虞美人さん、人理修復中のカルデアにて   作:heater

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タイトルごめんなさい。

ちょいシリアス多めです。


前回前編と言ったな、あれは嘘だ

 ある時、私はモナ・リザを手に入れた。もちろん複製である。

 数日前とある事件(騒ぎの当時は警戒アラートを鳴らしたのがダヴィンチと知った瞬間に無視すると決めた)があり、これはその名残のようなものであり、とある料理人曰く“熱意が技術を凌駕した”贋作とのこと。私にはその点のあまり違いは分からない。

 あまり分からない……けど、これは私が嫌悪する人間の性とは違うものであることは理解している。不可能とされたものをただひたすらに突き進み、輝きに手を伸ばし足掻く。神を否定し、強くあろうとした少女の証の過程と呼ぶべき代物。私はそれを否定しない。

 

「否定はしないが肯定もしない、といった所かネ、虞美人くん」

 

 私に話しかけて来たのは外見が50前後の悪徳紳士。基本全盛期の若い肉体で呼ばれるサーヴァントの中でも異質を放つサーヴァント。カルデアで何かあった場合は、基本此奴とカエサルとパラケルススあたりを捕まえとけば黒幕がいるだろうと呼べるような存在。そんな存在が、私に話しかけている。

 

「……何か用?」

「おっと、返事をしてくれるとは意外だネ! やはり私のような若輩者では予想も当たらないという事だ」

 

 ……この男は苦手である。不可能犯罪をなんなく成立させ、輝きを持ちながら悪徳を両立させ、(したた)かである犯罪の証と呼べる存在。

 そして私がどういう存在なのかも理解した上で、私を計画の一部に組み込もうとしている。マスターのサーヴァントである以上滅びるような賽を振らないだろうが、油断はできない。

 警戒を残したまま、老紳士はコホンとワザとらしい咳ばらいをすると「そういうキミは」と前置きをし、一つだけ問いを投げかけた。

 

 

「キミは熱意故に人を憎んだのか、情愛故に人を滅しようとしたのか――どちらなのかな?」

 

 その問いに対して、私は――――

 

 

 

 

 

 

 

「虞美人さん、お願いがあるのですが」

 

 ある時、マシュが私に話しかけてきた。

 今まで私が避けていたこともあり、業務的な連絡以外では特に会話も少なかった私達だけれども、マシュは意を決したように私の前に立っている。

 こういった類の相手は面倒だ。大抵は折れず、諦めず、しつこく食らいついてくる。私に料理を食べさせようとするエミヤはよくこんな顔をしていた。これは逃げるより相手をして拒絶した方が後々楽になる。

 ……別にマシュが嫌いなのではない。最近の彼女は強者に抗おうと闘っている。そういった姿勢は嫌いではないのだけれど……今の彼女は少々苦手なのだ。

 真っ直ぐで、人と話すことに喜びを見出し、マスターを守り共にあることを幸福とする。そして彼女はそれを明日終わっても良いと思っている。そんな彼女の姿勢が私には眩しいのだ。

 

「私と一緒に、レオニダスさんのブートキャンプに参加しませんか!」

 

 ……そう、眩しさが変な方向に行っているのだ。あのマシュが明るくなったことはオフェリア辺りが見たら喜びそうだが、ここまで活発にならなくても良いと思う。

 私自身、レオニダス一世が残した偉業は私としても素晴らしいものだと思っている。が、あの自称理系のサーヴァントの暑苦しさは苦手だ。計算と言いつつ結局物理で解決する点は嫌いではないが。

 それはともかく、今の私はサーヴァントだ。運動した所で筋力のパラメータが上がるわけでもない、と言ってマシュには悪いが断ることにした。すると見るからにしょんぼりとするので、参加しないことを条件に付いては行くと伝えると心の底から嬉しそうな表情になる。オフェリアが見たら泣きだしそうである。

 そしてブートキャンプに行くと、まさかのマスター含むカルデア職員全員参加。忍者系などマスターに忠節の高いサーヴァントも多数参加。食堂組に至ってはいい笑顔でサポートの料理を振舞う準備をしている。

 正直ここは世界を救うための場所であると気を抜くと忘れてしまいそうである。

 

 

 

 

 

 

 ある時、私はマスターとマシュと共にアメリカで特異点修復をしていた。ちゃんと世界を救おうとしていた。驚きである。

 よく分からない出来事(イベント)による特異点ではない元来の目的である特異点修復だったが、正直疲れた。肉体的ではなく、精神的に。

 いきなりマスターはきりもみ回転しながら吹っ飛ばされ傷を負い、相手の話を聞かない人を救う看護師からマスターの命を守るために四苦八苦。しかも味方なので質が悪く、傷を負えば問答無用で即・切断。おそらくこの女、私がサーヴァントじゃない時だと肉体再生をやる前に傷を増やして再生を遅くするタイプである。

 その後もいろいろと苦労があったが、一番頭を痛めたのはある意味私が嫌悪する英霊の一人であるトーマス・エジソンとの会合。このアメリカに来てから機械を満遍なく侍らせている親玉という事もあり、会う前から嫌な感じではあったがアイツの姿を見た瞬間眩暈がした。ライオンで大統領ってなに? 巫山戯ているの? 寧ろ真面目なら真面目でより質が悪い。でも発明王で古今大統領の集合体……私にとってはある意味天敵ではなかろうか。

 そしてアメリカを徒歩で横断しようとしたり、男の介護系ヒロインが現れたり、蘭陵王と気が合いそうな槍男と対峙したり、私の宝具に巻き込まれてエジソンがモヒカンになったり、兄弟喧嘩で地形を壊したりと色々あった。正直あまり思い出したくないので割愛する。

 ……帰ったら適当に本を開いて、しばらく出来事(イベント)に関わらないスタンスになろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 ある時、第五特異点の途中にて。

 夜の野営で私が見張りをしていると、マスターが隣に座り真剣な表情で言葉を投げかけてきた。

 

「宝具は、使わないでほしい」

 

 理由は、私の宝具がどのように使われているかをナイチンゲールから知ったからだ。……、少しだけ彼女を恨んでもいいだろう。

 私の宝具、呪血尸解嘆歌(エターナル・ラメント)は簡単に言えば自爆技。肉体を放棄し魔力を暴走させるが、肉体再構成によって宝具を使用しても私は消滅しない。しかし、痛みがないわけではない。それをマスターが知ってしまったのだ。

 あまりに甘く、幼稚で、相手によっては侮辱ととれる台詞……だけどマスターは、私を心配すると同時に()()()()()()()()()()()()揺らいでいる。まるで、望みはそんなことではないかと言うように。

 ……そういえば、マスターはこういう人間であった。藤丸立香は、目の前で苦しんでいる存在を見過ごせるような性格ではなく、それは相手が納得していても、特異点修復などで死が無かったことになると理解していても、出来うる限り自身が見える最善を目指す人間なのだ。

 

「私は、私が宝具を使いたいと思う時しか使わないわ」

 

 だから私は、私が私のしたい事だからやっているのだと事実だけを言い、それ以上の会話をさせなかった。

 マスターは何か言いたそうだったけれど、手で両頬を掴み喋らせないようにして話すことを禁止した。

 それ以降マスターからはこの件について触れなくなった。私のその行動のお陰なのか、私の睨みが効いたのだろう。

 

 

 ……後から聞いた話だけど、その時私は微笑んだとのことだ。え、私が……?

 

 

 

 

 

 

「あの、虞美人殿……私と一緒にげぇむをやりませんか?」

「……はい?」

 

 ある時、ゲーマー・インフェルノ……ではなく、アーチャー・インフェルノ、もとい巴御前が私に対して尋ねてきた。手に持っているには黒いコントローラーと赤と青の対となったコントローラー。早い話が……家庭用ゲーム、というやつだろうか。

 私自身食わず嫌いではあるのだがそういった文化は好きではないので、「そういうモノがある」程度の認識のものだ。似たものかは不明だが、特にスマホは最近嫌な感じがヒシヒシと沸いてくる。何故だろうか。

 ともかく私はそういった方面に興味はない、ゲームに興味のあるサーヴァントを誘うように伝えた。というより、よくこの人理修復中にゲームをする余裕があるというものだ。

 

「はい、最近はマスターやマシュ殿、ロマニ殿なども参加して大乱闘しております」

 

 あの馬鹿共は人理修復をなんだと思っているのだろうか。確かに私は人の世がどうなろうと良いって言ったことはあるけれど、あいつ等は違うはずなのに。

 え、ナイチンゲールやエミヤに見つからないようこっそりゲームするのがドキドキと相まってより楽しい? いや、そういう問題ではない。

 もしかして私が人理修復に介入したから、マスター達がそんなことをし始めたのだろうか。だとしたら私は直して見せる。息抜きは必要だとわかるけれども、それとこれとは話が別である。

 それと相手がいるなら何故私に話しかけたのだろう。少なくとも私はゲームの相手をするように見えないと思うのだけど。と、聞いてみると、偶々相手が居なく、途方に暮れていると黒髭が私や千代女、ブーディカ辺りなら相手にするかもしれないと言ったとのことだ。

 ……よし、マスターの所に行く前に黒髭を処そう。アイツ絶対分かっていて私たちを選んだだろう。

 

 

 

 

 

 ある時、マスター、マシュ、ドクター、巴、千代女、黒髭、エルメロイ2世とゲームをした。ダヴィンチはなんか卑怯だったので除外した。

 勿論空いている時間だ。

 だけど夜遅くまでやっていたのでエミヤとブーディカに怒られた。

 

 

 …………あれ?

 

 

 

 

 

 

 ある時、ふと気づいた。

 私、カルデアに馴染みすぎではないか、と。

 毎日食堂で食事を3食摂り、戦闘シミュレーションを行った後、当番で決められたカルデアの雑務を熟し、自由時間に好きに過ごす。

 ……別にこのカルデアは安らげる場所なので構わないのだけれど、なんだか私らしくない気がする。もっとマスターを扱き使ったりするべきだろうか。確か先輩は後輩に焼きそばパンを買いに行かせたりするものだと聞いたことがある気がする。よし、そうしよう。

 

「あ、虞美人殿、お館様がアサシンでパーティを組みたいので半刻後集合とのこと」

「分かったわ、ワイバーンを狩るということね」

 

 ……違う。そうではなく、もっと私らしいことがあるはずだ。人を嫌ったり、人理の守護者である英霊を嫌ったり、歩み寄ってくるマスターを袖にしたり……

 

「虞美人よ、この間頼まれたカルデアで着用する服一式の修繕である」

「ありがとう。はい、約束の布一式」

 

 例えばカルデアスタッフと話を拒否したり、アドバイスを求められても自分で考えなさいと言ったり……

 

「ちょっとアンタ! この前のリベンジよ、リベンジ! 次は負けないから!」

「まずは冷静になることを覚えなさい。姉がまた叱りに来るから」

 

 話しかけられても最低限の返事しかしなかったり、マシュに誘われても今度こそ断ったり……

 

「虞美人、この後マスターに会うならこれを渡してもらえるか。中は疲労回復のある携帯飲料だ」

「面倒ね……代わりに今日の食後にお茶を淹れなさい」

 

 …………………………

 ……今度本でも読んでいるふりをしていようと思う、とある日であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある時、蘭陵王がカルデアに召喚された。

 私を見た時は仮面越しでもわかるほどにひどく驚いていた。私も驚いたと言えば驚いたが、私がこの場に召喚された以上あり得るものだとは思っていた。むしろあり得なかったら項羽様は来ないことになるのでそうでないと困るのだが。

 蘭陵王。私は彼の死の間際を見、そしてシンでは私のサーヴァントとして戦い抜いた空しき忠義を貫いた男。

 どうやら彼自身にシンでの記憶はないらしく、初めは彼との最期の後に生き続けこのカルデアで職員のふりをしていると勘違いをしていた。だが、私が英霊としてこの場に居るという事を話すと、先程よりは落ち着いた表情で驚いた後、「不躾と承知ですが」と前置きをし、私に一つだけ問いを投げかけた。

 

「貴女は、人が輝きに手を伸ばし手中に収めた故にここに居るのですか」

 

 違う。

 それは()()見ることができていない。

 彼の望みに沿わず、こうした出会いであることは彼にしても望むべきでないことは理解している。だが、それでも一つの答えを私は彼に返さなくてはならない。

 

「ここに居れば、見ることができるから」

 

 私がそう返すと、彼は仮面を外し穏やかな表情で「よかった」と、私の答えに満足したように微笑んだ。

 

 




絆5越えの虞美人さんなら煽るか頼み込めばゲームをしてくれると思うのです。

エジソン好きの方には途中の文章申し訳ございません。

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