語らぬ者の物語。   作:牛島 青

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おまたせしました。第二話です。

第一話で感想や、お気に入り登録して下さった皆様、本当にありがとうございました。
とても嬉しいです。




第2話 ある冒険者たちの結末

村近くの洞窟までの道中。

小走りで、彼らは進んでいる。

小鬼殺しは彼に、再びいくつか質問をしていた。

 

「武器はなんだ」

 

右太腿に取り付けたナイフを見せる。

予備を含めて二本。

 

「奇跡の残りは」

 

日に四回。残るは二回だ。

指を二本立てて見せた。

 

「奇襲に徹しろ。気を抜いた小鬼(ヤツ)から殺せ」

 

彼は頷く。

 

「狙うなら首だ。なるべく深く刺し、掻き切れ」

 

再度、頷いた。

 

目的地まではあと少し。

彼らは進む。

 

ーーー

 

ほどなくして、(くだん)の洞窟へたどり着いた。

入り口の前で、小鬼殺しは立ち止まる。

 

「お前が先頭だ。奇跡は今使え。ふたつともだ」

 

斥候(スカウト)役を任せられたらしい。

彼は頷いた。

その場で(ひざまず)き、祈りを捧げる。

 

奇跡の嘆願。

神と魂を繋ぐ、ということ。

通常、神官は祝詞(のりと)を唱えるが、彼にはそれがない。

彼に師はいなかったし、何より喋ることすら出来ない。

以前に会った他宗の神官に驚かれたのは、記憶に新しい。

 

『沈黙神』とはなんなのか。

今まで会った中に、知っている者はいなかった。

彼は、自分が仕える神についても、未だによく知らない。

 

そもそも奇跡の名称も、彼が勝手にそう呼んでいるだけだ。

ともすれば、こんな奇跡は元から存在しないのかもしれない。

 

静寂(クワイエット)』。続けて『夜目(ナイトアイ)』。

 

そう時間は経たぬ内に、願いは聞き届けられたようだった。

既に、彼からは息遣いの音さえも聞こえない。

暗かったはずの洞窟内部が、その目にはよく見えた。

 

「行くぞ」

 

それを確認した小鬼殺しは、歩きはじめる。

 

彼は頷き、それを追った。

友人たちの、無事を祈りながら。

 

ーーー

 

洞窟の中は、言うまでもなく暗闇だった。

松明の明かりだけでは、見える範囲は狭い。

通常ならば、ひどく戦いにくい場所である。

 

しかし彼は、奇跡によりそれを苦としない。

ゴツゴツとした岩の壁や、時折見える小さな虫。

むしろ洞窟の外よりも、彼の視界は明瞭だった。

 

小鬼殺しは、彼からかなり間をとって後ろにいる。

斥候(スカウト)の障害とならないための配慮だろうか。

 

慎重に、かつ素早く前へ進む。

 

壁には、ネズミの髑髏(どくろ)とカラスの羽でできたトーテム。

彼は、それを聞いたことがあった。

曰く、そこにはシャーマンがいる、ということらしい。

 

下水道の依頼ばかり受けてきた彼は、当然見たこともない。

未知の脅威に、緊張が高まった。

ナイフを握る右手に力が入る。

 

すると。

 

途端に前方から、むせ返るような悪臭がした。

血と、臓物の臭い。

彼にとっては下水道で、巨大鼠(ジャイアント・ラット)で嗅ぎ慣れたものである。

 

その臭いの元は、もはや人かも分からない(かたまり)

死んでいることは、火を見るよりも明らかだった。

そして横に転がる、見覚えのある剣は。

間違いなく、()()剣士のモノだった。

 

明るく、お調子者な、その顔が思い出される。

文字が読めないながらも、自分と接してくれた。

 

 

他の二人はどこへ。

女格闘家は。女魔術師は。

剣士の一党(パーティ)は、もしや。

 

全滅。

そんな悪い予感が彼の頭をよぎった。

が、彼は首を振って前を見る。

 

考えても、仕方がない。

今は、自分にできることを。

 

さらに、彼らは奥へと進む。

 

 

しばらくして、少し遠くに小さな影が見えた。

いた。

ゴブリン。

いわゆる「怪物」のなかでは最弱の存在。

(みにく)いそれは、笑みを浮かべ、歩いていった。

 

「いたか」

 

彼は頷く。

 

「前に出る」

 

再度頷く、と同時に。

小鬼殺しは素早く走り出した。

彼もその後ろにつく。

 

蹂躙が、始まる。

 

ーーー

 

迫る小鬼殺しに気づいたゴブリンが、矢を放った。

夜目(ナイトアイ)』を付与していない彼には、見えるはずもない。

だがしかし。

 

「ふん」

 

小鬼殺しが振るった剣は、いともたやすく矢を叩き落とした。

 

それがどういうことか、確認する間もなく。

小鬼殺しに、一匹のゴブリンが跳びかかった。

その手には、錆びた短剣。

鎧の隙間に、それが突きたてられる。

 

「あぁ…ッ!」

 

奥から高い声が聞こえた。女だろうか。

見れば、倒れ伏した女魔術師と、その横にもう一人。

白い服の、神官らしき女だった。

小鬼殺しを案じての悲鳴だったのだろう。

 

だがしかし。

肩口へ突き刺さるかに思えたそれは、鎖帷子(くさりかたびら)で防がれた。

 

ゴブリンは困惑しつつも、貫き通そうと力を籠める。

 

「GYAOU!?」

 

しかし、その一瞬が命取りだった。

鈍い音と共に盾が叩きこまれ、岩壁へ抑え込まれる。

 

「まずひとつ」

 

淡々と、ただ数えるだけのような声。

その意味は、すぐに理解できた。

小鬼殺しが、松明をゴブリンの顔に押し付けたのである。

 

洞窟に、聞くに堪えない悲鳴が響く。

肉の焼ける嫌な臭いが立ちこめた。

ゴブリンは悲鳴をあげてもがくが、盾をどけることは叶わない。

しばらくして、動きは止まった。

 

盾が離されると、どさりと音を立てて死体が落ちた。

それを蹴り転がし、小鬼殺しは一歩前へ踏み込む。

 

「次だ」

 

まるで作業のような口ぶり。

 

その異様な光景を前に、思わず彼もひるんだ。

そんな中、ジャリ、と。後ずさる音がした。

見れば、弓をもったゴブリンがもう一匹。

 

どうやら怯えているようだった。

その目には、小鬼殺ししか映っていない。

 

ーー奇襲に徹しろ。気を抜いた小鬼(ヤツ)から殺せ。

 

彼はその言葉を思い出した。

作戦通り、殺すのならば今しかない。

 

彼は、闇の中を(するど)く駆けた。

 

近づき、暗闇の中から手を伸ばす。

(ほう)けていたゴブリンは、それに気づく様子はない。

 

腕を掴み、引き寄せる。抵抗はない。

勢いのまま、その体を壁に叩きつける。

ようやく気づいたのか、ゴブリンが驚愕した。

だが、もう遅い。

 

ーー狙うなら首だ。なるべく深く刺し、掻き切れ。

 

彼のナイフは、既に首に深く差し込まれていた。

 

思えば、下水道の怪物以外を殺すのは初めてだった。

しかしその感触は、巨大鼠(ジャイアント・ラット)とそう大差ない。

彼がナイフを引き切ると、血が勢いよく噴き出した。

 

「これでふたつ、か」

 

小鬼殺しが、そう呟いた。

 

ーーー

 

女神官には、何が起こったのか、よく分からなかった。

闇の中から現れた鎧の男が小鬼を焼き殺して。

転がった死体を蹴ったことは覚えている。

 

しかし、もう一匹の、弓を構えたゴブリン。

その姿が、一瞬のうちに闇の中へと消えたのだ。

岩に何かがぶつかる音。

続いて、何か液体が吹き出す音。

 

「これでふたつ、か」

 

鎧の男の言うように、弓の小鬼は死んだのだろうか。

不思議に思いながら前を見る。

 

「…ッ、あの、あなたは……?」

 

恐怖を(こら)えながら、声をあげる。

果たして、男は答えた。

 

小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)

 

ーーー

 

小鬼殺しが、女神官に名を告げたその直後。

闇の中から、音も立てずに彼は現れた。

 

女神官は、大層驚いたようである。

足音も、気配すらもなかった。いったいどこから。

 

彼の外套に付着した血は。

右手に持ったナイフは。

彼が、先ほどの小鬼を殺したことを物語っていた。

それを見た女神官は、すこし怯えたようだった。

 

そんな彼女に構わず、彼は倒れ伏した女魔術師に駆け寄った。

 

腹部に血の跡。体は少し痙攣(けいれん)している。

傷は見当たらないが、顔色は蒼白だった。

息は細く、熱もある。

いったい何が。

 

「どこを、何でやられた」

 

彼の代弁をするように、小鬼殺しが尋ねる。

 

「え、えと、短剣で、お(なか)を」

 

「…短剣」

 

小鬼殺しは、女魔術師の腹をまさぐった。

指を押し付けると、女魔術師はごぼりと血を吐く。

 

「…毒だな」

 

「ど、毒……?」

 

小鬼(ヤツ)らの手製だ。毒草、自分たちの糞尿、唾液、それを適当に混ぜて、こしらえる」

 

話を聞いた彼は、すぐさま腰のポーチの中に手を入れた。

 

「全身に巡っている。そう長くはもたん」

 

彼が、小鬼殺しの肩をつかんだ。

 

「なんだ」

 

彼の手には、淡く光る硝子(ガラス)の瓶。

中身は、紫と緑が混ざったような、不思議な色をしていた。

 

解毒剤(アンチドーテ)か。だが、それでは…」

 

言葉を遮るように、彼は瓶を揺らす。

その瞬間。弱かった光が、その強さを増した。

小鬼殺しは、少し驚いたようである。

 

魔法の薬(マジックポーション)か」

 

一般の(ポーション)とは違う、本物の魔法の薬。

高度な魔術を編み込んだ、正真正銘の霊薬。

その効果は絶大だが、それに比例して非常に高価なものだ。

 

下水道ばかりへ行く自分を見かねてか、槍使いの相方である、三角帽と豊かな胸が特徴的な魔女が作り、渡してくれた一品。

売ってもいいのよ、と笑った魔女には、感謝せねばなるまい。

 

「それならば、間に合うだろう」

 

「っ!本当ですか!?」

 

女神官が、顔を綻ばせる。

彼は瓶の蓋を開き、抱えた女魔術師に中身を飲ませようとした。

だが。

彼女にはもう飲む力も残っていないようだった。

 

彼は意を決して、魔法の薬(マジックポーション)を口に含む。

そして、唇を重ね合わせる。

口移し。

 

女神官はそれを見て困惑したようだが、彼は構わずに続けた。

少しずつ。少しずつ。

どうか飲んでくれ、と願いながら。

 

その甲斐あってか、彼女の喉が上下する。

どうやら、嚥下(えんげ)できたようだった。

 

すると途端に。

淡い光が、彼女の体を包んでいく。

そう時間も経たないうちに、顔色や呼吸も戻っていった。

 

だが、まだ全快とは言えない。

流れ出た血や、後遺症の心配もある。

 

彼は黒い板を取り出し、こう続けた。

 

【神殿まで運びます】

 

「そうか」

 

それだけ聞くと、彼は魔術師を背負い、走り出した。

小鬼殺しも、彼を止めない。

 

格闘家の安否も気になるが、今は背中の彼女が優先だ。

 

彼は一瞬、小鬼殺しの心配をしたが、すぐにそれは消え去った。

一人抜けたとしても、あの男ならば問題ないだろう。

 

なぜならば、相手はゴブリン。

 

あの男は、事実上の在野最高位。

 

銀等級の冒険者。

 

小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)なのだから。

 

 

 

 

 




というわけで、第二話、いかがでしたでしょうか。

女魔術師、生存です。

魔法の薬(マジックポーション)についてですが、槍使いの相方の、あのボインの魔女は、武器をなくした新人に、それを探すためのマジックアイテムを渡したりしていました。無償で。
なので、主人公にもそういうのがあってもおかしくないかな、と。

第三話は、今回の顛末と主人公の過去について触れます。

感想、評価はお気軽にどうぞ。

ネイムレスさん、度重なる誤字報告、ありがとうございました。
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