魔法使いは報われない 作:猫月
「それでさ、明日サッカーの試合やるみたいだけど見に行かない?」
「行かない」
土曜の午前授業が終わり、誘ってきたコリンをチェスは一言で断った。
「えー!!なんで!?このクラスの子も出るんだよ?鉄平君とか塁君とか。他にも応援しに行く子もいるし」
「鉄平や塁の活躍見れないのは残念だけど、明日は家の奴らと出かける約束してるから無理。それに…」
「それに?」
追求するコリンから視線をずらし、教室前方へと向ける。
目に入ったのはいつもいつでも騒がしい六人の姿。
我がクラスが誇る――らしい――美少女三人娘とその幼馴染とキチガイ二人だ。
キチガイの部類に家族が一人混じっているのが本当に悲しい。
「鉄平たちの試合相手は翠屋FCだろ?休日までわざわざ気疲れしたくない」
前方をチェスに顎で示され、コリンは納得した。
「ああ…そっか。翠屋って高町さんのとこだもんね。ルク君来たらいつも通り大変な事になるか」
「実際高町たちが応援に行くって聞いて、ルクのやつ行く気満々だったしな。おもいっきし家事を押し付けて午前中は動けないようにしたが」
翠屋がなのはの家の店というのはクラスの中で結構知られている事で、勿論チェスも知っていた。
クラスに広まっているのはなのはがクラスメートに話したせいだが、チェスの場合は少しだけ違う。
なのはが皆に話す前――どころか小学校に入学する前の頃に、家族であるルクが迷惑を掛けたのだ。
大人だったら警察沙汰だった迷惑事は、その名をストーカーという。
幼い時にルクに巻き込まれて怒られたチェスにとって、翠屋は関わりたくない場所の一つだった。
「それじゃあ仕方ないか。あーあ、チェスのお弁当食べれると思って楽しみにしてたのにな」
「お前はそれが狙いか」
「てへっ」
休日まで弁当にありつこうとする友人にチェスは溜息をつき、指摘されたコリンは小さく舌を出した。
「お兄ちゃん、準備できたよ。帰ろ?」
二人の話がひと段落すると、アミィが振り返って声を掛ける。
前の席と言う事もあり、頃合を見計らいながら話を聞いていたようだった。
「チェスは無理みたいだけど、アミィは?」
返ってくる言葉を半ば予測しながらコリンは訊ねる。
アミィは劇甘なお兄ちゃんっ子だ。チェスが行かない時点で可能性は低い。
だからと言って二人を一緒くたにコリンはしない。
「え?行かないよ。翠屋のシュークリームは好きだけど、それよりも明日はお兄ちゃんとお買い物だもん」
「だよね。それじゃあ私はどーしよっかな」
「悪いなコリン。せっかく声を掛けてくれたのに」
「コリンごめんね。また今度遊ぼうね」
当てが外れたと肩を落とすコリンに、二人が謝る。
「まあ仕方ないしね、誰か他の人誘ってみるよ。さし当たってはルク君なんか、二つ返事で参加してくれるかな?」
「それは止めろ」
「それは止めて」
「ふふっ、冗談だって。それじゃあまた来週ね」
兄妹二人の口から即座に出た同じ言葉に、小さく笑うとコリンは立ち上がる。
「ああ。また来週」
「またね~」
チェスとアミィに返事を返されると、コリンは他のクラスメートのところへと歩いていく。
まだ残ってる友人に声を掛けてみるのだろう。
そんな彼女の背中を見送ると、チェスは教室前方に居る幼馴染へ帰宅を促す声を掛けた。
魔法使いは報われない 第三話 思わぬ出来事
「ルク、まだ起きてるか?」
コンコンと隣の部屋のドアを叩く。
宿題と出掛ける用意のために、一番最後に風呂を頂いたチェスは、自分の部屋じゃなくルクの部屋へと赴いた。
強制的家事という名の留守番を強いる相手に、せめてもの慈悲としてお土産は何が良いかを聞きに来たのだ。
だが中からはドタバタと慌てまわる音だけが聞こえて、返事がない。
訝しげに思いながらも、もう一度ドアを叩く。そして叩いてから数十秒後、チェスは部屋の中へと入る事を決めた。
「ルク、入るぞ」
「お、おい、ちょっと待て!!」
鍵は掛かってないのか、ノブを回すと簡単に扉は開いた。
入る直前にようやく返事が聞こえてきたが、無視して部屋の中へと足を踏み入れる。
中に入るといまだに冷たい、春の夜風がチェスの身体を触れた。
そして部屋の主であるルクの格好に眉を顰める。
「こんな時間にどこか行くのか?」
彼の格好は部屋着でも寝間着でもなく外出用の私服姿だった。
時刻は夜の八時半を回っており、小学生が出掛ける時間帯ではない。
それに特に最近は壁や公園が壊されたり、窓ガラスが割られたりなどの事件が多発していて、夜は出歩かないようにと学校から注意を受けたばかりだ。
心配と交わって自然とチェスの口調も厳しくなった。
「がっ、学校…」
「学校?」
「い、いや、学校近くの本屋!!ちょっと欲しい漫画が今日出ててさ!!」
チェスの追及に弱いルクは、ポロリと本音をもらした後で慌ててごまかした。
出会ってからこの方、年長者モードの彼には頭が上がらないのでどこかたじたじと。
「明日じゃ駄目なのか?」
「明日は忙しいからな。てか俺に家事押し付けたのはチェスだろうが」
「…まあ、確かにそうだが」
思わぬ切り替えしにチェスが一瞬怯んだのを好機だと見て、ルクは続けて言い連ねる。
「別に家事や留守番に文句があるわけじゃないんだ。普段からお前には迷惑掛けてるし、明日に限ってこんなに押し付けた理由も理解してる。けどさ、折角の休みなんだ。留守番用の暇つぶしくらい、今日のうちに買ってきても悪くはねえだろ?」
「なるほど…暇つぶしを用意するぐらいは仕方ないか。そのかわり――」
「おう!!リビングの掃除も洗濯も布団干しも食器洗いも完璧にやっとくぜ!!」
さり気なくガッツポーズを決めながら宣言したルクに、チェスは首を横に振った。
「それはありがたいが、そうじゃない。そのかわり俺も付いていくって話だ」
「なっ、何で!?」
「丁度欲しい小説が最近発売してたからな。直に着替えてくるから先に行くなよ」
乗り切ったと思った矢先の切り返しに、ルクはガックリと項垂れる。
最近夜な夜な抜け出してた事や、何とか一人で出掛けようという彼の思惑は、チェスによって見抜かれていたのだった。
それは思わぬ出来事だった。
「ルク、それにお前たちは…」
案の定はぐれたふりをして本屋から出て行ったルクを追いかけると、チェスは予想外の物を見る破目になった。
「チェ、チェス!!どうしてここに!!」
撒いた自信があったのか、動揺の声を上げるのはルク。
ただしチェスの見た彼は、出掛けたときの姿ではない。
まだ肌寒い春だというのに、黒い半袖のインナーシャツに白い半袖の上着で、その上へそだしルックという格好だ。
右手には精巧に作られた、まるで本物のような幅広の剣が握られている。
そんなルクに相対するかのように立っているのは、どこかで見た事のある金髪オッドアイの少年。
同じクラスでもないため詳しくは知らないが、毎日三人娘に会いにやってくる人物に良く似ていた。
彼の格好も街では見かけないようなど派手な物で、全身金色の鎧を纏い、不思議な形状の武器を持っている。
その姿にどこかで見たことがあると引っ掛かりを覚え、最近ルクたちとやったアーケードゲームを思い出した。
そう……あれはゴールドスモー。
そんな名前の金ぴかのモビルスーツをリスペクトだと、チェスは口に出さずに理解する。
「チェス君!?」
「バーラクト君!?」
声を上げたのは、ルクとスモーの間に立つ残りの二人である。
クラスメートにそっくりな少年少女から、クラスメートそのままの声が聞こえてきたことに少しショックを受けるが、問題はそこではない。
問題は少年少女の格好だ。
ルクとスモーと同様に、チェスが見た二人の姿はこれもまた普通ではなかった。
高町なのはに似た少女は、聖祥の制服の縁取りを青に変え、スカートの全面にも青い生地を継ぎ足し、その端をフリルのようにギザギザにした格好だ。
制服の時とは違う、胸元の大きなリボンが一番のアクセントとして映えている。
そしてその手にはやけに精巧な、宝石のような赤い硝子玉だろう物を中心とした、メタリカルに光る杖らしき物。
月神綺羅に似た少年は、これまた聖祥の制服に似た服である。縁取りは赤色に変え、前は閉じずに開いていて、中の黒いシャツの胸元には金の刺繍とその中心に青い菱形の宝石が装飾されていた。
その手には、やはりこちらも精巧な青い菱形の宝石のような石が付いた、槍のような杖のような棒を持っている。
きっと杖の方にお金を掛けすぎて、服の方は制服を改造する事にしたのだろう。
魔法使いのような少年少女を見てそう推測する。
「綺羅君、ユーノ君、どうしよう…」
「なのは大丈夫。僕に任せて」
思わぬ事態で変な方向へ動いていた頭だったが、ここでまた衝撃の事態が確定した。
高町なのは似の少女はやはり高町なのはで、月神綺羅似の少年はやはり月神綺羅だったのだ。
そのうえなのははフェレットに相談する素振りまで見せている。
あまりに作りこまれた世界観に、チェスは眩暈を感じた。
「バーラクト君。どこから見てたの?」
「どこからって、今さっきここに着いてみんなの格好に驚いているだけだ」
なのはを庇うように一歩前に出た綺羅に、チェスは素直に答える。
その答えになるほどと納得はしたが、いまだに綺羅は警戒している様子だった。
きっと変な風にからかわれたり、笑われるのが嫌なのだろう。わざわざこんな夜遅くに学校で集まるぐらいなのだ、今まででも大変な事があったに違いない。
そんな彼を安心させるためにも、チェスは約束を宣言する。
「大丈夫。今日のことは忘れる…事は出来ないかもしれないが、お前たちの遊びを皆に言いふらす事はしないと約束する」
「言わないでくれるのは助かるけど、遊びって言い方は酷いんじゃないかな?」
「そ、そうだな。言い方が悪かった。すまない」
綺羅となのはにジト目で見られて、チェスは慌てて謝った。
趣味に対して遊びと言われて怒る人間を彼は見たことがある。車だったり電車だったりアニメだったり色々だが、まるで人生を掛けてるような熱狂的な人種だ。
彼らのようになのはも綺羅も本気なのだと、怒り交じりの強い意志をその瞳から感じ取れた。
そして強い意志と熱狂は、時折有無を言わさずに周りを巻き込むものだともチェスは経験していた。
「とにかく、誰にも言わないし気にしないようにはする。邪魔しても悪いだろうから俺はこの辺で帰ろう」
チェスに二人と同じ趣味を持つ気はない。故に口早で告げると、綺羅となのはから離れてルクの元へと向かう。
「チェス。俺……隠してて悪い」
ばつが悪そうに俯いたルクの頭を、チェスは溜息を吐きながら軽く叩いた。
「これで許す。確かに隠したくなる気持ちは理解できるからな、コスプレなんて。そのかわり、あまり遅くまで出歩くなよ」
許しと注意を一つずつルクに告げると、チェスはその場から離れて家路へと向かう。
引き止められて参加なんて事態を避けるために、その歩みは少し足早だった。
読んで下さって有難うございました。
この物語のメインネタ、基本的な勘違いでした。
魔法→コスプレ。一般人から見ればまあそうなりますよねw
もっとコメディー調に書けたらな…と反省中ですが、難しいものですね。