ジャック・ザ・ハーレム   作:サイエンティスト

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 ジャックのハーレム話、その続き。 
 どうも勘違いしてしまった方がいるようですが、実はハーレムカップリングでも相手は六人だけなんです。大変申し訳ありません……ですがこの六人は容赦なくジャックとイチャつかせる予定です。
 今回は原因が明らかになる回……と言ってもタイトルが九割方原因を物語っていますけど……。



ウィッチクラフト

 合計六人もの血式少女が自分はジャックの恋人だと主張する謎の状況。

 それはどう贔屓目に見ても修羅場としか形容できない最悪の状況、しかもジャックには全く身に覚えの無い状況であったが、幸いなことに救いも存在した。

 何と騒ぎを聞きつけて起きて来た他の血式少女達は至ってまともだったのだ。誰もジャックのことを自分の恋人だとは言わず、そしておかしな六人の内の誰かがジャックと恋仲になったという事実も知らない。状況は好転していないが自分がおかしいわけではないと分かっただけでも、ジャックとしては救われた気分だった。

 それだけでも十分嬉しいというのに、皆も問題の六人が明らかにおかしいと分かってくれたのだ。そんなわけでひとまず問題の六人からジャックが隔離される形となり、それぞれ個別に事情を聞くという展開になった。

 

「――ていうわけなんだ。もう何が何だかさっぱり分からないよ……」

 

 なのでジャックは目覚めてからの出来事を可能な限り詳細に語った。目が覚めたら三姉妹がベッドにいたことから始まり、あの六人から隔離される瞬間までを丁寧に。

 語る相手はまともな血式少女の一人であり、そして前の世界では随分お世話になった相棒のおつう。語る相手におつうを選んだのはやはり相棒だからという理由もあるが、もう一つ切実な理由もある。何故なら頼りになる赤ずきんも幼なじみ故に気心の知れたアリスも、二人ともおかしくなっているため相談相手には出来ないからだ。

 

「……ジャック、君がそんな奴じゃないことは分かっているけど一応聞いておくよ。君は浮気がバレたことを必死に誤魔化そうとしていたりはしないかい?」

 

 最後まで黙って話を聞いてくれていたおつうが、真剣な顔つきでそんな問いを投げかけてくる。

 疑いは最もだがジャックにはそんな覚えは欠片も無い。なのでしっかりとその目を見つめ、真摯に答えた。

 

「誤魔化してなんてないよ! ていうか僕は告白した覚えもされた覚えも無いし、女の子と付き合ったことなんて一度も無いよ!」

「……つまり、男相手なら付き合ったことがあるということかい?」

「あるわけないよ!? ていうか、つうは真面目に話を聞いてたの!?」

 

 しかし返ってきた言葉があまりにも酷かったので、ジャックはつい目と鼻の先まで詰め寄ってしまう。

 その距離がちょっと問題だったのか、あるいはジャックがよほど余裕の無い顔をして見えたのか。おつうはちょっと気まずそうな感じで目をそらしてしまう。

 

「い、いや、すまない。君がかなり焦燥している感じだったから、緊張を解してあげようとしてみただけなんだ……」

「あ……う、うん。こっちこそ、ごめん……」

 

 気遣われてちょっとだけ心の平穏を取り戻したジャックは、すぐ目の前におつうの整った面差しがあることに気が付き居心地の悪さを覚えながら距離を取った。

 

(うーん……やっぱり、つうとの距離感は微妙に計りずらいっていうか、思った以上に近づいちゃうんだよなぁ……)

 

 前の世界の記憶を思い出した弊害なのか、おつうとの距離感はちょっと計り難かった。普通に仲間や友達としてお互い接していたならともかく、前の世界ではジャックは知性などほぼ無いナイトメアと化していた。おつうはそんなジャックの暴走を未然に防ぐために、部屋でもずっと一緒に過ごしていたのだ。

 そうなれば当然、仲間や友達にも見せない姿を見てしまう機会もあったわけで――

 

「――そ、そんなことより、一体アリスたちはどうしたんだろうね? 皆揃って僕の恋人だって言うなんて……」

 

 変なことを思い出しそうになったので、ジャックはすぐさま話題を変えた。というか話題を元に戻した。今のおかしな状況に比べればおつうとの距離感など極めて些細な問題である。

 

「そうだね。君をからかっているだけなら何も問題は無いだろうけど……」

「どう見ても皆本気だったよ。アリスもハーメルンも怖かったし、赤ずきんさんなんか凄く悲しそうな顔してたし……」

 

 皆の反応の中でも特に衝撃を覚えたのは赤ずきんの反応だ。身に覚えは無いがジャックが浮気をしていると思い込んだせいなのか、見たことも無いくらいに悲しげな顔をしていたのだ。その今にも涙を零しそうな悲しげな表情は、いつも快活に笑っている赤ずきんとは思えないほどに弱々しかった。

 そして赤ずきんには限らず、他の皆もそうそう見たことが無いほどに感情を露にしていた。あれが冗談の類だったなら皆あまりにも演技が上手すぎるし趣味が悪すぎる。尤も本当に冗談の類だったなら笑い話で済ませても良いくらい、ジャックは今の状況に困り果てているのだが。

 そんな風に困惑に支配されているジャックが一つ溜息を吐いた時――コンコン。部屋の扉がノックされた。

 

「はい、どうぞ」

 

 まさかジャックの恋人を自称するあの六人の誰かが訪ねてきたのか。そう考えて咄嗟に身構えてしまうジャックに代わり、おつうが扉の向こうに声をかけてくれた。

 果たして扉を開けてその向こうから姿を現したのは――

 

「おつうちゃん。アリスさんたちのお話、聞いてきたよ?」

 

 ――恋人は恋人でもジャックではなくおつうの恋人、人魚姫であった。なのでジャックはほっと胸を撫で下ろし安堵することが出来た。

 隔離される寸前まで浮気に激しく怒っていたハーメルンや親指姫あたりが突撃してくるのではないかと肝を冷やしていたので、まずは一安心という所だ。少なくとも話をする程度にはあの二人も落ち着いているらしい。

 

「ご苦労様です、姫。それで、どうでしたか?」

「うん。それがね、アリスさんたちにはジャックさんの恋人になったっていう記憶があるみたいなの」

「ぼ、僕の恋人になった記憶?」

「うん。それもただ漠然とそうなっただけの記憶ってわけじゃなくて、しっかり細かい所まである記憶。ジャックさんに告白されたり告白したりって、人によって全然違うの。まるで本当に体験したことみたいに。恥ずかしそうにジャックさんとの恋を語ってくれるハーちゃん、可愛かったなぁ」

「恋を語るハーメルンか。それはちょっと見てみたい気もする……」

 

 その時のハーメルンの様子を思い出しているのか、人魚姫はこんな事態にも関わらず微笑ましそうに笑う。おつうも気になるのか現状に眉を寄せながらもちょっと興味を惹かれている様子だ。

 

(僕もちょっと気になるなぁ、ハーメルンのそんな様子……)

 

 まあ現状に尤も苦悩していると言って過言ではないジャックも気になるのだから当然かもしれない。はっきり言ってあのハーメルンが恋を語って恥らう姿は全く想像できなかった。

 

「でも皆話してる内に何だか変だってことに気がついたみたいで、本当はジャックさんの恋人じゃないってことを思い出してたよ? 恋人になった記憶は消えてないみたいだけど」

「……それはつまり、ジャックの恋人になった記憶と、そうじゃない記憶の二つを持っているということかい?」

「うん、大体そんな感じかな。まるで私たちみたいだよね、おつうちゃん。ジャックさん」

「僕たちと、同じ……」

 

 かなり困った状況だというのに、朗らかに笑いながら同意を求めてくる人魚姫。

 しかしながらジャックはそれを気にすることはなかった。何故なら人魚姫の発言で、この事態を引き起こした原因に思い当たることができたからだ。

 

(他に原因らしい原因なんて思いつかないし、そもそもこんな状況を引き起こせそうなものなんてたった一つしかない。やっぱり、アレが原因なのかな?)

 

 何となく原因を察したジャックがおつうに視線を向けると、向こうも同じようにこちらに視線を向けていた。予想通りの罪悪感に満ちた申し訳無さそうな表情で。

 

「……ジャック、僕は何だか原因が分かったような気がするんだ」

「奇遇だね、つう。僕も分かった気がするよ。だから先に言わせてもらうけど、つうたちは悪くないから気にする必要は無いよ?」

「あ、ああ。その、ありがとう、ジャック……」

 

 先回りして謝罪の必要は無いと伝えることで、おつうのそんな表情は払拭された。まあお礼を言うのが恥ずかしいらしく、代わりにちょっとだけ顔は赤かったが。

 おつうがジャックの言葉を受け入れたということは、恐らくお互いに同じ結論に至ったということに違いない。少なくともあの六人がおかしくなってしまったわけではないことが分かり、ジャックはそこはかとなく安堵した。

 ただ原因まで思い至ったのはジャックとおつうだけだったらしい。人魚姫はちょっとだけ不満げに頬を膨らませると、主におつうに睨むような視線を向けていた。

 

「もうっ、二人だけで頷いてないで私にも教えて欲しいな? おつうちゃんとジャックさん変な風に通じ合ってるから、私ちょっと妬いちゃうかも?」

「心配ご無用ですよ、姫。ジャックはただの相棒で、僕の一番は他ならぬあなたなのですから」

「ふふっ。ありがとう、おつうちゃん。それで結局何が原因なのかな?」

 

 人魚姫に問われた後、おつうが一瞬ジャックに視線を向けてくる。気にする必要は無いと言ったものの、やはりおつうとしてはどうしても罪の意識を覚えてしまって話しにくい事柄なのかもしれない。一瞬こちらに向けられた表情には僅かだが罪悪感が残っていた。

 

「……たぶん、あの白い核――ウィッチクラフトが原因だと思うんだ」

 

 なので代わりにジャックが答える。念のためおつうに視線を向けてお互いの予想が正しいかどうかを擦り合わせようとした所、小さな頷きが返ってきた。やはり同じ考えに至っていたに違いない。

 

「それって私を蘇らせて、おつうちゃんを人間の姿にした核のことだよね? その願いを聞き届けて消えちゃったんじゃなかったのかな?」

「確かに核自体は消えたよ。でも生育環境の悪いこっちのジェイルのただの核でも、マモルたちを転生体として蘇らせるほどの力があったんだ。だからたぶん、姫を蘇らせても周囲にはまだ力の残滓が漂っていたんだろうね。それがあの場にいた強い想いを持つ者たちに引き寄せられて……」

「うん。僕もたぶんそんな感じだと思ってる」

 

 人魚姫の疑問におつうが答え、やはり同じ考えに至っていたことにジャックは頷く。

 想いを擬態化させ願いを叶えるということは、想いや願いに引っ張られることに他ならない。純粋かつ強い願いや想いを抱えている人間がいれば、むしろ向こうからそれらを叶えに来てくれることだってあるのだ。ちょうど前の世界で人魚姫を庇ったジャックが地下洞窟で死にかけていた時、力の無さを嘆く余りに核の弦を引き寄せてしまったように。

 破壊されていない核とすでに願いを叶えて消えた核とでは状況が違うが、問題となっている核は世界すら塗り替えるほどの力を持つ最大級の核だ。願いを叶えた後周囲に散った力の残滓でも、小さな願いを幾つか叶えること位できてもおかしくはない。

 そんな小さな願いを本人達の意思に関わらず幾つか叶えた結果、それがジャックと恋人になった記憶を持つアリスたちなのだろう。状況から考えるに皆願いの大元に存在する想いも同じ。その想いとは恐らく――

 

「そうなんだ。じゃあ強い想いっていうのは、ジャックさんへの恋心なんだね?」

「う……」

 

 ――人魚姫が微笑ましそうに口にした通り、ジャックへの恋心だ。考えが同じだと分かって安堵を覚える反面、ジャックは気恥ずかしさに視線を逸らしてしまう。

 勿論ジャックは皆が自分に恋していると考えるほど自惚れてはいない。だが状況からするとそう考えた方が非常にしっくり来るのだ。

 

「恐らくウィッチクラフトの力の残滓はジャックへの強い想い――恋愛感情に引かれて、アリス達の身体に宿ったんだ。そして本人たちは意識していないだろうけど、力はできる限りそれを叶えようとした。だけど所詮は残滓、すでに世界を塗り替えるほどの力は無い。だからウィッチクラフトの力は――」

「――自分自身の記憶を擬態化させた。どこか別の世界にいる、僕と結ばれた自分自身の記憶を……僕の考え間違ってるかな、つう?」

「いいや、僕と全く同じだよ。きっと力の残滓では本人達の記憶を擬態するのが精一杯だったんだろう。それでも別の世界の記憶を持ってくるあたり、ウィッチクラフトの力は伊達じゃないってことだね……」

 

 額に手を当てつつ嘆息するおつうの姿に、ジャックも同じく嘆息する。

 できれば外れていた方が良かったのだが、予想は細かい所まで見事におつうの考えと重なっていた。ジャックへの恋心を持つ少女達が、ウィッチクラフトの力の残滓によってその想いを中途半端に成就させられてしまったという展開と。

 正直なところ誰かと結ばれた別の世界が存在するかどうかは非常に疑わしいのだが、前の世界というものは実際に存在したのだ。平行世界くらい存在していたって今更ジャックは驚かない。

 

「これから僕、アリスたちにどう接すれば良いんだろう……」

 

 アリスたちの頭の中にあるジャックと恋人になった記憶は、妄想や想像によるものではなく本物の記憶。別の世界での記憶とはいえ、ジャックと恋に落ち、愛を育み、ハーメルンの言葉から察するに大人なことまでしているらしい記憶だ。

 そんな記憶を抱えている相手、それも元からジャックにかなりの恋心を抱いているらしい相手と、これから一体どんな風に接していけば良いのか。まず間違いなく今まで通りとはいかないはず。だからこそ落胆と不安にジャックは弱音にも似た呟きを零してしまった。

 

「本当に皆と恋人になっちゃえば良いんじゃないかな? 少なくともアリスさんたちはそのつもりみたいだよ?」

「ええっ!? こ、恋人って、六人全員と!?」

 

 しかしさらりと言ってのける人魚姫の言葉に、これまで以上の驚愕と衝撃を覚えてしまう。提案そのものも勿論のこと、そんな提案をごく当たり前のことのように平然と口にする人魚姫の豪胆さにも。

 

「うん。だって皆ジャックさんと幸せに過ごした記憶があるのに、一人だけなんて可哀想だよ。その、ジャックさんたちは私とおつうちゃんよりも深い関係だったみたいだし……」

「なっ!? そ、それは聞き捨てなりませんよ、姫! 僕たちだって負けず劣らずの関係のはずです!」

 

 僅かに頬を染めて言葉を濁す人魚姫に対し、おつうが自分たちの関係の深さを主張する。自分たちだって負けていないと声高に主張する姿はなかなかに迫力があった。

 だが恐らくおつうは誤解している。人魚姫は精神的な繋がり云々の話ではなく、肉体的な繋がり云々の話をしていたのだ。

 

「えーっと……実は、そうでもないみたいなの。おつうちゃん、ちょっと耳を貸してくれるかな?」

「……なっ!?」

 

 その証拠に頬を染めた人魚姫が何事か耳打ちした所、おつうの顔は途端に真っ赤に染まっていた。

 一体何をどのように耳打ちしたのかはジャックには分からないことだが、アリスたちの記憶の中で自分が彼女達とどんな関係だったかは薄々察することが出来る。ハーメルンの爆弾発言や三姉妹がジャックのベッドを自分たち二人のベッドと主張していた辺り、それなりの爛れた関係だった可能性は否めない。

 

「そ、そういうわけなの。私も最初に聞いた時は凄くびっくりしちゃったな……」

「じゃ、ジャック……! 君という奴は、予想外にケダモノだったんだな!」

「身に覚えが無いのにそんなこと言われても困るんだけど……」

 

 顔を真っ赤に染めたおつうに失望を含んだ睨みを向けられるものの、一切の記憶も無ければ実際に行ってもいないジャックにとっては明らかな冤罪であった。それなのに容赦なくケダモノ呼ばわりされてしまい、さすがに反応に困ってしまう。

 

「えっと……それはともかく、私はジャックさんなら皆幸せにできると思うな?」

「そ、そうだね。僕の知っているジャックは愛する者たちを守るために、自分を引き裂くような奴だったからね」

「ええっ!? い、いや、それとこれとは状況が違うんじゃ……!」

 

 ケダモノ呼ばわりしてきたおつうもそこは人魚姫と同意見のようで、一つ咳払いをしてから前の世界の出来事を引き合いに出してくる。

 確かにそんなこともあったがそれとこれとは状況が違い過ぎる。あちらを建てればこちらが建たず、こちらを建てればあちらが建たない二律背反な状況なのは似ているものの、核など無い以上ジャックに求められているのはあくまでも現実的な対応だ。六人全員と交際するなどという対応は現実的というよりはふざけているとしか思えなかった。

 

(だけど……別の世界の僕とそういうことをしていた記憶を持ってるってことは、皆ある意味僕に辱められたってことだよね? しかもつうの反応を見る限りだとかなり濃厚っていうか、かなり頻繁っていうか……)

 

 しかしそれを考えるとジャックに選択権は無いように思えた。

 ジャックと恋人だったらしい別の世界のアリスたちならともかく、この世界のアリスたちはまだ仲間や友人という関係に過ぎなかった。にも関わらずジャックとアレコレした記憶を得るなど、アリスたちからすればいきなりジャックに手酷く乱暴されたようなものに違いない。例え元々ジャックへの恋心を抱いていたとしてもだ。

 

(別の世界の僕がやったことでも、男ならやっぱり……責任を取るべきだよね?)

 

 ジャック自身は潔白だと断言できるのだが、誠実な人間なら責任は取って然るべきだろう。ここで何の責任も取らなければ、自分に恋心を抱いている少女達の想いに付け込み骨の髄まで犯し尽くしたようなものなのだから。

 例えありえないくらいふざけた対応だとしても、それをアリスたちが望んでいるなら。ジャックは覚悟を決めた。

 

「……人魚姫さん、皆はもう本来の記憶を思い出したんだよね?」

「うん。ちゃんと思い出したみたいだよ。ジャックさんの恋人になった記憶はしっかり持ってるみたいだけど」

「君に辱められた記憶もね、ジャック……」

 

 だがその前に確認しておかなければならないことがあるためもう一度今の皆の状態を尋ねてみた所、先ほどと同じ答えが返って来た。ついでにおつうによる恥ずかしさと罪悪感を覚える補足まで。もしかするとおつうも言外に責任を取れと言っているのかもしれない。

 

「……うん、分かった。それじゃあアリスたちと話してみるよ。僕の恋人になりたいっていう気持ちは別の記憶に引きずられてるだけかもしれないから、その確認をしておきたいんだ」

 

 改めて覚悟を固めたジャックは、皆の気持ちを確かめるために話をしてみることにした。

 人魚姫によるとアリスたちは皆一緒に恋人にして欲しい的なことを言っていたようだが、正直なところ自分で確かめなければ納得できない。

 それにもしかしたら皆はジャックに恋心を抱いていたわけではなく、別の世界の記憶に引っ張られてそう錯覚しているだけかもしれないのだ。尤もその場合は想いが無いのに願いが叶ってしまったという矛盾に陥るため、こちらは可能性が薄そうだが。

 

「じゃあ、引きずられてるわけじゃなかったらジャックさんは皆と恋人になるの?」

「そ、それは、まあ……僕はそのつもりだよ。どこかの世界の僕がやったことの責任を取れるのは、僕しかいないわけだしね」

「それでこそ僕の知るジャックだ。健闘を祈ってるよ、ジャック。願わくば君が彼女達と幸せな関係を築けることを。そう、まるで僕と姫のようなね?」

 

 関係の深さで負けたことが悔しかったのか、最後に自信満々に付け加えてくるおつう。そんな微妙に負けず嫌いな所に微笑ましさを覚えて笑うジャックを、二人はにこやかな笑みで送り出してくれた。

 これから六人もの恋人を作りに行く罪深いジャックを、応援するような優しい笑顔で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふっ。皆ジャックさんの恋人になれると良いね、おつうちゃん」

 

 ジャックが部屋から去った後、おつうににっこりと微笑みかけてくる人魚姫。

 六人もの少女が同時に一人の少年の恋人になれることを願うのは何かがおかしい気がしたものの、純粋に皆の幸せを願っている故の言葉なのはその微笑みを見ただけで分かった。

 

「うん、僕もそう思うよ。前の世界では僕のせいで皆を不幸な目に合わせてしまったから、できればジャックたちには幸せになって欲しいからね」

「もうっ、おつうちゃんったらまたそんなこと言って……」

 

 同意するも思わず罪の意識まで口にしてしまったせいで、僅かに頬を膨らませた人魚姫に睨まれる。しかしそんな風にちょっぴり怒りを露にする様子も可憐で可愛らしく、思わず頬を緩ませてしまうおつうだった。

 

「あ、そうだ。ねえおつうちゃん、私ちょっと気になってることがあるんだ」

「何でしょう、姫? この僕に答えられることならば、何でもお答えしますよ」

「アリスさんたちはジャックさんへの恋心が原因で、ウィッチクラフトの力の残滓を引き寄せちゃったんだよね? それで想いが中途半端に実る形で、ジャックさんと結ばれた別の世界の自分の記憶を持っちゃったってことで良いんだよね?」

「ええ、その認識に間違いはありませんよ」

 

 人魚姫の確認にこくりと頷く。

 確固たる証拠があるわけではないのだが、状況から言ってそれしか原因が考えられないのだ。そうでなければ別の世界の記憶を得たりすることなどあり得ないのだから。

 

「じゃあ、アリスさんたちの他にもジャックさんに恋してる子はいるのかな? 残った力で願いを叶えられたのは六人分だけで、叶わなかっただけの子がいても不思議じゃないよね?」

「それは――」

 

 疑問を投げかけられ、おつうは言葉に詰まってしまう。何故なら目先の問題であるアリスたち六人のことを考えるあまり、完全に失念していたからだ。

 六人の想いを中途半端に叶えた力は所詮は残滓。そしてジャックは同時に六人もの少女に想いを寄せられていた。それなら想いを叶えるほどの力が残っていなかっただけで、あの六人以外にもジャックに想いを寄せている少女がいたとしても何ら不思議ではない。

 

「――可能性はありそうだね。力の残滓で願いが叶ったのは六人だけど、あのハーメルンまでもがジャックに恋をしていたんだ。シンデレラやグレーテルあたりがジャックに恋愛感情を寄せていたとしても、僕はもう驚かないよ」

「やっぱりそうかもしれないんだ。ジャックさん、凄くモテモテだね?」

「全く、ジャックは予想外にケダモノな奴だったんだな。そんな奴だとは思わなかったよ……」

 

 くすくす笑う人魚姫の様子を横目に眺めつつ、おつうは思い出し笑いならぬ思い出し怒りを覚える。

 先ほど人魚姫から耳打ちされたのはハーメルンが恥じらいながらも話してくれたという、ジャックとハーメルンの大人な関係についてだ。一応ぼかして伝えられたものの、かなり頻繁かつ濃厚なものなのは疑いようも無かった。おつうもまさかそこまで深い関係だとは思っていなかったため、驚きのあまりケダモノ呼ばわりすらしてしまった。

 

(と言っても、本当の所は姫に耳元で囁かれてちょっとドキドキしたのも原因かもしれない……)

 

 ぽっと頬を染めた人魚姫に、少し大人な内容の話を耳元で囁かれる。そんなことをされて平静でいられるわけがなかった。ジャックへの言葉が多少キツくなってしまったのはどちらかと言えばそれが原因である。

 尤も正直に言えるわけもないし、ジャックがケダモノなのは事実のようなので今更訂正する気は無いが。

 

「……そう言うおつうちゃんは、どうなの?」

「ど、どう、とは? どういう意味ですか、姫?」

 

 しかし何か思うところがあるのか、人魚姫が尋ねてくる。それも可憐にも頬を赤らめながら。

 唐突だったので反射的に尋ね返してしまったものの、その表情で何を言わんとしているのかは自然と察せた。

 

「その、おつうちゃんはケダモノって言ってるけど、大好きな人ともっと深く繋がりたいって思うのは当然のことだよ。それで幸せになれて、き、気持ち良くなれたりするなら、なおさらだと思うな?」

「た、確かにそうですが……」

 

 愛する人にもっと触れたい。心も身体ももっと深く繋がりたい。そういう気持ちは十分に理解できるし、おつうもそれを否定したわけではない。

 しかし愛する人魚姫に耳元でエッチな話を囁かれたせいでドキドキして、それを隠すためにジャックに当たったとは言えるわけもなかった。故におつうはそこで言葉に詰まり、何も言えなくなってしまう。

 

「おつうちゃんはそういうこと、興味ないの? 私の身体じゃあ、そんな気にならないのかな?」

「い、いえ、そんなことはありません! 僕だって叶うならば一糸纏わぬ姫のお身体を眺めたり触れたりしてみたいです!」

 

 だが愛する人魚姫の美しい面差しが不安に曇ったため、反射的にそれを払う言葉を口にしてしまう。何も考えずに本音を、しかも力いっぱい。

 

「……あ、ああぁぁぁぁぁ!?」

 

 一拍置いて自分が口にした言葉に気が付くも、すでに後の祭りであった。ちょっとした羞恥の叫びを上げてしまうおつうの前で、全てを聞いた人魚姫は一層頬の赤みを深めていた。

 

「そ、そうなんだ。良かった、私お嫁さんなのに魅力的に思われてなかったらどうしようかと思ってたよ……」

 

 しかし恥ずかしそうではあるものの、そこはかとなく嬉しそうでもある。

 人魚姫からすれば愛する王子様に魅力的だと言われたのに等しいのだから当たり前かもしれないが、その王子様の台詞はだいぶ欲望に塗れていたような気がする。この反応からするとそれでも構わないと思われるくらい、おつうは愛されているようだ。

 

「と、とにかく! 僕たちはジャックが頑張っている間に他の皆に事情を説明しにいこうか! グレーテルあたりは原因に察しがついていそうな気もするけどね!」

「うん、そうだね。それじゃあ行こっか、おつうちゃん」

 

 欲望塗れの本音を晒した気恥ずかしさを、話を変えることで全力で振り払う。

 蒸し返されたら余計に気恥ずかしくなりそうだが、幸いと言って良いのか人魚姫はくすりと笑っただけで特に蒸し返したりはしてこなかった。

 ただしその代わり――

 

「――おつうちゃん、私はいつでも大丈夫だからね?」

「なっ……!?」

 

 ――耳元で意味深な言葉を囁いてきた。実に甘美で至福に満ち溢れた、誘惑染みた言葉を。

 

「ひ、姫っ!? 今のは一体、どういう意味で……!?」

「ジャックさんたちが恋人同士になったら皆びっくりするだろうなぁ。ほら、早く皆の所に行こう、おつうちゃん?」

「ああっ!? お、お待ちください、姫!」

 

 あまりの衝撃に再び尋ね返すものの、人魚姫は答えずおつうの手を引っ張るようにして歩かせる。その様子はいつも通りで特に変ったところはどこにも無い。

 もしや先ほどの囁きは幻聴だったのだろうか。自分の欲望が産みだした都合の良い妄想だったのだろうか。ジャックをケダモノ呼ばわりしておきながら、そう疑わずにはいられないおつうであった。

 

 

 





 想いを叶える力って便利ですね、ネタ作り的な意味で。だいぶこじつけな気がしないでもないですけど。
 なお、リメイク版の余章基準なので当然おつうと人魚姫の夫婦もいます。機会があればこの二人もイチャつかせてみようかなと思っています。百合は書いたことないので勉強にもちょうど良いですし。
 次回、ハーレム形成のお話。しかしハーレムなのに何度見返してもジャックが幸せそうに見えないのは何故なのか……。


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