虞美人さん、人理修復中のカルデアにて   作:heater

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そろそろイベントも枯渇気味ですね……


この後、マスターは寝れない日があった

 

「別に、許す必要は無いと思います」

 

 ある時、サーヴァントの過去についてマスターはそう言っていた。

 カルデアは多くのサーヴァントを召喚する。その結果当たり前と言うべきか過去に遺恨がある者同士が遭遇し、衝突することも珍しくはない。その度にマスターを始めとした者達が止めに入るのだが、それが数度起きた際に私はマスターに聞いた。「お前なら、過去は水に流して今は許すことが大切、とでも言うと思った」と。それに対してのマスターの返答が先の言葉だ。ようはマスターは許すことも大切ではあるけれど、全てを許容していては、それは人として何もないという事であると、マスターは言いたかったのだと思う。間違いは間違いとして見過ごせず解決に尽力するが、何が正しいかは本人次第で、感情による行動はその人がその人である所以である、と。

 

「――だからって、深夜のつまみ食いは見過ごせないわよ、マスター。ドクター」

 

 場所は食堂。時刻は深夜1時。食堂の椅子に私は座り、その前に椅子を使わずマスターとドクターは座っている。ちなみに強要はしていないが二人とも正座である。

 作業も終わり自室に帰ろうとし、不意に食堂に淡く光が宿っていると気付き、気配遮断しつつ立ち寄るとこっそりと即席拉麺を食べている二人を発見。曰くトイレに起きたマスターがドクターを発見し、普段なら咎めるマスターも夕食にドラ娘特製赤料理を食べた後だったため誘惑に抗えなかったとか。

 

「でも、虞さん、深夜のラーメンは抗い難い誘惑が……!」

「しかもこれは僕が取り寄せていた宝具(とっておき)の……!」

「サッポ□2番の塩味、まさに日本(ソウル)フード!」

「期限も今日で、このままでは廃棄になっちゃうから!」

『食べないともったいない!』

「うるさい」

 

 私がぴしゃりと言うと、二人は「はい……」とシュンとなった。まったく、他に誰も居ない食堂でこそこそと食べてなにをしているのかしら。二人は明日も任務(レイシフト)があるから今後はそうしないように釘を刺さなくては。私は兎も角二人はタダの人間なのだから、体調管理はしっかりしないと……それに癖がついても困る。

 

「だけど虞さん、もしかしたらつまみ食いしたらそれに毒があって、俺の耐毒のおかげで皆が救われる可能性も!」

 

 何故かしら、そのシチュエーションはイラッと来る。ケーキとあの忌々しい狐が思い浮かんだのは本当に何故かしら。

 それはともかく、二人とも反省はしているようだしこの程度で良いだろう。こそこそしていたのは恐らく深夜に起きているとナイチンゲール辺りがうるさいからだろうし、そこは軽く口頭注意だけで良いだろう。

 ……それにしても深夜の食事とはそんなに魅力的なのだろうか。何度かヒロインX系統や子供サーヴァント系などが深夜に食堂に入ってエミヤ(おかん)ブーディカ(母役割)が怒るのを見たことはあるけれど……私はそもそも人と同じような食事を摂らない期間の方が長かったので、そこの所はよく分からないのだけど……

 

「……ねぇ、マスター、ドクター」

 

 正座に足が痺れてゆっくり立とうとしている二人に私が話しかけると、二人はまた説教が始まると思ったのか一瞬だけビクッとする。失礼ね。

 

「私、この時代の拉麺……その即席のやつって食べたことないのだけど、美味しいの?」

 

 私の言葉に二人は一瞬呆気に取られて、顔を見合わせる。そして二人にしては珍しい不敵な笑みを浮かべる。

 

 ――許す必要はない。だけど許さないわけではない。深夜に食べる料理という、一時的な感情による行動も悪くないかもしれない。……餌付けではない、決して。

 

 

 

 

 

 

「シミュレーターにバグ?」

「えぇ」

 

 ある時、シミュレーターにバグが発生した。

 シミュレーション事態に予測不能な点があることは芥ヒナコ時代にある程度関与していたため対処することは何度かあった。だが今回はそれとはどうも違うモノらしく、シャドウサーヴァントとも違う辻斬り……とかいうものが発生したとのことだ。原因は別世界から紛れ込んだセイバーのディルムッドが関与していて、バグ自体は解決はしたとのことではあるが……

 

「今後は起きないように、こうして対処をしているわけだ」

 

 それはご苦労なことである。別世界からの対策など、どう対策すれば良いのか見当もつかない上に仕様が無いと思うけれど。しかし対策が決まっていると無いとでは大きく違っては来るものだ。

 ……こういった方面はカルデアの職員に任せておいて問題ないだろう。私には手伝えることもない。

 

「それじゃ、対策方法が決まったらデータ送っておいてダストン。紙だと資源が無駄だから」

「え? あ、ああ、分かった……?」

 

 何よその顔。私だって対処方法位頭に入れる。今後バグが発生した際、私が居た場合に対処方法を知っていればマスターの危険は遠ざかるのだから。……恐らくは私がこうして対処方法を頭に入れようとしていることが珍しいのだろうけど。以前だったら興味も示さなかっただろうし。デレ期ではないが、変にプライドを持っても意味がないため、こういった方面はキチンと知っておかないと。繰り返すがデレ期ではない。

 私はオクタヴィアにその辻斬り(バグ)とやらの情報データを貰い、管理室を後にする。……なるほど、怨念に近い形で現れたのね。今後はそういった対策物も用意しておいた方が良いだろうか。私の体内に仕込んでおいて呪血尸解嘆歌(エターナル・ラメント)に付属効果を――は、無いわね。下手にしたら私が弱体化しそうだ。

 

「……芥に似ているな、今の感じ」

 

 去り際に誰かが何か言ったような気がするが、私には関係ないことだろう。

 

 

 

 

 

 

「今回のサンタはサンバで善と悪に分かれてルチャでサンタを決めるそうです」

「…………」

「熱はありませんよ、虞さん」

 

 ある時、妙なことを言い出したマシュの額に手を当てた。

 私は彼女にむしろ熱があることを望んだが、残念ながら正常らしき数値であった。本当に残念である。

 情報を整理すると、今回のサンタは前回のアルテラサンタからサンタとしての権限をクリスマス聖杯ごと譲渡されたケツァル・コアトルで、本()との食い合わせの悪さで善と悪に別れ、悪の方が墨西哥(メキシコ)で特異点を発生させ国別サンタタッグトーナメントでサンタを決めるとのことだ。まとめたものを見返すと「正気か!」と後から外部の人間が言いそうであるが、今更というモノだろう。残念ながら正気だ。

 

「あぁ、だからあの皇帝()が私をパートナーに誘おうとしたのね」

「武則天さんですか?」

「ええ、断ったけれどね」

 

 しつこかったがフォウを呼んで退散させた。そもそも私と彼女は在り方的に相容れないと言うのに。

 しかし、マスターがカルデア代表としてトーナメントに出ると言うのに、マシュは何故トーナメントに参加していないのだろうか。マシュであれば間違いなくマスター達と参加すると思ったのに。

 

「……私にはルチャは向いていないと言われまして」

 

 と、マシュは少し不貞腐れた様に言った。どうも先輩(マスター)が別のサーヴァントとパートナーの様になっているのに嫉妬しているのだろうか。……随分とマスターにご執心のようだ。昔とは大違いである。

 

「はいはい、ならどうにか近くで見れる方法を探しましょう。ドクターやダヴィンチに相談して、ロビンの緑のマントを使えば近くで見れるでしょ」

 

 私は不貞腐れるマシュを宥めながら、特異点に行く準備をする。ほら、マスターがカルデアに一時的に帰ってる内に準備を整えないと特異点に戻っても遠くから見ているだけになるわよ。まったくもって手間のかかる。後でマスターにはこの気苦労を和らげるためになにかしてもらおう。……よし、今度は醤油味とやらにオリーブオイルを試す食べ方をしよう。確かドクター秘蔵のヤツがあったはずだ。

 

 

 

 

 

 

「続きまして紹介するのは、飛び入り参加の謎の覆面コンビだー!」

『…………』

 

 ある時、私とマシュはリングにコンビとして立っていた。相手は噂のサンバ・サンタと金髪の女騎士。実況はジャガーマン。

 ……おかしいわね、確かこっそりとトーナメントを間近で見ようとしただけなのに、どうしてここに居るのかしら。そして何故私は変態作曲家の仮面を被り、マシュはエミヤが以前使っていた覆面を被っているのかしら。

 いえ、理由は分かっている。周囲が暑かったので服装を相応しい格好(第二臨)に変えて、マシュと共に居たらトーナメントに参加する用のコスチュームを着ていると勘違いされ、唐突に表れたジャガーマン(森仕様)に連行されたのだ。そして現在に至っている。

 

「く、今回の相手は覆面のまま戦うんですね、情報(真名)を隠し通すつもりです!」

「わ、わー……いったいだれなんだー!」

 

 マスターの気遣いが痛い。とても痛い。

 カルデアでは見たことの無い女騎士の方は素直に私達の事が誰が分からないのだろうが、マスターとサンバ・サンタの方は多少の同情の視線がある。……いえ、同情されることはない。私の名前は今は“チャイーナ・グッチャン”で、マシュは“カルデアス・ハッド”だ。決して虞美人やマシュ・キリエライトとは一切関係ない。ドクターが「君たち、僕達が今回特異点に送り込んだのは藤丸立香くんとケツァル・コアトルだけだ、いいね」と言っていたので問題ない。ダヴィンチは大笑いして録画しようとしていたので後で対処はする。

 ……これはこれでいい機会だと前向きに考え、マスターの敵を排除していこうと思ったけれど直ぐに戦うとは思わなかった。

 

「わ、私の名前はカルデアス・ハッド! 今回のサンタを狙う盾のルチャ選手なり! ……です!」

 

 マシュ、無理矢理テンション上げなくていいわよ。多分悪役になろうとしているのだろうが、マシュにそれは不向きすぎる。……え、ドクター、じゃあ私がやれって? 絶対に嫌。これ以上私に恥を晒せと言うの。今更とかは言わない。

 

「よく分からないが、名乗りも終わった所で――試合開始ー!」

 

 そしてゴングが鳴る。

 構える女騎士。やるからには本気というサンバ・サンタ。同じく態勢を整えるマシュ。私もやるからにはある程度本気でやるために構えを取る。というより、ある程度は本気でやらないとペナルティがあるし。

 ぶつかり合う肉体。動き回る4人。舞い踊るかのような技の数々――が多少起きたところで、

 

「――ダメです、やっぱり先輩とは戦えません!」

 

 私達は負けた。

 えぇ、まぁ分かっていたけれど。マシュはそういう子よね。

 ……サンタはもうこりごりである。

 

「いっそ先んじられる前に私がサンタになってしまおうかしら」

 

 いえ、絶対にやらないけれど。

 

 




虞美人さんは第二臨衣装。
霊基再臨の二回目のセリフ。
種目はルチャ。
ある程度真面目にやる分動きは激しい。
服はヒラヒラしている。
藤丸立香はセコンドである以上目を逸らしにくい。

……タイトルはそういうことです。

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