語らぬ者の物語。   作:牛島 青

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第3話です。

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本当にありがとうございます。

当方、とても励みになっております。

今回は、少し短めです。
それでは、どうぞお楽しみ下さい。




第3話 ある冒険者たちのそれから。

ーーー

 

体が、揺れている。

なんだろう。

薄く開いた目には、誰かの肩が映った。

誰だろうか。

なんだか、見覚えが、あるような。

 

何を、していたのだったか。

 

ああ、そうだ。

ゴブリン退治に、来たのだった。

 

それから、どうなったっけ。

たしか、一匹、魔法で焼いた。

そして、そのあと。

 

やつらに、組み伏せられて。

そうだ、杖。

杖が、折られたのだった。

 

私が、賢者の学院を、卒業した証。

私の、誇り。

あれがないと、私は。

 

そして。

そのあと、腹を刺されたはずだ。

それで、あの()が、奇跡を使ってくれて。

 

それから。

…それから。

……どうだったっけ。

 

けれど、それより。

杖だ。私の杖。

どこ?どこにある?

 

明るいし、ここは、洞窟じゃない。

 

もどらなきゃ。

 

でも、あれ。

おかしいな。

からだに、ちからが、はいらない。

 

なぜだろう。

 

けど、いかないと。

とりに、もどらないと。

わたしの…つえ………。

 

 

 

ーーー

 

二日後。

神殿の中の、寝台(ベッド)の上。

女魔術師が、目を開けた。

 

「ん、んん…」

 

「っ!気づかれたんですね!」

 

傍らに座っていた女神官が、声を上げた。

 

「あれ…?私…」

 

「大丈夫ですか!?どこか、痛いところは!?」

 

女魔術師は、自分の体を確かめる。

とくに、おかしなところは無かった。

強いて言えば、多少体が重い程度か。

 

「ううん。…大丈夫」

 

「そうですか。良かった…」

 

自分はなぜ、ここで寝ているのだろう。

 

「………ッ?!」

 

それに思い至り、女魔術師の顔が青ざめる。

彼女は体を起こし、叫んだ。

 

「ねぇッ!あのっ、あの二人は!?」

 

剣士と、格闘家。

彼女の、一党(パーティ)の仲間である。

 

それを聞くと、女神官は悲痛な顔をする。

 

「…格闘家さんは、生きては、います。けど…その…」

 

「…いいわ。ごめんなさい」

 

ゴブリンに負けるというのは、つまり()()()()()()だ。

男は殺され、女は……。

最後まで話させるというのは、酷というものだった。

 

女魔術師は、事の顛末(てんまつ)を悟った。

自分たちは、依頼に失敗したのだ。

それもあの、ゴブリンを相手に。

 

仲間が死んだ。杖も折られた。

彼女のプライドは、既にズタズタだった。

 

「…それで、ここは…?」

 

「し、神殿です。二日も、寝たままだったんですよ」

 

二日。二日か。

そこで、彼女はあることに思い至る。

 

依頼に失敗したのであれば、自分は生きていないはず。

となれば、この()が?

いや、この華奢(きゃしゃ)な体躯だ。それはない。

 

「なにが、あったの?」

 

「は、はい。それなんですが…」

 

女神官は語りはじめた。

 

(いわ)く、鋼鉄と銀等級の二人が助けてくれた。

曰く、貴女(あなた)は毒に侵され、死ぬ寸前だった。

曰く、喋らない男が持っていた魔法の薬(マジックポーション)で助かった。

曰く、その彼が貴女をここまで運んだ。

曰く、あの巣は小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)が潰した。

 

魔法の薬(マジックポーション)のくだりで、顔を赤らめたのは何故だろう。

 

しかし、喋らない彼、と女神官は言ったか。

彼女には、その覚えがあった。

 

以前、下水道の巨大鼠(ジャイアント・ラット)狩りに同行してもらった。

当時は、まだ彼は黒曜だったはずだ。

周りからの評価は悪かったが、接してみるとそうでもなく。

斥候役の存在に、大いに助けられたものだった。

 

聞けば、枕元の杖の残骸は彼が拾ってきたという。

 

そうか、彼が。

 

寝ぼけていた頭が冴えると、彼女は冷静さを取り戻していく。

だがしかし。

それにつれて、彼女の心情は複雑になっていく。

 

助かった、という安堵と。

なにもできなかった、という後悔。

そして、深い絶望感。

彼女は、顔を手で覆った。

 

「あ、あの…」

 

女神官がその様子を心配し、声をかけようとする。

 

「ごめんなさい。…今は少し、一人にして…」

 

それを(さえぎ)った彼女の目には、涙があった。

女神官は、申し訳なさそうにしながらも、その場を離れた。

 

ああ、なぜ。

どうして、私だけが。

なんで。なんで。

どうして。

 

彼女は、寝台(ベッド)の上で泣き続けた。

 

ーーー

 

よくある話だ、という。

ゴブリンどもが村を襲い、娘が攫われることも。

新米の冒険者が、その依頼を受けることも。

その一党(パーティ)が追い詰められ、全滅することも。

冒険者によって、娘たちが救出されることも。

その娘たちが、その身を(はかな)んで神殿に入ることも。

 

何もかもが、この世界では、よくある話だ。

 

だがしかし。

生き残り、乗り越えた冒険者がいることも、事実である。

失敗から学び、それらを糧として。

 

仲間の死を、無駄にしてなるものか、と。

奮起する者がいることも、また事実なのだ。

 

果たして彼女は、起き上がった。

砕けてしまった彼女の誇りを、腕に抱いて。

新たな決意を、胸に秘めて。

 

ーーー

 

あの洞窟での一件から、五日が過ぎたその日。

青年神官は、ギルドにいた。

 

先日発覚した、巨大鼠(ジャイアント・ラット)の大量発生。

より詳細な調査が、後日ギルドによって行われた。

派遣された隊の中には、彼の姿もあった。

 

調査の結果、変異種の可能性はかき消えたものの。

大量発生(スタンピード)が脅威であることに変わりはない。

その対応のため、ギルドはある異例の措置をとった。

 

 

巨大鼠(ジャイアント・ラット)討伐者への、評価点*1の追加贈呈。

 

未だ新米の域を超えられずにいる者にとっては朗報だ。

今、下水道は冒険者で賑わっていた。

黒曜等級への昇格は、駆け出しにとってはひとつの目標なのである。

 

彼もそれに加わろうと、腰を上げようとしたその時。

 

「あ、あのっ」

 

後ろから、声がかかった。

見れば、女魔術師がそこに立っている。

 

杖は、先端の柘榴石(ざくろいし)はそのままに、新しく作り変えたらしい。

身じろぎと共に、ジャラ、と音がする。

どうやら、鎖帷子(チェインメイル)を服の裏に着込んでいるようだった。

眼鏡も、新しいものに変わっている。

 

彼女は、頭を下げた。

 

「先日は、その、本当にありがとうございました」

 

彼は首を横に振る。

ーー助かったのなら、それでいい。

女魔術師には、そう言っているように思えた。

 

「あの、それでですね」

 

女魔術師が続ける。

彼は首を(かし)げた。

 

巨大鼠(ジャイアント・ラット)狩り、やりませんか。一緒に」

 

頰が少し赤いのは、緊張のためか、はたまた別の理由か。

 

彼は、頷く。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

歩き出した彼の後ろを、彼女が追う。

 

そんな光景を、ギルドの二階から覗く影があった。

 

魔女。

槍使いの相方(パートナー)の、銀等級の魔法使い。

女魔術師を救った、魔法の薬(マジックポーション)の作成者。

 

煙管(キセル)を取り出し、口から紫煙を吐き出したあとに。

ふふ、と笑ってから、その特徴的な話し方で呟いた。

 

「おもしろい、ことに、なってるじゃ、ない」

 

柔らかく微笑むその顔は。

彼らを見守るように、優しげだった。

 

 

 

 

 

 

 

*1
進級審査にあたって、倒した怪物、社会貢献度、その者の人格などをギルドが査定し、算出する値のこと。




第3話、いかがでしたでしょうか。

女魔術師の性格について、少し解説を。
原作では少し高慢な話し方が目立つ彼女。設定では、「賢者の学院を卒業」との描写があります。なので、上下関係とかそこら辺はしっかりしていると解釈し、冒険者として先輩にあたる主人公に対しては、敬語を使っています。

第1話から毎日投稿してきましたが、第4話は、数日時間をあけてから投稿しようと思っています。

感想や評価は、お気軽にどうぞ。

それではまた次回。
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