ジャック・ザ・ハーレム   作:サイエンティスト

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 馴れ初め、その3。今回は白雪姫。
 赤姉の馴れ初めに関しては個別のお話があるので省略しました。知りたい方はそっちを読みましょう(露骨な宣伝)。親指姉様の馴れ初めに関しても個別のお話があるので、あとはアリスの馴れ初めですね。



ジャックとの馴れ初め(白雪姫編)

 

 ハーメルンがジャックとの馴れ初めを語り終え、次いで馴れ初めを語ることになったのは赤ずきん。

 やはり赤ずきんが告白した側であったため、ジャックは相当度肝を抜かれることになってしまった。ある程度予想していたとはいえ、さすがにその事実を突きつけられると衝撃は大きい。

 とはいえ衝撃を受けたのはジャックだけというわけではなかったらしく、赤ずきんの語りが終わってからは質問タイム的な時間が始まった。もちろん何人かは驚愕の他に期待と喜びに瞳を輝かせていたのは言うまでもない。

 できればジャックももっと話を聞いていたかったのだが、残念ながらその場に同席することはできなかった。何故なら次に馴れ初めを語ることになった少女が、まずはジャックにだけ聞いてもらいたいと頼んできたからだ。

 

「う、うぅ……!」

 

 その少女――白雪姫はベッドに座り込み恥ずかしそうに縮こまっている。これから自分の恋のお話を語るのだとすれば、女の子としては当然の反応かもしれない。

 ちなみに場所は白雪姫の部屋だ。ジャックの部屋はまだ眠り姫がベッドでぐっすり眠っているはずなので、気持ち良く眠っている所を邪魔したくはなかった。まあ本当は眠り姫に対して不埒な行為を働きかけたので、今はちょっと顔を合わせにくいという理由が無くも無い。

 

「ねぇ、白雪姫。話すのが恥ずかしいなら別に僕には話さなくても良いんだよ?」

「い、いえ、大丈夫です! というより、ジャックさんには先に聞いて頂きたいんです!」

「う、うん。そっか……」

 

 見かねて声をかけた所、力強い答えと決意の眼差しが返ってくる。ただし頬はかなり赤く染まっているため、羞恥を感じているのは明らかだ。

 無理をしているように見えなくも無いが、白雪姫もまたジャックにベッドで色々されたであろう記憶を持っている少女。その羞恥に耐えられたのだからさほど問題は無いのかもしれない。

 

「それで、白雪姫はどうして僕と恋人になったの?」

 

 なので話を聞くことにしたジャックは隣に腰を降ろしてからそれを尋ねる。

 恥じらいを堪えるようにしばらく視線を彷徨わせていた白雪姫だが、やがてしっかりとこちらに瞳を向けて口を開いた。

 

「……その、お話しする前に聞いておきたいんですけど、ジャックさんは……白雪のこと、ぽっちゃりしてるって思いますか?」

「えっ? 別にそんなこと思ってないよ。でも、それがどうかしたの?」

 

 しかしかけられた言葉は不思議な質問であった。自分は太って見えるかどうかという、あまり関係の無さそうな質問。

 一瞬首を捻ってしまうも、もちろんジャックは正直に答える。すると白雪姫はまたしても恥じらいに頬を染めたものの、今度は比較的頬の赤みは薄かった。むしろ照れ笑いに近い感じの恥じらいである。

 

「そのぉ……実はそれが白雪とジャックさんの恋に関係があることなので、予め聞いておきたかったと言いますか……」

「そ、そうなんだ。でも一体どう関係があるの? 君の記憶の中の僕だって、同じことを言ったんだよね?」

 

 別の世界のジャックも他ならぬジャック自身。言うこと為すこと自分と同じだということは眠り姫やハーメルン、そして赤ずきんの話を聞いてすでに理解している。

 白雪姫はしばらくもじもじと視線を彷徨わせていたが、やがて決心がついたのだろう。視線を自らの膝へ落し、ついに口を開き始めた。

 

「……実はですね、時々血式少女隊の皆で身体測定をしているんです。制服のサイズ直しなども兼ねてのことなんですけど、それが白雪とジャックさんの恋のきっかけになったんですよ」

「えっ、君たちの身体測定がきっかけに?」

「はい。実は白雪はその時の身体測定でまたしても思い知らされてしまったんです。やっぱり自分は皆と違って、ぽっちゃりさんだなぁと……なので白雪はその後お部屋で一人落ち込んでいたんです」

 

 首を傾げてしまうジャックの隣で更に続けていく白雪姫。その視線が自らの膝というより、お腹や太股に向けられているように見えるのはたぶん気のせいではないのだろう。

 

「でもその時ちょうどジャックさんが訪ねてきまして、その様子を見かねて優しく慰めてくれたんですよ」

「そ、そうなんだ。それは良かったね?」

 

 見かねて慰めの言葉をかけてあげようとした所、その前に顔を上げて満面の笑みを向けてくる。

 眩しさと可愛らしさに溢れた笑顔を前にして一瞬言葉に詰まってしまうジャックだったが、幸いなことに白雪姫は特に疑問に思わなかったらしい。贅沢な悩みに違いないが恋人が皆可愛くて少々困っているジャックであった。

 

「でも、それって事情を知ってて慰めたの? もしかして何も知らないまま慰めてたとか……」

「あ、白雪がジャックさんにお話ししました。どうしてそんなに落ち込んでいるのか事情を聞かせて欲しいと、凄く真摯に言ってくださったので」

「そ、そうなんだ……ごめんね? 別の世界の僕、デリカシーが無くて……」

「い、いえ! 白雪も誰かに聞いて欲しいと思っていましたから気にしないで下さい! それに結果としてはジャックさんのその優しさのおかげで、白雪は恋を叶えられたんですから!」

 

 非常にプライベートかつ話しにくい事柄を追求した別世界の自分の悪事を謝罪するものの、白雪姫は全く気にした様子も無くむしろ慌てて否定してくれる。

 そんな失礼な真似をした記憶はないので、やはりこれこそが白雪姫との馴れ初めなのだろう。まあ同じ状況に遭遇したら同じく慰めてしまうのは自分でも予想が付くが。

 

「うーん、そこからどう恋に繋がるのかは良く分からないなぁ。一体何があったの?」

「実はその後、白雪は思わずこんな独り言を零しちゃったんです。『こんなぽっちゃりした情けない白雪じゃあ、恋が叶うのは夢のまた夢です』って……」

「恋、って……も、もしかして、僕への……?」

 

 皆の意思を確認した昨日のあの場面、白雪姫は元からジャックに対して恋心を抱いていた事実を口にしていた。ということは別世界の白雪姫もまたジャックに恋をしていてもおかしくはないのだ。

 まあそれが分かっていても口にするのには多少の躊躇いと居心地の悪さが拭えなかった。

 

「は、はい。その時のジャックさんは白雪が恋をしている相手が誰なのか分かっていませんでしたし、聞かなかったことにしてくれました。でも白雪は他ならぬジャックさんの前で自分がいかにぽっちゃりしているかを語ってしまったんです。だから白雪はその時に決めました。『このままじゃいけない、絶対に痩せなければ!』って」

「……もしかして、ダイエットを始めたの? 全然必要無さそうなのに」

 

 返ってきた頷きとダイエット宣言に対し、思わず小首を傾げてしまうジャック。

 ついつい白雪姫の身体に視線を移してしまうものの、この話の流れでは仕方ないと言えるだろう。そうして爪先から首元までじっくり眺めてみるものの、感想はやはり変わらない。服の上からなので細かな所は分からないが、別段ダイエットが必要そうには思えない身体つきであった。

 

「記憶の中でもジャックさんはそう言ってくれました。でも、白雪は好きな人の前で自分がぽっちゃりしていることを語ってしまったんです。ダイエットの一つや二つしなければ収まりがつかなかったんです……」

「そ、そうなんだ……な、何か、ごめんね?」

 

 どうやら引くに引けない状態に追い込んだのはジャックだったようなので、とりあえず謝罪をしておく。確かにジャックも好きな女の子の前で自分がいかにカッコ悪いかを語ってしまったら、それが事実でも少しくらいはカッコつけたくなるだろう。

 

「い、いえ! ジャックさんは悪くありません! 元々ジャックさんには身に覚えが無いことですし、何よりダイエットは辛かったですがとても幸せな時間でもありましたし!」

「えっ、ダイエットが幸せ? 辛そうなイメージしかないんだけどどうして幸せだったの?」

 

 ダイエットとは食事制限と運動が主だということは、あまり深い知識の無いジャックにも分かる。軽めの制限と運動ではさほど意味は無いだろうし、辛さを感じられる程度でなければ効果は無いはずだ。

 にも関わらずそれを幸せな時間と言ったのは一体何故なのか。再び首を傾げてしまうジャックの前で、白雪姫はぽっと頬を染めていた。

 

「それは、その……ダイエットすることを話した時、ジャックさんにお願いしたからです。もし迷惑でなければ白雪に力を貸してください、と。そのおかげで苦しいダイエットをしながらも、幸せな時を過ごせたと言いますか……」

「えっと……つまりダイエットにかこつけて僕と一緒に過ごせたから、幸せだったってこと?」

「は、はいぃ……白雪、あざとい子ですみません……」

 

 どこか罪の意識を感じさせる口調で言うと、白雪姫はそのまま顔を伏せてしまう。

 まあわざわざダイエットの手伝いを求めていながら、本当は一緒に過ごすことが目的だったなら多少は罪悪感を覚えるのも仕方の無いことだろう。白雪姫は素直で健気な良い子なのでなおさらだ。

 

「別に良いんじゃないかな? だってダイエットはちゃんと頑張ったんだよね? あんまり必要無さそうだけど……」

「はい、それはもう頑張りました! 他ならぬジャックさんが近くにいましたし、絶対に痩せなきゃと思って頑張りました! ただ、そのぉ……少し頑張りすぎたと言いますか……」

「え? 頑張りすぎたって、一体どうなったの?」

 

 勢い良く頷いたかと思えば、今度は顔ごと視線を泳がせる白雪姫。

 背けた顔を覗き込んでみれば、そこに広がっていたのは気まずそうな苦々しい表情。その表情とダイエットを頑張りすぎたという言葉から考えれば、ジャックも自然と予想がついた。

 

「……倒れて、救護室に運ばれちゃいました」

「それは頑張ったっていうか無理しすぎだよね!? もうっ、だから必要ないって言ったのに!」

 

 予想通りの展開に対し、思わずジャックは多少を声を荒げてしまう。

 必要があるほど太っていたならともかく、白雪姫の場合は明らかにそんな必要がなかったのだ。にも関わらず頑張りすぎて倒れてしまえば、さすがにジャックも一言くらい物申したくなる。例え別の世界の自分がすでに注意したことでも、だ。

 

「うぅ……白雪が実際にやったことじゃないのに、同じ風に怒られてしまいました……」

「ご、ごめん、怒ってはいないよ。でも、倒れるくらいダイエットするなんて無理しすぎだよ……」

 

 白雪姫は小さく縮こまってしまったので、罪悪感に駆られてこちらも謝罪しておく。自分がしていないことで責められる理不尽を知っている身としては、さすがにこのまま流すことはできなかった。交際している女の子などいないのに三人の少女に浮気を疑われた朝は未だ記憶に新しい。

 

「分かってはいたんですけど、いつもジャックさんに協力してもらっていましたから手を抜くわけにはいかなかったんです。頑張っている所を見て欲しいという気持ちもありましたから……」

「そ、そうなんだ……それで、それからどうなったの?」

「はい。ジャックさんが白雪にいっぱいお説教をして、最後にこう言ってくれたんです。『君の気になってる男じゃないからどうでも良いかもしれないけど、僕はそのままの君が一番だと思うよ』って……」

「えっと……もしかして僕、ずっと気付いてなかったのかな?」

 

 どこか瞳を輝かせながら語る白雪姫に、嫌な予感を覚えて思わず眉を寄せて尋ねる。残念ながら返ってきたのはとても眩い笑顔での肯定であった。

 

「はい! ジャックさんは全然白雪の想いに気付いてませんでしたよ! 後で話してくれましたけど、ずっと白雪が気になっている男の人は誰かを考えてヤキモキしていたみたいです!」

(うわぁ! それは恥ずかしい……!)

 

 白雪姫が想いを寄せている男が実は自分のことなのに、全く気が付かずに自分はそのままの君が一番だなどとのたまう。さすがにこれは言った方も言われた方も恥ずかしいだろう。まあ目の前の白雪姫はどう見ても喜び極まった感じの笑顔を浮かべているのだが。

 

(というか白雪姫が気になっている相手が誰か気にしてたあたり、たぶん僕も徐々に白雪姫のことが気になっていったんだろうなぁ。白雪姫は頑張り屋だし、たぶんダイエットを頑張る姿を見て……)

 

 白雪姫が頑張って物事に打ち込む健気な姿を間近で見続ければ、想いを寄せてしまうのも十分理解は出来た。

 理由と内容が引くに引けなくなってダイエットというのはちょっとどうかと思うが、それも白雪姫らしくて可愛らしいと言えなくも無い。少なくともハーメルンとの馴れ初めよりはジャックにも思い浮かべやすいものであった。

 

「だから白雪、ちょっと卑怯ですけど聞いちゃいました。『それならジャックさんはもし白雪が告白したら、受け入れてくれますか?』って」

「ああ、うん。それで僕が頷いたから、君は思い切って告白したってことなのかな?」

「はい! ジャックさんも白雪のことが少しずつ気になってきていたみたいで、本当に白雪を恋人にしてくれました! その代わりもう無茶なダイエットは禁止って条件を出されちゃいましたけど……」

「それは当然だと思うよ。白雪姫は頑張り屋だから言い聞かせておかないと絶対また無茶なダイエットを始めそうだし……」

 

 普通のダイエットくらいならともかく、倒れてしまうくらいにやりすぎるのはさすがに看過できない。今ここでジャックもたっぷりお説教と注意をしておくべきかもしれないが、その辺りはたぶん白雪姫の記憶の中で代わりに自分がやってくれていることだろう。

 

「うぅ、またジャックさんに同じことを言われてしまいました……」

「まあその辺のことは君の記憶の中で僕が口を酸っぱくして言ってるだろうし、これ以上僕からはとやかく言わないから安心してよ。それに、僕はそのままの白雪姫の方が好きだからね?」

「ジャックさん……!」

(あ、何か予想以上に嬉しそうにしてる……)

 

 喜びに頬を緩ませ、瞳に感動さえ浮かばせている白雪姫。もしかすると『そのままの白雪姫の方が好き』という言葉に感銘を受けたのかもしれない。そしてこの反応からするとたぶん恋人として好きだという意味に取られている気がしなくも無い。

 その辺りの気持ちは未だ良く分かっていないジャックだが、特に否定しようとは思わなかった。恋人としての好きという気持ちなのかどうかはともかく、今の白雪姫の笑顔を見て愛おしい気持ちになれるのは確かなのだから。

 

(もうこの流れでキスしちゃった方が良いかな? もうすでに三人とキスしちゃったんだし、他の子にはしないっていうのもむしろおかしいし……)

 

 それにどうも良い雰囲気のようなので、キスをするなら今した方が賢明かもしれない。後で他の子にはキスしていたことがバレて問題になるよりは、多少気まずい思いをしても今の内にキスしておいた方が得策だろう。

 もちろん白雪姫にキスをすればまだキスしていない赤ずきんとアリスにもしなければならないのだが、ここまで来れば最早今更である。

 

「白雪姫……キスしても、良いかな?」

「えっ!? き、キスですか!? そ、それは、その、願ったり叶ったりで白雪も嬉しいんですけど……良いんですか? ジャックさん、確かまだ白雪たちへの気持ちが分からないからって……」

「確かにそうなんだけど、僕には六人も恋人がいるからね。こんな関係を受け入れて貰ってる以上、僕には君たちを幸せにするために何でもする義務があるんだ。だから君達がキスして欲しいなら……僕は、いくらでもキスするよ?」

「ジャックさん……」

 

 その言葉にやはり嬉しそうに微笑む白雪姫。

 しかしその微笑みはどこか気に病んでいるような複雑な色を湛えていた。もしかすると自分には義務があるからと口にしたせいなのかもしれない。純粋にお互いに好意を寄せ、愛し合っていたであろう記憶を持つ白雪姫からすると義務感からの行動には若干思う所があるのだろう。

 

「ただ義務を感じてるのは確かだけど、それと同じくらい幸せな気持ちを感じてるのも確かなんだ。だって僕の恋人は白雪姫も含めて皆可愛いし、そんな子達が皆僕の恋人っていうことに喜びを感じないなんて言ったら嘘になるからね。だから君が気にやむ必要は何も無いんだよ?」

「は、はい。それじゃあ……お願いしますね?」

 

 だからある意味そんな邪な本音を漏らし、白雪姫が抱いた悩みを払拭してあげた。

 実際あんなに魅力的で可愛い女の子たち六人が自分の恋人なのだから、ジャックだって優越感くらいは覚えている。問題なのは恋人たちの間で仲違いや喧嘩が起こらないように尽力することや、魅力に飲まれて不埒を働かないように堪えるのが予想以上に大変そうなことくらいだ。

 

「うん。それじゃあ――」

 

 どこか恥ずかしそうに、しかし頬を緩ませて頷いた白雪姫。ジャックは体の向きを変えて向き合うような感じになると、その両肩に静かに手を置いた。

 

「っ……!」

 

 途端に小さな緊張の吐息が零れる音が聞こえ、肩に置いた手の下からは身体の強張りが伝わってくる。

 やはりジャックとキスやそれ以上のことをした記憶があっても、今は記憶でしかないからこそ緊張や恥じらいは新鮮なものなのだろう。見れば白雪姫は顔を林檎の様に真っ赤にしてぷるぷると震えていた。

 

(本当は僕にもっと凄いことをされた記憶があるのに、キスだけでこんなに恥ずかしがるなんて……白雪姫は可愛いなぁ)

 

 そんな様子に微笑ましさと愛らしさを覚え、ついついジャックは頬を緩めてしまう。

 自身の緊張と恥じらいが思ったよりも薄めなのはすでに三人の少女と唇を重ねたからか、それとも目の前の少女がいっそ気の毒なほどの反応を見せているからか。恐らくは後者だと思いたい。

 

「んっ――」

 

 そうして固まっている白雪姫に顔を寄せ、その唇を優しく奪う。

 身体の強張りとは対照的に唇は柔らかく、感触にジャックの心臓が飛び跳ねたのは言うまでもない。やはり直前まで緊張や恥じらいが薄めだったのは白雪姫の方が強い反応を見せていたからだったらしい。胸に湧き上がる幸福感と共に、ジャックは自分がまだ擦れていないことに微かな安堵を覚えていた。

 

「ふぁ……夢みたいです。本当にジャックさんにキスしてもらえるなんて……」

(白雪姫、もの凄く幸せそうな顔してるなぁ……)

 

 唇を重ねたのは五秒にも満たない僅かな時間だったにも関わらず、うっとりとした表情で余韻に浸っている白雪姫。それこそ正に恋する乙女とでも表現できる表情である。

 幸せを感じてくれているなら何よりだが、できることならばもっと幸せを感じさせてあげたい。なのでジャックは頭の片隅に留めておいた考えを口に出した。

 

「ねえ、白雪姫。良かったら今度から君のこと白雪って呼んでも良いかな?」

「えっ!? あ、は、はい、どうぞ!」

 

 一瞬驚愕に目が見開かれたものの、先ほどよりも深く顔を綻ばせる。

 やはり眠り姫と同じく愛称で呼ばれるのが嬉しかったのだろう。この様子だと白雪姫の記憶の中ではいつも愛称で呼んでいたのかもしれない。

 

「あの、ジャックさん。どうして突然そう呼ぶことにしたんですか? 白雪の記憶ではこちらからお願いするまでは呼び方は変わりませんでしたよ?」

「うん。実は眠り姫――じゃなくて、ネムが自分のことを愛称で呼んで欲しいってお願いしてきたんだ。だからもしかしたら白雪姫も――白雪もそうなんじゃないかって思って」

「そうだったんですか。ふふっ、本当は甘えん坊さんなネムちゃんらしいですね」

 

 その事実を伝えた所、微笑ましそうな笑いが返って来る。

 白雪姫が笑っているのは眠り姫の甘えん坊な言動か、それとも愛称で呼ぶと決めながら間違って普段どおりの呼び方をしてしまうジャック自身か。

 

「そうだね。だけどそう言う白雪も同じ事を頼んだんだから、やっぱり甘えん坊だったりするのかな?」

「そ、そうですね。白雪も結構な甘えん坊だと思います。ジャックさんとはいつも一緒に過ごしてましたから……」

(うーん。本人はそう言ってるけど凄く大人しい方だと思うなぁ。親指姫やネムに比べると……)

 

 恥ずかしそうに頷き俯く白雪姫であるが、長女と三女に比べれば圧倒的に大人しい。

 三女である眠り姫は恋人になった途端に不意打ち気味のキスをしてきたし、朝にはいつのまにかベッドの中に忍び込んできていた。長女の親指姫に至っては強引に大人な口付けをしてきた上、他の恋人にしたことはその三倍は自分にもしろというヤキモチ全開の言葉を投げかけてきたほどだ。

 そんな二人に比べれば明らかに大人しいし、さほど甘えん坊にも見えない。ついでに言えば大胆さもやはり少なく大人しめに思える。

 

「あのぉ、ジャックさん……」

「うん? どうしたの?」

「その……一つだけ、お願いを聞いてくれますか?」

 

 しかしそう思っていたのも束の間、何やらぽっと頬を染めた白雪姫が躊躇いがちにお願いを求めようとしてくる。

 一見大人しそうに見えても血式少女、それにやたら大胆なあの二人の血の繋がった姉妹だ。一体どんなお願いをされるのか、多少不安に思いながらもジャックは頷いた。

 

「うん、いいよ。言ってみて?」

「はい。もう少しだけ、このまま一緒にいて欲しいです。皆さんに待ってもらっているのは分かるんですけど、もう少しだけ……」

 

 だがその口から紡がれたお願いはやはり大人しいものであった。それも微笑ましさを覚えてしまうくらいに可愛いお願いだ。

 三姉妹でも大胆に過ぎたのは他二人だけだったことや、ハーメルンの積極性から考えるに、たぶん三姉妹特有とか血式少女特有とかではなく純粋に個々人の気性や性格の問題なのだろう。一つ謎が解けたジャックは若干晴れやかな気持ちを覚えながら頷いた。

 

「うん、良いよ。少ししか一緒にいてあげられなくてごめんね?」

「い、いえ、ジャックさんには白雪の他にも恋人がいっぱいいますから、仕方ないことだと思います……」

 

 自ら事情を口に出し、こんな不誠実な関係を受け入れてくれる白雪姫。ただそれでもやはり思う所はあるのだろう。ぴったりと身体を寄せてきたので横目に表情を覗き見れば、ほんの少しだけ残念そうな顔をしていた。

 責任を取るためにも恋人達との関係を解消するわけになどいかないし、そもそも皆は本気でジャックに好意を寄せてきているのだ。結局ジャックにできるのは皆を受け入れることと、皆を幸せにするためにできる限り努力することである。

 

「あっ……」

 

 なので無言で白雪姫の手を静かに取り、ぎゅっと握る。

 本当はもう一度キスをした方が良かったかもしれないと考えたジャックだが、少なくとも選択が間違いでないことはすぐに分かった。白雪姫が幸せそうに微笑みを浮かべ、手を握り返しながら頭をジャックの肩に預けてきたから。

 

(親指姫とネムに比べると凄く大人しいけど、白雪もやっぱり可愛すぎるよ。下手にもう一度キスしなくて良かったかもしれないなぁ……)

 

 大胆さは無くとも、可愛らしさでは全く姉妹二人に引けを取っていない。

 ジャックの肩を枕に安心しきった微笑みを浮かべる白雪姫の姿を横目で眺めながら、ジャックは愛しさと若干邪な気持ちが混ざった複雑な気持ちを覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとうございます、ジャックさん。今はこれで充分です」

 

 二人で無言のまま寄り添いあい、およそ数分。

 やはり今も待っているであろう皆のことを気にしているのか、白雪姫は思ったよりも早く終わりの言葉を口にした。できることならもっと一緒にいてあげたいが、ジャックにとっては他の恋人たちを待たせている状況だ。やはりここは白雪姫の口にした通り、終わりにしておくのが懸命だろう。

 

「うん。どういたしまして――っていうのは、ちょっと変かな? 僕たちは一応恋人同士だからね」

「あっ、それもそうですね。じゃあ……またよろしくお願いしますね?」

「うん、もちろんだよ。それじゃあ皆のところに戻ろうか。きっとアリスたちも白雪の話を聞きたくて首を長くして待ってるだろうしね?」

「そうですね。白雪も赤姉様に聞きたかったことが色々とありますし、皆さんの所に戻りましょうか」

 

 幾ら赤ずきんやハーメルンに対して質問が投げかけられていたとしても、さすがに今の今まで続いているということはないだろう。きっと皆新たな馴れ初めを聞かせて欲しがっているに違いない。

 なのでジャックは白雪姫と共にベッドから腰を上げ、そのまま部屋を後にしようとした。

 

「――あっ! ジャックさん、その前に一つだけ聞いておきたいことがあるんですけど……良いですか?」

 

 しかし最後に一つ尋ねたいことがあったらしい。白雪姫は改めてジャックに向き直ると控えめに尋ねてきた。何故か顔を赤く染めて恥ずかしそうにしながら。

 

「うん、良いよ。何が聞きたいの?」

「その……ジャックさんはたくさんの別の世界で別の女の子と結ばれているみたいですけど、本当はどんな身体つきの女の子が一番好きなんですか?」

「えっ!? か、身体つき!?」

 

 そんな表情で投げかけられたのは、あろうことか予想外に踏み込んだ質問。恋人が六人いてもジャックはまだまだ恋愛経験その他はほぼ皆無の状態なので、当然ながらこの質問には少なからず動揺と微かな羞恥を受けてしまった。

 

「す、すみません、ちょっと気になってしまったんです。ジャックさんはスレンダーな親指姉様ともグラマーなネムちゃんとも結ばれた世界があるようですから、本当はどんな身体つきの女の子が好きなのかなぁって……」

(う、うーん。言われて見れば確かに一貫性は無いよね、そのあたりは……)

 

 かなりスタイルの良い赤ずきんと眠り姫に、スレンダーなアリスとハーメルン、そして親指姫。白雪姫もどちらかと言えば前者に含まれるタイプなので、客観的に見てもそういった傾向は見られない。

 まあ客観的に見るなら親指姫はスレンダーというよりも別の言葉が相応しそうな気もするのだが、そこは考えると何だか怖いのでジャックは深く考えるのは止めておいた。

 

「どこの僕も特別好きな身体つきとかはないと思うし、僕自身も無いと思うよ? 皆の馴れ初めを聞いた限りだと、僕は別に身体つきで好きになったわけじゃないみたいだからね。そこはたぶん白雪姫が一番良く知ってるんじゃないかな?」

「あっ……」

 

 体型を気にしている白雪姫だからこそ、その恋人となったジャックはきっと事あるごとに似たような言葉をかけていたに違いない。

 思い当たる節が色々とあったらしく、白雪姫は納得したような顔でこくりと頷いた。何故か猛烈に顔を赤くして恥ずかしそうに俯いていたが、そこは深く追求しない方がきっとお互いのためだろう。

 

「そ、そうですね……ジャックさんは、白雪に対してもケダモノさんでしたから……」

(ああ、やっぱり! というかわざわざ口に出さないで、白雪!)

 

 独り言のように自ら語る白雪姫に対し、動揺を隠せないジャック。恋人達の間でジャックはケダモノという認識が満場一致であったあたり、少なくとも別の世界のジャックには身体つきの特別な好みなどが無いのは確からしい。尤もそれが分かった所でただただ恥ずかしいだけであるが。

 

「えっと……聞きたいことってそれだけかな? 他に聞きたいことが無いならそろそろ皆のところに戻ろうか?」

「は、はい、そうですね。戻りましょうか」

 

 話の内容のせいで多少居心地が悪くなったジャックだったが、どうも白雪姫はまた違うらしい。顔を赤くしながらも寄り添うように近寄ってきて、一緒に部屋の外へと出て廊下を歩く。

 その距離は今までの友達や仲間という関係よりも更に深くなったことを表わしているようで、多少落ち着きの無さを感じる反面どこか心地良さを感じるジャックであった。未だ色恋に関する感情は良く分からないが、決して悪くは無い気分である。

 

「あっ、じゃっくだ! じゃっくー!」

「わっ!? どうしたの、ラプンツェル? そんなに急いで……」

 

 そんな気分で白雪姫と寄り添い廊下を歩いていると、突如として正面からラプンツェルが駆けてきた。咄嗟にその身体を受け止めたジャックが目にしたのは、何やら期待に満ちた丸い瞳で見上げてくる可愛らしい姿であり――

 

「じゃっく、ラプンツェルともこいびとになろー!」

「えぇっ!?」

 

 ――その口から飛び出したのはあまりにも予想外な言葉であった。

 まあ少し考えれば予想はできなくもないのだが、あまり考えたくない類のことなのは確かだ。何よりラプンツェルにはジャックたちの事情は多少濁して伝えてあるので、こういった提案は出てこないはずなのだ。

 

「こいびとどうしでえっちなことをするとこどもができるんだよね!? だからラプンツェルもじゃっくのこいびとになりたい!」

(誰だ!? ラプンツェルに変なことを吹き込んだのは! まさかハーメルン!?)

 

 しかしラプンツェルが口にしたのは決して知らないはずの、それも当たらずとも遠からずな知識。当然幼いラプンツェルがこんな知識を一人で身に付けるとは思えないので、誰かが吹き込んだのは間違いない。一番やりそうなのは別世界の自分の記憶を得たことで変に知識が付いたハーメルンあたりか。

 

「ねーねー! いいでしょー、じゃっくー!」

「え、えっと、ラプンツェル? 誰から聞いたのかは分からないけど、とりあえず君が聞いたことは全部忘れようね? それから、さすがに君みたいな小さな子供を恋人にするのは問題があると思うんだ……」

「えー、なんでー? おやゆびだってラプンツェルとおんなじくらいちいさいよー?」

(……どうしよう! そこはあんまり否定できない!)

 

 服を引っ張ってねだってくるのでやんわり断ろうとしたのだが、否定し辛い事実を返されて言葉に詰まってしまう。

 考えると何故か怖いので考えないようにしていたものの、確かに親指姫はスレンダーなアリスたちよりはラプンツェルの方が幾分か近いと言える。ただそれでも見た目が近いだけであり、中身はしっかり三姉妹のお姉さんなのだが。

 

「えーっと……親指姉様は少し身体が小さいだけで、本当はお姉さんですから……」

「そ、そうだよ、ラプンツェル。それに恋人になるって言っても、君は僕と恋人になった記憶は無いよね? 僕が皆と恋人になったのは、皆にその記憶があったからなんだよ? それに皆、純粋に僕のことが……す、好き、だからで……」

 

 事実とはいえ口に出すのは何だか気恥ずかしく、ついつい尻すぼみになってしまう。隣を見れば白雪姫も多少頬を染めていた。

 

「きおくっていうのはよくわからないけど、ラプンツェルもじゃっくのことすきだよ! だからこいびとになろー! じゃっくにはいっぱいこいびとがいるんだし、ひとりくらいふえてもかわんないよね!」

「そ、そうですね。確かに六人が七人になってもあまり変わらないと思います……」

(凄く痛いところを突いてくるなぁ。子供の純粋さって怖い……)

 

 無邪気な顔で明らかにおかしい所を鋭く指摘され、罪の意識やら居心地の悪さやらを覚えるジャック。確かに恋人が六人もいれば一人くらい増えた所で、傍から見ればさほど変わりはないように見えるだろう。尤も当事者であるジャックには六人でもすでにいっぱいいっぱいであるが。

 それにラプンツェルと白雪姫たちの『好き』では決定的に中身が異なる。それこそ友愛と恋愛のレベルでの違いだ。まだまだ幼い少女の『好き』という気持ちと、ジャックと

愛を育んだ記憶を持つ大人びた少女たちの『好き』という気持ちでは深さも強さも違いは明らかである。

 

「……ラプンツェル、君はどうして僕と恋人になりたいの?」

「こどもをつくるためだよ! こいびとになってえっちなことをすれば、こどもができるんだってねむねむがいってたよ!」

「そ、それは間違って――い、いえ、間違っているわけでもないんですけど! えっーと、その!」

(犯人はネムだった! 疑ってごめん、ハーメルン!)

 

 すでに知識を吹き込んでしまった以上、最早眠り姫に注意をしても手遅れである。なのでとりあえず疑ってしまったハーメルンに後で謝っておこうと決めるジャックであった。

まあ今はこの場を乗り切ることの方が重要だが。

 

「えっとね、ラプンツェル。君は子供が欲しいから恋人になりたいんだよね? それはちょっと間違ってるっていうか、順番が逆っていうか……そんな風に思っていたら恋人にはなれないんだよ?」

「そーなの!? じゃあラプンツェル、じゃっくとこどもつくれないのー!?」

「つ、作れないってわけじゃないけど……うーん……」

 

 期待に満ちていた面差しを一転して落胆と悲しみに染めるラプンツェル。

 ここで作れないとばっさり切り捨てることができれば、今後の憂いもきっと無くなることだろう。それは分かっているのだがこんな今にも泣きそうな顔をしたラプンツェルに対し、冗談でもそんな惨い言葉をかけることはできなかった。むしろ何とか笑顔にしてあげたい。

 

「あっ、そうだ! じゃあラプンツェルが大人になってもまだ僕と恋人になりたいって思ってたら、その時は僕も考えるよ。それまで君の気持ちが変わらなかったらね?」

「ほんとうー!? やくそくしてくれる!?」

「う、うん、約束だよ?」

「わーい! ラプンツェル、はやくおとなになるー!」

 

 ジャックが捨て身の約束を結んだ所、途端にキラキラ輝く元気いっぱいの笑みを浮かべて駆け出していくラプンツェル。

 何とか笑顔にさせることはできたし、この場をやり過ごすことも出来たので上出来と言える対応だろう。問題と言えるのはラプンツェルの気持ちが大人になっても変わっていなかった時のことか。

 

(もしラプンツェルが大人になってもまだ気持ちが変わっていなかったら……いや、さすがにその頃には小さい頃の気の迷いだって気づいてるか、僕以外の相手が見つかってるよね? そうじゃなきゃ困るよ、ラプンツェル……)

「ふふっ。ラプンツェルさんもジャックさんの恋人になったら、毎日が楽しくなりそうですね。ジャックさんの恋人が増えるのはちょっと残念な気持ちもありますけど、白雪はそれよりも皆幸せな方が嬉しいです」

 

 もしもラプンツェルまで恋人に加えることになったらと戦慄を覚えるジャックの傍らで、白雪姫はニコニコと微笑ましそうに笑っていた。すでに六人も恋人がいるのにまだ増えることを許容するとは、案外白雪姫も眠り姫同様かなりの大物なのかもしれない。

 一見恋人たちの中では大人しい方だと思っていた白雪姫の真実に、またしてもジャックは戦慄を覚えるのであった。

 

 

 

 







 親指姉様はスレンダーというよりも幼児体け……おや、誰か来たようだ。
 次回はアリスの馴れ初めです。その次のお話に関してはちょっと順番を決めかねていたり……。
 
 そういえば8月にはスイッチ版のメアリスケルター2が発売するとのこと。今のところ追加要素があるのかどうか分かっていませんが、エビテンのファミ通DXパックの描き下ろしタペストリーは欲しいなぁ……。
 
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