその事に気がつき、スッと表情を元に戻して、川内に向かって席につくよう指示した後、彼女もそそくさと大井について行った。

 

川内は何となく…褒め損だと思った。彼女は暫く立ちすくんでいたが、那珂に名を呼ばれてハッとなり、いつもの3人と同じ席に座る。

 

その後で着替えを終えた2人が合流すると、球磨の合図で食事が始まる。川内は1人細々と自分でカレーを配膳する北上を横目に、カレーを食べ始める。

 

……非常に完成度が高いカレーだ。程よく辛くてコクもあり、具材も豊富でご飯が進む。

 

「けど…この緑ってもしかして…」

 

「あ、そ、それ…う、海ぶどう…」

 

どうやらこの鎮守府では海ぶどうが流行りつつあるらしい…という旨を神通から聞く。まぁ確かに美味しいものではあるが…。

 

「えっと…瑞鳳ちゃんだったかな?海ぶどうがこの鎮守府で栽培出来ないかって模索してるみたいだよ!」

 

……いや無理だろ。この鎮守府周りの海水温は割と低いから。海ぶどうは暖かい海で育てる植物のはずだから、よほど金をかけて施設でも建てないといけないだろう。

 

などというマジレスはしない。川内は「へぇ~」とだけ良い、プチプチしている美味しいカレーを口に運んで笑みをこぼした。

 

~~~

 

大体のメンバーが食事を終え、キッチンに皿を運びに行ったり、広間で駄弁ったりしている。川内らもその中の1人だった。

 

今日は晩御飯がいつもより早かったため、現在はそんな慌てて入渠しなくても良い時刻だ。

 

そんな時だ。不意に玄関のドアを叩く音が響いたのだ。そのタイミングで1番入り口に近かったのは神通だ。

 

「神通。出て欲しいクマ」

 

……前から思っていたというか、薄々感づいてはいたが。どうやらこの寮のリーダーは球磨らしい。とにかく球磨の言葉を聞き、神通は入り口のドアを開け。

 

「て、て、提督…さん!?」

 

目の前に現れた人物に驚いた。その声を聞いた川内はバッとそっちの方を向いた…のだが、ちょうど神通で隠れて姿が見えなかった。

 

そして提督は神通に1枚の紙を渡した後、何も言わずに退散していった。神通は暫くポカンとしたが、その紙を見てハッとした。

 

「え、えっと…せ、川内…さん?」

 

その紙は四つ折りにされており、目のつくところに『内川:巡軽』と提督の字で書かれている。なので神通はその紙を川内の方に持っていった。

 

この騒動を聞きつけ、寮中のメンバーが川内に注目している。何故このタイミングなのか。だが川内本人は心当たりがある。

 

川内は神通から紙を受け取り、周りの注目を浴びながらその紙を開いた。その中には提督の印と共にこう記されていた。

 

『す可許、事るむ求』と。大きく太くハッキリとした字で。

 

「いよっしゃぁぁぁぁぁあ!!!!」

 

川内は興奮のあまり、机をバンと叩いて思いっきり椅子を引いて立ち上がる。真横にいた神通は思わずビクッとしてしまう。

 

川内は周りの「えぇっ…」という冷めた目線も気にせず、全力でガッツポーズを決めた。そして興奮冷めぬまま周りに説明をした。

 

……同時刻。同様の報せが駆逐艦寮と戦艦空母寮にも届けられた。反応は各々だが、大体が昼夜逆転生活の許可に驚く声だった。

 

もちろん許可の理由も記されている。この鎮守府の防衛は機械に頼りきりであるから、人の目も追加したいと思った…とのことだ。

 

つまり川内には、夜の鎮守府を1人で警備するという割とキツい条件の代わりに、昼夜逆転生活の許可を勝ち取ったのだ。

 

因みに、川内は意思表示として「夜の方が力が出る」と書いたが、本心はもちろん『呪い』の解明を進めるためである。

 

そして…この報せについて1番色々と考えたのは、やはり例の4人のようだ。

 

駆逐艦寮。響は海風を呼び寄せて2人きりになり、意見交換をした。

 

「海風、これどう思う?」

 

「わ、私は…江風が…」

 

江風や那珂の脅威が去るだろう。海風はそう響に告げた。

 

響は少し考えた。というのも…那珂はともかく、江風も実は夜型なのだ。だが響は海風の説を推した。

 

もしここで江風も提督に同じ許可を出したら…自分らに限らず鎮守府中に不信感が広がるだろう。怪しまれるだろう。

 

江風がそんな凡ミスをするとは思えないし、曙がそれを許可するとも思えない。

 

何であれ、江風と那珂が川内と接触するタイミングや回数が減るだろう。響と海風はその考えを共有して安堵しあった。

 

だが…別の寮にいた長門と北上は。別の場所にいながら考えは同じだった。が、響らとは違う意見だ。正確に言えば2人の1歩先を見ていた。

 

(まぁ確かに、これで江風らの脅威が少しはマシにはなるだろうが…)

 

(肝心の瑞鳳ちゃんが…フリーだねぇ)

 

そう、瑞鳳の存在だ。彼女は食堂を経営している以上、後片付けに追われているふりをすれば、川内の活動時刻まで外に居られるだろう。

 

動きが最近活発になりつつある彼女だ。今は体調不良でダウンしているが、復活してから何をしだすか全く想像がつかない。

 

そして何より…長門と北上が1番気になったのは、川内の真意だ。彼女が何も考えずこのような提案をしたとは到底思えなかったのだ。

 

……川内は早速、今日から警備の仕事を始めるらしい。北上は彼女のそんな姿を無言で見つめる。本当に嬉しいのだろうと思いながら。

 

「あ、あれ…?し、下に…何か…」

 

何の予兆もなくそう言ったのは神通。彼女の指は川内の握る紙を指している。

 

川内が改めてその紙をよく見ると、確かに下の方に小さい字で何か書かれていた。そしてそれを那珂が読み上げた。

 

「えっと…『ドアノブの件は後でお説教』だって~。いや何これ!」

 

……ギクッという効果音が鳴った気がした。その場の全員がそれに気づき、バッと川内の方を向いた。それを受けて川内もバッと目を逸らし。

 

「イ、イヤー。ワタシシラナイナー」

 

と片言で話した。当然ながら嘘である。もしかしなくてもあの糊の件だろう。彼女は驚くほど目を泳がし、フーフーと口笛(吹けてない)をした。

 

「……川内…さん」

 

「……川内さーん?」

 

「ちょちょちょーっ!?そ、そんな目で見ないでくださいよー!ちょっと魔が差して…ドアノブを糊まみれにしたぐらいで!」

 

必死に弁明する川内。因みに、後ろにいる重巡の3人も微妙な表情だ。

 

「……クマ」

 

「……はぁ」

 

球磨も大井もシラけている。もう川内が何を言っても無駄だろう。そして周りは、彼女の方を無言で見つめている。

 

なので川内は途轍もない居辛さを(自業自得だが)感じる。そしてまたも右往左往する。そんな彼女が出した結論…及び、彼女が行なった行動は。

 

「い、行って参ります!」

 

逃亡だった。彼女は自慢のスピードを生かし、あっという間に寮から姿を消した。そしてこの件をキッカケに…寮のメンバーは彼女を改めて「トラブルメーカー」に認定したのだった。

 

……その一連の流れを。北上は遠くから眺めていた。彼女もまた失笑していたのだが、川内が寮から出たのを確認すると直ぐに我に帰り。

 

あいつはどうやら困った人のようだ…みたいな会話をしている奴らを横目で流しつつ、北上は1人、部屋に戻っていくのだった。

 

 

 

……そしてこの時。

 

とある場所であんな大変なことが起きるというのは。北上らも含めて誰も予想していなかった。

 

況してや…こんな直ぐに。

 

 

 

続く

 

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