苦々しいリーダー【艦これ二次創作】   作:シグ&リデ=覚醒

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今回から遂に話が動きます。
いやーお待たせしました!
因みに、前後編合わせて2万字弱です。




第陸話「進展~破滅の垣間見~」前編

 

 

また新しい日が始まる。強い日差しは相変わらずで天気にメリハリがない。

 

だがそんな中。いつもと違う日常を送ろうとするのが1人、午前の鍛錬中、ずっと考えごとをしていた。

 

(やっぱり…おかしいわ…)

 

改めて紹介しよう。駆逐艦の暁だ。この鎮守府にいる暁型駆逐艦4人の長女である。

 

と言っても今は響があの状態。よって必然的に雷電の2人と一緒に日々を過ごしていた。

 

そんな彼女には、とある悩みが…というかとある疑問があった。

 

何を隠そう、この鎮守府に蔓延る『呪い』について。具体的に言えば、今現在ぴょんぴょんと自分の上を馬跳びしている曙についてだ。

 

……鍛錬の最中、彼女らの間に会話はない。曙が普段からそんなペラペラ話すタイプじゃないのもあるが、雑談する話題がない。

 

因みに、直ぐ隣の雷と電は駄弁っている。さっきも雷の足が電の尻に当たって「い、痛いのです!」と叫んでいた。雷も必死に謝っていた。

 

暁は言うほど曙を気に入っているわけではない。可もなく不可もなくという奴だ。逆もまたそうだろう。

 

だからさっき足を踏まれた時も、ゴメンとかはなく黙って頭を下げるだけだ。

 

だからこそ暁は、曙のことをこんな冷静に近くで眺めることが出来た。だからこそ暁は、この現状を疑問視出来たのだ。

 

(確かにこの『呪い』を最初に言い出したのは曙よ。でも…どうして?何のために…?)

 

暁は最近そればかり考えている。きっかけは最近の曙の動向だ。

 

彼女はある日を境に突然、曙が自分達…特に雷と電の2人と接触をするようになったのである。

 

彼女はずっと江風と仲が良かったはずだ。だが最近は江風を無視して自分らといる。

 

だが駆逐艦寮での彼女らを見ていると、仲違いをしたとかそいうわけでもなさそうだ。

 

……暁はそう考えていた。あまり積極的に新しい友達を作ろうとしない彼女は、曙のその動向に違和感しかなかった。

 

そういう風に暁は、ふつふつと曙への不信感を募らせていたのだった。

 

「ね、ねぇ…暁」

 

「え、あ、な、何かしら!?」

 

「……暁ちゃん。最近何か様子が変なのです。私達は少し心配なのです」

 

「な、え、そ、そんなこと無いわ!」

 

必死に否定する暁。雷も電もそれを聞いて「ならいいです」みたいな返事をする。

 

……何を隠そう。暁が最も懸念しているのが、この2人のことである。

 

あの『呪い』の件は状況が状況だったし、割と理屈も信憑性もあったから仕方ないが、もし曙が別の余計なことを吹き込もうとするのなら…。

 

長女として。彼女ら2人の姉として。何より…淑女として。許すわけにはいかない。

 

(私もそろそろ…動かないと)

 

そう決意する暁。この『呪い』に関係あるかは分からないが、川内が行動を起こしたのを昨晩知ったのが、決意の直接的な要因だろう。

 

……鍛錬が終わると暁は直ぐに寮に帰宅する。今日は雷電と海辺に遊びに行く約束があったが、それも断っている。

 

昨晩のカレーが残っているのを知っていた。暁はそれとライスを自分で盛り付け、広間に持っていくこともせず、キッチンのテーブルで平らげた。

 

食事中、誰かに会うことはなかった。それは皿を洗っている時もだ。

 

「さて…腹ごしらえは済んだわ」

 

皿のついでに顔も洗う。水が冷たくて気持ちが良い。シャキッとする。気合いも入る。

 

飲み水を一杯口にした後で伸びをする。そして暁はキッチンを後にし、そのまま寮も後にする。

 

昼過ぎというのもあり、鍛錬の時よりも日差しが厳しい。夏の風物詩である蝉の輪唱を耳にしながら、暁は鎮守府のある場所に向かった。

 

……この鎮守府には至る所に倉庫があるのだが、どこも中が物凄く蒸し暑くなっている。

 

ここは海沿い特有の強い風を受けずに済むので、冬場は割と重宝するのだが、夏場は日差しが直で当たらなくなる代わりにその熱がこもって蒸し暑い。

 

だがそれが良い…というのもいる。このサウナのような状況で自主鍛錬をすると、炎天下を走るより体をいじめられる…という考えらしい。

 

暁には到底理解出来なかったが、赤城さんとかはたまにやっていると聞いたことがある。

 

そして…江風もその内の1人なのだ。それを知っている暁は1人、江風の行きつけの倉庫に着いていた。

 

どうやら今日も此処で自主鍛錬に励んでいるようだ。ドアが開いているし、中から彼女の声が聞こえる。

 

……サウナにしたいのなら扉を閉じるのでは?そう思った者も多いだろう。だから此処で1回補足を入れておく。

 

この鎮守府の倉庫のドアは全て、途轍もなく重い。もちろんそれを開閉する仕掛けが部屋の内外にあるのだが、実はそれは手動の滑車なのだ。

 

その上、こんな所に変に労力を使いたくない!という彼女らの不摂生により、最近はどこもかしこもこの滑車が錆びかけているのだ。

 

そんな状況だ。だから誰も好き好んであの滑車に触ろうとしない。もちろん倉庫に閉じこもるなんてのもない。江風のような物好きでない限り。

 

……暁は音を立てないようにそっと倉庫に侵入する。そして江風に近づくごとにガシャンガシャンと音がしているのが聞こえてきた。

 

暁は倉庫内の備品の山に身を隠し、隙間から江風の様子を覗く。と言っても目的は彼女ではなく、そのうち此処にやってくるだろう曙と彼女が接触する所を目撃することだ。

 

曙と江風が2人きりじゃないと出来ない話。暁はそれを盗み聞きしに来たのだ。

 

(しかし…江風さん凄いわ…)

 

彼女の口からどういう自主鍛錬をしているかの話は聞いていた。だが実際に見るとやはり迫力が全く違う。

 

具体的に言うと。ドラム缶2個の側面に穴を開けてその間に鉄パイプを通し、そこに有りっ丈の石などを入れてダンベルにしているのだ。

 

2つ合わせてザッと50kgぐらいだろう…と聞くと少し凄さが薄れてしまうか。だが見ている分の迫力は十分だ。

 

因みに彼女はもう1個、石入りドラム缶を用意しており。それは彼女自身の足の上に横倒しにされていた。

 

だから…暁のいる位置だとあまり江風の顔が見えない。だが鉄パイプが上がっているのを見ると、彼女が鍛錬の真っ最中なのは分かる。

 

暁は無言で江風の様子を見つめる。江風は「装備に頼らない体作り」に重点を置いているらしく、入渠場ですれ違った時に彼女のお腹が少しくびれているのも暁は目撃していた。

 

……暫くして。江風はその自家製ダンベルを横に退かし、足の上のドラム缶も退かした。暁は自分の帽子を手で持ち、改めて体を隠す。

 

「よっし!取り敢えずはこンなもンだろ!いやぁ良い汗かいたわ…あははっ!」

 

彼女は地面に置いていた手拭いを手に取り、それで豪快に汗を拭く。前から思ってはいたが、改めてこう彼女を見ていると実に男勝りだ。

 

汗を拭いた後。江風は満足そうに伸びをしつつ、足に乗せていたドラム缶を立て、そこに腰かけた。ドラム缶はビクともしなかった。

 

その際、彼女の顔が暁の方に向いたのだろう。声の聞こえぐらいから考えて間違いない。

 

暁はドキドキしていた。胸の高まりが止まらなかった。こんなことをしたのは生まれて初めてだったから。そして遂に…彼女の望んでいたことが。

 

「ったく…相変わらずね江風」

 

「おっ、やっほーボノちゃン!」

 

「……ボノちゃんって呼ぶな」

 

曙が倉庫に訪れたのである。暁は彼女らがどういう状況か全く確認出来ないのだが、会話から察するに…曙が水を江風に差し入れたのだろう。

 

無意識に内股になる暁。口を手に当てて息を殺し、耳に全神経を集中する。

 

「しっかしまぁ…相変わらずデカいドラム缶ね。よくやるわよ」

 

「あははっ、こう見えて割と軽いンだなこれが!あ、ボノちゃンも1個持ってみる?」

 

「……遠慮しておくわ」

 

キシシと笑う江風。それを見て曙はまた溜息をつき、江風と背中合わせになる形で、彼女もまたドラム缶に腰かけた。

 

暁はそれを見ているわけではないが、2人の会話と倉庫に響く音で大体の想像が出来ていた。

 

(へぇ、私が思っている以上に、あの2人って仲が良いのね。知らなかったわ)

 

緊張からか、少し身体が震える。暁は声を出さないようにゆっくりと肩で息をする。

 

「あ、そうだ。朝からボノちゃンに聞きたいことがあったンだけど」

 

「……何?あとボノちゃんって呼ぶな」

 

地面に足がつく音がする。江風がドラム缶から降りたのだろう。ドラム缶をカンカン叩く音がする。曙が足をブラブラさせ、かかとを当てているのだろう。

 

江風は曙が腰掛けるドラム缶を軽くバンと叩き、曙の方を見つめた。曙は「えっ、どうした?」という風に江風を眺める。

 

……息を軽く吸って吐く江風。当然ながらその音は本人以外には聞こえないはずなのだが、何故か暁の耳には届いていた。

 

「ボノちゃンを疑ってるわけじゃないんだけどさ。結局のところ、目的は何なの?」

 

「……はぁ?」

 

「最近…いや、川内さンが来てからか。何かボノちゃンさ、色々と積極的になった気がすンだよ」

 

これを聞いて、曙は息を飲んだ。何かの本質を見抜かれたような気がしたのだ。

 

そして、息を飲んだのは暁もだった。今日は非常にラッキーだ。目的の話が真っ先に聞けるっぽいのだから。

 

暁は音を立てないように振り返る。流石に横から顔を出せば見つかるだろうから、それはせずに聞き耳だけたてる。

 

「……そうね。それは否定しないわ」

 

曙ははぁと息を吐き、江風に背中を向けたまま話し始める。と言ってもそんな…暁にとってめぼしい情報はないと言えよう。

 

曙が積極性を発揮し始めていたのは暁も気づいていたし、その理由も「川内をこちら側に引き込みたい」とか「江風に任せっきりで申し訳ない」とか予想の範囲内ばかりだったから。

 

江風もそれを聞いてしばらくは黙り込んでいた…のだが、曙がよいしょとドラム缶から降りた時。不意に彼女はこう言った。

 

「そういやボノちゃン。この『呪い』を拡めたきっかけって何か…いつか教えてくれるって言ってたよな?」

 

……ピシッと空気にヒビが入る音がした気がした。だが曙は動揺せず、またも大きいため息をつき、バッと江風の方を向く。

 

「今はまだ…ダメよ」

 

「……ちぇっ。じゃ、じゃあ…ちょっと!詳しくなくて良いからさ!ちょっとだけ…ヒントだけでも…な?頼むよボノちゃーン!」

 

「ちょっ…どこ触ってんのよ!あとボノちゃンって呼ぶなって言ってるでしょ!?」

 

……会話から察するに、江風が駄々をこねているのだろう。そう言えば江風はよく曙にボディタッチをしているイメージがある。

 

「あぁもう!分かったわよ!」

 

曙は足で無理に江風を引き剥がして、自分のスカートを両手で抑えた。

 

そして江風が「いてて…」とか言いながら立ち上がってくるのを顔を少し赤らめて横目で見る。

 

「……ヒントだけよ?」

 

「お、おぉ!」

 

目を輝かせる江風。そこから少し離れた所にいる暁も吊られたように目を輝かせる。

 

そこからは少しの間があった。恐らく曙が言葉を選んでいたのだろう。

 

そして。

 

「……みんなを1つに…したいのよ」

 

とだけ、曙は口にした。当然ながらこの言葉はあまりにも抽象的であるから、江風も暁も頭を抱えて真意を理解しようとする。

 

そして…これまた偶然なのだが、暁も江風も、同じ結論を同じタイミングで思いついたのだった。

 

「……なるほどー。全員をまとめ上げてその頂点に君臨してやるってことだな!」

 

「違っ…別にそういうつもりは」

 

「少なくともー、今よりは良い立場になってやるってことっしょ!?いやーやっぱボノたンは流石だわ!」

 

「……それは否定しないけど。ってかボノたんって呼び方もやめなさい」

 

そうか、曙はそんなことを考えていたのか。暁は妙に納得して色んなことを考える。

 

確かにこの鎮守府には色とりどりの艦娘がいる。そしてこの鎮守府のお仕事はチームワークが必要なのが殆ど。

 

彼女も彼女なりに鎮守府のことを考えていたのか。それは確かに喜ぶところだろう。しかしそれは、江風も言った通り建前に過ぎない。

 

……自分や曙、江風もそうだが。確かに自分たち駆逐艦の地位は低い。まぁ戦艦のように力は無いし、空母や巡洋艦のような能力もないから仕方ないと言えば仕方ないのだが…。

 

とはいえ…だ。曙はあんな一部を迫害してまで、あの人達の上に立ちたいと思っている…という旨をたった今口にした。

 

……飽くなき向上心。それは良いものに違いないのだが、この場合には必要なのだろうか。

 

特に…鍛錬を重ねて戦艦顔負けの実力をつけるとかではなく、こんな風に他人の心を弄んで地位を手に入れようとしている。

 

(冷静に考えたら…ほら…あの『呪い』ってあれじゃない。えっと…バナーナ効果だっけ?あれじゃないわけ?)

 

正しくはバーナム効果だが…いやバーナム効果と言えるかも微妙だが…そんなことなど気にしない暁は、考え事をしつつ2人の会話に耳を傾け続けた。

 

だがその後は特筆すべき内容は出なかった。強いて言うなら、江風が改めて曙に忠誠を誓ったことぐらいだ。

 

 

 

真っ暗な倉庫の中。暁は1人、例のドラム缶に腰掛けていた。

 

江風が入り口を閉めていったおかげか、その隙間から割と強い風が部屋に入り込んできて、そこそこ気持ちが良い。

 

「とにかく…良かったわね」

 

何であれ、勇気を出して忍び込んだ甲斐はあったと言える。的確に的を射る発見は無かったものの、近い情報は幾つか手に入った。

 

暁が出した結論はこうだ。

 

曙は元からあの向上心という名の支配欲があり、何かしらの契機を求めていた。

 

そんな時にあの事件が起こり。彼女はこれを利用する事を思い付いた。

 

だが駆逐艦1人で出来ることは限られている。だから江風に協力を要請した。

 

そして川内がやってきたことにより…彼女の動きが読めなくなってきたことにより…慌てて江風以外の味方を増やそうとしている。

 

「ま、そんなところよね」

 

……暁は思った。曙はこんな事をやり遂げようとする気持ちがあり、彼女の様子を見る限り、計画がここまで上手くいっているのだろう。

 

そして、何かしらの不都合を予測して機転を利かし、方向を転換していくあの判断力。並大抵では会得は無理だ。

 

もし彼女がトップに立ったとしても、そこまで問題が起きるとは思えない。

 

要するに、自分には関係ないという結論。曙が何しようが勝手だという結論だ。

 

「私の妹に手さえ出さなければ…ね」

 

そう、そもそも暁が最も懸念しているのは妹達のことだ。響はもう引き返せないレベルで巻き込まれてしまったが、雷と電はまだそこまでじゃない。

 

そして最近の曙の動向を見る限り、彼女が次に味方に引き込もうとしているのは。

 

「……急いだ方が良いわね」

 

もう記す必要もないだろう。何であれ、暁は顔に焦燥を浮かべて軽く貧乏ゆすりをする。

 

もちろん今すぐにでも倉庫から出たいが、まだあの2人が近くにいるかもしれない。入り口のドアを開ける時に大きい音がする以上、油断は禁物だ。

 

~~~

 

相変わらず太陽が眩しい。頂点は過ぎているはずだが、沈む気配もない。

 

そしてその輝かしい光が海に反射することにより、光はもちろん波も光輝いて見える。

 

「すっごく楽しかったわね電!」

 

「楽しかったのです!」

 

そんな海を背にして雷と電は歩いていた。昼食を食べてからずっと水遊びをしていたから、2人とも顔に疲れが出ている。

 

だが非常に満足げだ。2人は仲良く手を繋ぎながら歩き、体についた砂を落とすために入渠場へ向かっていた。

 

「あっ!私達の晩御飯担当っていつだっけ!?今日じゃ…」

 

「はわわっ!だ、大丈夫なのです!私達の担当は明日なのです!」

 

「あ、そ、そうよね!」

 

何て会話をしつつ、2人は入渠場に足を踏み入れて…此処で少し想定外の事態。

 

いつもなら此処に予め、体を拭くようの大きい布を海に行く前に置いていくのだが…今日は2人揃ってそれを忘れていたらしい。

 

このままではびしょ濡れで鎮守府内を歩き回る事になる。別に真夏だからそれも良い気はするが、何故か2人はそれが無性に嫌だった。

 

「しょうがないわねぇ。ねぇ電」

 

「い、嫌なのです!雷ちゃんが2人分取ってくるのです!」

 

……2人揃って行ったら良いじゃないか。などと突っ込む人も周りには存在しない。

 

2人は暫くどちらが取りに行くのかという議論を進めたが、そんな不毛な争いに決着がつくはずもなく、結局じゃんけんで決めることに。

 

「……恨みっこ無しよ?」

 

「こ、こっちの台詞なのです」

 

2人揃って1歩後ろに下がって右手を引く。こんな些細な動作もタイミングが合う辺り、本当に息がぴったりのようで。

 

笑えるほどあいこが続いた。雷も電も、正直言ってこんな所まで息を合わせたくはないと思い、2人同時にため息をつく。

 

15回あいこが続いた辺りで2人は1度、じゃんけんを中断した。

 

「ふ、ふふっ!やるわね電!」

 

まだ戦意を見せる雷。その口ぶりは余裕で、顔には勝ちにこだわる勝負師の表情そのものが浮かんでいた。

 

その時だ。不意に入渠場に誰かが入ってきた。彼女らはその気配を感じてバッとその方向を見る。そこには自分達が見慣れている少女が立っていた。

 

「あっ…あ…や、やっと…」

 

その少女…暁は2人の姿を見つけ、安堵したかのように駆け寄った。肝心のその2人は、何が何だか分からずポカンとしているようだが。

 

「ど、どうしたのです?」

 

と電が言うが早いか、暁は口早に「2人を探していた」という旨を伝え、2人の手を取っていた。顔には軽く焦燥も浮かんでいた。

 

この時、雷は閃いた。そうだ、暁にタオル類を取ってきてもらおうと。その旨を電に伝えようと横を向いて…。

 

電も同じことを思いついていたようだった。なので雷は暁の手から1歩下がり。

 

「ねぇ暁。お願いがあるんだけど」

 

「え、な、何かしら?」

 

暁にさっきあったことを伝えた。そしてそれを聞いた暁は、やれやれといった様子を見せ、少し考え込む様子を見せた。どうしよっかなぁというちょっと意地悪っぽい顔で。

 

……雷と電は空かさず暁の両腕に抱きつく。そして猫撫で声を出して暁に甘える。ここぞとばかりに妹ぶって。暁をレディとおだてて。

 

「ちょ、ちょっと!その砂だらけの体で…や、やめ…やめなさい!」

 

ブンと腕を振り払う暁。そしてなんか…文句ありげな雷と電を見ながら「まったくもー」という感じで腕の砂を払う。

 

この時、暁は思いついた。正確に言えば思い出した。2人を探していた目的を。

 

そう、よく考えればこれはチャンスなのだ。だったら生かさない意味はないだろう。

 

「……分かったわ。私がタオルとか持ってきてあげるから、そのかわり…」

 

大事な話がある。凄く真面目な話がある。それを聞いてほしい。暁はそう告げた。

 

……雷と電は1度お互いを見合わせた。というのも、珍しくあの暁が割と怖い顔をしたのだ。

 

とはいえ、タオルを持ってきてくれるのであれば、申し出を断る意味がない。だから2人は暁の提案を飲むのだった。

 

 

 

寮の中をうろつく途中、暁は曙と江風を見かけた。彼女らは2人で雑談に勤しんでいるようだった。そんな2人を暁は、軽く睨んでその場を後にする。

 

今は入渠場に帰ってきていた。2人の姿は見当たらないが、楽しそうな声は聞こえてくるから、2人が何処にいるかは分かる。

 

暁は風呂場のドアを開けて中を覗き、2人に「持ってきたわ」とだけ告げて直ぐに退室した。

 

……恐らく2人はこの脱衣所で少し暴れたのだろう。脱衣所の床は砂だらけになっており、正直言って不快感極まりない。

 

「はぁ…ほんっとあの2人は…」

 

暁はため息をつき、近くにある掃除用ロッカーから竹箒とちりとりを取り出し、脱衣所の掃き掃除を始める。

 

立つ鳥跡を濁さず。一人前のレディを目指す暁にとってこれは造作もないことだ。

 

~~~

 

どうやら雷と電は、風呂の中でもふざけあっていたらしい。2人が満足げに風呂場から出てきた時には、もう暁は掃除を完璧に終わらせていた。

 

「暁、着替えありがとうね!」

 

「ありがとうなのです!」

 

2人は実に楽しげだ。それを見て暁は顔をニッコリさせて機嫌をよくする。

 

その後、椅子に座った雷の髪を電が拭き始めると、暁がその電の髪を拭き始めたり。2人が水着から着替えるのを手伝ったりする。

 

そして2人が完全に着替えを終えた頃には、時計はヒトハチマルマルを指していた。今日の晩ご飯の担当は暁と江風の筈だから、今はもう少しのんびりしても大丈夫だろう。

 

「あ、そう言えばさ、何か話があるって言ってたわね?」

 

「そ、そうなのです。暁ちゃんからお話って何なのです?」

 

そして…この2人が先にこう切り出してくれたおかげで、割と話しやすい空気にもなった。暁はホッと胸を撫で下ろし、口を開いた。

 

「あのね…実は…の、『呪い』のことで2人に言わなきゃいけないことが…」

 

 

 

そう彼女が口にした瞬間。

 

暁が思わず口を閉じてしまうほど。

 

風呂上がりが2人いて室温が高いはずのこの部屋で、一瞬で背筋が凍るほど。

 

空気がピシッと張り詰めた。

 

それは真面目モードに入ったとか、話を聞く体勢を整えたとか、そんな話じゃない。

 

明らかに2人の…得体の知れない何かがガラッと変わったのだ。

 

それこそ…恐怖を感じるほど。

 

 

 

「それが…どうかしたの?」

 

だがこんな程度で怯えるわけにはいかない。何故なら此処で手間取っていたら、2人がどんな目に遭うか分からないから。

 

そう、これは2人を助けるため。曙の毒牙から護るため。雷と電の1人の友として、姉として、2人を正しい方向に導くという、自分が果たすべき当然の義務だ。

 

暁はそう自分に言い聞かせ、静かに…それでいて深く息を吐いた。怖くないと言えば嘘になるが、躊躇うわけにもいかない。

 

「うん…あのね2人とも。その…落ち着いて聞いてほしいんだけど」

 

……1つ1つ丁寧に説明した。自分が2人の誘いを断った理由から、あの倉庫に潜入したこと、その中で聞いたこと、2人を姉として守りたいという旨まで、全部。1つ残らず。

 

途中、何回か感極まって涙をこぼしそうになるも、それをグッと抑え、暁は最後まで成し遂げた。

 

暁が熱弁する間、雷も電も言葉を全く口にしなかった。暁が最初に言いつけた通り、2人は落ち着いて話を聞いていた。

 

そして…暁が成し遂げた後。暫くの沈黙が入渠場を包んだ。暁は2人がどう思ってるのかを確認するのが急に怖くなったのか、じっと俯いている。

 

「……暁」

 

「……暁ちゃん」

 

そんな中、雷と電が暁の名を呼んだのは同時だった。暁は名前を呼ばれてドキッとして、ゆっくりと顔をあげた。

 

……正直に言って、暁は確信していた。2人はきっと自分の言うことに耳を傾けてくれるだろうと。今回もちゃんと聞いてくれるだろうと。

 

だからこそ…。次に2人が放った言葉には、ただただ絶望するしかなかった。

 

「「何言ってるの(です)?」」

 

「……えっ?」

 

「あの曙がそんなことを言うわけ無いじゃない。ねぇ電」

 

「そ、そうなのです!」

 

「……えっ?」

 

思わず2回聞き返す暁。いやそんなまさか…と嫌な予感を感じつつ、彼女は2人の顔を見る。

 

……2人の顔はどす黒かった。正確に言えば、彼女らの瞳がどす黒かった。

 

思わず1歩下がってしまう。だが暁は強かった。彼女は直ぐに立て直し、2人に再び駆け寄る。そして彼女らの説得を続けた。

 

しかし…暁が説得を続ければ続けるほど、2人の顔は沈んでいった。それは明らかに「逆効果」を意味していた。

 

ついには、自らの言葉を遮って反論をされてしまう。

 

「ねぇ暁。あんた何様のつもり?」

 

「え、わ、私はただ…」

 

「ホント何なの?突然曙のことを悪く言い始めてさ。突然姉さんぶるし…」

 

「そ、それは…あ、あなた達のことが心配で…」

 

流石の暁の顔にも焦燥が浮かび始める。だが必死になるあまり、自分が今とても醜いものとして見られていることに、彼女は気付いていなかった。

 

……雷の瞳にもう光は無い。

 

「あんたさ、自分が何やろうとしてるか気付いてるの?自分が姉なのを良いことに、妹の交友関係を制限しようとしてるのよ?」

 

「ち、違っ…!そんなつもりは…」

 

「……ホント最低よあんた」

 

雷はそう吐き捨てた。流石の暁も、これを正面から諸に喰らってもなお攻撃を続けるほどの強さは無かった。

 

その後、雷は「行きましょ」とだけ電に告げて入渠場を去って行った。この一連の流れの中で電は、雷を助長することも囃し立てることもせず黙っていた。

 

「待って…待ってよ…」

 

床に座りこんでいた暁だったが、何とかして電だけでも引き止めようとする。だが…電が雷を止めなかったことからも、電の意思は明らかだった。

 

「暁ちゃん…見損なったのです」

 

電は最後にそのセリフだけ吐き捨てて、涙を流していた暁を尻目にかけ、雷の後を追うように彼女もまた入渠場を後にしたのだった。

 

 

 

続く

 

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