ある時、再びフユキで特異点が確認された。
それは人理修復とは関係ないものであったが、聖杯の存在が確認された以上無視ができないものでもあった。私が出撃することはなかったけれども、報告だけ聞けばエルメロイ2世にとって有意義な特異点修復だったとのこと。
……ロード・エルメロイ2世。諸葛孔明が現代に居る波長の合う人間を依代とした特殊な召喚例である疑似サーヴァント。正確には違うらしいが、そのあたりはどうでもいいことだ。
正直依代とされた人間としては傍迷惑な話だと私は思うが、彼自身こうして本来機の見ないだろう出会いを果たしている辺り満更でもないのだろうか。もしかしたら今後も機会があるのならば、疑似サーヴァントとしてカルデアに来る者も多いかもしれない。
「……もしかして、項羽様も
ふと沸いた危機感。
だとしたら大問題だ。確かに私が英霊になることで項羽様があの素晴らしきお姿で英霊の座に登録されたことは間違いないだろう。もし間違っていたらシンまで行って始皇帝を始末してやる。その際には
ともかく、あのお姿で登録されたとしても、このカルデア式の召喚では相性が悪く依代召喚になる可能性もゼロとは言い切れない。そして依代の人間の意識が優先された暁にはそのサーヴァントを
蘭陵王が召喚された時は期待もしたが、ただでさえこのカルデアには項羽様が召喚される兆しがない。ああ、項羽様、この心配を払拭するためにも早くお会いしたい――
「あれ、虞美人さん。こんな所で頭を抱えてどうし、」
「後輩。今すぐ召喚の儀式を行いなさい。項羽様を呼び出す」
「え、どうしたの急に!?」
慌てふためくマスターをよそに、私はマスターを召喚の儀式が行われる場所まで引きずっていった。ついでに途中でマシュも確保した。ドクターは引き摺り出した。ダヴィンチは無理矢理従わせた。
……しばらくして、蘭陵王に止められた。
◆
「変わられましたね、貴女は」
ある時、カルデアの食堂にて仮面を外した蘭陵王にそのように言われた。
彼はカルデアの雰囲気に初めは戸惑いを見せていたものの、僅かな期間で仮面を外して過ごすことが憚れない程度には彼も馴染んでいた。彼の死の間際を見た私としては、こうして私以外にも多くの者がいる場所にて他愛もないような会話の延長戦で、素顔でこのような問いを聞かれるのは喜ばしい事ではある。
問いに関しては、召喚されて数ヵ月の頃であれば否定一辺倒だっただろうが、今としては躍起になって否定するほどの物でもない。否定はするが。
しかし、そこまで変わったのだろうか? 確かに彼と最後に会ったのはシンを含めなければ2000年程度経っているので、その時よりは変わっているだろうが……
「ええ、変わられましたとも」
蘭陵王はマスターが飲んでいるのを真似して最近飲み始めたコーヒーを啜りつつ、嬉しそうに微笑む。ついでに言うと、それを遠くで見ていたカルデアスタッフが魅了にかかっていた。男も含まれている上に、髭を生やした大男が「紳士的な愛でいけるか……?」などと呟いているが大丈夫だろうか。
ともかく、蘭陵王にとって私は以前より険がとれて穏やかになっているとのこと。それがサーヴァントになったことによる弊害か利点か、あるいはあのマスター影響なのか。不明だけどおそらく――
「ま、あのマスターと契約したからには多少なりとも変わるでしょ。貴方みたいにね」
私はそう言ってコーヒーを飲み干すと、マスターの元へと駆けていった。
◆
ある時、マスターが傷を負った。
傷自体はたいしたことはなく治療魔術ですぐに塞がり痕も残らない小さなものであったが、鬼退治や天竺を目指したりして溜まったであろう疲れが出て熱を出してしまった。そのためドクターとダヴィンチの判断により、大事をとって丸一日休みを取ることになった。
マイルームにはひどく心配をするマシュが看病をし、ドクターが定期的に様子を見て、
私自身は特にすることがない――なんてことはなく、ひどく面倒な役割を担っている。
「何故です!
「子が倒れたのならば母が看病するのになんの問題がありましょう!」
「切除します」
「おぉ、マスターよ、今こそ反逆の時!」
わらわらわらわら、押し寄せてくる明らかにマスターの状態を悪化させるメンバー達。そのメンバーを食い止める役割を私は担っている。病気などより圧倒的に質が悪い。
守りはレオニダス一世など守護系のような傍に支える者達。対するは大体面倒くさいタイプの狂化がかかっていたりするメンバー。気合で治そうとしたり熱と言っているのに傷を切除しようとしたり、デーモンの首を持っていたりと正直話が通じない。
え、デーモンの角を細かくして煎じて飲む? 間違いなく悪化する。
ちょっと待ちなさいそこの太ましい男、なんで契約書を持ってマイルームに行こうとしているの。
待ちなさい、その袋は何? マスターが元気になるページ数が少ない本? 却下。
賢者の石で治そうとしない。それ違う意味の“なおす”でしょ。
マハトマの導きがありレムリアでハイアラキに至るまでサナトクマる? ごめんなさい翻訳機能が壊れたかしら。
病気なら
酒は百薬の長だけど未成年な上それただのお酒じゃないでしょ。
黄金劇場&鮮血魔嬢の子守歌? 永眠を望むのね絶対阻止する。
だから、熱だから斬っても意味がないって言ってるのよ!
「疲れたわ……」
「……本当に変わられましたね」
そうこうして色々あったけど、なんとかマスターが回復するまでは粘ることができた。しばらくは休ませてもらおうと思う。
人間……いえ、サーヴァントって面倒なのが多すぎる。
◆
ある時、マスター他数名が水着で島を開拓したそうだ。
私はそれを聞いた時頭を痛める前に思考を放棄した。時間の流れが違ったらしく、何ヵ月も開拓したとかどうでもいい。うりぼうが脱出装置を作った? そんなことはどうでも……え、うりぼう? イノシシが作った? 次元跳躍装置? その世界剪定されないの?
……よし、こういう時は気にしない。それをこのカルデアで私は学んだ。
だけど水着というのは気になる点ではある。私自身が着るというよりは項羽様が着ることだ。水中戦闘
無論項羽様が水着を自ら着ることは考えられにくい。しかし可能性は零に非ず。ならばその時のためにどのような
まずは色合い。項羽様の身体の模様、色は戦闘状態によって変わることが多いが黒系統に準ずるものだ。外観を損なわずかつ流動的な模様を施せば項羽様の魅力は
「よし、完成したわ!」
そしてできた項羽様用水着案(ver.1.52.1)。これこそ正しく項羽様に相応しき水着デザイン。だけど仮定と実物は違うものであるため、改良の余地を考察するため実物を作ってみなければならない。材料とQPは私自ら稼いでもやる価値はある。いえ、むしろやる価値しかない。
いずれ来たる項羽様のため、私は戦い続けて見せる。
……水着を戦闘着とするには霊基をいじる必要があると知ったのは、それから数時間後のことだった。
◆
「ねぇ、あのクロエって子、
ある時、エミヤは私の言葉を聞いて皿を割った。
明らかに私が原因だろうけど、今まで見たことの無い表情であったので面白かったから反省などしない。後で皿洗い位してやろう。
「……違う。そもそも私と彼女とは縁がない。赤の他人だ」
クロエ・フォン・アインツベルン。少し前に召喚された、正規英霊でも疑似英霊でもない特殊なサーヴァント。彼女の外見は、以前カルデアに来た天の杯とちょうど目の前に居るエミヤを足して割ったような外見をしており、性格は小悪魔……というのだろうか? ともかくマスターをからかうような性格をしている。
彼女自身在り方に不安定な所があるのだが、どうも彼女についてある噂が立っている。それが先程の台詞、エミヤの娘ではないのかという話だ。噂を気にするなど愚の極みではあるが……天の杯はエミヤを気にかけ、エミヤはクロエともう一人同時期にカルデアに来た銀髪少女を目で追うことが多く、逆に二人もエミヤを見ることが多い。そういった「何か複雑な事情があるのでは……?」という行動をされるのだ。噂が広まるのも無理はない。
「じゃ、あの小学生魔法少女との……」
「やめてくれ、何故かは知らんがアサシンのあの男が迫ってきそうだ」
アサシンのあの男……? あぁ、あのフードを被った話をあまりしない同じ名前の男のこと。何故あの男の名前が出るのだろうか……何故かしら、ふとあの男と戦ったら私は中身から壊されそうな気がしてきた。契約書を交わされた挙句後ろからズドンとされそうだ。
しかしこの様子だとエミヤとクロエには関係性があるとは言い辛いように見える。生前に似た人物と会ったことがある、といった程度だろうか。これならマスターに報告すれば噂もすぐに消えるだろう。……いえ、もう一つ可能性があるわね。
「なるほど、つまり
「キミ、分かっていて言っているだろう!?」
◆
ある時、キャスタークラスのとあるサーヴァントが物陰で涙を流していた。
褐色の肌、人為らざる耳、人には無い尻尾、正確な本名は本人又はある人物以外は知らない、何事にも対価を求める忠実な契約主義者。
私には彼女が何故泣いているかは分からない。
彼女の想い人は今のカルデアにとっては明確な敵として認識されている。しかしその程度のことで、このカルデアに居る者は彼女を差別はしない。だから泣いている理由があるとすれば、差別以外の理由が考えられる。
それは想い人が敵である悲しみか、自身を受け入れてくれたカルデアに対する感謝か、あるいは――
「……羨ましい」
無意識に、心の底から出たその言葉。だけど彼女の想いと私の想いは似て非なるものだと何処かでも思う。でも理由は分からずとも羨望に値する感情が存在していた。
私がカルデアに来た、英霊となった理由そのものが、彼女の涙に存在した。
「快乐」
いつか私も、その涙が流せる日が来るのだろうか。
エミヤリリィは正月に来るのでしょうか。