語らぬ者の物語。   作:牛島 青

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寒くなってきたので、初投稿です。

文字数はパソコン版に合わせてあるので、スマホの方は横にすると読みやすいかと思います。


第1章『ある冒険者たちの結末』
第1話 ある冒険者たちの邂逅


むかし、むかしの話です。

サイコロ勝負に飽きてきた神々が、(ひとびと)(せかい)を創りはじめた頃。

自然と、自分の作った駒に愛着が湧いていきました。

神々は、自分の『お気に入り』を見つけはじめたのです。

 

神々の『お気に入り』は、時に死に、時に生き長らえました。

時に英雄となり、王となり。

時に凡夫となり、悪となり。

『お気に入り』の行く(すえ)を、神々は楽しんでいました。

 

ですが、神々の中にも変わり者はいるものです。

長い髪で目が隠れた、うら若い女の姿をしたその神さま。

着ている服や髪は黒いものの、肌は真っ白です。

他の神々からは、《静謐(せいひつ)》と呼ばれています。

 

《静謐》は、なかなか『お気に入り』を見つけられません。

どこかに私好みの(キャラクター)はいないかな、と唇を尖らせます。

他の神々たちは悲しんだり笑ったり、とても楽しそうです。

 

しばらくの間、《静謐》はそれを遠目に眺めていました。

しかし急に、彼女は顔を上げます。

 

少し前に、声をなくした子どもの只人(ヒューム)

はじめての『お気に入り』の登場に《静謐》は喜びました。

決めた。この子を私の主人公(メインキャラクター)にしよう。

《静謐》は、神々の輪の中へ、揚々と入っていきました。

 

彼が、これからどうなるのか。

それは神々(わたしたち)でさえわからないこと。

やがては終わるその駒の命。

せっかくなら、(さい)を振って、それを眺めて、楽しもう。

 

これは、神々の遊び。

そして、生きる者たちにとっての現実。

物語のはじまり、はじまり。

 

ーーー

 

むせ返るような悪臭の中、血糊で(にぶ)ったナイフを拭く。

青年が、既に生き絶えた巨大鼠(ジャイアント・ラット)の前に立っていた。

ナイフをぬぐい終えると、彼は歩きはじめる。

 

外套(がいとう)についたフードを、彼は目深に被った。

歩いているにも関わらず、彼から音は聞こえない。

下水道の石畳を叩く音も、衣擦(きぬず)れの音さえも。

彼は静かに、歩みを進めている。

 

受付嬢からの、正確に言えば冒険者ギルドからの名指しの依頼。

内容は、下水道における巨大鼠(ジャイアント・ラット)の生態調査。

それを引き受けた彼は、その巣と思われる場所に目星をつけた。

 

彼は、とある巨大な横穴の前で止まる。

部屋の中は、持っている松明(たいまつ)では照らせそうにない。

すると彼は松明を置き、身をかがめ、顔の前で手を組んだ。

祈り。それは神への嘆願。奇跡を具現せしめるもの。

 

言葉は無い。それは、かの神が倦厭(けんえん)するものだから。

夜目(ナイトアイ)』。

暗視を可能とする奇跡。彼が仕える神の御業(みわざ)

彼はその目で、部屋の中を覗き込んだ。

 

穴の中は、巨大鼠(ジャイアント・ラット)で埋め尽くされていた。

蠢くそれらは、もはや数えようもない。

目を凝らせば、幼体らしきものまで多数歩き回っている。

 

どうやら受付嬢の悪い予感は当たったらしかった。

大量発生(スタンピード)

怪物の大量発生は、その単体が弱くとも脅威となる。

それに加え、変異種の可能性も大いに存在する。

 

それを確認した彼は、足早にその場を後にした。

 

ーーー

 

場所は変わり、冒険者ギルドの中。

昼時のため、食事をする者で賑わっていた。

その中には、彼を見て蔑むような笑みを浮かべる者もいる。

見ろよ、下水神官だぜ。()()()だよ、声なし…。

馬鹿にしたように、クスクスと笑う声もある。

彼はそれらを無視しつつ、真っ直ぐに受付へ向かった。

 

「おかえりなさい。どうでしたか?」

 

受付嬢が、進捗を尋ねた。

彼は腰に提げていた小さな黒い板に、石膏(せっこう)の棒で文字を書く。

 

大量発生(スタンピード)です】

 

彼は、巣の位置を示した下水道の地図を天板の上に置く。

受付嬢の目が見開かれた。

 

「そうでしたか…。数はどれほどでしょう?」

 

【100以上は】

 

「そう、ですか…、変異種の確認はできましたか?」

 

彼は首を横に振る。

受付嬢は少しの間押し黙った。

 

「…わかりました。おそらく、次は大規模な依頼になります」

 

彼は(うなず)いた。

 

「隊が組まれますので、その時はよろしくお願いしますね」

 

再度、頷く。

 

「これで依頼は完了です。こちらが報酬になります」

 

彼は重みのある袋を受け取り、受付嬢へ礼をした。

つい先日まで黒曜等級だった彼にとっては大金だ。

彼はそれを腰に巻いたポーチに入れた。

 

仕事は終わった。

この時間では、手ごろな依頼はほぼ残っていない。

今日はこれから、どうしようか。

 

彼は以前知り合った、白磁の一党(パーティ)を思い出した。

振り返り、ギルドを見渡すが、その知り合いはいない。

再び黒い板を取り出し、彼はこう続けた。

 

【白磁の三人組はどこへ?】

 

それを聞くと受付嬢は、少し心配そうな表情になった。

 

「剣士の方の一党(パーティ)でしたら、村の近くの洞窟へ…」

 

【三人で?】

 

「いえ、新人の()と四人で。依頼内容は…」

 

ゴブリンか

 

背後からの、(かぶと)の中で反響した、しかしはっきりとした声。

振り返れば、革鎧(かわよろい)(まと)った只人(ヒューム)が一人。

首から提げた銀等級の認識票。

薄汚れた鉄兜(フルフェイス)の、このギルドの有名人。

 

小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)が、そこに居た。

 

ーーー

 

「ゴブリンスレイヤーさんっ!戻られたんですね!」

 

受付嬢が、パァッと顔を輝かせた。

 

「ああ」

 

「少し遠かったと思いますけど、大丈夫でしたか?」

 

「問題ない」

 

そういえば、数日見ていなかった。遠方へ出向いていたらしい。

小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)は意に介した様子もなく、淡々と続けた。

 

「それより、ゴブリンか」

 

「は、はい。今日は、ゴブリンの依頼はひとつだけでしたが…」

 

「誰が行った」

 

「今朝、白磁の一党(パーティ)が向かいましたけど…」

 

「規模は」

 

「ええっ、と…、そこまで大きくなかったかと」

 

「捕まった者は」

 

「村娘がふたり、(さら)われたそうです」

 

「そうか。早めに潰した方がいいな」

 

「え?でも依頼は彼らが…」

 

「報酬はいらん」

 

そう言うと、小鬼殺しは(きびす)を返し、歩きはじめた。

 

すると、彼がその肩を掴む。

それに気づいた小鬼殺しは立ち止まった。

 

「お前も来るのか」

 

彼は頷く。

あの一党(パーティ)とは、知った仲だ。

唖者(あしゃ)である彼に、接してくれた者たちでもある。

 

職業(ジョブ)は何だ」

 

【神官】

 

「何が使える」

 

【『静寂(クワイエット)』と『夜目(ナイトアイ)』を】

 

「知らん術だ。詳しく教えろ」

 

「…あっ、それについては、私が」

 

受付嬢が、彼の奇跡について解説した。

 

静寂(クワイエット)』。

対象の発する音を消し去る、彼の扱えるもうひとつの奇跡。

下水道での彼の隠密は、これによるものだった。

 

小鬼殺しは、一通り理解したらしい。

 

「なるほど。斥候(スカウト)向きだな」

 

そう呟き、少し考えるそぶりを見せてから、こう続けた。

 

「洞窟までは、後ろについてこい」

 

彼は頷く。

 

「作戦は、道中で説明する」

 

再度頷く。

 

「行くぞ」

 

彼は小鬼殺しの後ろに付いた。

革鎧の隙間から、鎖帷子(くさりかたびら)が覗いている。

その背中には、形容しがたい、執念のようなものが感じられた。

 

小鬼殺しの独り言。呪詛のようなそれは、彼の耳にも届いていた。

 

「ゴブリンどもは、皆殺しだ」

 




どうでしたでしょうか。
感想や評価などいただけると、とても嬉しいです。

ここで少し人物紹介を。

『青年神官』(主人公)
幼少期のケガにより喋ることができない。
仕える神は《沈黙神》。
現在、鋼鉄等級。(第八位。銀等級は第三位)
神官ながら、斥候(スカウト)もこなす。

《沈黙神》
沈黙と夜を司る。
高名な神ではなく、信者も少ない。
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