苦々しいリーダー【艦これ二次創作】   作:シグ&リデ=覚醒

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話としては今回が1番面白いと思います。

「必須タグ」について。
今回、提督が遂に喋ります。
ですが今後を含めて彼はちょいキャラです。あくまでサブキャラです。「オリ主」タグを付けてないのはそれが理由です。
また、今回から「ガールズラブ」タグが本気を出します。お待たせしました。

それでは、どうぞ。




第捌話「暴走~壱人前の淑女~」

今日の朝は少し涼しかった。やはりこういう日は鍛錬にあまり苦を感じなくなる。

 

ただ1人、瑞鳳を除いては。

 

今日の鍛錬は集中出来なかった。いつもの様に自分から離れた場所で、長門が北上と平然と馬跳びをしているからだ。

 

……大井と球磨の視線が痛かった。彼女は無意識に脚と腕を震わせていた。

 

そして瑞鳳は、鍛錬が終わると同時にその場をそそくさと退散し、大井らから急いで距離をとる。

 

「ちっ…逃げたわね」

 

大井は舌打ちをし、彼女を追いかけようとした。だが球磨に止められる。というのも、今日は鎮守府総出でコンテナ整理という仕事があるのだ。

 

戦艦がコンテナを倉庫前に運び、巡洋艦が倉庫の入り口を開けたりして、駆逐艦がコンテナの中身を倉庫内に並べ、空母が記録する。

 

もう何度もやった流れだ。だから空母が…俗に言うマネージャーのお仕事を任せられるのも知っている。今までも瑞鳳がオニギリを人数分用意していたから。

 

「……命拾いしたわね」

 

大井はそう捨て台詞を吐き、球磨と一緒に仕事場に向かうのだった。

 

~~~

 

提督邸。その執務室。珍しいことに、今はそこに提督の姿がある。

 

彼は執務室の自分の椅子に座り、赤城の報告を待っていた。こういう鎮守府総出で行う仕事に関しては、彼女が決まって提督に報告に来た。

 

現在時刻はヒトナナマルマル。そろそろ終わって良い時間帯だ。提督はそう思って時計を眺める。

 

そんな時だ。不意に執務室の扉をノックする音が響く。提督は「おっ、来た来た」という感じで席を立ち、入り口の扉を開けた。

 

目の前にいたのは…赤城では無かった。その上、想定外の人物だだった。

 

「……暁さんか。元気になったんだね」

 

目をまん丸にしながらも、提督はそう言う。それを聞いて暁はニッコリ顔だ。

 

……当然ながら、暁がこの建物で寝込んでいたのは提督も知っていた。彼女が寝ている間だが、様子も1度見に行っていた。

 

「……はい。お騒がせしました」

 

暁はそう言ってペコリと頭を下げた。提督は少し違和を感じたのだが、そのことは考えないようにして、暁に来訪理由を尋ねる。

 

「えっと…何の用でしょうか?」

 

「あ、はい。実は司令官にお願いがあって。宜しいでしょうか?」

 

……違和感の正体が分かった。暁にしては珍しく敬語が多いのだ。いつもの彼女はもう少しフレンドリーに接してくる。

 

提督は少し畏まる。そして敬語を使うことにより、いつもより少し大人びて見える暁に対し、話を続けるよう指示する。

 

「実はですね。他でもありません。響についてお願いがあるのよ」

 

「響…?響さんがどうかした?」

 

「私が思うに…」

 

……この後は淡々と、暁は意見を述べていった。簡単にまとめると、響の体調も崩れてきているというものだ。

 

暁曰く、響は自主鍛錬に励み過ぎるあまり、体にちょくちょくガタが来ており、それが心配で仕方ないらしい。

 

自分があそこで倒れていたのも、嫌がる彼女と止めようとした自分が、掴み合いの取っ組み合いになって、それに負けたかららしい。

 

「あ、あれに関しては…完全に私のミスよ。だから響は責めないであげて?」

 

「う、うん…」

 

そして暁からのお願いというのは、響の長期休暇である。暁は提督に、このまま響を放っておけば、いつか自分の様に倒れてしまうと告げた。

 

「お願いするわ。やっぱり姉としてあの子のことが気になって気になって…」

 

「ふむ…」

 

提督は少し考えた。どうやら自分が工廠に引きこもっている間に、そんな重要なことが起きていたらしい。

 

そして…響が1人でよくいることも知っていたし、暁の言葉に説得力もある。何より、艦娘が壊れそうになっていると聞いて何もしないのは癪に触る。

 

「……暁さん。響さんの休暇は何日ぐらい取るべきかい?」

 

「そ、そんなの…分からないわよ!あの子が思いを改めるまでとしか…」

 

……さっきから暁の話し方が元に戻っているのが気になるが。それは置いておき、響が割と頑固なのも知っていた提督は、机から1枚の紙を出す。

 

「じゃあ…取り敢えず無期限で良いかな?暁さんの判断に任せるということで」

 

「え、えぇ…それが1番有り難いわ…けど。司令官はそれで良いの?」

 

「え、ま、うん。けどその代わり、響さんの休養に協力してあげてね?」

 

暁は少し戸惑う。だがそれは一瞬だけ。彼女は「妹の為なら当然よ!」と頼もしい限りの言葉を口にして、ビシッと敬礼をした。

 

それを見た提督は、紙にペンで許可証をササっと書き、提督専用の印を押し、それじゃあ響さんに宜しくねという言葉と共に、暁に渡した。

 

のだが、暁は1回受け取った後、もう1つお願いがあると付け足す。

 

「あ、あの…司令官?こ、この事は内密にしてほしいのだけど…良いかしら?」

 

「えっ…響さんの休暇のことを?良いけど…理由を聞かせてくれるかな?」

 

「ほ、ほら!あの子って目立つの嫌いじゃない!そ、それに…私が勝手にこんな事したって知ったら…また怒ってくるかもだし…」

 

なるほど、確かに一理ある。そう思った提督は、自分の許可を取り消す事はしなかった。

 

一方で暁は、その許可証を4つ折りにした後でポケットに入れ、執務室を後にした。

 

それを見届けた後、提督は机から日記帳(俗に言う行動調書)を出してこのことをメモする。そして…そのタイミングで赤城が訪れるのだった。

 

~~~

 

提督は気が付けなかった。執務室から退散する際、暁が酷く歪んだ笑顔を浮かべたことを。そして彼女の真意を。

 

何であれ、暁は響の長期休暇をこの手にした。だがその感動を胸に秘める前に、彼女はある場所に向かった。

 

自分の計画を進めるために1度、寮に帰る必要があったのだ。そしてそこには、体力仕事を終えた後のティータイムを楽しむ仲間達がいた。

 

「あ、あ、あ…暁!?」

 

「あ、暁ちゃん!?どうしたのです!?」

 

当然ながら、1番驚いたのは雷と電だった。彼女らはあの暁の様子を知っていたから、1日2日じゃ元に戻らないと踏んでいたのだ。

 

だから、彼女らにとっては嬉しい誤算だ。雷と電は慌てて席を立ち、自分らの長女に勢いよく抱きつく。そして揃って涙を浮かべた。

 

「ご、ごめんなさい…!」

 

「よ、良かったのです…!暁ちゃんが…このまま帰ってこなかったらどうしようかと…」

 

2人はムギューッと暁を抱きしめる。もう2度とあんな酷いことはしないという覚悟が伝わるように。これからも仲良くいられるように。

 

暁はそんな2人の頭を撫でる。

 

……本当の感情を悟られないように。

 

こちらこそ意地の悪いことをした…とか心にも無い謝罪の言葉を口にしながら。

 

2人は久し振りに姉の言葉を聞けて満足そうだったが、正直言って暁はうざったくてしょうがない。今すぐにでも押し退けてしまいたい。

 

もちろんそんなことはしない。怪しまれるに決まっているから。自分は元気だというのをアピールしなければならないから。

 

そして2人に別れを告げ、暁は自分の部屋に戻り、入り口の鍵を閉め、カーテンも閉め、床にゴロンと仰向けになった。

 

「うふふ…」

 

そのままポケットから例の許可証を取り出し、破らないようにそっと開く。部屋にそのクシャクシャという音が鳴る。

 

そこには提督の優しさを感じる字と、それに対抗するように雄々しさを見せる印があった。内容は既知の通りだ。

 

「は、ははは…」

 

暁はその内容を改めて確認し、紙を2つ折りにして胸に当て、目を閉じる。

 

……提督に嘘をついたという罪悪感が無いと言えば嘘になる。だがそれ以上に…今から自分がやろうとしている事に対する背徳感の方が強い。

 

暁は紙を胸に当てたまま、ガムシャラに横に転がった。満面の笑みを浮かべて、湧き上がった興奮が収まるまでずっと。

 

「……待っててね、響」

 

そう呟き、暁は夜まで適当に過ごす。途中で妹らの料理を手伝ったりしたが、彼女にとってはただの健康アピールに過ぎない。

 

~~~

 

暁が退院したということで、ようやく鎮守府はいつもの空気を取り返したようだ。

 

日がほぼ落ちる時間帯になると、ぞろぞろと入渠場に向かう人影が見て取れる。そんな中、単独行動をしていたのが暁だ。

 

「ふふっ…本当は夜中にしたいけど、川内さんに見つかるかもだもんね」

 

もちろん、雷と電にお風呂に誘われた。それを断っては疑わられると考えた暁は、それを了承するも、遅れるとだけ告げる。

 

暁は必要な物が入ったカバンを手にして、いつものあの場所に向かった。響が自分らと入渠場に行く時間をずらしているのは百も承知だった。

 

今ごろ、他の奴らは入渠場に集っている事だろう。そして運の良い事に、現在の海風は北上と駄弁る為に巡洋艦寮にいる。

 

……不敵な笑みを作るのが我慢出来ない。彼女はもう背徳感だけで動いていると言っても過言でない状態だった。

 

彼女は途中、コンテナ置き場に立ち寄る。そしてそこにある台車を見つけると。

 

予め細工をしておいた小さい手拭いをカバンから取り出してポケットに仕舞い、残りのカバンを台車に乗せ、それを押し始めた。

 

……ガラガラとタイヤの音がする。だが先程記した通り、この音に反応するものは居ないだろう。

 

いるとすれば、現在の所在が分からない長門だが、恐らく彼女は仕事中だ。こんな場所にいるはずがないだろう。

 

「さて…と。この辺りかしら」

 

目的地も近い。暁は1回台車を置いて徒歩で近づいた。そして…自分の目的の人物が、寂しそうに1人でいるのを確認すると。

 

高鳴る鼓動を抑えつつ、台車の元へ引き返す。そしてカバンの中から、音を立てないようにそっと、ある物を取り出した。

 

いつかやろうね!と雷らと約束をし、自分の部屋に放置してあった花火だ。彼女はその中から手持ち吹き出し花火と予備の導火線を取り出し。

 

元々あった導火線と結ぶ。補足をしておくと、ここはコンクリート道の為に水分1つなく、周りに火の気もない。そして今日はたまたま風も弱い日だ。

 

まさに絶好の花火日和だろう。暁はそう思って微笑み、導火線を約1尺の長さにしたその花火を、位置を調整して地面に置き。

 

カバンからマッチを取り出した。その際に、まだ響がそこにいる事も確認済みだ。

 

「ふふっ…今、行くわ…響…」

 

そう言い、暁は導火線に引火するよう、火を付けたマッチを地面に落とし、着火したのを確認して、彼女は急いで移動するのだった。

 

……その時の彼女の瞳に、灯された火が無かったというのは、今更の話だろう。

 

~~~

 

「良い景色だ」

 

いつ見ても太陽は美しい。響はそのことを今も再確認している。その一方で少し不安要素があるのも間違いでない。

 

だがそれは暁の退院のことではなく、長門のことである。彼女は昨晩、自分達にショッキングな事を打ち明けた。

 

復活早々、毒を盛られかけたと。

 

「……はぁ。予想以上だね」

 

溜息をつく。瑞鳳が長門や自分らを嫌っているのは、あの歓迎会の件からも分かってはいた。みっともない復讐もしたし。

 

しかし…まさか復活初日から手を出してくるとは、流石に考えていなかった。

 

取り敢えず長門が無傷だから良かったが、これからも警戒を怠るわけにいかないだろう。

 

「全く…海風がこっ酷く嫌うわけだ」

 

案の定、この件を聞いた海風はキレていた。その場は北上が静止してことなきことを得たが…あの静止がいつまでも続くとは思えない。

 

彼女の見張りは、同じ寮で過ごす自分の仕事で相違ない。響はそれを自問自答して確認しながら、溜息をつくのだった。

 

そんな時だ。何の予兆もなく、不意にその音は聞こえてきた。

 

「ん…。これは…?」

 

日常生活という観点に立っていると、あまり聞き慣れない音だ。何というか…お風呂のシャワーの水を思い切り出したような音。

 

響は直ぐにその場を立ち、音のする方に向かう。そこは此処からは完全に死角だが、1回曲がるだけのかなり近い場所だった。

 

……響は音に夢中で気が付いていない。背後から這い寄ってきている悪意に。

 

何であれ、響は直ぐにその場に向かい、その音の正体が花火なのを確認する。そして直ぐに彼女は首を傾げた。

 

当然だ。今が花火のメインシーズンとは言え、まだ日は落ちていないし…。

 

何より、火がついた花火だけがコンクリートの上に落ちているという状況自体が異質だし、そもそもこいつは地面に置くタイプじゃない。

 

「何で…どうして…?」

 

訳がわからない。だがこの少ない情報で判明したことは、まだ火が付いている事から、発火させた張本人がまだ近くにいる事と。

 

 

 

……花火が立てていた大きな音が、人の足音や気配を消していたということだ。

 

 

 

「むぐっ!?」

 

一瞬の出来事だった。背後から寄ってきた何かが、不意に響の鼻と口を手拭いで押さえつけたのだ。

 

そいつは何を言うわけでもなく、ただただ無心で響を思い切り抱きしめていた。

 

当然、響は必死に抵抗をする。身をよじらせ、押さえつけてくる手を引っ掻き、踵で背後にある物を蹴ってみる。

 

だがそれらの抵抗は全く通用しておらず、そのまま呆気なく響は意識を失ってしまう。

 

響が最後に見た光景は、自分とほぼ同じ太さの、誰かの両腕だった。

 

 

 

「あはっ、あははっ!やったわ!」

 

目の前に倒れた響を見て、暁は今日1番の笑みをこぼす。だがここでノンビリしているわけにはいかない。

 

暁は慌てて台車を取りに行く。心の中では、入院中にお見舞いとして睡眠薬を持ってきてくれた赤城に感謝をしていた。

 

「ふふっ…後は…」

 

台車を響の隣に設置して、その上に響を引きずって載せる。そして完全に燃え尽きた花火と、使用済みのマッチ棒を海に投げ捨てる。

 

その後は直ぐに、響を落とさないように気をつけながら、急いで台車を走らせるのだった。

 

~~~

 

……鎮守府が寝静まる頃。暁は1人起きていた。目的を達成したという達成感から興奮が収まらず、今もこうして、真っ暗な広間を当てもなくブラついている。

 

だが頭は冷静だった。彼女は計画遂行のために必要なものを考えていたのだ。しかし今は特に名案が浮かぶことはなかった。

 

「まぁ…取り敢えずはご飯よね」

 

暁はそう呟き、ルンルンとスキップをしながらキッチンに向かう。そんな彼女の瞳には、淀んだ光が爛々と灯っていた。

 

 

 

駆逐艦寮。その物置。照明は付いていないが、外から差し込む月明かりだけで十分明るい。

 

……どの寮にもこの様なだだっ広い物置はあるが、駆逐艦寮の物置はほぼ使われない。

 

というのも、入り口の扉が重た過ぎて駆逐艦には厳しいため、なるべく出入りしなくて済むように、駆逐艦らが気をつけているのだ。

 

「ぐっ…うっ…」

 

そんな場所で響は目覚めた。彼女は目を覚ましてまず、激しい頭痛に襲われる。何か体に悪いものを嗅がされたような…そんな感じの頭痛だ。

 

当然ながら、頭痛を感じたら反射的に手を頭に当てるのが常だろう。だが響はそれをしなかった。正確に言うなら出来なかった。

 

……響の手に手錠がはめられていた。

 

(なっ…!?)

 

響は困惑した。自分の置かれている状況が理解出来なかった。何とかして手錠を外そうと試みる。

 

そうしてるうち、ある事に気が付いた。手錠はどうやら壁と水道管の間に嵌められているようで、立ち上がること自体は可能だと。

 

だが…自分は万歳をして頭の後ろで手錠をかけられ、その輪の中に太い水道管が通り、また水道管を壁に固定する金具の関係で、微妙な位置までしか動けない。

 

よって、立ち上がった所で厳しい態勢になるだろうことは、想像に難く無かった。というか実際に立ち上がって見ると、非常にキツかった。

 

(クソッ…何で…)

 

響の顔には焦燥が浮かんでいた。そんな中でなるべく冷静に周りを見渡すと、取り敢えず自分がいる場所が倉庫なのは分かる。

 

そして…床の材質を確認すると、いづれかの寮内倉庫なのも分かった。だが理解出来たのはその程度、そもそものことが何も分かっていない。

 

(何で…こんな目に…?)

 

彼女の顔には涙が浮かびかけていた。そんな彼女への救いの手か追い討ちか…。不意に入り口の扉が開き、誰かが入ってくる音がした。

 

響は少し困惑する。だがもしかしたら誰かが助けに来たのかもしれない。

 

……今の彼女の口にはガムテープが貼られている。よって響は言葉を出すことが出来ない。だか彼女は持てる限りの力で叫ぼうとした。

 

その人物の姿を見るまでは。

 

「あっ…響…。目を覚ましたのね」

 

暁だ。彼女の手にはオニギリと飲み物が握られており、響は助けに来たものだと思う。

 

だが…そんなのは有り得ない。彼女はたった今、自分がさっきまで眠っていた事を知っているという旨を口にしたし。

 

何より、暁の左手に引っ掻き傷があった。それが何を示すかは、まだ頭が混乱している響でも直ぐに理解出来た。

 

……響は抵抗するように暁を真っ直ぐに見つめた。立つのに疲れた彼女は横になっていて、暁を見上げる形になったが、それでも鋭い眼光だった。

 

そんな彼女の瞳に少しドキッとするも、暁はオニギリと飲み物を響の横に置く。

 

そして…何を思ったのか、彼女は響の上に被さるように馬乗りをし、響の口からガムテープを剥がした。

 

響は更に困惑をするのだが、そんな事など気にせず、暁は恍惚の表情を作って響の顔に手を這わせ、うふふと笑った。

 

「そうね…何処から話そうかしら」

 

……その後、畏怖の念が隠せていない響を優しくなだめつつ、暁は長期休暇の件を話した。あの許可証を響に見せた。

 

もちろん提督に話した理由は嘘だとも告げた。

 

だが…響が聞きたかったのはそこじゃない。聞きたいのは自分をどうして監禁したかだ。経緯ではなく理由だ。だから彼女は暁にそう告げた。

 

「……理由?そんなの決まってるわ。響に謝罪するためよ」

 

「謝罪…?人を拉致って拘束することが…?ははっ、面白い冗談だ」

 

思わず愛想笑いをする響。暁は少しムッとしたが、直ぐにもう1度話し始める。

 

「あの時…響に言われたこと。考えたけどやっぱり響が全面的に正しいわ」

 

そう、暁はずっと1人で考えていた。あの夜の時に言われた響からの言葉の真意を。

 

その結論に至った時、すーっと胸が晴れたような気がした。暁はそう響に告げる。

 

「結論…?それがどうした?」

 

「……気付いたのよ。響がどういう気持ちだったかって。1人がどれだけ辛いかって」

 

そう言いながら、暁は響の両頬を手で挟む。響は恐怖で表情が歪みかけたが、暁に悟られないようにグッと堪える。

 

「寂しかったのよね、響」

 

「……は?」

 

「響、言ってたじゃない。1人が寂しいのは認めるって」

 

「あ、あぁ…」

 

暁の瞳から段々と光が消えていくのが分かる。その上、手で自分の頰を指で優しく撫でてくるもんだから、怖くて仕方ない。

 

「私…1人になって、その寂しさを知ったわ。でもまだ片鱗しか味わってない。貴方に知った風な口を聞くことはまだ出来ない」

 

「は、はぁ…」

 

「でも…片鱗だけでも、私はとても耐えられなかったわ。そして…これよりももっと寂しい思いを、響は味わってたのよね」

 

……段々と理解が追いつかなくなってきた。もう言い返すのもしんどくなってきた。

 

「だから…私、考えたの。そんな寂しさを味わってきた響に何が出来るかって」

 

一方で暁は、精密な機械の様に淡々と響の頰を撫でながら、淡々と言葉を口にしていく。そして段々と頰を赤らめていく。

 

「本当は、響の寂しさを無くせられたらと思うわ。でもそれは普通に無理よ。今までに起きた過去はどうにも出来ないもの。だから…ね」

 

そして…恥ずかしそうな顔をして、もう近付けるだけ響と距離を近付け。

 

「……もう響を1人にさせたくない。あと、響の悲しみも寂しさも全部受け止めたい」

 

と、真っ直ぐに思いの丈を伝えた。それに対する響からの返事は無かった。

 

というのも、響は知っていたのだ。こういう頭のネジが1本しかない奴の相手をする時は、刺激しないようにするのが吉だと。

 

よって響は黙ったままを貫こうと決めていた。本音を言うと怖くて仕方ないのだが、それでも暁に屈しないと覚悟を決めていた。

 

しばらく間を置いた後で、暁があの衝撃的なセリフを吐くまでは。

 

……響が静かに自分の話を聞いてくれた事に喜びを見出す暁。そこから生まれた衝動で、暁は思わず響に勢いよく抱きつく。

 

そして彼女は不意にこう呟いた。

 

「……はぁ。やっぱり本物は良いわね」

 

そう、この一言が響の恐怖を思い切り煽ったのだ。耐久力の限界まで持っていったのだ。黙秘を続けると決めていた響も思わず言及する。

 

「本物…だと?」

 

「えっ…あ、そういえば言ってなかったわね。ふふっ、ごめんね響」

 

「そ、そんな事より説明を…」

 

「あの時からみんなが響に見えるのよ」

 

……サラッと言ってほしい言葉ではなかった。響は自分の頭が突沸したような感覚に陥る。こいつは本当に何を言っているんだ?

 

何故か分からないが、動悸が激しくなっている気がする。自分が過呼吸になっている気がする。

 

「もう…偽物は目も当てられないわ。本物はあんな変な口調で喋らないもの。ホント、響の見た目で『~のです』とか…気持ち悪い」

 

……響はゾッとした。つい先日までその「~のです」という口調のそいつを守ろうとしていた奴のセリフとは思えなかったから。

 

「響はそんな気持ち悪い話し方しないものね。やっぱり本物が1番良いわ。ふふっ」

 

暁のそのセリフに黙って頷く響。正直にいうと今の暁が1番気持ち悪いと思うのだが、流石にそれを口に出すことはしなかった。

 

そんな時、ふと暁は壁にかかっていた時計を見た。現在は日付をまたいだ辺りだ。

 

「あっ、そうだ!私もそろそろ寝ないと!それじゃあ…響、また明日」

 

「ま、待てっ!帰る前にこの手錠を外してから…ムゴッ!」

 

必死になって抵抗するも、手が使えない以上ロクなことは出来ない。暁は少し乱暴に響の口にガムテープを貼り直した。

 

「大丈夫よ響。これから定期的にお話ししに来てあげるから…ね?」

 

「ムーッ!!ムーッ!!」

 

響は必死に口を動かしてガムテープを外そうとするが、かなりキツ目に貼られており、そもそも口が殆ど動かなかった。

 

その後、彼女の抵抗も虚しく、倉庫内にドアが閉じる音だけが拡がる。

 

(う、うぐ…)

 

そして響は気付く。暁が居なくなると、この倉庫は本当に静まり返ると。

 

この倉庫は創立当初、火器の試験場だったらしく、その名残として入り口も壁も防音防振だ。

 

だから、入り口の扉が開かない限り、この寮内で何が起きているのかも分からないし、外からの音も聞こえない。聞こえるのは時計の針の音だけ。

 

その不安を煽る状況と、さっきまで受けていた狂気、今からずっと1人だという自覚。

 

その他諸々が重なって、あのクールビューティが売りの響も、暁が居なくなった後は涙をポロポロとこぼすしかなかった。

 

(誰かぁ…助けてよ…)

 

手が塞がれているから、頰を伝う涙を拭くことも出来ず、それがむず痒くて煩わしい。

 

(北上ぃ…長門ぉ…海風ぇ…。誰かぁ…)

 

……その後の倉庫内では、涙を浮かべた少女が床を踵でコツコツと叩く音だけが響くのだった。

 

~~~

 

「あぁ~!良い夜だね~!」

 

日付が変わろうとしている辺り。伸びをしながら寮内の廊下を歩く川内がいた。

 

昨日より時間が遅いこともあり、人の気配は殆ど消えており、その中で川内は、腹ごしらえにキッチンに向かっていた。

 

「……おろ?」

 

そしてキッチンに入ると、机の上にデンと置かれているオニギリに目がいった。側には小さい紙切れも置かれている。

 

川内は不思議そうな顔をしてその紙を手に取り、書かれている字を黙読する。

 

「……ふっ。やっぱり神通は良い人みたいだね~。誰に似たんだか」

 

と、自惚れたことを言う川内。その紙切れには「川内さんの夜食はこれから自分らが作る」という旨が神通の名と共に記されていた。

 

川内は笑みを浮かべて、その大きいオニギリにかぶりついた。中は高菜だった。恐らく晩御飯の余りだと思われる。

 

「……さて。準備運動だけして、今日も外に繰り出しますかね~」

 

そして川内は、オニギリをペロッと平らげ、水を1杯一気飲みした後、肩をぐるぐる回しながらキッチンを後にする。

 

~~~

 

今日は思い切って提督邸に潜入してみよう。川内はそう思っていたのだが、それより先に行きたい場所があった。

 

鎮守府の入り口近く。そこには寮などから出たゴミ袋が溜まっている、ゴミ捨て場があった。川内はそこに着いていた。

 

「さて…と。隠密調査にゴミ袋漁りは定番だからね~。頑張りますか!」

 

寮内の日程表に、明日の朝が回収日と書かれていた。ならこれを行うのは今日が1番最適だろうと踏んだのだ。

 

因みに…他はどうか知らないが、鎮守府から出るゴミは生ゴミが主なので、それは砕かれて農家に行くらしいから、割と需要があるらしい。

 

そう、ゴミの大半は生ゴミだ。

 

「ぐっ…臭いが…でも負けないよ!」

 

本当なら思い切りぶちまけたいが、さっきからカラスの視線を感じるので、仕方なく1袋ずつ慎重に開けていく。

 

中から出てくるのは…生ゴミ、生ゴミ、生ゴミ。川内は思わず鼻を曲げる。

 

たまに…割れた皿や、少し血がついたラップなども出て来るが、目ぼしい物は見当たらず、出て来るのは生ゴミだらけ。

 

そんな作業を繰り返す。そして5つ目に差し掛かった時。さっそく大物が。

 

「えっ…何これ…?」

 

明らかに…1個だけ異質な瓶があった。ラベルには明らかな髑髏が描かれており、川内はそれを手に取った時、少し悪寒がした。

 

川内はそれを暫く手に取ってぐるぐる回し、詳細を探る。だが中身は空っぽだし、入ってたとしてもフタを開ける勇気は無かった。

 

ラベルも髑髏以外は何も書かれていない。それでも川内は気になって仕方ないから、それを持って帰ることにした。

 

……その一連の流れで、どうやらノンビリし過ぎたらしい。川内はハッと殺気を感じ、バッと後ろを振り向いた。

 

「うわ…やべっ!」

 

そう、カラスが5、6匹やってきていたのである。狙いはもしかしなくてもゴミ袋だろう。川内は慌ててそのゴミ袋を元に場所に戻す。

 

そして…カバーを隙間が出来ないように丁寧にかぶせた。それとほぼ同時に、カラスが大合唱を始め、川内を突き始めたのだ。

 

エサを取られると誤解されたのだろう。

 

「ちょちょっ!痛い痛い!」

 

川内は怪しい瓶をブンブン振り回しながら、その場を退散した。暫くはカラスも追ってきたが、まもなく姿を見せなくなった。

 

 

 

無我夢中で走っていたもんだから、カラスがいつのまにか居なくなってたのも、提督邸に着いていたことも、暫く気が付かなかった。

 

「あいてて…」

 

首筋を中心に、肌が出ていた部分を集中的に攻撃された。まだ少しヒリヒリしており、川内は少しテンションが下がっている。

 

……隠密に行動しようとしていたのに、何故か川内は正面玄関から堂々と侵入を試みる。

 

「あれ…?鍵が開いている?」

 

扉はあっさり開いた。川内は少し驚き、それでも有難いと思って提督邸内に足を踏み入れた。周りに人の気配は無かった。

 

そして足音を立てないように慎重に室内を彷徨いている時、ふと気が付いた。

 

そう言えば、瑞鳳の入院中に鍵がかかっていたのは、提督が不在だったからだと。夜の間は中に誰が居ようと、提督が不在なら鍵がかかる。

 

ということは。

 

「もしかして…いやもしかしなくても…」

 

川内の足は無意識のうちに執務室に向かっていた。自分が今立てた仮説が正しいかどうかを確かめるために。

 

そして…川内の仮説は正しかった。執務室の入り口をソッと開けた時、執務室の机に突っ伏している提督の姿があったから。

 

(やっぱりだね~。ということは…私の活動時間中は、玄関のドアの鍵で提督が何処に居るか分かるわけだ。これは便利だね~)

 

川内はイシシと笑った。というのも、前鎮守府の時は何故か自分だけ夜の執務室を出禁になっており、それを悔しがっていたのだ。

 

……寝ている提督の顔に落書きして、執務室のお菓子をこっそりつまみ食いし、秘書艦の下着を盗むことは確かにした。だか川内は、出禁の理由に微塵も心当たりがないようで。

 

(全く…嫌なっちゃうよね~)

 

昔のことを思い出して少しムスッとし、執務室内にあったタオルケットを提督にかける。

 

取り敢えず…書類整理をしている途中で力尽きたのは見たら分かった。提督は眠りについているが、左手にはペンが握られていたから。

 

川内はそんな提督を起こさないように、こっそり机上の書類に目を通し始める。と言っても、その大半は注文書のようだ。

 

(なるほど…他鎮守府からの物資要請が殆どだね~。あ、これはこっちからの注文書だ。提督、ずっと工廠に篭って何か作ってるもんね~)

 

などと書類を吟味する。真面目に机に向かうのがあまり得意でない川内は、彼のマメな性格に感心しつつ、作業を続ける。

 

そんな中、川内はある冊子を見つけた。それは書類と書類の間に挟まれており、1冊だけ表紙が真っ黒であった。

 

それを、紙束が崩れないように引き抜き、表紙の見出しを見る。黒表紙だったのと部屋が暗かったのとあり、非常に読みづらかったが。

 

(えっと…行動調書…かな?)

 

宙に掲げてあれこれ挑戦した結果、その文字はそう読めた。そして…特に深い興味をそそられた訳でもなく、スッとその冊子を開く。

 

どうせ他の書類の内容がそのまま写されているだけだろう。そう思っていたから、この小さい文字を注意深く読むつもりは無かった。

 

だが、此処で思わぬ収穫をする。最後の1ページに気になる記述があったのだ。

 

「……長期休暇?」

 

今日の夕方、駆逐艦:響に長期休暇を与えた。そのページにはそう書かれていた。理由もきっちり体調不良と記されている。

 

川内はふと考えた。確かに響は今の状況下では、あまり人前に顔を出さないにしても。それでもそんな風に見えた記憶はない。

 

(一体誰が…どうして…?)

 

その上、この記録には何か違和を感じる。川内はそれが気になって仕方ない。

 

だが…それが何か分からず。提督が目を覚ましたような気がしたので、慌てて川内はその部屋を後にするのだった。

 

 

 

「ふぃぃっ!危なかったね~」

 

川内は高鳴る鼓動を何とか静め、そのまま提督邸内を散策して周る。と言っても、そんなめぼしい物はもう何も見つからない。

 

後は…どの鎮守府にもありそうな設備だらけだ。提督の仮眠室や客間。専用の備蓄倉庫やブレーカーなどである。

 

もちろんそれぞれ詳しく調べた。と言っても備蓄倉庫に気になるものは特に無く。

 

ブレーカーも例の防衛システムの電源も担ってたというぐらいで、特に驚くべきことでもなんでもないだろう。

 

「うん。大した収穫無かったね~。今日はさっさと帰りますか!」

 

川内はそう言い、鼻歌交じりに提督邸を後にするのだった。

 

~~~

 

「ふぅ…やはり夜が落ち着くな」

 

そう言いながら鎮守府内を歩いていたのは長門だ。と言ってもブラついていたわけではない。

 

「さて…響を探さなくてはな」

 

そう、長門は響を探していた。というのも、今日は晩御飯の後で一緒にお風呂に入る約束をしていたのだが、響が来なかったのだ。

 

……あの響が約束を忘れるとは思っていなかったし、何となく悪い予感がした長門は、北上や海風にも内緒でこうやって探し回っていた。

 

因みに、真っ先に駆逐艦寮には行った。こっそり響の部屋まで行った。しかし中に彼女の姿は無く、部屋が荒らされている感じも無かった。

 

「はぁ…響の奴は何処に行ったんだ?」

 

呆れ顔で歩く長門。もう鎮守府内の大体は周り切ったから、後は提督邸だけである。

 

そして…長門も気が付いた。玄関の扉が開いている。どうやら今は提督が在宅らしい。

 

「……珍しいな、提督が在宅とは。今日は何か特別なことでもあったのだろうな」

 

長門はそう独り言を呟きながら軽く笑い、慎重に扉を開け、中に足を踏み入れた。

 

 

 

(なっ、あれは…!)

 

そこで長門は思いがけない出会いをする。それはふと執務室に向かおうとした時だった。

 

その執務室から、勢いよく川内が飛び出してきたのだ。彼女の身のこなしがまさに忍者のようで、目にも留まらぬ速さだった。

 

後ろ姿しか見えなかったから、彼女がどのような表情をしていたかは分からないが、何となく焦っていたように感じられる。

 

(……どういうことだ?)

 

これは流石に気になる。長門は川内を無視して、黙って執務室に侵入する。中に入ると、提督が机の上でグッスリ眠っているのが分かる。

 

……机上が少し荒らされていた。恐らく川内が書類を読んでいたのだろう。長門はその中でも最も目の引いた黒表紙を手にする。

 

(これは…さては行動調書か。提督は真面目だからな。しかしこれがどうして…?)

 

長門は色々と疑問が浮かんだが、それを払拭するように、黒表紙をパラパラとめくる。

 

部屋が暗いせいで細かい字を読むのは億劫だが、それでも最後のページは目に付いた。

 

(なっ…長期休暇だと!?)

 

思わずガッと目を見開いてしまう。それもそうだろう。響の長期休暇の話など、今の今まで知らなかったからだ。

 

日付は今日の夕方。自分と響が会う予定だった時間の数時間前。しかも原因は体調不良らしい。

 

……おかしい。

 

(体調不良…だと?馬鹿な。そんな様子には見えなかったぞ?というか)

 

何より気になるのは、この長期休暇を要請したのが誰なのかが書かれていないことだ。

 

確かに響は目立つのが嫌いなタイプだ。とはいえ自分達に何も言わずに突然いなくなる事があるだろうか?長門はそう考えた。

 

……長門は少し焦っていた。だからこの記録の1番おかしいところに気が付けなかった。

 

何であれ、長門は真っ先に北上らに伝えることを考えた。だが時間の関係上、今から寮に押しかけるわけにもいかない。

 

その上、北上らに言い忘れていたが、自分は明日、午前の鍛錬を返上しての仕事が入っている。会って伝えることもままならない。

 

となれば、取れる方法は後1つ。

 

(……仕方あるまい。あそこに行こう)

 

そう、鎮守府の外れにあるあの元船渠にメモを残すのだ。あそこは自分らしか近づかないから、確実に伝言が伝わるだろう。

 

さっそく長門は行動に移す。寝ている提督の左手からペンを抜き取り、机上のメモ帳を1枚破り、この旨を記した。

 

その時、長門は気が付いた。そう言えばさっき川内がこの部屋から出て来たじゃないかと。もしかしたら響の長期休暇を申請したのは…。

 

(いや、無いな)

 

長門は自分の仮設を直ぐに否定した。提督の体にタオルケットがかかっていたからだ。川内がかけたと考えるのが妥当だろう。

 

ということは、川内が来た時点で提督は寝ていたことになる。

 

……これだけでは無実の理由には少し弱いが、長門の直感が「川内は無実」と告げていた。

 

(さて、少し急ぐとするか)

 

長門はメモを書き終え、ペンを提督の左手に戻した後、執務室を後にするのだった。

 

~~~

 

翌朝。正確に言えば数時間後。

 

駆逐艦寮のとある一室から、少し騒がしい声がする。少し寝坊した暁を、雷と電が起こしに来たのだ。

 

「ほら起きなさい!もう朝日はとっくの昔に顔を出しているわ!」

 

「お、おはようなのです…」

 

そんな2人のモーニングコールを聴きながら目を擦る暁。彼女は欠伸をしつつ、改めて2人の顔を眺める。

 

……やはり見た目は響に見える。しかし昨日と違うことが1つ。暁はその事にも直ぐに気が付いた。そして不快感を隠さなかった。

 

(ちっ…遂に声まで響に…。響の声でそんな口調で喋んないでよ)

 

見た目だけでなく声まで響に聞こえてきた。だが暁はそれ自体には何とも思わない。

 

それよりも…響らしからぬ口調で話しかけられること。そっちの方が不快感極まりない。

 

暁は大きく溜息をつく。雷と電はそんな暁を心配そうに眺めるも、直ぐに朝食を食べに向かうため、部屋を退出するのだった。

 

……広間にも色んな響が居る。自分を眺める2人の響。こちらに興味も示さない2人の響。そして…部屋の端の方で1人ポツンと座る響。

 

暁は一瞬それを本物かと思ったが、絶対に違うと思い直す。

 

本物は倉庫に居るはずであり、また響と共に行動していた駆逐艦が1人いたはずだから。もしかしなくてもあれはその人だろう。

 

暁はそう自分に言い聞かせ、馴れ馴れしい響から受け取った朝食を、席に座って食べ始めた。

 

……その後も暁は苛々しながら時間を過ごした。自分の事情を考えもしない2人の響に話しかけられまくったからだ。

 

(ったく…ボロを出さないようにするだけで手一杯よ。本当に…うざったい)

 

結局、暁はそのストレスに負け、2人より先に朝食をペロッと平らげた後、お詫びの言葉を口にしてそそくさとその場を後にする。

 

退出する暁の様子を眺めていた雷と電は、そんな姉をやはり不安そうに眺めていた。

 

~~~

 

予定変更だ。本当は行く予定なんて無かったが、あんなに苛々させられては無理だ。そう自分を納得させ、暁は早足で倉庫に向かった。

 

「ふふっ…響…」

 

そして倉庫に辿り着くと、暁は念入りに周りを気にしてから、ゆっくりと入り口の扉を開ける。

 

この扉は途轍もなく重いが、中に響が居ると思うと苦に感じない。扉を開ける時の彼女の顔には恍惚の感情が浮かんでいた。

 

……その一方で、中にいた響の表情は死んでいた。不安になるほど絶望の色が出ていた。

 

「ひ、響…?ど、どうしたの?」

 

慌てて駆け寄り、響の表情を見る。そして彼女の瞳が明らかに真っ赤なのが分かり、暁はまたコロッと表情を変えた。

 

そして今回はそっと響の上に馬乗りし、持ってきていた乾パンの蓋を開け、響の口についていたガムテープを剥がした。

 

「……響、ゴメンね?私も本当はずーっと一緒に居たいのよ?」

 

そう言い、乾パンと共に持ってきていた水筒の蓋も開け、そっと響の口に水を注く。

 

久し振りの水だ。響はゴクゴクと飲んで喉を潤し、その顔に少し光を宿した…。

 

「ふふっ、やっぱり本物の響が1番可愛いわね。ずっと側で見ていたいわ…」

 

のだが、再び顔から光が消える。自分に水を恵んだのがただの狂気の塊だったからだ。

 

「……暁。時間は良いのか?」

 

「えっ…あ、そっか!そう言えばそうだったわ、鍛錬が始まっちゃう!」

 

倉庫にあった時計は、鍛錬開始15分前を差していた。響はそれを暁に示唆し、早くこの狂気を自分から遠ざけようとする。

 

今回は上手くいくと思っていた。しかし響にとって1つ予想外のことが。暁が響に思い切り抱きついてきたのだ。

 

「え、ちょ…」

 

「響、私に何かして欲しいことがあったら遠慮せずに言うのよ?もーっと私を頼ってくれて構わないのよ?分かった?」

 

「……あ、あぁ。分かった」

 

平静を装い、返事をする響。正直言って恐怖しか感じない。

 

響は、その台詞は雷の専売特許だとか、良いから早く行けとか、そういう無粋なことは口にせず、適当に相槌だけをうつ。

 

「……響は良い子ね。それじゃあ行ってくるわ。あ、また帰ってくるから安心するのよ?」

 

暁は最後にそう言い、やはりガムテープを響の口に乱暴に貼り付けると、スキップしながら上機嫌で倉庫に後にするのだった。

 

……取り残された響は。自分の変化に驚いていた。この倉庫の静寂に慣れてきたのだろう。

 

(全く。慣れというのは怖いな)

 

それでも、助けを乞うことを辞めるつもりはないし、早く解放されたい。

 

響は視線を時計に向ける。この空間にあるもので、ずっと眺めていて楽しいものは、ずっと動き続ける時計だけだったから。

 

(はぁ…なんだか力が…)

 

暁は今は鍛錬中だろう。何故か分からないが、そのことが響を凄く安心させた。思えば、彼女はこの状況になってから一睡もしていない。

 

(……まぁ良いか)

 

もし此処で眠ってしまったら。寝ている間に暁がもし帰ってきたら。何をされるか分かったものじゃない。

 

それでも…今の響に睡魔に抗う力は微塵も残っていなかった。

 

早くもこの状況に適応しかけている響は、こういう短い自由時間に睡眠を取ろうと決める。そこからの彼女は早く、直ぐに眠りについた。

 

……心の中で助けを求めながら。

 

 

 

続く

 

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