苦々しいリーダー【艦これ二次創作】   作:シグ&リデ=覚醒

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こっちは後編ですよ。
前編から見てくださいね?




第陸話「進展~破滅の垣間見~」後編

 

 

駆逐艦寮の晩御飯は今日もカレーだった。曙が1品足すつもりだったらしいが、面倒くさいと駄々をこねる江風の相手をしていたら時間が間に合わなくなったらしい。

 

「よっと、はいこれ」

 

「はわわっ、江風さん上手なのです!」

 

「……ふざけないで真面目にやりなさい」

 

カレーの配膳でカッコつける江風。それを見て目を輝かせる雷と電を、溜息をつきながら眺める曙。

 

そんな曙は気付いていた。明らかに暁の様子が変だと。だが彼女は暁を心配するどころか、少しニヤッとした表情を作った…。

 

ことに暁も気付いた。此処で曙が確信犯なのを確信した暁は、明らかな敵対心と憎悪で曙を見つめたが、曙はそれをやり過ごした。

 

……この一連の流れ。当然ながらあの2人が何も疑問に思わないはずがなかった。

 

「……明らかにおかしい」

 

「だね。流石の私も今回は分かったよ響ちゃん」

 

そう、寮の隅の机に追いやられていた響と海風である。特に響から暁の動向に聞かされていた海風は、普段はほぼ見られない彼女の表情を見て、今回は流石に疑問視をするしかなかった。

 

そんな中、海風は少し期待視をしていた。暁と曙の敵対を確実にしたら、暁をこちら側に引き込めると考えたのだ。

 

もちろん海風はその旨を響に伝えた。その一方で響は浮かない顔をしていた。海風の意見にも好意は示さなかった。

 

だが…その理由も示さなかった。その後は響も海風もこの話題については横に退けて、自分らのカレーを盛り付けに向かった。

 

その際、暁が2人の方をチラッと見ていたのに、響も海風も全く気付いていなかった。

 

 

 

食後。暁は入渠場に向かっていた。本当は曙に文句の1つでも入れたかったのだが、それは叶わなかったためだ。

 

あの後、1人考えこんだ暁は、響との接触を図ろうと思いついたのだ。彼女の頭は曙への憎悪であふれていた。

 

(絶対に…絶対に…許さないわ…曙…)

 

彼女は1人でそう思いながら、時には少し口から零しながら、入渠場に足を踏み入れた。中には重巡洋艦や戦艦がチラホラいたが、響やその仲間の姿は無かった。

 

そして…暁が入浴する一連の流れにおいても、当たり前と言えばそうなのだが、響らが姿を見せることはなかった。

 

その後は一旦寮に帰り、お風呂セットを部屋に置いた後で、間髪入れずにもう1度外出した。外はもう真っ暗だった。

 

(響…取り敢えず響に会わなきゃ…)

 

暁は曙への復讐心を胸にしまい、頭を響のことでいっぱいにして、鎮守府内を走り始めた。

 

……それと同時刻。暁がお風呂に入っているあたりの時間帯。

 

「ふぁぁ~っ、よく寝たよ~」

 

巡洋艦寮。川内が目を覚ましていた。やはりこの昼夜逆転が身に染み付いているのか、この鎮守府に来て1番の良い目覚めだった。

 

川内は布団から起き上がり、軽く伸びをして勢いよく立ち上がった。そして窓の外を眺めてニンマリする。

 

「夜っ!夜だよ、夜!夜はいいよね。夜は!さ!!うふふっ。いいよね、夜は!」

 

……もしかしたら、この鎮守府に来て初めて夜を良いものと思った気がする。

 

彼女は改めて夜の素晴らしさを肌で感じながら、満足げに部屋を後にし、キッチンに向かった。もちろん空腹を満たすためである。

 

が、キッチンに食べ物は無かった。そこにいたのは神通と那珂と使用済みの食器だけだった。もしかしなくても晩御飯はもう終わったのだろう。

 

「ガーーーーーン!!!」

 

「あっ、川内さん!おはよっ!」

 

川内の絶望に沈む顔など気にせず、いつも通り気さくに挨拶する那珂。

 

一方で神通は、川内の叫びと表情と視線で、彼女の考えていることを理解したのか、彼女は川内を呼び、1つの寸胴鍋を指差した。

 

「あ、あの…カ、カレー…余って…ますけど…あ、温め…」

 

カレー。その単語を聞いた瞬間に川内の目に光が入った。彼女は膝から崩れ落ちていたのだが、顔を1度上げた後で直ぐに神通に土下座する。

 

「_|\○_オネガイシヤァァァァァス!!」

 

「わ、分かりました…」

 

川内の反応に多少引きつつも、カレーを温め始める神通。那珂も苦笑いをした後、洗い立ての皿とスプーンを1セット取り出して川内に渡す。

 

「いやぁ…助かるよ。やっぱりお仕事前には腹ごしらえしないとね~」

 

ルンルン気分の川内。それにつられたのか2人も上機嫌な様子を見せた。

 

~~~

 

カレーを食べた後、川内は外に出ていた。神通に無理言って作らせといて、皿洗いもあの2人に任せてきていた。

 

外はもう真っ暗だ。食堂で響達の話を盗み聞いた時は熱帯夜そのものだったが、今日は普通に涼しい夜で割と快適だ。

 

「さーて…今日は何処から見廻りしよっかな!」

 

なんて言いながら、鎮守府内をうろつく…つもりだったのだが、これからもお世話になるだろう工廠に彼女の足は自然と向いていた。

 

だが目的がないわけではない。川内にはある計画があるから。

 

そして…工廠に着いた時。いやその寸前で、川内は自分の計画が上手くいくことを確信した。

 

実は工廠の隣にも倉庫があり、その中に提督が入っていくのを目撃したのだ。恐らく彼はこんな夜遅くでも作業をしているのだろう。

 

川内は小声で応援を贈った後、忍び込む為に提督邸に直行した。

 

 

 

「ちぇーっ!鍵かかってんじゃん!」

 

入り口の扉は施錠されていた。どうやら夜間に提督不在の時は施錠されるらしい。

 

川内は1歩下がって窓をチェックする。窓は1階の窓1つを除いて全て閉められていた。

 

川内はニヤリとし、その窓から侵入してやろうと試みた…までは良かった。

 

中に人の気配を感じたのだ。川内は壁に張り付き、そーっと中を覗く。そこには布団に横になる瑞鳳と、その看病をする空母2人がいた。

 

(あーそうだったね~。すっかり忘れてたよ)

 

瑞鳳の体調不良であんなに提督邸が賑わったじゃないか。それをすっかり忘れていたのか。

 

自分で自分に呆れつつ、川内は瑞鳳の様子を気にする。月明かりでははっきりと分からないが、顔色は大分良さそうだ。

 

それを確認した時。ふと瑞鳳から聞いた言葉を思い出す。

 

『あいつらみんな沈めばいいのに』

 

……チクッと胸が痛んだ気がする。だが川内はそれを直ぐに忘れ…考えないようにする。

 

何であれ、流石にこの状況で潜入するのは無理だ。川内は潜入を諦め、提督邸内部の確認は外から窓を通して行うことにした。

 

そんなわけで。川内は得意のジャンプ力も駆使して1階から2階まで全ての窓の中を覗いた。だがそんな目を惹くような発見は無かった。

 

取り敢えず…瑞鳳らが居た部屋と、それと同じ内装の部屋は全て客間と断定して良いだろう。

 

「ってことは…この提督邸の殆どが客間ってことだね~」

 

正確に言えば、客間以外の構造がほぼない。提督邸にある窓から見える光景は、殆どが廊下か客間だったのだ。

 

だが…それが分かっただけでも良かったと言える。客間が多いということは、現状のように何か特殊な事情が無い限り、潜入時に誰かと鉢合わせる可能性が低いということだから。

 

(あれ…?ちょっと待って…?)

 

そう、川内はついこの間、この提督邸で鉢合わせている。戦艦の長門と。

 

確かに…あれはこんな真夜中の話ではなかった。とはいえ先程確認した通り、余程のことがない限りは此処に用事なんて出来ないはず。

 

(……気になるね~。これは調査を張り切って進めた方が良いかな!)

 

川内はそう思い、軽く鼻唄混じりでスキップをしつつ、提督邸から離れていった。

 

~~~

 

他の仲間らがもう眠りについたころ。海沿いのコンテナ置き場に暁はいた。

 

あれから響をずっと探し回っていた。そしてたった今、その願いが叶ったのだ。

 

響は海辺から月を眺めていた。あの足の動きを見る限り、不意に背中を押されても海に落ちないよう細工しているようだ。

 

……ふと思い出す。そう言えば響は昔からこういうのが好きだったと。

 

彼女は騒がしい宴会とかよりも、こういう物静かな風景の方が好みだった。

 

暁ははーっと長く息を吐き、少し速くなる自分の鼓動と向き合いながら、1歩ずつそっと響に近づいていった。

 

とは言っても人の気配までは消せないし、静寂な夜なので、微かな足音もよく響いてしまう。

 

「……тихое」

 

不意に響はそう呟いた。思わず暁は足を止めてしまう。響は昔からよくロシア語を口にする癖があったが、改めてそれを確認出来て、ホッと胸を撫で下ろす。

 

一方の響だが、実は昼間の件を北上と長門にも相談しており、2人から「そのうち響に接触してくるだろう」とのお告げを貰っていた。

 

よって暁が自分に会いに来ることは、響にとっては驚くことではない。海風から「こちら側に引き込めるかも」とも言われていたし。

 

「こんな静かな夜に、何の用だい?」

 

暁はその言葉が自分に向けられたものだと理解する。てっきり自分を見た瞬間逃げ出すものと思っていたのだが、嬉しい誤算だ。

 

響は立ち上がり、暁の方を振り向いた。暁は久し振りに響の顔を間近で見て、自分のより透明感のある彼女の瞳に引き込まれそうになる。

 

「あ、そ、その…えっと…」

 

「何もないなら帰ってくれないか」

 

久し振りの会話だ。暁はかなり緊張していた。だがそれをピシャリと響が切ろうとする。だがやはり暁は強かった。

 

「い、いや!今日はあなたを…」

 

助けに来た。救いの手を差し伸べに来た。暁はそう言おうとして…。雷と電のあの顔をふと思い出した。

 

そうだ、さっきの自分は上から目線だったから、あの2人にあんなに嫌がられたんじゃないか。そう自分に言い聞かせ、暁は言い直した。

 

「……響にお願いがあるのよ」

 

その後、暁はあったことを伝えた。雷と電の時と違うのは口調。とにかく彼女は自分を曲げることに徹した。

 

響もそれに気付いているようで、暁の必死の態度を否定することはしなかった。だが彼女の言葉を聞くたびに響の顔は曇っていく。

 

実は響には、ある思いがあった。暁を仲間に引き込もうとする海風に、口が裂けても言えないある思いが。彼女の心の中にあった。

 

そして…どうやら暁は、そのことに気付いていないらしい。彼女の話を聞く限り…思いを聞く限り、そうとしか考えられない。

 

一方で暁は必死だった。彼女は何としても響の説得を成功させたかった。

 

もちろんその事を響にも伝えた。自分は響の味方になりたいときっちり。曙への復讐を果たしたいという理由もしっかり添えて。

 

だが…彼女の思いは伝わらない。そんな、響が心にモヤモヤを溜め込んでいき、暁が必死に無意味な説得を続ける状況が暫く続く。

 

「だから…ね、い、今までのことは、全面的に私が悪かったから…だから響、お願い。私と仲直りして…く、くれないかしら?」

 

そしてその状況は、暁のこの一言で幕を閉じるのだった。暁はここで1度口を閉じ、黙って手を響の方に差し出した。友好の握手を求めているのだろう。

 

……響は少し考え込んだ。確かにこの手を取れば、自分に新たな仲間が増える。しかも自分の身内で、自分達以上に曙を恨んでいる。

 

そして…彼女の話が本当なら、このままなら雷と電が危ない。もし北上や長門なら、その情報を受けてこの手を取るだろう。

 

だが響は迷っていた。暁の訴えを聞いてる間もずっと迷っていた。その理由も分からずずっと迷っていた。

 

そして…この時に初めて、その理由をようやく見出していた。実はそれは至ってシンプルな理由だった。

 

響はそのことに気がつき。改めて自分の前に飄々と現れた暁を目にした。

 

……響の堪忍袋の尾がブチっと切れる音が、波に跳ね返って拡がった気がした。

 

「ひ、ひび…き…?」

 

響は無意識に拳を握りしめていた。暁も流石にこの響の異変には気付く。だが握手を求める手は引っ込めない。

 

そして響は暁に近づき、彼女が差し伸べていたその手を…思いっきり引っ叩いた。

 

暁もこれには驚きが隠せないようで。直ぐに引っ叩いた方の手を軽く振って息を吹きかける。だが「ちょっと何するのよ!」とは口にしなかった。

 

響は確実に怒っていたから。長い付き合いである暁でも始めて見るほど響は怒っている様子を見せていた。

 

「な、なんで…?」

 

どうして自分の手が引っ叩れたのか理解出来ずに呆然とする暁は、叩かれて痛かったとかいうよりも、手を跳ね退けられたという絶望感の方が強いようだ。

 

一方で響は、まるで威嚇する猫のように呼吸をしながら、暁にこれでもかと近づいた。今直ぐにでも掴みかかって殴ろうとする気迫だ。

 

「……ふさげないでくれるかな」

 

響は今直ぐにでも殴りたいという衝動を抑え、冷静に言葉を絞り出す。だが彼女の気持ちとは裏腹に、声には怒りしかこもっていなかった。

 

「ふ、ふざけてなんかないわ!私はいつだって生真面目よ!」

 

「生真面目?自分の妹が遭っている『呪い』に見て見ぬ振りをするのが?」

 

「そ、それは…全面的に私が悪かったって言ったじゃない!」

 

……そう、響は暁を許せなかったのだ。

 

確かに彼女は今これまでを全て謝罪した。しかし1度は響を見捨てて迫害に…参加はしていないものの、見て見ぬ振りを決め込んだ。

 

響はそれが許せなかった。ましてや彼女はその被害者の姉で、しかも立派なレディーとかいうのを目指していると公言していたから。

 

つまり、他とは色々とやるべきことも状況等も違う。こんな迫害なんぞに自分の妹が遭っているというのに、彼女は今の今まで何もしなかったのだ。

 

……暁はこんな状況でも強かった。響の怒りを宥めようとする力がまだ残っているようで、彼女は全力で響への抵抗の姿勢を見せる。

 

「……薄情者。周りに流されてただけのくせに」

 

「だ、だって…それは…」

 

「仲間外れが怖いだけのくせに。何をそんな偉そうに」

 

「ち、違っ…そんなことは…」

 

……響への抵抗の姿勢を見せているが、実際には抵抗が出来ていないようで。

 

響が何かを言うたびに、暁の気力と体力は確実に無くなっているようで。彼女は段々と、目に見えるスピードで弱々しくなっている。

 

対する響は段々と怒りがおさまっていた。だがその代わりに彼女の顔には失望と悲しみが浮かび始めている。

 

「暁は…仲間っていうстатусが欲しいだけだろう?本当は誰でも良いんだろう?私じゃなくてもいいんだろう?」

 

「違う…違う…違う…!」

 

「……孤独は辛いものさ。それは認める。けど暁。君がやっていることは」

 

響は暁の手首を握る。暁は何が起きるのか予想出来ないという恐怖に打ち震えながら、困惑の表情で響を見る。

 

「絶対に許されない」

 

次の瞬間。響は有りっ丈の力で彼女の手首を握りしめた。流石の暁も痛みで声をあげてしまう。

 

それでも響はやめない…どころか、その状態のまま更に追い討ちをかけた。

 

「嫌われ者のことなんて考えたこともないくせに。いざ自分が嫌われたら『嫌われ同士仲良くしようよ』?」

 

ギューッという効果音が鳴っているようだ。響の華奢な手からは想像も出来ないほどの力で、暁の手首は握られていた。

 

当然、暁も抵抗の意思を見せる。響の手を剥がそうとする。だがそれを許す響ではなかった。

 

「ふざけないでくれ。こっちがどんな思いでいるのかも知らずに、知った口をきかないでほしい」

 

「ひ、響…と、取り敢えず…私の話を…」

 

「……もう懲り懲りだ」

 

次の瞬間、響は乱暴に暁の手首を放した。彼女の手首には響の手形が少し浮かび上がっていた。

 

その痛みと、響が自分との会話を止めようとする姿勢を見せたことで、暁はもうポロポロと泣くしかなかった。

 

響はそれを見て…少し満足げな顔をした後。座り込んでしまった暁なんて無視してその場から立ち去ろうとした。

 

……が、最後の最後まで暁は強かった。

 

「ま、待って響…。お願い…」

 

もう泣き腫らして何て言っているのかを聞き取るのも大変なレベルだったのだが、それでも暁は諦めなかった。

 

彼女は腕で自分の顔を拭いた後。慌てて立ち上がり響に駆け寄った。だがそれが逆にまずかった。

 

結論を先に言おう。その暁の行動が、響の逆鱗に触れてしまったのだ。

 

……響にも少し良心が残っていた。今はダメだが、暁が自分の行いを反省するようなら、話を聞いてやっても良いかと少しは思っていた。

 

しかし…たった今その考えを撤廃した。響はもう、暁がその場凌ぎで自分を止めようとしているようにしか見えなかった。反省するようには見えなかった。

 

「остановить!」

 

流石の響も限界だった。怒りを込めて叫んで暁を静止させた後、バッと彼女の方に振り向いた。もう彼女は暁を姉として見ていなかった。

 

響が暁の胸ぐらを思い切り掴む。暁は必死に抵抗するも、心身ともに弱り切っていた暁ではなす術がない。

 

「頭を冷やしなよ。君はもうどう頑張っても1人なんだから」

 

「いや…いやっ…」

 

何とか後ろに倒されるのだけは防ぐ暁。だが逆を返せばその程度の力だ。

 

響が発した「1人」という言葉を聞いて嫌がる暁。それを見て益々怒りに満ちた彼女の敵ではないだろう。

 

……今度は容赦なく前に押した。暁は尻餅をつく。それでも彼女はもう1度響を止めようとした。だが流石に響もそれは分かっていた。

 

だから。

 

「……いっそ死になよ。半人前」

 

響はそれだけ告げてその場を後にした。

 

この言葉が暁へのトドメとなった。もう暁が追ってくることも響を静止することも無く、彼女はただ全身から力が抜けたかのように倒れた。

 

……その後はまた元の静寂に戻る。しかし風が出て来たからか、波の音が段々と強さを増すように…静寂を破り始めたかのように感じられた。

 

~~~

 

「ふぃぃーっ!疲れたぁぁ!」

 

見廻りの業務をこなしていた川内。提督邸を離れた後は再び墓参りに行ったり、工廠から提督邸に帰宅する提督を屋根上から見届けたりしていた。

 

「しっかしまぁ…提督さん中々の美形じゃん!ありゃあ人気が出るわけだね~」

 

などと独り言を呟きながら、川内は寮まで帰ってきていた。あんなにカレーを貪り食べていたはずなのに、彼女の腹は空腹を示していた。

 

流石にこの時間帯であるから、寮の中はシンと静まり返っている。川内は誰かの寝顔を拝みに行きたくなる気持ちをグッと堪え、キッチンに向かった。

 

……キッチンに入ると、真っ先に目につくのは流し台。どうやら神通は川内のお願いを聞いてくれたらしく、川内のカレー皿も、綺麗に洗われて布で拭かれた後だった。

 

川内はキッチン内を探し回る。すると釜の中に米が残っているのを見つけた。

 

「お、ラッキー!」

 

直ぐに川内は手を洗い、米を手で掬い取って握った。前鎮守府でオニギリの製作技術は極めていた。彼女は綺麗に三角に握った。

 

……本当なら今すぐにでも頬張りたい。だが彼女はある事をふと思い出した。

 

川内が前に所属していた鎮守府。そこは戦艦が1人しか存在しない代わりに、巡洋艦クラスがわんさかいる鎮守府だった。

 

そして…その鎮守府の提督は絶世の美男子で、俗に言う俺様系だった。

 

そんな提督の心を射抜こうと戦争が起き、その鬱憤を深海棲艦にぶつけるという世界だった。

 

因みに、川内はケッコンに興味が無かった。その提督に夜戦参加を命じられるだけで幸せだった。だが…その鎮守府にいた彼女の妹、神通は違った。

 

「……元気にしてるかな」

 

ハキハキではないものの会話を試みるここの神通と違い、あの神通は他人と会話を全力を避けるレベルの引っ込み思案だった。

 

それでも腕っ節は強く、唯一の戦艦であったあの人の右腕とまで言われていた。夜にしか力の発揮出来ない川内にとっては自慢の妹だった。

 

そして…彼女は自分にだけは心を開いていた。よく恋愛相談をしてきたのを覚えている。引っ込み思案な彼女でも、提督を愛する気持ちは立派なものがあった。

 

恋のことはよく分からない川内だったが、それでも彼女の悩みにはよく耳を傾けていた。

 

「うん。ちょっと外に出よう」

 

その時から夜行性だった川内。なので出撃命令を待ちつつ、神通の悩みを聞きつつ、海沿いで神通のお手製オニギリを食べるのが、彼女の日常だった。

 

……川内は手作りのオニギリを竹皮で包み、寮を後にした。それを海沿いで食べるために。

 

~~~

 

鎮守府のコンテナ置き場。調べたところ、倉庫に中身をしまう作業を迎える前に、一度此処に物資を放置するらしい。

 

つまり、コンテナの量は日替わりのようで、恐らく今日は多いほうだろう。

 

川内はその中の1つに飛び乗る。コンテナに中身が詰まっているからか、上に飛び乗ってもコンテナはビクともしなかった。

 

「おぉ、良い景色じゃん!」

 

見廻りをしていた時にもしやと思っていたが…。どうやら川内の予想通り、此処は景色が良いようだ。川内は飛び乗ったコンテナにそのまま座り込んであぐらを組む。

 

実に綺麗な星々だ。恐らく鎮守府に街灯が無いのが幸いしているのだろう。

 

もしこの星を肴にして晩酌したら、さぞかし美味しい酒になるだろう…と考えながら、川内は持ってきたオニギリの笹皮を剥がしてかぶりついた。

 

「うん、やっぱり塩むすびが至高だよね~。我ながら美味く出来たじゃん!」

 

などと自画自賛をしながらペロッとオニギリを平らげると、ゴロンと仰向けになった。

 

……既に月は頂点を超えていた。川内は口の中に残る少ししょっぱいのを舌で舐めながら、昔のことを思い出して感慨にふけった。

 

コンテナの上ということもあり、風通しが非常に良く、その風が自分の髪をなびかせるのが心地よい。

 

だがその心地よさは直ぐにダメになる。川内は何やら特徴的な声が聞こえる。

 

「うーん?あの鳴き声は…カラス?」

 

そんな近くでも無いが、恐らくコンテナ置き場の何処からだろう。カラスのガーガーという濁った鳴き声が突然耳に入ってきたのだ。

 

聞いたことがある。カラスは夏になると子供の養育の関係で凶暴になると。

 

だが…カラスが集団を組むのは秋以降のはずだ。なのにこの鳴き声は間違いなく1匹じゃない。川内は好奇心でその鳴き声の出所を探った。

 

恐らく…誰かが食べ物を棄ててそれに反応したか、この波に流されてきた何かの生ゴミに反応したか…。川内はそのどちらかだと踏んだ。

 

「全く…ポイ捨てはやめてほしいよね~」

 

そんな愚痴をこぼしながら、コンテナから飛び降りて鳴き声の方に向かった。

 

 

 

……そこで川内が見つけたもの。それが何かというのは、御察しの通りで間違いない。

 

 

 

「えっ…?」

 

割と視界が開けていた関係で、月明かりが直で当たっていたから、それが何かは割と遠くからでも良く分かった。

 

だが…良く分かるからといって、その現実を直ぐに受け入れるはずがない。

 

せめてもの救いは、川内は考えるより先に体が動くタイプだったことだろう。彼女は直ぐに駆け寄ってカラスを全て追っ払った。

 

「ちょ、ちょっと!?大丈夫!?」

 

川内は慌ててその少女…駆逐艦の暁を抱え上げた。川内は暁を声をかけつつ割と激しく揺さぶるも、返事も反応もない。

 

どうやら気絶しているようだ。川内はその場で少し立ち竦んだが、直感で提督邸へ運ぶことを決め、得意のジャンプ力を駆使して、暁を抱えたまま立体起動で提督邸へ直行した。

 

~~~

 

今日は非常に運が良い。川内が提督邸に着いた時に玄関の鍵が丁度開いたのだ。

 

中から赤城が出てきたから、彼女は寮に帰るつもりだったのだろう。だがいきなり自分の前に出て来た川内に驚いた彼女は、暁の様子を見て顔の色を変えた。

 

赤城は何も言わずにバッと引き返し、提督邸の奥に進む。川内も彼女を見失わないように後をついていった。

 

その騒ぎを聞きつけたのか、もう1人の空母も部屋から顔を出す。そして赤城の命を受け、瑞鳳がいる部屋の隣部屋の入り口を開けた。

 

「せ、川内さん!こちらです!」

 

赤城はそう言いつつ、間髪入れずにベッドメイクを済ませた。緊急事態にも関わらず、ここ迄の行動力を起こせる赤城は実に優秀な逸材である。

 

……川内がそーっとベッドに寝かせても、暁は反応1つない。後ろから聞こえる赤城の「急いでください!」を聞きつつ、川内は心配そうに暁を眺めた。

 

暁の体にはカラスにつつかれたと思われる紫色のアザ…と傷口の中間辺りの跡があり、それがかなり痛々しさを物語っている。

 

(暁ちゃん…一体何が…)

 

川内は心配そうに暁を眺める。そして薄っすらと…鎮守府に暗雲が立ち込め始めたことを察す。

 

その後、川内は赤城らを手伝おうと1度退室した。だから彼女は気付かなかった。

 

……確かに声は出ていない。だが間違いなく暁が口を開いたことに。

 

具体的に言うなら…『イ段』の音を3文字だけ口にしたことに。

 

川内らは全く気付かなかった。

 

 

 

続く

 

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