ジャック・ザ・ハーレム   作:サイエンティスト

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 ハーレムジャック君の一日(夜)+アルファ。
 さすがにアリスの誕生日には間に合わなかったし、そもそもアリスだけではない件。なお、後半でとんでもないお話になります。ジャックくん爆発しろ。



ジャックの1日(夜)、そして……

 

 

 

「――っていうことがあって、今日は本当に参ったよ……」

「はぁ。それは大変だったね」

 

 一日の出来事を語り終え、疲れから深いため息を零すジャック。

 途中何度か危ない場面や気を失った場面もあったものの、ジャックは今日も無事に一日を過ごすことができた。一日の出来事をおつうと語り合うのが二週間前から夜の日課になっているため、今夜も屋上で共に語りあっているのだ。しかしおつうから返ってきたのは酷く淡白な労いの言葉であった。

 

「……それだけなの、つう? 何か日に日に返事が雑になってない?」

「仕方ないじゃないか。君がそういう破天荒な一日を語るのは今日で十四回目だからね。さすがに反応も淡白になるというものだよ」

「十四回目……二週間かぁ。本当に僕、良く耐えてるよね……」

 

 さすがに同じような話を十四回も聞かされれば反応が薄くなってくるのも当然だろう。尤も実際に体験した当事者であるジャックとしては未だに慣れることはないが。

 

「むしろあれだけ積極的にアプローチされているのに、未だ手を出していない君が分からないよ。君は本当に男性なのかい? 本当は女の子だったりするんじゃないのかい?」

「あははっ。その言葉、そっくりそのまま君に返すよ。どうせお姫様との仲は進展してないんだよね?」

「うっ、そ、それは……!」

 

 からかい交じりとはいえ女の子扱いされため、ジャックは笑って仕返しをする。この二週間の話でもジャックほど波乱万丈ではないとはいえ、おつうが語った日々も似たようなものだったのだ。

 ジャックもおつうも似たような話ということは、ジャックも関係は進展していないのだから当然おつうも進展していないはず。予想通り、おつうは苦い顔で俯いていた。

 

「まあ気持ちは分からないでもないけど、僕と違ってつうと人魚姫さんにはちゃんとお互いに想いを積み重ねた記憶があるんだから、あとはつうの勇気次第だと思うんだけどなぁ」

「ははっ、君もだいぶ踏み込んでくるようになったね……」

 

 正論なせいか特に反論も無く、乾いた笑いを零すおつう。

 ジャックとは異なり、おつうと人魚姫はまっとうに想いを深め合った記憶があるのだ。ある日突然恋人が六人もできてしまった身としては、お互いにしっかり想いあっているのに一歩を踏み出せないおつうが分からなかった。

 

「お互いに腹を割って話をしたんだし、これくらいはね? 最初の頃は僕ばっかり恥ずかしい思いをさせられてたし……」

「それは君がいまいち踏み込んだ話をしてこなかったからじゃないか。まあ僕が姫の王子様だと分かっていても、女性相手にそういった話題を振るのが躊躇われるのは理解できるけどね」

「うん。最初の頃は本当に恥ずかしくて堪らなかったよ……」

 

 二週間ほど前を思い出し、ジャックは羞恥に自分の頬が熱を帯びるのを感じてしまう。

 今でこそこの場はお互いの一日を語る場になっているが、元々はお互いに分からない異性の心というものを腹を割って教えあう場だ。そのためジャックは問われれば口に出すのも恥ずかしい事を口にせざるを得なかったのだ。例えば『男なら女の子の身体のどこが一番好きか』とか『どこを一番触りたいか』とか、『一日に何度くらいキスしたいか』とか様々なことを。

 おつうが容赦なく踏み込んでくるのでジャックも次第に腹を割って踏み込んだ質問をしていった結果、お互いにそこそこ慣れが出てきたというところである。

 なお、二週間でただ一日の出来事を語る場になったのは情報交換が終わったからではない。二人揃ってお互いの恋人との関係に全く進展がないからである。

 

「最初の頃と言えば、君は今寝る時はどうしているんだ? 二週間前は僕と姫の部屋に泊めてあげたけれど、今はちゃんと自分の部屋で寝ているんだろう?」

「え、えーっと……ま、まあ、その辺りは心配してもらわなくても大丈夫だよ。一応、対策はとってるからね……」

 

 目下最大の問題である就寝時の話を出され、思わず言葉を濁してしまう。

 入浴中さえ一人になれないことが多いジャックにとって、就寝時は最大かつ唯一と言っても良い休息の場だ。尤もその唯一の休息の場にさえ恋人たちは潜り込んで来ることが多いため、これを失ってしまえばもう癒しの場は存在しない。

 そのためジャックはかなり褒められない真似をしてでも何とか就寝時という癒しを維持しているのだ。正直なところ口に出すのも憚られるので、腹を割って話すべき相手のおつうにでも話したくは無かった。

 

「……何だか酷く気になる反応だけれど、君にとっては切実な問題だから仕方ないかもしれないな。相変わらず眠りは君のベッドに潜り込んでくるのかい?」

「うん。しかもたまにネム以外の子が潜り込んでくることもあるんだよね。今のところ一度も潜り込んで来なかった子は一人もいないし……」

 

 実は眠り姫以外の恋人達も時折ベッドに潜り込んでくることがある。どうも夜中に目が覚めた時などの意識が鮮明でない時は、未だ記憶の混濁が見られるらしい。あの親指姫でさえ寝ぼけてベッドに潜り込んできたこともあったのだ。

 尤も赤ずきんや眠り姫は明らかに分かっていて潜り込んできていたし、特別割合が高いのはやはり眠り姫である。

 

「君はよくそんな日々を二週間続けて理性を保てるね。そこは素直に尊敬するよ」

「ありがとう。でも、もしもつうが僕の立場になったらきっと同じように我慢すると思うよ?」

「ははっ。悪いけどジャック、そのもしもの話は前提として破綻しているよ。何故なら僕は、どんな世界だろうと姫一筋だからね!」

 

 そう言って、今夜一番の良い笑顔を見せるおつう。確かにおつうならどんな世界であろうと人魚姫と結ばれている光景がありありと目に浮かぶ。

 

「うん、さすがはつうだ! じゃあ今夜にでも人魚姫さんにその気持ちを伝えてあげないとね!」

「いや、それはまた……別の問題というか……」

「変なところで弱腰だね、つうは……」

 

 一歩踏み出せと遠回しに言ってみるが、途端におつうは表情を不安に曇らせてしまう。普段は人魚姫に対してこれでもかというほど王子様然として振舞い、愛の言葉を口にしているというのにこの反応である。さすがにこれにはジャックも呆れざるを得なかった。

 ただしおつうもおつうで頑張ってはいたらしく、ジャックの指摘にむっときたような表情を浮かべて睨みつけてきた。

 

「じゃ、じゃあ君はどうなんだい、ジャック!? そろそろ愛や恋という感情が理解できたのかい!?」

「う……えっと、それは僕もまだっていうか……深く考えてみる暇も余裕もないっていうか……」

 

 そして思わぬ反撃を繰り出してきたため、こちらも言葉に困ってしまう。

 自分の気持ちを考えようにも休息の時すらほとんどないジャックにとっては、ゆっくり考える時間など無いに等しい。だからこそ暇も余裕もないという答えを返したものの、おつうはこの答えがお気に召さなかったらしい。どこか責めるような目を向けてくる。

 

「そう言って逃げてるだけじゃないのか? いい加減、君も真剣に考えてみなよ。君の気持ちがどうあれ、彼女たちと添い遂げて幸せにしてあげることに変わりはないんだろう?」

「それは、そうなんだけど……」

 

 元々ジャックは別世界の自分のせいで結果的に辱めてしまった血式少女たちに対し、責任を取る意味で六人全員を恋人にしたのだ。今更その内の誰か一人に対して想いを寄せたたとしても、あるいは恋人たち以外の少女に想いを寄せたとしても、恋人たちを捨てることなどありえない。ジャックの気持ちがどうあれ、恋人たちを幸せにしてあげることは決定事項なのだ。

 とはいえ考える暇が無いのも事実であるし、万が一恋人たちの誰かに想いを寄せてしまった場合も問題である。何せ今のジャックは積極的な恋人たちのせいで毎日理性がガリガリ削られている。そんな状態で両想いになってしまったら、さすがに自分を抑えられる自信が無かったのだ。恐らく相手も受け入れてくれるだろうし、その時は間違いなく行くところまで行ってしまうだろう。

 

「……まあ、君に限ってはもう少しだけ現状維持というのもありかもしれないね。恋人が六人もいて大変なのは本当のことだろうし」

「うん……そこは本当に大変なんだよ……」

 

 そのあたりの懸念を理解してくれているのか、おつうは同情に満ちた声音で現状を認めてくれる。

 実際ジャックの場合、最適解は間違いなく現状維持なのだ。万が一恋人たちの一人と両想いになり、肉体関係にまで発展してしまったら。百歩譲ってそれ自体は良いとしても、そうなれば当然他の五人の恋人達も平等に愛さなくてはいけなくなる。

 魅力的な少女たち六人の身体を貪れる状態になった時、ジャックは自分自身を保てるかどうか自信が無かったのだ。どの世界でも自分がケダモノ認定されている分、余計に。

 

「何はともあれ、今夜はここまでにしようか。全く、最近は君の一日を聞かされるだけでこの時間が終わってしまうね」

「あはは……ごめんね?」

「別にいいさ。どうせ僕も君も二週間前から進展が無いせいで、特にお互い必要とする情報も無いしね……」

「そうだね……」

 

 お互いに全く恋人達との関係が進展しておらず、むしろ逃げ回っている状態という事実。自分で口にしたおつうも頷いたジャックも、そんな自分たちの情けなさに二人揃ってため息を零してしまう。

 

「……戻ろうか、ジャック」

「うん……」

 

 しかし分かっていてもどうにもならず、お互い酷く惨めで無力な思いを抱えたまま屋上を後にするのだった。片方がお姫様に相応しい王子様で、片方が六人もの恋人を持つ男とは思えないほど情けなく、とぼとぼと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、と。僕もそろそろ休もうかな……きっと明日も大変だろうし……」

 

 酷い無力感を覚えながらも部屋に戻ったジャックは、また明日始まるであろう刺激的な日々に遠い目をしながら寝間着へと着替える。

 現状維持が確かに最適解であるものの、前提としてそれはジャックが理性を保つことが必要になる。万が一恋人の前で理性を失ってしまえば、後はなし崩し的に落ちていくだけだ。もちろんそうなったらそうなったらである意味不安が無くなるのは確かだろうが、だからといって名実ともに人間の屑に落ちたくはなかった。

 

「って、またベッドが妙に膨らんでるような……」

 

 酷く疲れた心と身体を引きずってベッドに向かうと、何故かシーツが妙に盛り上がっている光景を目にする。最近ではベッドの様子を確認する癖ができていたので気付けたものの、以前までならこれだけ疲れていたら何も確認せずにベッドに身を投げていただろう。

 

「……すー……すー……」

「ネム……」

 

 シーツをめくってみれば、そこには当然のように眠りこける眠り姫の姿。最早驚きすら出てこないあたり、少なくとも始めの頃に比べればジャックもそこそこ慣れてきているに違いない。

 

(どうしよう。またベッドを取られちゃったよ。床で寝るっていう手もあるけど、朝気が付いたらベッドに連れ込まれてるしなぁ……)

 

 そもそも隣にお邪魔するという選択肢は存在しないし、自分の部屋に運んであげるという選択肢も無い。ただでさえ理性を削られる日々を過ごしているジャックとしては、出来る限り女の子の身体には触れたくなかったのだ。それに部屋に運んであげたとしても戻ってこないとは限らないし、他の恋人が潜り込んでこないとも限らない。

 

(仕方ない。正直迷惑になるだろうからあんまり頼りたくないけど、こうなった以上は仕方ないか……)

 

 なのでやむなくジャックは褒められない対応を取ることにした。正直なところギリギリでアウトかもしれない方法だが、背に腹は変えられない。それだけジャックは理性を保つのに必死で手段を選んでいられないのだ。

 覚悟を決めたジャックは明かりを消して部屋を出ると、そのままとある血式少女の部屋へと向かう。今回が初めてではないものの頼るのはどうしても気が咎めてしまうため、足取りもどこか重いものとなってしまう。

 それでも何とかその少女の部屋の前へと辿り着いたため、罪悪感を堪えながら扉を軽くノックする。もう寝ていて欲しいと思う反面、起きていて欲しいとも思ってしまうのはやはりジャック自身気乗りしないからだろう。

 

「こんな時間にどなたですの? って、あら。ジャックさん」

 

 そして扉を開けて姿を現したのはシンデレラ。

 まだ眠っていたわけではないようだが、その身は綺麗で美しいネグリジェに包まれていた。ちょっと透けていて目のやり場に若干困るものであったが、ジャックは恋人たちの積極性によってだいぶ鍛えられている。シンデレラには失礼かもしれないが今さらこの程度で動揺はしなかった。

 

「こんばんは、シンデレラ。ごめんね、こんな時間に訪ねてきて……」

「それは構いませんけれど、どうかしましたの? もしかして、また……?」

 

 特に説明せずとも事情を察し、憐れみと同情を湛えた瞳を向けてくるシンデレラ。これが初めてではないため、向こうもかなり察しが良くなっているらしい。

 

「うん……お願い、できるかな?」

「はぁ……そういうことなら仕方ありませんわね。上がってくださいな、ジャックさん」

「ありがとう。本当にありがとう、シンデレラ……」

 

 心からの礼を口にしながら、シンデレラに促されて部屋に上がるジャック。

 これは浮気――というわけではない。見ようによってはそう取られても仕方ないかもしれないが、別にジャックもシンデレラもそういったことをするわけではない。ジャックはただシンデレラに寝床を提供してもらっているのだ。

 これがあまり褒められないことなのは、恋人がいるにも拘わらず他の女の子の部屋に泊まるという状況が浮気染みているからだ。しかしジャック自身なりふり構っていられないため、背に腹は変えられないということである。それに恋人たちの発想の埒外にあるらしく、シンデレラの部屋で眠っていれば誰も隣に潜り込んでこない。

 誰に邪魔されることも無く、一人でゆっくり休息を取れる天国のような場所。精神的にだいぶ参ってるジャックはその魅力に抗えなかったのだ。

 

「……それにしても、本当に驚きですわね。今では慣れが出てきましたけれど、まさかジャックさんともあろう方が恋人でもない私の部屋に泊めて欲しいと懇願してくるとは思いませんでしたわ」

「うん……僕も凄く悩んだし、正直どうかと思ったけど、わりと切実な問題だったからね……」

 

 お互いの寝床についてから、とても意外そうな口調で言うシンデレラ。やはりシンデレラとしても恋人がいるにも拘わらず他の女の子の部屋に泊まるなど、全く考えもしなかったのだろう。

 実際ジャックが初めて頼み込んだ時は驚きに固まったかと思えば、顔を真っ赤にして真意を問いただしてきたのだ。ベッドに恋人が潜り込んでくること、このままでは気の休まる時間がないこと、そういった事情を必死に説明することで何とか了解してもらえたのである。おかげでシンデレラには足を向けて眠れない。

 

「……というか、僕としてはシンデレラの方が意外だよ。自分で言うのもどうかと思うけど、恋人が六人もいる不誠実の塊みたいな男をよく部屋に泊めてくれるよね」

「本当にご自分で言うのもどうかと思うことですわね……」

 

 幾らシンデレラはベッドでジャックは床だとしても、男と女が一つの部屋で寝泊りする状況なのだ。おまけにジャックは恋人が六人もいるという不誠実極まる男。実際ジャックも駄目もとで頼みに来た節があり、まさか本当に泊めてもらえるとは思っていなかった。

 

「けれど、別にジャックさんは不誠実ということではありませんわ。逆に誠実で優しすぎたからこそ、誰も傷つかないようにこのような状況を選んでしまったんですもの」

「どうかな……確かにそれもあるけど、結局は僕に勇気がなかっただけかもしれないし……」

「いずれにせよ、ジャックさんはジャックさんですわ。自分の弱さを認めて、それでも自分にできることに真摯に懸命に力の限り取り組む。そんなあなたなら間違いなく赤ずきんさんたちを幸せにすることができると、私は信じていますわ」

「……ありがとう、シンデレラ」

 

 信頼溢れる笑顔を向けてくるシンデレラに、心からのお礼を口にするジャック。

 もうこうして部屋に泊めてくれるだけでも有難いというのに、絶大な信頼を寄せてくれているのが嬉しくて堪らない。おまけに当たり前とはいえベッドに入って来いとも言わないし、逆にジャックのところに潜り込んだりもしてこない。何だかもう涙が出そうになるほど安心できる状況で、本当にシンデレラには頭が上がりそうになかった。

 

「どういたしまして。私はそんなあなたを信頼しているからこそ、こうして部屋に泊めて差し上げるくらいなら問題ありませんわ。だ、誰でも彼でも良いというわけではないので、勘違いなさらないでくださいね!」

(あははっ。何か親指姫みたいなこと言ってるなぁ、シンデレラ)

 

 暗い部屋でも分かるほどはっきりと顔を赤くして、親指姫のような反応をするシンデレラ。そんな可愛らしい反応を前にしてジャックは思わず和んでしまった。

 

「そ、そういえば、ジャックさん。私、一つ気になっていたことがあるのですけれど……」

「気になっていたこと? 何かな? シンデレラには何度も部屋に泊めてもらってるし、僕に答えられることなら何でも答えるよ」

 

 恥じらいに赤くなっていた顔をそのままに、シンデレラはどこか言いにくそうに言葉を濁す。なのでジャックはどんな問いにも答えるという言葉を返した。

 シンデレラにはもうとてもお世話になっているので、余程答えにくい内容でない限りは答えるつもりだ。例えおつうと交わしているような極めて遠慮のない踏み込んだ内容であろうと。

 

「では、その……何故、私を選びましたの? 私以外にも、ジャックさんの寝泊りの場所を提供してくれそうな方はいると思うのですけれど……」

 

 そしてシンデレラが口にしたのは最もな疑問。同時に非常に答えにくい疑問であった。

 前言を撤回すべきかと一瞬考えたものの、端的に言って今のシンデレラはジャックにとって救世主にも等しい存在だ。そんな尊い存在に対して嘘や誤魔化しは行いたくなかった。

 

「……ちょっと答えるのを躊躇いたくなる理由なんだけど、シンデレラにはお世話になってるからね。ちゃんと答えるよ。選んだのは、その……消去法、だね」

「しょ、消去法、ですの?」

 

 予想外の答えだったのか、シンデレラは目を丸くする。しかし絶大な信頼を向けている相手の口からそんな答えが出てきたら仕方のない反応だろう。

 

「うん。確かに血式少女の中で僕の恋人じゃない子はシンデレラの他にも何人かいるよ。だけどかぐや姫のところへ行ったら泊める代わりに色々なお願いをされるだろうし、ラプンツェルはネムから子供の作り方を聞いちゃったみたいだからちょっと一緒の部屋が怖いんだよね……グレーテルもグレーテルで、恋愛とか男女の関係が凄く気になるみたいで、隙あらばもの凄く踏み込んだことを聞いてくるし……」

「た、確かに、その……それは、納得の理由ですわね……」

 

 必死に事情を説明したら部屋に泊めてくれたシンデレラなせいか、理由を説明すると納得といった表情を浮かべてくれた。もしも今の説明で納得してくれなかった場合、もう少し踏み込んだことを口にしなければならなかったのでジャックとしても一安心であった。

 かぐや姫とラプンツェルに関してはこれ以上話すことは無いのだが、グレーテルだけは格が違う。何故なら一度、自分も恋人にしろというとんでもない要求をしてきたのだ。恋人が六人いるなら一人増えたところで誤差の範囲、という凄まじい理屈で全面に好奇心と知識欲を押し出しながら。

 無論ジャックは断ったがどうもまだ諦めていない空気を感じたため、グレーテルに頼るのも避けたわけである。万が一グレーテルの部屋に泊まった場合、既成事実を作られる可能性があって怖かったのだ。

 

「本当は救護室とかハルさんの所とか他にも選択肢はあったんだけど、具合が悪いわけでもないのに救護室は気が咎めてちょっとね……ハルさんのところには一度だけ泊めてもらったけど、気が付いたら何故か赤ずきんさんに潜り込まれてて……」

「そ、そうでしたの……」

 

 納得を越え、最早同情に近い目を向けてくるシンデレラ。ジャックも何だか自分が遠い目をしているのが感覚で分かっていた。

 

「だからまあ、シンデレラに頼ったのはそういう打算的な理由があったんだ。他の血式少女たちの中で君が一番常識的で優しくて話の分かる子だから信頼できるし、事情を話せば変な要求とかもせずに力になってくれるかもしれないって思って……ごめんね? こんな理由で……」

「全くですわ。幾ら納得できる理由とはいえ、消去法で選んだなどと仮にも女性に言うべきことではありませんわよ」

「ごめん……でもシンデレラのおかげで本当に助かってるから、嘘だけは吐きたくなくて……」

 

 どこか頬を膨らませた様子で不満を露わにするシンデレラに対し、頭を下げるしかないジャック。予想はできた反応だがそれでも嘘や誤魔化しはしたくなかったのだ。本当にシンデレラにはとてもお世話になっているから。

 

「……まあ、下手な誤魔化しをしないあたりはジャックさんらしいですわね。正直に答えるのもどうかと思いますけど。そこはお世辞でも私が一番頼りになるから、と答えるところですわよ?」

「気が利かなくてごめんね? だけどお世辞じゃなく、僕は今シンデレラが一番頼りになると思ってるよ? 僕がまだ道を踏み外さないでいられるのは、シンデレラのおかげって言っても過言じゃないしね。本当にありがとう、シンデレラ」

 

 実際ジャックがまだケダモノになっていないのは、こうしてシンデレラが部屋に泊めてくれるからだ。そうでなければ唯一の癒しの場すら奪われてしまったジャックは、ベッドに潜り込んでくる恋人たちに辛抱堪らず襲い掛かっていたことだろう。とても二週間耐えられたとは思えない。

 なので多大な感謝を心からの礼として伝えたのだが、何故かシンデレラは一瞬呆けた後に顔を真っ赤にしていた。

 

「ひ、卑怯ですわ! 散々落としたかと思えば笑顔で持ち上げるなんて、ジャックさんは私を一体どうする気ですの!?」

「えっ? い、いや、どうもしないけど……」

 

 そのままどこか慌てた様子で恥じらうので、首を傾げるしかないジャック。恋人にすら手を出せないジャックが恋人でない少女に何かできるわけがないし、そもそも恩人にそんな不埒なことは一切考えていなかった。

 

「全く……私、もう疲れたので休みますわ! おやすみなさい、ジャックさん!」

「あ、うん……おやすみ、シンデレラ……?」

 

 やがてこちらに背を向け、シンデレラはシーツを被ってしまう。床に横になっているジャックからは位置関係的な問題も相まって何も見えなくなってしまい、やむなくこちらも休むことに決めるのであった。

 

(うーん、もしかして怒らせちゃったかな……?)

 

 そして考えるのは、シンデレラの反応の理由。

 ジャックとしては何の計算や企みも無く口にした本心からの台詞だったのだが、冷静に考えてみればジャックは恋人が六人もいる人間の屑である。もしかするとシンデレラをも口説こうとしたのだと勘違いされてしまったのかもしれない。

 さすがに一緒の部屋に泊まっている男が自分を口説こうとしてきたら怒りもするし不安にもなるだろう。なのでそんな意図は無いと伝えようかと口を開きかけたジャックだったが――

 

「私が……一番、頼りに……ふふっ……」

(あ、そうでもないかな? むしろ嬉しそう……)

 

 小さかったがそれはもうご機嫌な笑い声が耳に届いてきたので、その必要はなさそうだと悟る。どうやら信頼されている事実が嬉しい余りの照れ隠しだったらしい。

 安心したジャックはシンデレラの方から視線を外すと、仰向けになって天井を眺める。考えるのはもちろん、自分と恋人たちのことであった。

 

(やっぱり、このままじゃいけないよなぁ……以前までならともかく、今の僕には恋人がいる。それも六人。それなのに恋人じゃない女の子の部屋に泊まるなんて、理由はどうあれ絶対に褒められたことじゃないだろうし……)

 

 幾ら不埒な気など一切なく、たった一つの休息の場とはいえ、恋人以外の女の子の部屋に泊まるのは間違いなく許されないことだ。実際ジャックだって恋人たちが自分以外の男の部屋に泊まるなどと言ってきたら、複雑な気持ちが胸の中に生じることだろう。

 

(でもこの唯一の安らぎの場が無くなったら、それこそ僕は耐えられるかどうか分からないよ。そんな状態でいつもみたいに迫られたら、きっとアリスたちが言うケダモノになっちゃうんだろうなぁ……)

 

 とはいえ理性を失いケダモノになるわけにもいかないため、現状はどうしてもこの褒められない状況を続けるしかないのが辛いところだ。

 しかし、果たしていつまでこの状況を続ければいいのか。恋人たちのジャックに対する想いは傍から見ても分かりやすいほどに強く大きいため、いつかはその想いに応えなければならないだろう。それにいつまでもシンデレラに迷惑をかけるわけにもいかない。

 

(まだ恋とか愛とかは良く分からないし、仮に分かってもそれはそれでアリスたちとの関係が爛れちゃいそうな気がするし……本当、僕はどうしたらいいんだろう……)

 

 だが答えはそう単純なものではなく、結局幾ら考えても睡魔が増すばかりで結論は出せなかった。やがて睡魔が思考を覆いつくしていくのを感じたジャックは、そのまま瞼を閉じて身を任せる。

 今この場には身体に押し付けられる柔らかさが無ければ、抱き着いてくる温もりも存在しない。だからきっと、心の底から望んでいた休息の時が得られる。この先どうすれば良いか分からないジャックだったが、それだけは間違いなく分かっていた。

 

(本当にありがとう、シンデレラ……)

 

 なので心の中でもう一度感謝を述べてから、完全に睡魔に身を委ねる。何者にも邪魔されない穏やかな眠りの中へと、ジャックはシーツ越しの床の固さや肌寒さすら心地良く思いながら落ちて行った。

 この時、恋人たちが恐ろしい計画を立てている事実を知らないまま、幸せに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すでに皆が夢の世界を訪れている頃、親指姫はベッドにも入らずとある事情から赤ずきんの部屋を訪れていた。

 何でも大切な話があるから絶対に集合、とのことだ。他には何も知らされていないので正直首をかしげてしまうが、きっとジャックの恋人達で集まって何か話し合いでもするのだろう。

 そう考えて時間通りに赤ずきんの部屋を訪れた結果、そこには親指姫以外にもジャックの恋人が揃っていた。ただし全員ではなく、二人ほど足りない。

 

「……よし、これで全員揃ったね。じゃあ夜も遅いし、早速話を始めようか」

「ちょっと待った赤姉。ネムがいないわよ?」

「それにハーメルンもいないわね。それなのに話を始めてしまって構わないの? ジャックの恋人である、私たち全員にとって大切な話をするんでしょう?」

 

 まだ四人しか揃っていないというのに話を始めようとする赤ずきんに対し、親指姫はアリス共々それを指摘する。

 ハーメルンはともかく眠り姫にはこの時間帯は辛いかもしれないが、眠り姫も間違いなくジャックの恋人の一人だ。幾ら何でも除け者にするなど許されないし、長女たる親指姫が許さない。

 

「あの二人は興味ないからいいってさ。絶対興味のあるあんたたち二人には話さなかったけど、あの二人は話の内容を教えた上でそう言ってたしね。あたしたちで勝手にやって構わないって言ってたよ。ちなみに白雪は興味があるから参加するんだよね?」

「う、うぅ……はい……」

「何で顔赤くしてんの、白雪……?」

 

 赤ずきんの言葉に納得はしたものの、何故か頬を染めて恥ずかしそうに縮こまる妹の姿に疑問を抱く親指姫。

 眠り姫は興味がなく、白雪姫は興味があって恥じらいを覚える事柄とは一体何なのだろうか。気にはなったが赤ずきんが話を始めるはずなので、追及するのは止めて話を聞くことにしておいた。

 

「二人がこの場にいない事情は分かったわ。それで、話とは一体何なのかしら?」

「簡単なことだよ。ここらでちゃんとルールを決めとこうと思ってさ」

「ルール? 何の?」

「そりゃあもちろん勝負のルールだよ。決まってるじゃん」

 

 予想外の言葉を聞かされ、親指姫はアリスと共に首を傾げてしまう。白雪姫だけはむしろ頬の赤みを深めていたあたり、やはり話の内容を予め知らされていたのだろう。

 二種類の反応を眺めてニヤリと笑った後、赤ずきんが満を持して口を開いた。

 

「つまり――誰がジャックの初めてになるか、っていう勝負のね」

「はあっ!?」

「じゃ、ジャックの……!?」

「は、初めて……」

 

 そして、その衝撃の内容に三者三様の声が上がる。

 親指姫は勝負の内容があまりにも馬鹿らしくて驚きの声を零してしまったし、アリスも驚きに息を呑んでいた。しかしどうもアリスは純粋な驚きからの声だったし、白雪姫に至ってはどこか決意の滲む声音であった。

 

「ば、バッカじゃないの!? そんなくだらないことのために、こんな夜遅くに呼び出したわけ!?」

 

 そんな二人のおかしな反応と、同様にとても魅力的だと思ってしまっている自分もいることが堪らなく恥ずかしくて、親指姫は思わずそんな声を上げてしまう。

 素直に自分の気持ちに従えないだけで、親指姫自身も勝負には乗り気なのだ。それを表に表せないが故の言葉と行動に、非常に素直な他の二人が賛同してくれるはずがなかった。

 

「あれ、親指は興味ない? だったら良いよ、あんたは勝負から降りるってことだね。ライバルが一人減るから、あたしとしては大助かりだよ」

「なっ!? じゃ、じゃあ赤姉はジャックの童貞なんかに興味あるわけ!?」

「もちろんあるよ。むしろあんたに興味ない方が意外かな?」

「なっ……!?」

 

 反射的に尋ねてみれば、興味があるとあっさり即答されてしまう。その答えよりも何ら恥ずかしげもなく当たり前のように口にされたこと自体が驚きで、親指姫は開いた口が塞がらなかった。

 

「だって考えてみなよ、親指。確かにあたしたちも初めてだけど、あたしたちには記憶があるんだよ? ジャックと色々なことをして、ジャックに色々なことをされた記憶がさ。だったら何もかも初めてなジャックをリードしてあげて、すっごく初心なジャックを楽しむことができるだろ?」

「……なるほど。それは確かに魅力的だわ」

「ちょっ、アリス!?」

 

 何か琴線に触れるものがあったのか、隣でアリスが目の色を変えて頷く。

 確かに親指姫としても終始主導権を握って初心なジャックを楽しむというのは大いに心惹かれるものがあった。しかしまずその気持ちを認めることから始まる以上は、アリスのように食いつくことなど到底不可能だった。

 

「だよね! あんたなら分かってくれると思ったよ、アリス! いやぁ、顔を真っ赤にして初々しい反応をするジャックのことを思い浮かべると、胸がキュンとするよね!」

「う、初々しい反応をする、ジャックさん……!」

「し、白雪!? あんたまで!?」

 

 可愛い妹もかなり心惹かれるものがあったようで、ごくりと息を呑んで身を乗り出している有様だ。

 最早親指姫のように素直になれない少女は一人もいないらしい。今夜の集まりに参加しなかった眠り姫とハーメルンならまだ気持ちを分かってくれるかもしれないが、よく考えてみるとこの二人もかなり素直だ。眠り姫は何の躊躇いも無くジャックのファーストキスを奪っていたし、ハーメルンに至ってはあの常識のないおかしな恰好を止めて女の子らしい格好をするほどジャックのために尽くしていたのだから。

 

(……あれ? これ、もしかして私だけハブられる流れじゃない?)

 

 ふと恐ろしいことに気が付いてしまい、寒気すら覚えてしまう親指姫。

 ジャックには恋人が六人いる。そして親指姫を除いた五人は皆、ジャックへの愛情表現に躊躇いが一切存在しない。親指姫もそこそこ頑張ってはいるが、さすがに他の五人とは天と地ほどの差がある。

 親指姫の知っている恋人としてのジャックなら、どれだけ親指姫が素直でなくとも愛してくれるだろう。それは別世界の自分の記憶から嫌というほど分かることだ。

 しかしこの世界のジャックには、恋人達と愛を育んだ記憶は全く存在しない。だからそう、もしかすると。本当にもしかすると、いまいち素直になりきれない親指姫にジャックが愛想を尽かしてしまう可能性もあるのだ。まして他に素直な恋人が五人もいる状態。さすがにこんな状態で大丈夫などという自信を抱けるほど、親指姫は楽観的ではなかった。

 

「分かってくれる奴が二人もいてくれて嬉しいよ! それじゃあ興味のない親指は放っといて、あたしたちだけで話をしようか?」

「そうね。眠り姫とハーメルンも不参加な以上、この三人での勝負になるのかしら」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!? 誰も興味無いなんて言ってないじゃない!」

 

 そんな切実な怯えも相まって、何とかこの馬鹿げた勝負に参加できる程度には勇気が沸き上がってくる。

 実際問題今のままではジャックに捨てられてしまう可能性はゼロとは言い切れ無いが、肉体的な関係を持ってしまえばこっちのものだ。一度手を出してしまった少女をジャックが捨てるとは到底思えない。初めて云々はともかくとして、手さえ出させれば親指姫も安泰だろう。

 

「んー? でもさっき親指はくだらないことだって言ってなかったっけ?」

「そりゃくだらないとは今でも思ってるけど、それはそれってところがあんの! つーか赤姉、私の本心とか色々分かってて言ってんでしょ!?」

「あははっ、バレたか。まあ早いとこ素直になった方が良いよっていう、あたしなりの優しさとでも思いなよ」

「その割にはめっちゃ楽しそうに笑ってたわよね……」

 

 酷くからかわれていた気もするが、勝負への参加は認められたので大目に見ておいた。

 ただでさえ親指姫は他の恋人たちに素直さで後れを取っているため、この辺りで取り返さなくては話にならない。正直馬鹿らしいという気持ちは拭えなかったものの、やるからには全力で取り組むつもりであった。

 

「よーし、それじゃあこの四人での勝負だね! 特に決まりは無いけど、とりあえず力ずくとか無理やりとかは無しにしようか。皆やろうと思えばできちゃうからね」

「大雑把すぎでしょ!? もっとそれっぽいルールとか考えてないわけ!?」

 

 しかし赤ずきんが提示したルールはあまりにも適当かつざっくりしており、思わず全力で突っ込みを入れてしまう。

 確かに皆やろうと思えば力ずくでジャックの初めてを奪えるのだから、さすがにそれは禁止しておいた方が得策だろう。メルヒェンと単騎で戦える血式少女の力は伊達ではないのだ。天邪鬼な親指姫にとっては最初から選択肢に無い方法だったので、禁止されても特に痛手はなかった。

 

「……それなら私から一つ、ルールを追加させてもらっても構わないかしら」

 

 どうやらアリスもルールが大雑把過ぎることに異議があるようで、そんな提案を口にする。もちろんそれについて誰も反対はしなかった。

 

「皆平等になるルールならあたしは構わないよ。白雪はどう?」

「そ、そうですね。平等になるなら、白雪も願ったり叶ったりです」

「まあくだらないけど、ルールがあった方が分かりやすいわね。くだらないけど……」

 

 果たしてどのようなルールを提示するのか。皆の視線が集中する中、アリスは何故か全員の胸元に視線を注いでから口を開いた。

 

「――では、肉体的接触を伴う色仕掛けの禁止、というのはどうかしら」

「なっ……!?」

「ええっ!?」

「へぇ……」

 

 驚愕の声を零したのは赤ずきんと白雪姫。

 しかし親指姫はむしろ感嘆の声を零してしまった。何故なら非常に悔しいが親指姫にとっては全く縁のないルールだったからだ。そしてそれはアリスも同じ。恐らくこれは富める者に対する戒めにも似たルールに違いない。アリスの自分同様控えめな胸元を盗み見て、親指姫はそんな結論を抱くのであった。

 

「私は賛成よ、アリス。良いルール考えるじゃない?」

「ありがとう。皆平等に、というのなら間違いなくこのルールは外せないと思うのだけれど、どうかしら?」

「う……い、いや、確かにそう言ったけどさ……」

「し、白雪の……白雪の、唯一の武器が……!」

 

 にっこりと返した親指姫とは異なり、他二名は酷く動揺していた。赤ずきんは苦い顔をして言葉を濁しており、白雪姫は何やらショックを受けたように固まっている。

 だが平等を謳うならこれ以上素晴らしいルールは無いだろう。二人の胸元を眺めて自分たちとの明確な格差を認識しながら、親指姫は何度も頷いた。富める者も貧しい者も、このルールの前では区別なく平等だ。

 

「そうよね! さっき赤姉も平等にって言ってたし、決まりね!」

「そうね。少なくともこれで赤ずきんさんの口にした通り、平等な勝負が実現するわ」

 

 富める者を無理やり引きずりおろして底辺に合わせている気もするが、これは平等な勝負だ。故に持てる者が持たざる者に合わせるのは当然のことだった。

 

「くぅっ……! 分かった、良いよ! その代わり、親指はジェノサイド化禁止だからね! あとアリスは幼馴染としての立場を使うのは禁止だ!」

「ちょっ、そりゃないでしょ赤姉!? そんなんどうやって素直になればいいってのよ!?」

「言っている意味が良く分からないわ、赤ずきんさん。私とジャックが幼馴染なのは不変の事実で、それは恋人になった今も変わらない。禁止できるようなことではないわ」

「う、うぅ……白雪は、白雪はもう駄目ですぅ……!」

 

 苦渋に満ちた顔で頷きながら新たなルールを提示する赤ずきん。唯一心から素直になれる方法を禁止されて抗議する親指姫。自分のアドバンテージを失いたくないのか惚けるアリスに、勝負が始まる前からもう負けたような空気を漂わせている白雪姫。

 親指姫でさえ魅力的だと思っているジャックの初めてだ。皆が本気で狙うのも当然のことと言える。白雪姫の自信の無さがちょっと気になるものの、親指姫とは異なり富める者の一人である。何も心配はいらないだろうし、妹だからといって譲ってあげるのもまた違う気がする。そもそもそんな提案をしたら逆に白雪姫に怒られてしまいそうだ。

 

(絶対、負けないわよ……! ジャックの初めては私のもんなんだから!)

 

 だから考えるべきことは、いかにして自分がジャックの初めてとなるか。それ一点のみ。

 そのためにはあらゆる手段を惜しまない心意気を抱きながら、親指姫はこの勝負のルールを決めるための話し合いを続けていくのだった。そもそも自分が素直になれるかどうかは、なるべく考えないようにして。

 




 ジャック君の初めてを狙う血式少女たちの宴、開催! 果たして商品は誰の手に!?
 ちなみに最後のシーンは誰の視点でも構わなかったのですが、とりあえず親指姫にしておきました。深い意味は特にないです。強いて言えば次の話のバランス的な問題かな。
 しかし全年齢だからあんまりやりすぎちゃいけないんだよね……加減が難しいなぁ……。
 
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