『私が師匠だ』
ある時、マスターの師匠の座争奪戦が始まった。
原因は先日召喚された司馬懿、もといライネス師匠がマスターを弟子扱いしたことが原因だ(ちなみにマスターは謎の弟子認定に初めは戸惑っていた)。
そこから多くのマスターに対して師事する者達が集まり、誰が一番の師匠かを比較することになった。……教えるジャンルが違うので、誰が一番という事は決められない気もするが、本人達にとってはマスターが誰を一番敬っているかという点が重要だそうだ。
マスターはマスターで全員尊敬しているとしか言えない……というよりは誰かを一番などと言うと、どう足掻いても面倒なことになるのでそうとしか言えないのだろう。
「――つまりは、最後まで残った者が一番尊敬できる人物ってことなのだな」
このサーヴァント達はなにを言っているのだろうか。
確かにこの場に居るのは主に武を極めた万夫不当の英雄達。強さを象徴する者であるので、それを証明できるのならば英雄としては好ましい存在であることは確かだろう。だからといってその結論は極端すぎはしないだろうか。
マスターもその結論……つまりは全員で戦い合う結論になったことに慌てるが、マスター一人では止められないことを理解しているのか、こちらに助けを求める。
「一度気の済むまでやらせないと、何度もやるわよ」
「やらせたらやらせたで何度もやると思うんです」
確かにそうだろうが、アイツらを止めることは私には無理である。スカサハを始めとして、落ち着きがありそうなケイローンや戦いを好むサーヴァントが強者と戦えることを目的として集まってきているのだ。今の私達にできることは、精々こいつらの戦いをシミュレーションの中で終わらせるように仕向けるくらいであろう。
「それにしても、無駄な戦いをするものね。誰を一番敬っているかなんて、決まり切っているというのに」
「?」
まったく、敬っているという点に関しては私が一番ということは決まっているというのに。こいつらも随分と無駄なことをするものである。
「あら、蘭陵王。いつの間にそこに……って、なにその表情」
「……いえ、なんでもありません」
◆
「うーん……マスターの過去を見るのなら分かるけど、その他となると分からないかな」
ある時、ドクターにサーヴァントの夢について聞いてみた。
今までの経験の具体的なことに関しては伏せたが、さすがにドクターも詳細は分からないとのことだ。……マスターに関してと言えば関してではあるが、どうもあれはマスターと契約している時に起きるとされている現象ではないだろう。疲れも痛みもあったし、なによりもその時の記憶を有しているライネス師匠やジークがこのカルデアに居ることを考えると、マスター絡みではないだろう。
「もしかしたら、願望が夢として現れているかもしれないね」
……つまり私は心の底では多くの複製サーヴァントと戦い、館で殺人事件に会い、師匠を得ることを望んでいるということだろうか。え、私ってそんなに人の生き死にに対する欲求不満なのかしら。心の奥底では暴れたりないと思い、誰かの下に付くことを望んでいた……?
「ともかく、サーヴァントの夢の理屈は分からないよ。カルデアの召喚システム上、寝るとシステムと繋がり、特異点に紛れ込んだという可能性もある。今後続くようだったらシステムチェックをするから、またなにかあったら教えて欲しい」
確かにそれが一番の原因として考えられるわね。胡蝶の夢のようにどれが現実で、どれが夢で、どれが特異点なのかなんて自身の認識次第なのだから。
しかし、そうなると多くのサーヴァントと夢で繋がり、戦いをしているマスターは随分と大変なのだろう。数件の夢でさえ疲れるのに、10を遥かに超えて夢で戦っているのは眠る事すら休まる時ではなさそうだ。……後でマスターにはなにか差し入れでもした方が良いだろうか。
「ありがとうドクター。さすが、ドクターでありながらサーヴァントを片手で屠るだけあるわね」
「え、なにそれ怖い」
……? あ、それは偽物の記憶だったわね。……いえ、これこそが現実の認識次第というやつなのかしら。
◆
「カルデアツーショット全員コンプリートを手伝ってほしいの」
「なんで私が……」
ある時、とある自撮りが大好きな皇女に捕まった。
曰く自身とカルデアにいるメンバーと二人で写った写真を手元に残したいとのことだ。大分前に断ったこともあったが、まだこの皇女は全員との写真を諦めていなかったらしい。ちなみに私が捕まった理由は“暇そうだったから”と“ひねくれているからひねくれ者の気持ちが分かりそう”だそうだ。後者に関しては余計なお世話である。……確かに今は暇ではあるから別に良いのだけれど。
「残りは……ヘシアンさんとロボさんとアサシンとランサーの李書文さんと巌窟王さんね」
まだ一緒に撮っていない残りのメンバーを聞くと、随分と撮り辛いメンバーをあげた。
……さて、どうしようかしら。いっそ
「よし、凍らせて一緒に撮りましょう」
「……なるほど、その手があったわね」
その後、マスターに止められた。……いいアイデアだと思ったのだけれど。
◆
「ええ、誰かは思い出せないけれど、最後に一緒に撮りたい人は決まっているの」
ある時、皇女はにこやかに、カメラを手に持ち見ぬ相手に対して思いをはせた。
結果としてツーショットの件はヘシアンとロボはエルギドゥとアリスに頼み、巌窟王はマスターに頼み、李書文の二人は2対2で相対し勝利条件として写真を撮った。……勝った理由? 負けを認めなきゃ負けないのよ。身体が四散しても戻ればいいのよ。
そして協力してくれたお礼として皇女と一緒にお茶をしているわけであり、ツーショットに関して新しいサーヴァントが来る限りまだ続けるのかと問うと、嬉しそうな肯定の頷きと先程の返答を得られた。
最後一緒に撮りたい人。
以前も
「それと虞さん。今、私と写真を撮ってくださるかしら」
私がどのようなことがあったのかと、見ていない異聞帯でのカドックのことを思案していると、皇女が思い出したかのように私に提案してきた。
確か以前何度も対応するよりは撮った方が楽だと思い、彼女とは写真は撮った気がするけれど。
「ええ、せっかくこうして友達になったのですから。記念に撮っておきたいの」
私と皇女はいつのまに友になったのだろうか。確かにツーショットを撮るのに付き合いはしたけれど……え、それだけで充分? そういうものだろうか。……確かにそういうモノかもしれないわね。
「ほら、もう少し寄ってくださらない? そしてVサインをこう、目にやって……」
「こ、こう? 写真を撮るのに必要なの?」
「鈴鹿さんが友達と写真を撮る時はこうするものだって」
「そうなの?」
「ええ。ほら、笑ってくださらない? せっかくの記念なんですから。――はい、では」
そして撮られた写真を見ると、随分とぎこちない笑みを浮かべた私が写っていた。
撮り直しを要求したが、アナスタシアは初めては初めてだからこそ意味があると言ってもう一度は撮ってくれなかった。
なお、虞美人さんのはっちゃけたような写真を見たマスターとドクターはしみじみと喜んだ模様。
虞美人さんが話す相手はどんどん増えていっています。
「――つまりは、最後まで残った者が一番尊敬できる人物ってことなのだな」
これを言ったのはご想像にお任せします。
そして一番の師匠を決める場所に居たのはそういうことです