虞美人さん、人理修復中のカルデアにて   作:heater

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タイトルを壊さないために、このあたりから「1章後のイベントは起こっているけれど、人理修復は途中」という時空になっています。
ご了承ください。


謎時空突入

「お前はそこまでして叶えたい願いを持ち、何故私達と行動しているのかしら」

 

 ある時、1500年生きた男がある人間の行動に自分を取り戻していた。

 その行動自体は、少年少女にとっては当たり前な行動である『理不尽に殺戮される行為から人を救いたい』という、損得勘定を無視した感情に任せた行為。

 目の前の人間を見捨てれば自身が危険に晒される可能性は少なくなる。そんなことは関係なく、心の弱さと強さが露呈している考えなしの行動。

 ただその男は利用できるとしか思えなかった行為が、少年少女にとっては見過ごせない行為であると、男が失っていた感情を呼び起こした。

 私は彼の行動が、理念が、何故生き続けるのか理解できない。

 人の身でありながら今の彼は不老であるが、間違いなく精神、肉体、魂が摩耗している。そして不老は役割を放棄すれば失われるものにも関わらず、彼は止まらず、ただ王のために役割を果たそうとしている。本来なら叶うはずのないたった一つの願いのために。

 ……安らぎを得ることは私にとっては渇望することであり、その願いは今でも変わらない。確かに今の私には成したいことがあるが、彼の願いと私の願いは根本が違う――そんな、気がする。

 

「それは貴女がここにいる理由と同じだと思いますよ」

 

 ……あぁ、そうか。マシュがシンで見た景色は、もしかしたらこうだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 ある時、チェイテ城にピラミッドが刺さった。意味が分からないし意味があったとしても理解したくない。

 私はドクターに呼ばれて管制室に訪れていた。何故だかエミヤなど比較的昔から居るサーヴァントが朝から見当たらなかった気がするけれど、そういう日もあるだろうと気も留めなかった。それが私の失敗だったと思う。

 ハロウィンがチェイテ城で開催されると聞いた途端珍しく青ざめるマスターとマシュ。そしてテンションが高いカルデアスタッフが私達を囲む。私は理解できなかったが、特異点がある以上は面倒でも解決しないとならないと後々さらに面倒であるので、とりあえず言われたとおりに二人と特異点に向かった。

 ……行った後にあの娘のコンサートを聞かなければならないとマスターとマシュに聞いた時は二人のように頭を痛めたけど、その後に見た物はさらに頭を痛めた。

 チェイテ城 on アップサイドピラミッド。建築環境などモロに無視した建物の登場である。……ドクター、後で覚えてなさい。

 そしてその後に酒場でランサーとキャスターが合体してセイバーとなったドラ娘が仲間になったが、それは普通に受け入れられたのを後になって驚いた。大分毒されている気がする。

 嫌ではあるが、あの城に行かなければこの特異点は解決できない。途中で緑の苦労人やヤマトの鬼が仲間になったり匿名希望の騎士が襲い掛かったり、私をじっと見て口説こうとしていたが些細なことである。面倒ならば宝具を撃てば大抵解決する。……マスターが煩いので控えはするけど。後、他にも途中で溶岩に耐える3人組が居た気がするが気のせいだ。ヤマトの鬼が愛は怖いと言っていたけれど、愛があるなら溶岩も耐えられるのならば私にも耐えられるのだろうか――いや、落ち着け私。あれは幻影だ。暑すぎて見えた幻であって現実ではない。そういうことにしておこう。

 

「とりあえず宝具撃つ?」

「虞美人さんよ、気持ちは分かるが下手に手を出したら駄目っていうのがお決まりのパターンなわけ」

 

 チェイテピラミッド城に着いて私が言った言葉に緑の苦労人――ロビンフッドは何処か諦めた様に私の意見に同意しつつ否定した。コイツみたいに順応したほうが良いのだろうけど、受け入れすぎも駄目だとは思う。

 結果として、突如現れた巨大幻影ジークフリードに開始地点に戻されたりもう一度城まで行ったり、クレオパトラがカエサルの現在の姿を見て気絶するなど問題はあったが、なんとか特異点は解決した。……クレオパトラには後でフォローをしたほうが良いだろうか。

 人理修復とあまり関係ない特異点は妙な時空なことも多いが、もうこれ以上変な建物は来ないだろう。

 

 

 

 

 

 

「虞美人さん、お茶しませんか?」

「しない」

 

 ある時、マシュが私をお茶に誘ってきた。

 あのレオニダスブートキャンプ以来何かとマシュは私を誘ってくる。恐らく芥ヒナコと似ている私が気になるから誘ってくるのだろうが、あまり干渉されすぎると後々面倒があるからできるだけ避けたいのだけれど……まぁ、今更な気もするけれど。

 え、千代女や巴も誘っている? 確かにその二人とはよく話すけど仲が良いというわけでは……確かに項羽様()について語ることは多いけど。食堂で会えば席を同じにすることはあるけれども。

 お菓子はエミヤ特製? アイツの料理は食べやすいけど好んで食べているわけではない。確かに美味しいけど。ええ、美味しいけれども。

 暫くしたらヴラド三世が裁縫を教えてくれる? そんな甘言では……項羽様のためにも技術を磨いたほうが……いえ、それは自分の力でどうにかするべきね。

 あぁ、もう。そんな悲しそうな表情しないでほしい。分かったから。お茶してあげるから。

 

「それにしてもマシュ。こんな交渉できるようになったのね」

「?」

 

 このカルデアに来てから随分と経ったが、マシュも大分感情露わになっている。Aチームに居た頃と比べると歴然の差である。……これが喜ばしいのか。いずれこれを奪う私達には判断がつかない。でも、受け入れるくらいは別にいいと、今の私は思う。

 

 

 

 

 

 

「偉大な王にこんなこと言うのもなんだけど、聞いてほしいことがあるの」

 

 ある時、私はとある王の相談に乗ろうと考えていた。

 私は人間もサーヴァントも嫌いである。だけど最近のこの王に関しては見過ごせないものがあった。

 偉大な王とは、得てして無辜の民に理不尽に事実を捻じ曲げられることがある。私は気も留めなかったのだが、この王を見ているとその事実を目の当たりにしてしまった。

 この王は騎士の象徴と呼ばれるほど高潔な時もあれば、慈悲はなく非情に徹することもあり、精神が神と近しいほど成長もしている時もあれば、馬上から人々を見下すこともあり、幼く姫と称されるほど可愛らしいこともあれば、セイバーと見るや否や見敵必殺(サーチ&デストロイ)するほど憎しみを抱く暗殺者となり、海では聖剣を水鉄砲に改造し遊び倒す。

 

「だから、精神が不安定な時は相談に乗ってもいいわ。少しでも力になれると思う」

「いえ、私の別側面が多いのはストレスで多重人格になっているわけではないのですよ……?」

 

 アルトリアはやや不安そうに眼を逸らした。

 別に良いの。偶には(しがらみ)から抜け出したいこともあるだろう。項羽様が来るまでは彼女の不安を拭うために気をかけようと思う。

 これ以上彼女の違う面が見えてしまったら目も当てられない。さすがにこれ以上増えないと思うけれど。

 

 

 

 

 

 

 ある時、呂布がカルデアに召喚された。

 間違えた、赤兎馬が召喚された。でも本人(馬)は呂布と言い張りながら呂布と共にいる。考えたら負けというものだろう。

 念のためシンの記憶はないかと探ろうとしたけれども、

 

「私は呂布であり、呂布なのです」

 

 と、無駄にいい声言われたので探るだけ無駄な気がした。覚えていても周囲は「あー、なんか言ってるなー」程度で流されそうなレベルである。

 ……しかし、このカルデアは随分とシンに関わったサーヴァントが召喚されるものだ。

 もしやこのままいけばシンの始皇帝が召喚される可能性も……いや、やめておこう。あの始皇帝が召喚なんてされたら項羽様が召喚されても気が気ではない。こちらの文明を学んだ始皇帝は項羽様やバベッジあたりを小型化(改造)しそうである。そして余ったネジを渡されそうだ。

 例えそれが無かったとしても、

 

『む、仙女ではないか! 朕の言う通り英霊となるとは可愛い所があるのではないか! なに、愛しの夫にはまだ会えていないのか。ならば朕がどうにかしてやろうか? ん?』

 

 と言って絡んできそうである。何故かは分からないがアイツは記憶を引き継いで来そうである。その際には荊軻と共に堂々と暗殺しよう。

 それにしても項羽様が召喚されないのは何故だろうか。カルデアの召喚システムと相性が悪いのか、マスターとの相性が悪いのか。いっそのこと年末まで召喚ルームに閉じ込めてしまおうか。……いえ、さすがにそれはやりすぎね。

 そもそも項羽様がこのカルデアに馴染むことはあるのだろうか……馴染んだら馴染んだで複雑な気がするけれども――いえ、どの項羽様も素敵だから問題はないわね。

 

「そうね、やっぱりマスターを確保しましょう」

 

 私はそう決意すると、マスターのマイルームへと向かっていった。

 ……到着すると巴とジャンヌ・オルタ、シュヴァリエとマリー、ムニエルがおり最終的にその場に居た全員でゲームをすることになった。この姿は項羽様にあまり見せたくない気がする。

 

 

 

 

 

 

 ある時、オルレアン聖女の別側面が子供化してサンタとなった。

 ……去年も同じことを思った気がするが、意味が分からない。

 あのジャンヌ・オルタと比べると素直な性格とは思うけど、相変わらずマスターをトナカイ扱いには変わらない。なんだろう、ノルマでもあるのだろうか。

 

「彼女がサンタクロースであるためには通るべき事象なんですよ」

「お前はその仮面をどうにかしなさい」

 

 クリスマスが終わった後、ルーラークラスの男が仮面を被って自室でくつろいでいる私の前に現れた。曰くこの男はジャンヌ・オルタ・サンタの師匠らしい。武器はバラの黒鍵、同じ仮面仲間としてサンタムという名のエミヤがいるらしい。私は知らなかったが南極でもサーヴァントは風邪をひくようだ。恐らく彼らは熱があるのだろう。

 

「ところで、なんの用?」

「あぁ、忘れてました。マスターが食堂に来てほしいとのことです」

 

 仮面の男はそう言うと、マント(外装)を翻してバラの黒鍵を残して去っていった。……いや、この黒鍵をどうしろと言うのだろう。

 しかし食堂に来てほしいとはなんの用だろう。また特異点でも現れたのだろうか。内容の如何によってはクリスマス休暇申請期間を延長してやる。

 若干鬱々としながら食堂へ向かうと、クリスマス帽を被ったマスターとマシュ、カルデアスタッフ達と他サーヴァント達が楽しそうにクラッカーを持ってケーキを囲いクリスマスの準備をしていた。……まさかこいつら、この人理修復の最中にまた呑気にパーティをしようとしていたというのか。

 私を見た瞬間マシュは嬉しそうに駆け寄ってくるし、ドクターはクラッカーを渡してくるし、ダヴィンチはカードを渡してくるし、マスターは「ほら、虞美人さんはここに!」とか手招きをしている。蘭陵王も微笑みながら楽しそうにしおり、食堂組はケーキの飾りを誇らしそうに眺めており、子供サーヴァント組も楽しそうに駆け回り、アルトリアサンタとジャンヌサンタはそれぞれ姉妹の様に同じ顔の面子とワイワイやっている。

 ……まったく、こいつらと来たらバカみたい。だけど出自も環境も生き方も違う此奴らは皆楽しそうに笑っている。それがこのクリスマスのお陰と言うならば、サンタと言うのにも少しくらい感謝をしてやってもいいだろう。

 

「メリークリスマス、マスター」

 

 私がそう言うと、マスターも嬉しそうに同じ言葉を返した。

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「ねぇ、マスター。あのジャンヌのサンタについて聞きたいのだけれど」

「どうしたの、虞美人さん」

「あの子って、ジャンヌの別側面が薬を飲んで子供化したのよね」

「うん、そうみたいだね」

「そして天草四郎が仮面を被って師匠となったのよね」

「うん」

「ところでこのカルデアなんだけど」

「うん」

「確かジャンヌも天草四郎も居なかったはずじゃ――」

「それ以上はいけない」

 

 




最後のおまけはただの我がカルデア事情です。

追記:ジャンヌ・オルタはジルの願望により生み出された存在なので厳密には別側面ではないのですが、別の形で具現化した存在、というニュアンスを含めての別側面と表現しています。あと、虞美人さんがオルタ=別側面と認識しているのもあります。

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