19:00
海鳴市の海鳴駅周辺は、帰宅する会社員や街へ繰り出す若者など、多くの人であふれかえっていた。そんな駅の正面に一人、異彩を放つ少年の姿があった。肩口で切りそろえられた癖のない黒髪、幼さの中に鋭さが潜む中性的な顔立ち、白い着流しに真っ赤な皮のジャケット。一見少女にも見える少年がそこに居た。
「戻ってきたな海鳴市。1年以上か…、短いようで長かった。高町家との約束があるしな。」
少年、最上幸人は感慨深そうに周囲を見渡す。思い出されるのは高町家の人達の姿、その家族風景。
「よし、行くか。」
幸人は1年前の記憶をたどりながら、高町家へと歩み始める。
しばらく歩きオフィス街へと差し掛かったところで、幸人の経験と記憶に培われた勘が警鐘を鳴らす。
「なんだ?」
そして、そう呟いた直後かなり大きな魔力を感知した。そして幸人を残して周囲から人の姿が消える。
「一体何だってんだよ!!今日ぐらい感慨に浸らせてくれても、罰は当たらねえだろうがっ!!」
自分の理解できない状況に、高町家を去ってから抱き続けた願いがようやく叶う日に訳のわからない状況に巻き込まれる理不尽に、大いに気分を害されそう吠えた。
そして、この状況の発生源と思われる魔力の発生源へと駆け出していくのだった。
幸人の居た場所から1キロほど離れた場所では栗色の髪をツインテールにした白い服を着た少女と、腰ほどまである金髪を同じくツインテールにした黒い服を身にまとった少女が戦っていた。二人の少女はピンクと金色の光を放ち合い、時にぶつかり合いながら空を縦横無尽に駆ける。そんな彼女たちのそばでは、フェレットのような小動物とオレンジの毛並みのオオカミのような獣とが戦っている。そんな、非現実的な場所に少年、幸人が辿り着いた。
「一体何だ、こりゃあ…。」
幸人がいる場所は少女たちがいる場所から少し離れたビルの上。ここまで全力で走ってきたはずにもかかわらず、息ひとつ乱れておらず、すぐに状況の観察を始める。
(誰もいない空間に少女二人と獣が二匹、どいつもビームや雷、バリアまで出してやがる。しかも空まで飛んでる…。てか、あの白い方なのはじゃねえか!)
「ハァ…。こんなことが出来るやつが
幸人は一旦なのはたちのことは意識に片隅に追いやり、さらに状況を分析していく。そして空中に浮かぶ青い宝石らしきものを見つけた。
「これか。」
感じられる魔力から、この状況の原因だと判断する幸人。現在、その宝石から感じられる魔力は安定しているようで、最初のような荒々しさは感じられないだが幸人の勘はいまだに強く警鐘を鳴らしている。
(何となく嫌な感じがする。ただ一定じゃないな、あいつらが戦えば戦うほど、魔力がぶつかり合う度、それに反応するみたいに強くなってる。これは一体…。)
幸人は自分の勘をかなり信頼している。この勘にとれだけ命を救われたかわからないからだ。勘とは経験に基づくもの、今まで命のやり取りを続けてきた幸人はこの勘が優れており、信頼していた。
周囲を探るが特に不審な点は見当たらない。しかし、勘が鳴らす警鐘はどんどん強くなっていく。周囲を探っていると、ふと先ほどの宝石が目に入った。
(?これ、か?なんとなくそんな気がするんだが…。)
幸人はその勘に従い、注意深く宝石を観察する。
(魔力が脈動してんのか?封印でもされてんのか、殻の中で魔力が脈動するみたいに動いてやがる…。殻?脈動?……ッ!まさか!!)
幸人が気付いた時にはもう遅かった。なのはたちは真っすぐその宝石へと向かっている。
「クソッ!!」
それを見た幸人も、悪態をつきながら常人の目ではとらえられない速度で駆け出す。しかし、間に合わず宝石はなのはたちの杖の間でぶつかり合う。
一瞬、時間が停止したような感覚が辺りを包む。しかしそれは嵐の前の静けさ。
ビキッ
二人の杖に亀裂が入り、大爆発と言えるほどの魔力の奔流といった形で時間は進みだす。
なのはと金髪の少女の杖に挟まれた宝石からとてつもない魔力が放たれる。
その魔力はとてつもない衝撃波と目を焼かんばかりの閃光としてその猛威を振るい、辺り一面を破壊の渦へと飲み込もうとする。
飛び出した幸人は、その中で吹き飛ばされているなのはを抱きとめるが衝撃波によって発生した暴風ともいえる嵐に吹き飛ばされながらも、どうにか着地しアスファルトの上を滑るようにその破壊の嵐から離脱する。
放たれた魔力は青白い光の柱となり天を衝く。
「バカがっ。」
幸人がそちらに目をやると、金髪の少女が魔力を発している宝石へと近づいて行こうとしているのが目に入った。
なのはは抱き止められたことに困惑の表情を浮かべるが、そんなことは今は気にしていられない。
幸人はなのはをその場に降ろし、明らかな無茶をやらかそうとしている少女の下へと走る。
こちらに気付いていない少女は宝石をその手でつかもうと手を伸ばす。
ドッ
しかし、腹部に受けた衝撃とともにその手は空を切る。
幸人は少女を横からタックルのように抱きかかえ、そのまま滑るように宝石から引き離すと少女へと声を荒げる。
「バカかお前は!死にたいのかっ!」
「!?…邪魔しないで。」
少女は幸人に気が付くと、幸人の手を払い再度宝石の方へと進もうとする。
「チッ!下がってろ。」
幸人は言葉では止まらない彼女を押しのけると、こちらの行動に驚いた少女をしり目に宝石へと飛び出す。
そのまま右手を前へと突き出し
「
幸人がそう声を上げた瞬間魔力を放っていた宝石は氷柱の中に閉じ込められる。
その光景に唖然とするなのはと少女。
しかし、なおも魔力の放出は収まらないのか、その氷柱にひびが入り始める。
「!?クソッ……来い!!!!」
放出する魔力の威力に幸人は苦々しげな表情とともに悪態を吐く。このままだとまずいと感じた幸人は少女を抱きかかえると、なのはのところへと連れて行く。
「フェイト!!!」
「なのは!!!」
そこへ、赤い毛色の変わったったオオカミと変なイタチが駆け寄ってくる。
幸人は少女を離すと、なのはらを心配している彼らの前へと踏み出す。
「下がってろ、巻き込まれるぞ。」
「どうする気なの!!!君も危険だから早く下がって!!!」
変なイタチがそんなことを言うが、幸田はそれを無視すると己が内へと意識を向け、この状態を打破する呪文を紡ぎだす。
「マギクス・クワトゥアル・エレメントゥルム!!!
幸人が唱えた呪文によって宝石を中心に周囲のビルまでが凍りつき、辺りは一面氷の世界へと変貌する。
なのは達は幸人からあふれ出る魔力と目の前の現象に、唖然としたままその光景を見る。
しかし、宝石は未だ魔力を放出させようとしており、幸人の詠唱はさらに続く
「
幸人が詠唱を終えた後には、沈黙した宝石を内包し、白銀の世界に屹立する巨大な氷柱の姿があった。