タイトルが全てを物語る回。これでイチャラブの前準備がほぼ整う回です。
言っても仕方ありませんが、やっぱりこの展開をもっと早くに思い浮かべられなかったことが悔やまれます。ジャック×赤ずきんはある意味こっちの方が話が進んでいますし……。
(うぅっ、何か凄く緊張するなぁ……)
おつうと人魚姫の応援を受けて部屋を出たジャックは、別の世界の記憶を得てしまった六人が隔離されている部屋の前に立っていた。
しかし中に入る決意は未だに固まっていない。とはいえそれも仕方が無いこと。中にいる六人はジャックと恋に落ち、愛を育み、あまつさえ大人な触れ合いを重ねたであろう記憶を持っているのだ。ジャック自身に記憶が無いとは言え、果たしてどんな顔を見せれば良いものか皆目見当が付かなかった。
(……悩んでても仕方ないか。覚悟を決めろ、僕!)
答えは出そうに無いため、やがてジャックは諦めの混じった覚悟を決めた。
そうして扉を軽くノックしてから、押し開けて中へと足を踏み入れる。目に入ってきたのは当然ながら部屋の中にいた六人の姿。ベッドに腰かけた親指姫三姉妹に、椅子に腰かけたアリス。壁に背を預けて立っている赤ずきんに、床に座り込んでいるハーメルン。
手持ち無沙汰だったのか皆それぞれ待ち方に違いがあったものの、部屋に入ってきたジャックへの反応は皆同じであった。
「――ジャック!」
安堵にも近い喜びを感じさせる表情で皆がジャックの名を呼ぶ。それも見間違いでなければ瞳さえ輝かせながら。
アリスたちからすると訳の分からない状況に不安を感じていた所に大好きな恋人が来てくれたのと同じ状況のはずだ。そんな反応も仕方ない。
「……あ」
ただし人魚姫が言うには、皆は自分の本当の記憶もしっかり思い出している。だからこそ皆すぐに罰が悪そうな顔をして視線を逸らしてしまったのだろう。今さっき皆がジャックに向けてきた熱い視線は、明らかに仲間や友達や幼なじみに向けるものではなかったから。
「え、えっと……その、何から話せば良いのかな……」
そんな複雑そうな顔をする六人を前に、ジャックは何とか状況の説明をしようとする。
しかしそれは皆が胸に抱えているジャックへの想いを暴き立てることに他ならない。それも同じ気持ちを抱いている五人と、他ならぬジャックの目の前で。なのでさすがに話を始めるのには躊躇いがあり、結局ジャックも無言で視線を逸らしてしまった。
「ジャック……一つ、聞いても良いかしら?」
「えっ!? あっ、ど、どうしたの、アリス?」
皆が気まずい沈黙に口を閉ざす中、不意にアリスが声をかけてくる。得てしまった記憶の内容故にジャックと顔を合わせるのはやはり気まずいのか、ちょっと頬を赤く染めながら。
「その、私たちに別の世界の記憶があるのは、あの白い核……ウィッチクラフトが原因と考えて良いのよね?」
「あ、うん。たぶん、そうだと思う。つうも僕も同じような考えだったからね」
どうやらアリスも原因の見当はついていたらしく、自分の考えが正しいかどうかを尋ねてきた。聡明なアリスなら原因に思い至っても不思議ではないが、まさか本当に自分で結論に辿り着くとは。
「それならすでに皆にも同じ話をしてあるから、おおよその状況はすでに掴めているわ。というよりも今の私たちの状況を説明できるものがそれしかなかったから、思いついた私が待っている間に皆に話しただけなのだけれど……」
「そ、そうなんだ。でも助かったよ、ありがとうアリス」
「どういたしまして。ジャックの力になれたのならとても嬉しいわ。ふふっ」
驚きと感心を覚えながらお礼を言うと、アリスはとても嬉しそうに顔を綻ばせる。
難しい状況説明を済ませてくれたのは実に有難いことだ。しかしジャックの力になれた程度でいっそ幸せそうなくらい嬉しそうにしているのは、やはり恋人だった記憶に引っ張られているせいなのだろうか。それとも――
「でも、どういう想いが原因でそうなったかっていうことは分かってるの……?」
――記憶を得る前からジャックに恋をしていたからか。いずれにせよそこは確かめなければならないので、まずはアリスにその問いを投げかける。
これにはさしものアリスも頬の赤みを深めて視線を逸らしたものの、その反応は一瞬だけ。もう一度こちらに向けられた金の瞳には、ある種の決意や潔さが浮かんでいた。
「……恋心、なんだと思うわ。今まではこれが恋心だとは気が付かなかったけれど、この記憶を得たことでそれが分かったの。あなたとずっと一緒にいたい。ずっと隣であなたの笑顔を見ていたい。私があなたに抱いていた数々の気持ちが、恋愛感情なのだということに……」
「あ、アリス……」
そうして返ってきた答えは、間違いなくジャックへの告白であった。それもかなり真摯で真っ直ぐな告白。そんな風に想われている喜びに心臓はうるさいくらいに速く鼓動し、ジャックは二の句が告げなくなってしまう。
「え、っと……それは、他の皆も同じなの?」
しかしここで終わらせてはいけない。気持ちを確認するべき女の子はまだあと五人いる。故にジャックはアリスから視線を外すと、残りの五人の姿を瞳に収めた。程度に差はあれ顔を赤くしながらも、アリスの告白に勇気を貰ったかのような決意に満ちた表情の五人を。
「たぶん、あたしは同じだよ。あたしも恋とか良く分かんなかったけど、この記憶のおかげでそうなんだって分かった感じかな……」
「し、白雪は、そのぉ……以前から分かってはいたんですけど、勇気が無かったと言うか……うぅ……!」
「ん……ボクも、前から……!」
「ワレはまず恋というものが何かも知らなかったのだが、この別世界の記憶とやらのおかげで完璧に理解してしまったぞ。ワレは間違いなくジャックに恋しているのだということにな」
(うわぁ、やっぱり! しかもハーメルンまで!?)
そして赤ずきんを皮切りに、皆次々に胸の内の気持ちを吐露して行く。今回のことでジャックに抱いている気持ちが恋愛感情だと気付いた、あるいは以前から恋愛感情を抱いていたと。
何人もの少女たちに想いを寄せられていた事実も驚きだが、ハーメルンが恋をしているという状況にも驚きだ。別の世界のジャックは一体どんな経緯を辿ってハーメルンと恋仲になったのだろうか。というか何故未だにシーツを身体に巻いているのか。
「私は違うわよ!? べ、別に私は、ジャックなんかに恋なんてしてないんだからね!」
しかし驚愕に固まっていたのも束の間、唯一親指姫だけはジャックへの恋を否定していた。怒りか恥じらいか顔を真っ赤にして、小生意気に踏ん反り返って。
(親指姫は違うのかな? でも照れ屋で素直じゃない所もあるし、もしかしたら認めるのが恥ずかしいだけとか……?)
天邪鬼な所がある親指姫の事なので、もしかしたら自分の気持ちとは正反対のことを言っているのかもしれない。別の世界の記憶を得てしまった他の五人が揃ってジャックに想いを寄せていた辺り、むしろその可能性の方が高そうだ。
ただジャックは皆にモテモテだと自負している自惚れ屋ではないので、いまいち判断を付けられなかった。
「そうなんだ……そ、それじゃあ、本当に僕と恋人になりたいって人は、いるのかな……?」
なので親指姫の本音に関してはひとまず後回しにして、最も重要なことを皆に尋ねる。すなわち本当に自分と恋人になりたいのか、ということを。
普通に考えればこんな言い方をされて恋人になりたいと言う女の子はいないだろう。実際ジャックの言葉に誰も手は上げなかった。上げはしなかったが、皆は他の少女たちと不安げに視線を向け合っていた。まるで他の皆のことを考えたため、手を上げることに躊躇いを覚えているかのように。
ここにいるのは皆心優しい少女たち。だからこそ例え本当にジャックの恋人になりたいと思っていても、自分一人だけ幸せになるような真似はしたくないのかもしれない。ならばやはりこれも言っておかなければ。
「こんなこと聞くのはどうかと思うんだけど、君たちはただ僕と恋人だったってわけじゃなくて、その……大人なこともいっぱい、してたんだよね?」
「……っ!」
その問いを口にした瞬間、六人の顔が今までで一番真っ赤に染まる。もちろんハーメルンも含めてだ。答えが無くともその反応だけで容易に察することが出来た。
「な、何てこと聞きやがんのよあんたは!? そんなこと聞くとか正気なの!?」
「ご、ごめん! 聞いておいた方が、僕も決心がつくと思ったんだ……僕には身に覚えの無いことだし、別の世界の僕がやったことだけど……君達からすれば僕に辱められたようなものだから、責任はちゃんと取りたいんだ。一人じゃなくて、皆の責任を」
「……皆、一緒に……もらって、くれるの……?」
誠意を込めた言葉に最初に反応したのは眠り姫。ちょっと意外そうな表情と言葉から察するに、やはり自分一人だけでは手を上げるのに躊躇いがあったようだ。
「う、うん。僕はそのつもりだよ。君たちがそんな関係でも良いって言ってくれるならの話だけど……」
あまりにも偉そうで上から目線の発言に自分で罰が悪くなってしまうジャック。今から六人もの少女を同時に恋人にしようとしているのだから、本当なら偉そうとかそういうレベルの話ではない。
皆ジャックの言葉に再び顔を見合わせていたが、先ほどとは異なり誰の顔にも不安は浮かんでいなかった――白雪姫以外は。
「あ、あの、ジャックさん。一つだけ、お聞きしても良いですか?」
「うん。何が聞きたいの?」
「白雪たちのジャックさんへの想いは、もうバレてしまったみたいですけど……ジャックさんの方はどうなんでしょうか? 白雪たちのことは、どう想っていますか……?」
不安を浮かべたまま尋ねてくる白雪姫。その内容に皆感じるところがあるに違いない。全員が再び表情に不安を浮かべ、ジャックに視線を向けてきた。
相手が一人なら自分も好きだと答えればそれで安心してくれることだろう。だが今ジャックに不安の揺れる瞳を向けて来ているのは計六人。六人とも好きだと言っても信じてもらえるかどうかは疑わしい。
それにジャックは今からその六人と恋仲になるつもりなのだ。事情はどうあれそんな不誠実極まりない関係になろうとしているのだから、他の所では誠実さを見せなければならない。
「僕は……正直な所、良く分からないや。恋愛なんて考えたこともなかったから。もしかしたら僕が気が付かないだけで君たち全員に恋してるのかもしれないけど、君たち以外の誰かに恋してるってこともあるかもしれないし……」
だからこそジャックは正直な気持ちを包み隠さずに答えた。そもそも恋愛に関して考えたことが無いと言う事実も、アリスたち以外の誰かに恋をしている可能性もあるという事実も。
この答えに皆少々複雑そうな顔をしていたものの、一人だけ逆に安堵の表情を見せた少女がいた。それは頼りになる皆のお姉さんである赤ずきんだ。
「あははっ、どこのジャックも言うことは同じだ。変わらず正直で何か逆に安心したよ」
「えっ? な、何が?」
「あ、気にしないで良いよ。あたしの独り言だからね、独り言」
(そんな表情されると凄く気になるんだけど……)
安堵を見せたかと思えば、今度はおかしなニヤニヤ笑いを向けてくる。馬鹿にされている、というよりはどちらかといえば微笑ましそうな感じの。
尤もジャックには赤ずきんと恋人になった世界の記憶は無いので、どうしてそんな笑いを向けてくるのかはさっぱり分からない。本人が口にした通り、ジャックが変わらず正直だから安心したというのだろうか。
「でもさジャック、そんな無理に責任なんか取らなくて良いんだよ? そりゃあ変なこといっぱいされた記憶があるからどうせなら取って欲しい気持ちはあるけど、あんたの意思をないがしろにはしたくないよ……」
「確かにワレらに何か不満がある状態で無理やり責任を取らせるのは正しくない気がするな……その、アレだ。やはりお互い合意の上が一番良かりょう……」
頬を染め、もじもじと恥ずかしそうに悶えながら言う赤ずきんとハーメルン。こう言ってはかなり失礼だがこの二人がとても女の子らしく恥ずかしそうに悶える姿は、ジャックにとってはかなり衝撃的であった。
(恥ずかしがる赤ずきんさんもハーメルンも、何か凄く可愛いな……)
そしてかなり胸を高鳴らせる光景でもあった。強くて格好良い様子ばかりが目立つ赤ずきんと、生活環境故に多少常識に欠けているハーメルンがここまで女の子っぽく恥らう様子を見せているのだ。ギャップが凄くてジャックの心臓はうるさく高鳴っていた。
二人のこんな可愛さを見せられてしまえば、それぞれの世界で恋人に選んだ理由も多少は納得である。まあどういった経緯で恋人になったのかは知らないので、本当の所は良く分からないが。
「別に僕だって流されたりしてるわけじゃないし、不満があるわけでもないよ。だって皆凄く可愛い女の子だから喜べることは幾つでもあるけど、不満なんてどこにもないしね。正直に言わせてもらうとこんなに可愛い女の子たち皆と恋人になれるなら、喜んで責任を取らせてもらいたいくらいだよ……」
ジャックの意思を知りたい少女達に、そんな本音を投げかける。決して嫌ではない、むしろとても嬉しいのだということを。
だいぶ不誠実極まりない本音だが男なら多分仕方ない気持ちだろうし、何よりこれを伝えなければジャック自身の気持ちが蔑ろになっているとずっと皆を悩ませかねない。なのでちょっとくらい軽蔑されるのは覚悟でこの本音を伝えた。
「……やっぱどこの世界でもジャックはケダモノなのね」
「親指のとこでもそうなの? あたしのとこでもやっぱケダモノだよ……」
「ケダモノ……ああ、そういう意味であるか。うむ、確かにジャックはケダモノであるな……」
「……ん……ん……!」
「な、納得しちゃうんだ、皆……」
しかし軽蔑こそされなかったものの、皆頬を染めてジャックをケダモノ呼ばわりしてくる。皆それぞれ別の世界でジャックに結ばれた記憶を持っているはずなのに、そこだけは完璧に一致しているらしい。
「……僕ってそんなにケダモノだったの?」
「ご、ごめんなさい、ジャック。私の口からはとても……」
「あ、あの、その……ごめんなさい、ジャックさん!」
(誰も否定してくれない!? 一体恋人ができた僕は何をやってたんだ!?)
不安に思ってまだ何も口にしていなかったアリスと白雪姫に目を向けると、アリスには瞳を逸らされ、白雪姫には全力で頭を下げられる。皆の意見に同調こそしていないものの、だいぶ頬が赤いし否定もしてくれないので多分同じ意見なのだろう。
確かに皆魅力的な少女たちなのでケダモノになってしまうのも分からなくはないが、六人全員の記憶の中で例外なくケダモノというのはいかがなものか。
「ま、まあ、それはともかく。そういうことならあたしは問題ないよ。またジャックを自分に惚れさせれば良いだけの話だしね。あたしの他に五人もいる所を除けば似たような展開だし、これは記憶を有効活用できそうだよ!」
皆の気持ちがジャックはケダモノという一点に収束した所で、赤ずきんが気を取り直すように笑って手を挙げる。
一瞬何をやっているのか分からなかったが、先ほどの自分の言葉を思い出してすぐに理解した。本当に自分の恋人になりたい人はいるのかという問いに対して手を挙げ、肯定を示しているのだと。真っ先に手を挙げたのが赤ずきんだったことに対して、当然ながらジャックは並々ならぬ驚きを覚えた。
(また、ってことは一度経験した記憶を持ってるってことだよね? もしかして、赤ずきんさんと恋人になった世界だと僕は赤ずきんさんから告白されたってこと?)
しかし一番驚いているのは発言の内容の方だ。展開がほぼ同じだとか、また自分に惚れさせれば良いだけの話だとかの方。ジャックの考えが正しければ、それは赤ずきんが得た別の世界の記憶では赤ずきんの方からジャックに告白をしたということに他ならない。
告白したりされたりと人によって違う記憶と人魚姫が言っていたし、ジャックが告白された方の世界があっても不思議ではないが、まさかあの赤ずきんから告白されたりするだろうか。
「……ん……皆一緒なら、ボクも……!」
「ワレだけでないのは多少思う所はあったが、皆にワレと似たような記憶があるのなら致し方ないな! あれほどの幸せを手放せる者などおらぬだろうからにゃ! ……な!!」
「その……私も、ジャックが迷惑でないのなら……」
「あ、ぅ……白雪も、お願いします……」
(うわぁ! これで一気に五人も恋人ができちゃった……これから一体どうなるのかな、僕の生活は……)
赤ずきんの発言に対して頭を悩ませている間に、次々に手が挙がっていく。
とはいえこんな不誠実極まりない関係を認め加わることに思う所はあるのか、皆恥ずかしそうだしどこか複雑そうだ。まあ何故か眠り姫とハーメルンだけは満面の笑みであったが。
「で、親指はどうするのさ? このままだとあんただけ仲間外れだよ」
「わ、私!? 私は別にジャックのことなんか何とも思ってないって言ったじゃない! こんなケダモノ、大っ嫌いよ!」
(け、ケダモノ……)
六人の中で唯一手を上げていないのは親指姫。相変わらず頬を染めて瞳を鋭くして、むしろジャックを毛嫌いしているかのような言葉を投げかけてくる。これは照れ隠しで本当は好き、と思いたい所だがそう考えるのはさすがに自惚れが過ぎる気がした。
「意地張ってないで素直になりなよ、親指。同じ男を好きになった女なんだ。あんたが本当はどう思ってるかくらい、ここにいる連中は皆分かってるよ」
「親指姉様……」
「んー……」
(言ったら失礼だから言わないけど、赤ずきんさんの今の台詞男らしくてカッコいいなぁ……ていうか、やっぱり親指姫も僕のことが好きってこと……?)
赤ずきんの台詞に白雪姫と眠り姫が不安げな視線を姉に向け、ジャックは男らしい台詞にちょっと憧れを深めてしまう。
赤ずきんの言うことが正しいのなら、親指姫も本当はジャックのことが好きということなのだろう。つまり先ほど大嫌いと言ったのは単なる照れ隠し。相手に好意を抱いていても素直になれないその天邪鬼加減、何だかとても微笑ましく思ってしまう。
「……で、でも! あんたが私の妹たちに変なことしないように見張る必要があるわ! だから私もあんたのハーレムに加わってやろうじゃない! か、勘違いしないでよね! 別にあんたのことが好きだからじゃなくて、あんたを見張るためなんだから!」
赤ずきんと妹二人に諭された結果か、手こそ挙げなかったものの親指姫も関係に加わることに決めたらしい。それでも顔を赤くして必死に好意を否定しているあたり、いっそ見上げた天邪鬼加減である。
(ていうか、ハーレムって……いや、実際そうなのかな。これ……)
ジャック一人が少女六人と同時に交際する。しかも向こうは全員こちらのことが好き。端的に言えば確かにハーレムとしか表現のしようがない。
酷い罪悪感を覚える反面、微かとはいえ男としての優越感のようなものを感じてしまうジャックだった。
「う、うん。それじゃあ皆、これからよろしくね? その、恋人として……」
しかしこんな状況になってしまった以上は仕方が無い。故にジャックは全てを諦め、受け入れた。
別の世界の自分が起したことなのにその尻拭いを自分がやるのは多少納得行かないものがあるものの、元はといえばアリスたちに想いを寄せられていることに気がつかなかった自分が悪いのだ。まあ気が付いていたとしても何かできたとは到底思えないのだが。
「……ええ。こちらこそよろしく、ジャック。あなたの知らない私の一面をたくさん見せることになるだろうけれど、優しく受け止めてもらえたら嬉しいわ」
「あたしもあんたには色々驚く姿を見せることになるだろうね。ちょっと恥ずかしいけど、ジャックがびっくりする様を生で見られるのは楽しみだよ!」
「状況はかなり違うが、これからは本当にこの記憶のような体験ができるわけだな。ふふっ、ワレも実に楽しみでありゅ……あるぞ!」
「う、嬉しいですけど……白雪、とっても恥ずかしいです……!」
「い、言っとくけど! いきなりケダモノなことなんて絶対させないからね! 恋人がいっぱいできたからって調子乗んじゃないわよ!」
「う、うん。もちろん分かってるよ……」
喜びや恥じらい、怒りといった思い思いの反応を示す少女たち。そんな少女たちを眺めながら、ジャックはこれからの日々を考える。
恋人になったということは当然恋人らしくならなければいけないということ。相手が求める理想の恋人像にもある程度は近づかなければいけないということ。あんまり男らしくないジャックは相手が一人でも大変そうなのに、総勢六人も相手がいるのだ。果たしてアリスたちの望みや理想を汲んで、全員の理想の恋人になれるのだろうか。それを考えると最早不安しか沸いてこなかった。
「……ジャック……ジャック……」
「うん? どうしたの、眠り姫?」
そんな不安に頭を悩ませていた所、眠り姫が近寄ってきた。頬を微妙に赤らめつつ微笑みを浮かべながらという何とも可愛らしい表情で。
そんな可愛らしい表情に目を惹かれていたせいでジャックは油断していたのだろう。あるいは色々あり過ぎて気が抜けていたというべきか。そのまま眠り姫にほとんど密着に等しい距離まで近づかれ――
「……これから、よろしく……ジャック――んっ」
「――っ!?」
――優しく唇を奪われた。柔らかくて瑞々しい唇をたおやかに押し当てられて。
「ね、眠り姫!? 一体、何を……!?」
「……ん……キス、だよ……?」
混乱と燃え上がるような顔の熱さを感じてすぐに離れるものの、眠り姫は何でも無いことのように言って小首を傾げている。
眠り姫たちにとってはキスくらい何でもないように思えるほど色々なことをされた記憶があるのかもしれないが、ジャックにとっては今のが初めてのキスなのだ。戸惑いと羞恥を抑えることはさすがにできなかった。
「あのさ、今のってもしかしなくてもファーストキスだよね? ネムにとっても、ジャックにとっても……」
「えっ……」
そんな赤ずきんの指摘が入り、皆が目を丸くする。キスしてきた眠り姫も気が付いていなかったらしく、同様に目を丸くしてから頬を染めていた。この反応を見る限り純粋に気が付かなかったというより、別の記憶と多少混同してしまっていたのだろう。
「なん、ですって……!」
(あ、アリスの目の色が変わった……!?)
目の錯覚かもしれないが、ファーストキス宣言にほんの一瞬アリスの瞳がピンクに揺れる。状況から言ってジャックのファーストキスが奪われたことに思う所があるに違いないのだが、まさか若干の穢れが溜まるほどだとは完全に予想外だった。
まあ考えてみれば自分の恋人が他の女の子とキスしたのだから、いくらこの関係を受け入れていても気持ちを割り切ることは難しいのだろう。どちらかといえば論理的なタイプのアリスであるからこそ余計に。
(僕とアリスたちだけじゃなくて、アリスや眠り姫たちもお互いに仲良くしていられるようにしないといけないんだよね? ぼ、僕に出来るかなぁ、そんな器用なこと……)
六人の少女達と同時に愛を築きつつ、少女たちの間で軋轢や仲違いが生じることがないように尽力する。すべきことは分かっているものの、それが恋愛経験など全く無い自分に本当にできるのか。はっきり言って不安しかないジャックであった。
尤も魅力的な六人の少女達を全員恋人にできたことに、ほんの少しくらいは喜びもあるのだが。
めでたくハーレム形成。良かったね、ジャック!
このシリーズはどちらかといえば過程のイチャラブよりも結末のイチャラブを重視しています。つまりは恋人になるまでのイチャラブではなく、恋人となってからのイチャラブを。なのですぐに皆ジャックとイチャイチャし始める予定です。まあ、どこかのツンデレお姉様はちょっと難しいかもしれませんけど……。
次回からは六人の血式少女それぞれのジャックとの馴れ初めを語らせつつイチャイチャさせる予定です。ただ赤姉と親指姉様に関しては語る必要性が薄いので語らないと思いますが。