魔法使いは報われない 作:猫月
基本はこんな感じ。
pipipipi――
明けの静寂に電子音が鳴り響く。
「ん…ああ、朝か…」
目覚まし時計が自己主張を始めてすぐに、チェスはその音を黙らせた。
ぼんやりとする時間もなしに早々に起き上がる。
服を制服に着替え、ペンダントヘッドをポケットに突っ込むと、チェスは部屋を後にして共用のキッチンへと向かった。
ミゲル孤児院に住むチェスの朝は早い。
孤児院でも年長組みである彼は、家の手伝いとして朝食を作らないといけないからだ。
なので朝六時前には起きて、早々にキッチンへと向かう。
朝食を作る前に弁当持参組みである聖祥小学校グループ三人分の弁当を作り、その後に朝食を作り始める。
朝食は基本和食だ。キリスト系孤児院だったくせに洋食じゃないのは、八人分もパンを焼いたり目玉焼きを作ったりするのが面倒だからである。
味噌汁とご飯。後は漬物ともしくは昨夜の残りのおかず。それと幾つかの果物。
文句が出た事も多々あるが、その度に自分で作れと切り捨てるとこの形に落ち着いた。
「ただいま」
「おう、おかえり」
時刻は六時半過ぎ。朝食の味噌汁を作ってるとルクが帰ってくる。
チェスよりも早く起きると、ルクはいつもどこかへと出掛けている。
小学生になった頃から続いている習慣で、本人曰く特訓らしいが、チェスは何をやっているか知らない。
ただルクの運動神経の良さと体力の多さから、何か運動でもしてるんだと考えている。
「おはようございます。チェス、ルク」
「母さんおはよう」
「おう…んっ、んん!!おはようございます!!」
ルクが帰ってきた少し後。朝食が出来上がるぐらいにシスターが起きてくる。
ちなみにシスターは礼儀に細かいため、挨拶を返さないと説教タイムに入る破目になる。
ルクが慌てて言い直したのはそのためであり、勿論累積説教タイムは彼がダントツで一番だ。
「それじゃあ、私は下の子達を起こしてきます」
ご飯が炊き上がり、味噌汁が出来上がる頃になると、シスターが年少組みを起こしに行く。
「おは~」
「おはよぉ…」
「おはようございます」
軽い挨拶を送る少女が郁。眠そうなのがカイ。しっかりしてる女の子がリオだ。
洗面所で顔を洗うと、三人は配膳の済まされたそれぞれの席に座る。
そして、
「おはよう!!」
「おはよう…ああ、ねむ」
いつもドベを争うが二人が起きてくる。
慌てて降りてきたアミィと眠そうな欠伸を隠さないイオが顔を洗い、席に座る。
「それでは皆さん。父と、子と、聖霊のみ名によって、アーメン」
「「いただきます!!」」
チェスが起きてから大体一時間。
皆が揃うとシスターの祈りと挨拶で朝食が始まる。
始業式を終えて数日。いつもと変わらないチェスの朝の光景だった。
魔法使いは報われない 第二話 気付けなかった未来の先へと導く声
「将来かぁ…」
弁当のおかずであるタコさんウィンナーを眺めながら、なのはは呟く。
思い悩む事は先程の授業での事。
先生の軽い一言で出た『将来の仕事』が、なんとなく引っかかっていた。
今日日小学三年生で悩むような事ではないが、本気で極めるなら早い方が越した事はないと思う。
なのはの兄も姉も、そして父親も今の道を目指したのは子供の頃からと聞いていて、なおさら考えさせれる事柄だ。
周りはどうなんだろうと思い、なのはは一緒に昼食を食べる三人に訊ねた。
「アリサちゃんもすずかちゃんも綺羅くんも、将来の夢って決まってるの?」
「私は機械系が好きだから、そっちの方に進むつもりだけど」
「あたしはいっぱい勉強して、両親の会社を継ぐ…予定だけどね」
すんなりとすずかは話し、アリサは少しだけ終わりを濁しながら、チラリとなのはではない別の場所に視線を向けた。
一年生からの友達であるなのはとすずかは、その視線の意味を理解している。
そのためあえて追求することはなく、なのはは残りの男子へと話題を振った。
「綺羅君はもう決まってるの?」
なのはに綺羅と呼ばれた少年は月神綺羅。
キラキラネームが痛々しいなのはの幼馴染であり、お弁当仲間である四人組の中で、唯一の男子であった。
「え、そうだね。管理―じゃなくて、誰かを助けるような、そんな仕事につきたいかな」
「それって警察とかお医者さんとか?」
「そ、そう。警察!!警察…みたいなものかな!!」
なのはの言葉に綺羅は慌しく頷いて、そう断言する。
それはあたかも挙動不審ではあったが、三人は気にせずに会話を続けた。
「そっか、やっぱり皆考えてるんだよね。すごいなぁ…」
しっかりとした三人の意見に、少しだけ羨ましく思いながらなのはは考える。
自分が何をしたいのか。一体何ができるのか。
それはお昼時には似合わない本気で真面目な悩み事で、相談に乗ってくれる三人に感謝しながらもなのはは続けようとした――が、
「そんなの悩まなくっていいぜ!!何故ならお前たちはモブ以外皆、俺様の嫁だからなっ!!」
「はぁ?うっぜーこと言ってんじゃねぇよ。俺の嫁だってーのっ!!」
金髪と赤髪に邪魔される事となった。
「英雄にルクか」
突然の乱入者に、綺羅がはき捨てるように言う。
金髪でありオッドアイでもある少年の名前は金剛英雄。
赤髪でありエメラルドの瞳の少年が零火ルク。
小学校に入ってすぐに出会い、キチガイじみた発言で付きまとってくる厄介者である。
綺羅だけではなく、なのはたち残りの三人も嫌悪感を抱いているそんな人物。
「折角四人で楽しく食べてるんだ。二人ともどっかいってくれないか」
「はんっ!!そこは俺様のポジションだ。さっさと変われこのモブ野郎が」
「だから何度も言わせんじゃねえっての!!あいつらは俺のだ、俺のっ!!」
そして綺羅だけでなく、ルクも英雄も仲が悪い。
三つ巴の一触即発の空気が流れ、
「お前ら、あまりボクを怒らせるなよ」
「はん?やるのかこの雑魚共」
「いいぜ!!やってやろーじゃなっ、がっ――」
ガツンいう音と共に三つ巴の一角が崩れた。
バタリと倒れるルク。その横に、コロコロと形の変わったりんごが転がった。
お昼ご飯は屋上で食べる。それが、あちらに合わせたチェスたちの生活スタイルだ。
賑わう屋上の中でベンチではなく、レジャーシートに座って食べるのはチェスとアミィとコリンの三人しかいないが、周りは既に気にも留めていない。
一年の頃からやっているためか、周りも見慣れたものであり、時には同じようにレジャーシートで食べている姿も見かけた。
そんな昼食の中で、話題を提供するのはチェス以外の女の子二人が多く、今日の話を始めたのもコリンだった。
「私の将来は、きっと敏腕デザイナーかなぁ。自分のブランド立ち上げて、日本や海外でじゃんじゃん売るの!!そんでハリウッドとかの有名女優とかに着てもらって、シャネルみたいに有名になるのが夢!!」
昼前の授業のせいか、それとも聞こえてきた雑談のせいか。とにかく弁当の話からいきなり夢を語られて、チェスは目を丸くする。
それでも唐突な話題転換は慣れたもので、コリンの話にアミィがすぐさま反応した。
「はいっ!!私の夢はおにいちゃんと一緒に居ることです!!ずーっとずーっと一緒に居て、出来ればお嫁さんになりたいなぁ」
「馬鹿言うな、馬鹿」
ビシッと手を上げてからのとんでも発言に、チェスは呆れたようにつっこんだ。
「おおっ!!お嫁さんか~良いね良いねっ、その時は私が衣装を作ってあげるよ。アミィちゃんのウエディングドレス!!」
「無視かよ!!」
「コリンちゃんが作ってくれるウエディングドレスかぁ。早く着たいなっ、採寸して採寸!!」
「お前も気が早いわっ!!」
「気が早いってことは脈ありですかぁ?チェスお兄ちゃん」
「ほんとにっ!?やったぁ、お兄ちゃん大好き!!」
失言を拾い上げニヤリと笑ってからかうコリンに、それに乗っかるアミィ。
つっこみが間に合わず、人の話を聞かない二人にチェスの眉間に皺が寄った。
「という冗談はさておき。本当のところ、二人は何か考えてるの?」
「私はまだ分かんないよ。今はまだ夢とかも無いしね」
爆発寸前という所でコロッと手のひらを返した二人に、憮然となりながらチェスも答える。
「こいつらはまったく……はぁ。俺もそうだな。今のところはやりたい事もないし、将来はどっかで働いてるんじゃないか?」
どこかで働くと言いながら、屋上の片隅に視線を送る。
視線の先に居るのは一人の少女だ。
余計なお世話になり、幾つかの約束を交わさせられた相手――の娘。
バニングスの姓をもつ少女は今、よく知ってる馬鹿とあまり知らない馬鹿に言い寄られてた。
そして馬鹿たちが、三つ巴で剣呑な空気を作り上げ始める。
「あの馬鹿…!!」
他二人は別として、幼馴染が問題を起こすのはチェスには看過できなかった。
食後のデザート用のりんごを拾うと、立ち上がって思いっきり投げつける。
「――がっ!!」という小さな呻きと共に、知ってる馬鹿が倒れ付した。
手加減なしで投げたせいか、過去とか未来とか色んなことのもやもやがスッとして、
「ないすコントロ~ル!!」
気の抜けたコリンの言葉に、フッと笑みがこぼれた。
悩みが解決しなくても、将来が定まらなくとも、夜は更けて朝は明けるもので。
ぐだぐだと未来を愚痴った次の日の朝を向かえ、朝飯と弁当を作るいつもの朝の光景をチェスは送る。
その後ろで――
『昨日夜遅く。海鳴市――で、槙原動物病院の壁と周辺の電信柱が薙ぎ倒されるという事件がありました。警察はトラックか何かによる当て逃げと推測しており、目撃者を調べている――』
「なっ、何でっ!?」
ニュースを見たルクが絶句していた。
今回も読んでくださってありがとうございました。
オリキャラ同士の会話がメインとか…正直困られそうですが、基本こんな感じです。
なのはとかとはそのうち関わるかもしれませんが、まあそれは先の話。
こんな話でよければどうぞこれからもお付き合いくださいませ。それでは。