少女終末旅行 ワンドロ集   作:チビサイファー

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プリンとごめんとちーちゃん可愛い

 静まる室内、私たちは部屋の真ん中に置かれたテーブルに向かい合って座っている。普通であればお喋りの一つや二つも起きると思うが、今回ばかりはそうもいかなかった。

 

 私、チトは正座して縮こまる。その向かい側には無表情のユーリが、じっと私を見下ろしていた。一体何が起きたのかといえば、机の上に転がっているプリンの容器がすべてを物語っている。

 

「その……ごめんね、ユー」

 

 私は口を開く。察しがいい人ならもうお分かりだろう。そう、私はユーリのプリンを食べてしまったのだ。

 

「なんで?」

「その……えっと」

 

 

 

 

 ことを遡ること一時間前である。休日の朝、目を覚ました私は真っ先にお腹が空いたと冷蔵庫を開け、めぼしいものを探した。

 

 するとどうだろう。何やらリッチな箱を見付けた。中を見てみる。やや寝ぼけている頭でも分かった。これは、いい感じのプリンだ。

 

「……おいしそ」

 

 私はそのプリンを手に取り、丁寧に開封した。ぷるるんと震える揺れるプリン。何となくユーリの豊満なバストを思いだしながらスプーンを入れる。おお、おお! まるで何にも触れていないかのように、スプーンが沈んだ! 私の期待が高まる。かけらも落とさないようにプリンを口に運ぶ。

 

「…………うっま」

 

 とろける卵と滑らかなクリームたち。まるで舌の上に乗せた氷のように消えていく。いや、氷で例えるにも違う、違いすぎる。そんな例え方は氷に失礼極まりない。

 

 寝ぼけていた脳が活性化する。来る夜明け、広がる青空。睡眠という冬が終わり、起床の春が訪れる。花が咲き乱れ、春一番が吹いて頭の中に咲き誇る花たちを撫でる。

 

 こんなにおいしいものがあっていいのか。いいのか!? もう、もうコンビニやスーパーで売っているプッチンするあれが食べられなくなるじゃないか。

 

 私はスプーンを進める。すると、とろりと茶色いカラメルが「コンニチハ」と現れる。なんてことだ、お前が出てくるということは、もう終わりが近づいているということか……絶望的だ。がっくりと肩を落としながら、私はカラメルとスプーンをスプーンに乗せて口に入れる。

 

 味覚が衝撃を受けた。大革命だ、なんだこれは。絡めるとプリン本体の味が絶妙なマッチをして、あっという間に絶望と仲良しになってしまった。

 

「んー、うまい!」

 

 私は大満足な顔になって、プリンを完食した。やはり食べきるのは名残惜しかったけど、それでもあの味なら納得だ。あれだけ美味しいものとなると、結構なお値段に違いない。今度ユーリに聞いてどこで買ったのかを……。

 

 そこまで考えて、私は凍り付いた。いや、まて。そう言えばこのプリン誰のだ? 私は買ってないぞ。じゃあ私の同居人が買って冷蔵庫に入れて居たとしか考えられない。

 

 そして、私の同居人といえば…………。

 

 いや、いやいやいや、落ち着け。もしかしたらこれは私の為に買ってくれたものかもしれない。そうだろう、こんな美味しいものをあいつが、ユーが独り占めするわけなんて……。

 

 ころん、とプリンの容器が転がる。そこに商品説明の記述ではない、まるでマジックで書かれたような文字を見付ける。「ゆーり」と。

 

 あ、死んだ。

 

「どっ、どどどどどうしよう!?」

 

 私は慌てて冷蔵庫を開ける。もちろん、もう一つのプリンがあると信じてだ。

 

 ない、ない、ないないない! どこにもない! じゃあ持ってきたプリンの箱の中は!?

 

「な、ない……!?」

 

 ということは、プリンはあの一個だけ? 私の頭の中で最悪の展開が組み立てられる。

 

 もし、もしユーリがあのプリンを心底楽しみにして買ったのだとしたら。今日のおやつの時間にでも、楽しみにして冷蔵庫を開けたら?

 

 うねる髪の毛、阿修羅をも凌駕するオーラ、無表情から来る金剛力士像も悲鳴を上げるであろう恨みは、私を骨の髄までしゃぶりつくすに違いない。

 

「あっ、新しいのっ!」

 

 私は大急ぎで服をひったくる。着替えてユーリが起きる前に同じプリンを買うのだ。

 

 パッケージを手に取り、プリンの名前を確認する。よし、これを売っている店をけんさ、く……。

 

 パッケージにはこう書かれていた。

 

『本日のみ限定100個!』

 

 私は膝から崩れ落ちる。本日、限定? は、意味わかんない。こんな美味いプリン毎日売れば需要抜群だろ、あほか?

 

「…………ちーちゃん」

「っつう!!?」

 

 私は文字通り飛び上がった。恐る恐る振り返る。髪の毛がぼさぼさで、相変わらずサイズの大きい変なTシャツを着て。

 

 冷たい目で私を見下ろす、ユーリがそこにいた。

 

 

 

 

 そうして冒頭に戻る。

 

「なんで?」ユーが問いかける。

「その、朝起きたらさ……お腹すいちゃってて……冷蔵庫開けたら、おいしそうなプリンがあって……その、寝ぼけてさ」

「ふーん」

 

 じっと私を見る空色の目。いつもと変わらない目元なのに、寒冷期のブリザードのような冷たさだった。

 

「その、さ。ユーってすごいよな! あんな美味しいプリン買ってきて、私も食べたらすっごいおいしくてさ! 目が覚めて、本当にもう食べたことのないような、それで、えーっと、えーっと」

「勝手に食べちゃダメだよね」

 

 まるで脳天を狙い撃つような一言は、見事私の脳に突き刺さった。

 

「私の名前も書いてたよね」

 

 二発目の命中弾。

 

「それ、限定品って書いてたよね」

 

 三発目の命中弾。実弾なら私は確実に息絶えている。

 

「……その、さ。ごめんね」

「…………」

 

 ユーは何も言わない。本気だ、これは本気の本気だ。

 

「今回は、私が……私が100%悪かった……」

「…………」

 

 ユーは、何も言わない。

 

「あのさ、だからさ……ほかのプリンとか、買いなおすから……」

「…………」

 

 頼むよ、ユー……。

 

 同じの、もう買えないかもしれないけど……もし、もしもまた出たらその為に休みもとって、徹夜で並んだりもするからさ……。

 

「…………」

 

 お前の好きなもの、今日作るから……。

 

「…………」

 

 じゃあ、じゃあなんでも言うこと聞くからさ……ねぇ。

 

「ねぇユー……ごめんね」

「…………」

 

 お願いだからさ……。

 

「ほんとに……っぐ……ごめんね」

「…………」

 

 なんか、言ってよ…………。

 

「ユー……ひっぐ、ごめん……」

 

 お願いだから……いつもの冗談でもいいからさ……。

 

「ユー……ゆぅうう……」

 

 なにか、なにか、話してよ……!

 

「ゆうぅうう! ひっぐ、ごめんなざいぃいーーっ! だがらっ! っぐ、だがらなんかしゃべってよ、うわぁああんっ!!」

 

 

 

 

 私の目の前で、同居人のちーちゃんはわんわんと泣いている。私のプリンを勝手に食べたからだ。

 

 でも、正直プリンの件はどうでもいいし、というかこのプリンはちーちゃんの為に用意したものだから何に問題もない。でもちょっといたずらで、私の名前を容器に書いただけだったけど、ここまで泣き喚くとは思わなかった。

 

 これ、本当のこと言ったら部屋中のありとあらゆるもの投げつけてくるんだろうなー。それでもって「バカクズゴミ!」って罵りまくるに違いない。

 

 どうやって説明しよっか。

 

「ゆぅぅう!! ふえぇえええっ、ほんとうにっごめんなざいぃぃい!!」

 

 はー、にしても。

 

「なんでもっ、なんでもっぐ、なんでもするがらぁあ゛――っっ!!」

 

 泣いてるちーちゃん、超かわいいわ。

 

 もちろん、この後許して本当のことを言って、私の頭にテレビのリモコンが突き刺さることになった。

 

 

 

 

 了

 

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