虞美人さん、人理修復中のカルデアにて   作:heater

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見られることに頓着せず堂々として〇〇の格好しているって良いよね!
あと、虞美人さんのバレンタイン、良いですよね!


興味が無いので見られても無問題

 ある時、私はまた夢を見た。そして再び私を知らない藤丸立香(マスター)と出会ったのだった。

 虚月館という館。外見のみサーヴァントと化した招待客。招待客には私と藤丸立香が別人として捉えられている。異質で特異な――人理修復が完了した世界の空間。そんな場所での私の役割は花嫁の大学の女友達兼近侍(ヴァイオレット)。詳細は不明だが『幼少期より傍に仕えているが、それを周囲に内緒にしている家族も同然の苦労人、“伊瀬(いせ) (あい)”』……らしい。面倒な役割である。特に近侍としての丁寧口調が私にはあっていない。

 

「愛さん、どう思います、この事件?」

 

 コーヒーを淹れながら、藤丸立香は私に聞いてきた。前回の夢でもそうであったが、所作や話し方がマスターと殆ど同じである。ややこしい。なお、混乱を避けるのと私の事情を話すのも面倒なので役の名前で呼んでもらっている。

 藤丸立香は私と違い、こちらで気を失うと向こうで目が覚め、カルデアと相談を取れるとのことである。その際に重要なことをはぐらかす探偵と、この場に居たら真っ先に犯人に指摘されそうな老人の助けを借りて状況をまとめたらしい。そのまとめによると、シェリンガム(探偵)が殺されたことは妙な出来事であり、配役には何かしらの意味があるからそのサーヴァントとなっている、とのことである。つまり……

 

モリアーティ(ホーソーン)が犯人ね」

「気持ちは分かりますが落ち着いてください」

 

 何を言うのかしら。何かしら意味があるというのならば、ランスロット(アダムスカ)が浮気をしていて、メフィストフェレス(ケィン)が悪戯好きで、モードレッド(モーリス)は偽装で男になっていて、燕青()は変身し、バニヤン(ローリー)は巨大化する。そういう事じゃないのかしら。そういう事じゃない? そうなの……

 しかし今回は随分と毛色の違う空間だ。今まで経験した出来事(イベント)は基本サーヴァントと聖杯が関与していたものであったが、今回はどうも違う。……しかし、誰かの想いがこの空間(コラボ)を作り出したのは間違いないだろう。不思議と、そんな気がする。

 しかし、サーヴァントと関連しないとなると、この事件の解決も難しくなる。魔術を使用しない人間である以上、気付き一つで解決には向かうはずであるが、気付きに至るまで手をこまねくことも多い。

 

「ひとまず、お風呂とか入ります? ここのお風呂場広くて気持ちいいらしいですよ?」

 

 あれこれと悩んでいる内に、藤丸立香は私にそのように提案してきた。

 この状況で呑気ではあるが、気分転換にはなるだろうという藤丸立香なりの心遣いなのだろう。確かに私も伊瀬愛という人間に役割を割り振られているせいか、疲労はいつもと違うように溜まる上に、お風呂に入ると不思議な高揚に包まれる。滅多にない機会ではあるので気分を変えるためにゆっくりと湯船に浸かるのも良いだろうと、提案に乗ることにした。

 しかし、良いのだろうか。藤丸立香自身が気にしないと言うのならば私も特に気にはしない。その疑問に対し「どういう意味ですか?」と不思議そうな表情をする藤丸立香。

 もしかして気付いていないのだろうか。今の藤丸立香が与えられた役割はジュリエットの大学のゼミ仲間で、聞く限りでは仲の良い間柄。私には藤丸立香は割り振られた役割の外見ではない姿が見えているが、周囲にとっては役割となっている外見に見られている。つまり……

 

「……え、私、男湯に入らないといけないんですか!?」

「もし水着に着替えるとしたら男物のトップレスよ。気にしないのなら良いけど」

「ただの痴女じゃないですか!」

 

 藤丸立香。

 明るい赤髪の身長約160の正真正銘の女性。

 だが、割り振られた役割はジュリエットの大学の友人である男友達。

 割と貞操と言うべきか、性癖の危機らしい。

 

「周囲にとって外見は男認識だから問題ないんじゃない?」

「絶対嫌です! 愛さんだって嫌でしょう!」

「いや、私は見られようが別にどうでもいいけど。入りたいなら男湯に行く? 私は構わないわ」

「マジですか!?」

 

 

 

 

 

 

 ある時の夢の続きの話だ。

 結果としてなら事件は解決し、藤丸立香と私の役割の任は解かれることとなった。

 まさか探偵が正真正銘のホームズで会った時は、重要なことを話さないあの顔を一発殴りたくなったけどそれはどうでもいいだろう。それよりも私にとっては、魔術と関係しない15歳がホームズのバリツを十数発耐え、反撃をしてダメージを負わせたというケィンの将来が割と心配である。あの子、鍛えたら色んな世界のトップを目指せるのではないだろうか。

 ともかく、この夢の終焉を前に私は、彼女――藤丸立香の元へと訪れていた。

 

「ねぇ、立香。人理修復した貴女はこれからどうしたいの?」

 

 私の質問に対し、彼女は質問の意味を一瞬だけ考えたような仕草を取る。その後はマスターと同じような笑顔を作り、私に回答した。

 

「そうですね、マシュや皆と一緒に他愛もない話をしていけるようになりたいです」

 

 文字通り世界を救う人理修復をした彼女にとって、望むものは特別扱いでもなんでもない、当たり前の平穏をであった。それがどんなに困難もあることも、尊いものかも理解したしたうえで、夢見るように彼女はそう言った。

 『いつか幸福が訪れる』

 『諦めなければ夢は叶う』

 『だからこそ、手に入れたものは取り零したくない』

 ……本当に、藤丸立香というマスターは、何処の世界でも同じように夢を見ている。

 そしてそんな夢を見る人間だからこそ、英霊は 彼/彼女 に力を貸すのだろう。

 期せずしてこの空間に私が役割を振られたのは、これが理由なのか、伊瀬愛がただ望んだ結果なのかは分からないが。この回答を聞けただけでも、報酬としては充分だろう

 その為にも、私は――

 

「ところで、あの、愛さん」

「? ……あぁ、ケィン。どうされました?」

 

 と、これからの私の目標を再確認しようとしたところで、メフィストフェレス外見のケィンが私に話しかけて来た。一応周囲には近侍は内緒の設定なので、呼び捨ての丁寧口調である。しかし、ケィンがこの外見で落ち着いて話す姿はある意味異質である。

 

「昨日の23時頃なんですが、愛さん、どこにいたか聞いても良い?」

 

 その時間は広い風呂に入りたいと言う藤丸立香(彼女)と共に、女湯は人が居たから男湯ね。うん。

 入口は施錠していたはずだけど……女湯と違って立地的に窓の外から見える場所もあったわね、確か。

 ……彼も15だ。そうやって大人になっていくのだろう。多分。

 

 

 

 

 

 

「ノブブノブ、ノブブ、ノブブー!」

「ノブ、ノブノブ。ノブノブノーブ!」

「ノブ、ノブブ!」

「ノブノブォーン!」

「ノブーノーブ!」

「ノブノッブ、ノブブー!」

「ノブォォォォオオオオオ!」

 

「……帰っていいかしら」

「虞さん、もう少しですから、頑張ってください……」

 

 ある時、私とマスターは不可思議な聖杯戦争に巻き込まれ、解決した後に妙な敵に囲まれていた。そう、ノブ軍団である。

 織田信長の周囲の人間が、振り返ってみると変な方向に拗らせたヤツが多いことに少し同情していた矢先にこの敵である。ハッキリ言って面倒なことこの上ない。

 なんなのこいつら。見た目に反して声が高かったり低かったり、どこかで聞いたことがある声だったりと戦い難いことこの上ない。しかもある程度戦っていると突撃して自爆もどきをしてくるので厄介である。私がよくやっていた自爆特攻&復活って敵になると面倒ね。私もやり返したいところではあるが、この相手に宝具で真面目に戦うのは何故か知らないが負けな気がする。マシュや織田信長、ヤマトの龍とそれを従える白スーツの男、白い沖田総司と褐色の沖田総司などが居るのでどうにか戦えてはいるけれど、この数は面倒だ。ついでに応援するだけで戦わない織田信長の弟はどうにかならないのだろうか。囮とかには使えそうではあるが。

 

「ノブー!」

「あれは……スーパーメカノッブマークⅡB! 実験段階で廃棄したはずの機体が何故ここにおるのじゃ!」

「なんでノッブが敵の親玉を知っているんですか!」

 

 そして現れた黒い巨大なメカノブ。下手をすれば宝具を使用しない並大抵のサーヴァントより強力な存在である。あと、この織田信長は放置してよいのだろうか。この女を生贄に捧げれば諸々のぐだぐだな出来事(イベント)の大抵は解決する気がする。そのような判断を巡らしていると……

 

「あれは、ファイナル本能寺クラッシュリローデッド! 気を付けい、あれはこの一帯が焦土と化す威力を個人に行う攻撃じゃ!」

「いや、なんてもん開発しているんですか敵は!?」

 

 ……え?

 

「虞美人さーん!?」

 

 直撃は避けた。

 マシュのスキルのお陰でダメージは大分軽減した。けれど、痛い。とても痛い。

 ……ふ、ふふふ。いい度胸ね。そちらがその気ならば私にも考えがある。マスターの静止とかマシュの慌てやドクターの諦めなど関係ない。――最大出力。

 

呪血尸解嘆歌(エターナル・ラメント)!!」

絶剱・無穹三段(なんかすごいビーム)!!」

 

「沖田ちゃんまで乗らないで!」

 

 結論だけ言うと、一帯は焦土と化した。

 だけどノブ軍団は一掃したので無問題(モーマンタイ)ね、ええ。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、虞さん。悪いけど千代女ちゃんにこれを届けてくれない?」

「……いいけれど、なんで私に?」

 

 ある時、ブーディカが私に笹に包まれた握り飯を二つ分手に持ちながら、食堂で私に訪ねてきた。

 この後アサシンクラスによるシミュレーションがあるので、届ける程度ならば別に問題はないが、何故私に頼むのだろうか。別に他のアサシンクラスのサーヴァントでもいいだろうに。同じ忍者の段蔵とか。

 

「え、だって虞さん、千代女ちゃんと仲良いでしょ?」

 

 私があの子と仲が良い? 何を勘違いしているのだろうか。

 確かに彼女と付き合いは長く、きっかけは忠義と思慮は別物であり、寡婦になりとて夫を忘却せず主に尽くすという彼女の在り方に興味をひいたことから、項羽様()について話すことはある。だが、別に仲が良いわけではない。確かに己を蝕む呪いについても思うところがあるから話すことはあるけれど、仲が良いわけではない。そもそも私が他のサーヴァントと仲が良いなんて有りえない。せいぜい蘭陵王なら分かるけれど。

 

「あれ、でもエミヤや巴、騎士王やカルナ、ベディやアーラシュさんとかとも仲良いみたいだけど」

 

 エミヤは食堂でよく会うから話すことが多いだけ。……たまに料理を教わることはあるけれど。

 巴は千代女と同じく項羽様()についてお互いに話すことが多いだけ。ゲームを一緒にやったりすることはもあるけれど。

 アルトリアに関しては増える別側面の相談がきっかけで話すことが多いだけ。

 カルナはレース以来何かと話しかけられることが多いだけ。

 ベディは彼の歩んできた経緯を鑑みて共感する話題に花を咲かせることが多いだけ。

 アーラシュは宝具がきっかけで話す機会が多いだけ。

 他にも裁縫を教わったり、料理の試食に付き合わせたり、フォウの毛繕いをしたり、マスターおすすめの本を読んだり、マシュとお茶をしたり――

 …………あれ、もしかして、私。

 

「……もしかして、私。このカルデアに染まっている?」

「あ、気付いていなかったんだ」

 

 いや、そんな筈はない。私がこのカルデアに染まるなど有り得ない。

 そうだ、今からあるシミュレーションでそれを証明して見せる。千代女と連携をとって大蛇の上に乗った後、魔力の雨を降らせるという宝具の簡易バージョンなんて今回はやらない。個で戦って見せる。

 よし、そうと決めたらさっそくシミュレーションに向かうとしよう。

 

「……と言いつつ、頼まれたものを届けに行く辺り面倒見は良いんだよね、あの人」

 

 遠くでブーディカが何かつぶやいた気がしたけれど、うまく聞き取れなかった。

 




バレンタイン、ボイスが付いてテンションが上がるサーヴァントが多くて嬉しい限りです。

一応補足ですが、伊瀬愛はオリジナルです。名前の元ネタは分かる人には分かるかと。アイルランド人のクォーターとかのお方です。
ちなみにケィンが見たのは愛さんの方だけだったり。

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